205 / 239
第三章 最終決戦
弱点さがし
しおりを挟む眼の前で流れ続ける映像をじっと見つめながら、胸のあたりを掴む。
『だから、朱色の雫を……?』
『そうだ。この後もしばらく殺し合いになるから飛ばすが、彼らは此後朱色の雫を作った』
『お主、そこまで知っておると言うことは……』
『ああ。俺は、五珠に支配される民が生まれてからの漆黒の牙らしい。民として、普通に生まれたのに……』
一般的な家庭で生まれ育ったなら、確かに今見せられている映像は辛いだろう。心が追いつかなくなる。待て、心が追いつかなくなる? 五珠でも、そうなのか? 心が壊れたらセンナが崩壊するのは、五珠も同じか?
『千草、お主……まさか心が』
千草はわしの隣で静かに頷いた。
『俺は耐えきれずに心が壊れ、死んだ。だから漆黒の牙はすぐに輪廻したが、何故か俺の意識だけずっと奥底に残ってしまったようだ』
『そういうことであったか』
もしかしたら、漆黒の牙を倒す突破口になるやもしれん。彼の存在が。わしは、逸る気持ちをただ必死に抑えた。
ふと、早送りされる映像に一瞬違和感を覚え、千草に声をかける。
『すまぬ、今のところをもう一度見せてもらえるか』
『構わない』
映像にいるのは、いつもどおりの漆黒の牙と紺碧の弦だが、何かがおかしい。喧嘩の様子がいつもと違う。
「あんたが嫌なやつだとは思ってたけど、本当嫌なやつだわ! よくも……」
「面白くなるなら、そのほうが良いだろう」
「外道! 白金の灯が作ろうとしているものに賛同してたでしょ?」
「心は移り変わるものだ。壊したくなったから壊した、それでいいだろう」
いつもの言い争いよりも、ヴィオラ似の紺碧の弦が怒っている。ヴィオラ似とは言っても、先程まで映っていた者とも違う。生まれ変わったのだろう。
『何を喧嘩しておるのだ?』
『この少し前まで戻そう』
そして千草が戻した場面では、紺碧の弦が師走によく似た白金の灯と、破壊された街で佇んでいる姿が映っていた。
『そうか、ヴィオラが以前言っていた白金の灯の策にのることにした、というのがこれか。ということは……民を作り、統治し始めたところを壊されたのだな』
『そうだ』
師走によく似た白金の灯を、ヴィオラ似の紺碧の弦が気にかけるように肩に手を置く。
「橘……また作りましょ」
「ああ。わかっている、オルガ」
橘と呼ばれた師走似の彼は、顔色を変えることなくただ手を握りしめていた。隣りにいるヴィオラ似の紺碧の弦は、どうやらオルガと言うらしい。滅ぼされた街は、きっと彼らにとって大切な街だったのだ。わしも自分が民を守る立場であったから、壊されたら苦しい気持ちは痛いほどわかる。
だが、なぜ壊されたのだろう。先程、少し進んだ映像で漆黒の牙は壊したくなったから、と言っていた。心は移り変わるものだと。
『何があったというのだ……心が移り変わって、なぜ作り上げた街を滅ぼす?』
『わからない。ただ、漆黒の牙は挑発するようなことを繰り返す。これからも』
心が移り変わる。人を挑発する。
『ふむ……』
口元に手を添えながら、しばらく黙り込む。まるで、王夏様のようだ。紅蓮様への想いが歪み、闇の力を強めるために恨まれることを選んだ。
隣でわしの様子を伺う千草が、映像を止めた。
『なにかわかったか?』
『いや。ただ、漆黒の牙が何属性なのか、いまいち分からぬ。まるで今の映像の漆黒の牙は……』
わしが今言葉を区切ったのは、色んな意味がある。
一つは、ヴィオラから以前言われた、属性は得意分野という情報が偽りなのかもしれないこと。今までの固定概念から属性を気にしたが、それが吉と出るか凶と出るかはまだわからぬ。
二つ、現在進行系で誰かに聞かれているかもしれないこと。誰か、とは勿論漆黒の牙だ。千草を利用して、今までの発言も聴かれている可能性がある。千草の意思と関係なく。
三つ、そもそも千草が味方ではない可能性があること。
映像を見せてもらっておいてなんだが、わしは漆黒の牙に操られている身。わしが漆黒の牙なら、操るのに抵抗されるのは面倒故、心を壊して支配するだろう。考えない傀儡となれば、操るのは簡単だ。千草は成り立ちからして感情移入しやすい。漆黒の牙を敵と見ているわしの懐に入り込みやすい役柄だとも言える。
千草に見せてもらった映像が本物であるかもわからぬが、恐らく本物であろう。映像さえ作り物であるとしたら、わし一人落とすために力をかけすぎだ。
わしは、千草からは見えぬように小さく笑った。
漆黒の牙の目的は朱己。発言からして、朱色の雫の真の力を目覚めさせていないことは、ヴィオラもわかっている。漆黒の牙はこれを好都合といった。つまり、目覚めさせたら負ける可能性があるということではないか?
あまり五珠の力に頼りたくないと思っていたが、どう考えても漆黒の牙を倒すためには朱己のーー朱色の雫の力が必要なのは確かだ。問題は、開放させて良い力かどうかだ。
『千草。すまぬが、朱色の雫が作られたところを見せてはもらえぬか?』
『いいが……一番、気持ち悪いぞ』
『覚悟しておこう』
そして映像を早送りする千草の横で、わしは見せてくれと言ったことを後悔することになるとは、つゆほども思ってなかった。
0
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』
鷹 綾
恋愛
内容紹介
王太子に「可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄された公爵令嬢エヴァントラ。
涙を流して見せた彼女だったが──
内心では「これで自由よ!」と小さくガッツポーズ。
実は王国の政務の大半を支えていたのは彼女だった。
エヴァントラが去った途端、王宮は大混乱に陥り、元婚約者とその恋人は国中から総スカンに。
そんな彼女を拾ったのは、隣国の宰相補佐アイオン。
彼はエヴァントラの安全と立場を守るため、
**「恋愛感情を持たない白い結婚」**を提案する。
「干渉しない? 恋愛不要? 最高ですわ」
利害一致の契約婚が始まった……はずが、
有能すぎるエヴァントラは隣国で一気に評価され、
気づけば彼女を庇い、支え、惹かれていく男がひとり。
――白い結婚、どこへ?
「君が笑ってくれるなら、それでいい」
不器用な宰相補佐の溺愛が、静かに始まっていた。
一方、王国では元婚約者が転落し、真実が暴かれていく――。
婚約破棄ざまぁから始まる、
天才令嬢の自由と恋と大逆転のラブストーリー!
---
妹のために愛の無い結婚をすることになりました
バンブー竹田
恋愛
「エミリー、君との婚約は破棄することに決まった」
愛するラルフからの唐突な通告に私は言葉を失ってしまった。
婚約が破棄されたことはもちろんショックだけど、それだけじゃない。
私とラルフの結婚は妹のシエルの命がかかったものでもあったから・・・。
落ちこむ私のもとに『アレン』という大金持ちの平民からの縁談が舞い込んできた。
思い悩んだ末、私は会ったこともない殿方と結婚することに決めた。
騎士団の繕い係
あかね
ファンタジー
クレアは城のお針子だ。そこそこ腕はあると自負しているが、ある日やらかしてしまった。その結果の罰則として針子部屋を出て色々なところの繕い物をすることになった。あちこちをめぐって最終的に行きついたのは騎士団。花形を譲って久しいが消えることもないもの。クレアはそこで繕い物をしている人に出会うのだが。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」
イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。
ある日、夢をみた。
この国の未来を。
それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。
彼は言う。
愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?
余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした
ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。
しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義!
そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。
「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」
ボンクラ王子の側近を任されました
里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」
王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。
人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。
そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。
義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。
王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる