Rasanz‼︎ーラザンツー

池代智美

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飛びたいペンギン side

飛びたいペンギン side:よもぎ

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 今日は久しぶりに遠出の依頼だった。
 私と大福はシェルアさんとマリアさんに服と靴下、靴を着用させられた。
 動きにくいからすぐに脱ぎたかったけど、寒い所にいくみたいだから我慢した。
 服を着るのも苦手だけど、寒いのも苦手だ。

 移動ターミナルは相変わらず人が多くてうんざりした。
 あの新人は物珍しさにあっちこっち見ていたけど、大福が側につくと大人しくなった。
 普段は大福がはしゃぐ側なのに、私は大福の成長を感じた。
 シェルアさんとロジェさんは先に係員の所に行って話をすると、このままゲートを通っていいという事で、私はマリアさんに抱えられるとゲートを通った。
 自分がつくったゲートではないゲートを通るのはかなり違和感があったけど、くぐってみると雪景色が広がっていた。

 新人は寒いと当たり前の事を言っている。
 ブラッドに厚着の件を言われると、ここまで寒いとは思っていなかったとよくわからない返事をしていた。
 大福は脇目も振らず雪をかき分けてはしゃいでいる。
 私はその姿を見て正気を疑いそうになったけど、シェルアさんに名前を呼ばれると大福はちゃんと遊びながらも戻って来た。
 早く行こうと言うロジェさんの一言に私は同意しかなかった。
 ロジェさんも私と同じで寒いのが苦手なようだ。
 私はマリアさんにぴったりとくっつくと、顔と耳を伏せた。
 しばらくすると一軒家が見えてきて、テンションが上がった大福が先頭のロジェさんを追い抜いて、玄関前で騒ぎ始めた。
 シェルアさんが注意しようとしたけど、その前に玄関のドアが開いて、家の中からテレビで見た事のある動物が出てきた。
 ペンギンは大福の存在に驚いたようで、ドアを閉めると奥に引っ込んだ。
 後ろではブラッド達がペンギンの話で盛り上がっていたけど、大福はあのペンギンに興味津々な様子で、私は嫌な予感がした。
 家の中から二つの足音が聞こえると、閉じたドアがもう一度開く。
出てきたのは家主と思われる人間と、さっき顔を見せたペンギンだった。
 ロジェさんが挨拶をすると、人間も挨拶を返して、私達を家の中に招き入れた。
 ドアの向こう側から出てきたのは人間とあの未知の動物だった。
 ロジェさんが挨拶をすると目の前の人間も挨拶をして、僕達を家の中に招き入れた。

 人間の名前はコアというらしい。
 私と大福は玄関先で着用していた物を外されて、窮屈さから解放された。
 家主のコアさんは、ペンギンを保護してほしくてEMANONに依頼したとの事だった。
 シェルアさんが服を乾かしていいか聞くと、コアさんは勿論と言いながらお茶を淹れに部屋の奥へ消える。
 家の中は暖かくて、快適だった。

 ロジェさんは溜息をついて、シェルアさんに面倒事じゃないかと言っていたけど、シェルアさんに違うと言い返されていた。
 ペンギンの種族名はコウテイペンギンといって、あの見た目からは想像がつかなかった。
 シェルアさんとロジェさんの二人はいつものように話をしている。
 ペンギンはこっちを気にしているようだけど、私達を警戒しているみたいで近付いては来なかった。
 私はもっと温まりたくてストーブの側まで歩いていくと、そこで寛ぐ事に決めた。
 ブラッドが大福にペンギンを捕まえろと命令すると、大福はペンギンの元へと走る。
するとペンギンは大福を避けて、エッシの元へ走っていった。
 エッシはペンギンを可愛いと嬉しそうに褒めている。
同時に私は大福がろくでもない事を考えている気がした。
 マリアさん曰く、ペンギンの雛は体長が大きいらしいけど、目の前のペンギンは私達と大差なかった。
 ペンギンは何故か私の所にやって来た。

『おはよー!』
『……』

 あまりの明るさに返事をしないでいると、ペンギンは不思議そうな顔をした後、もう一度口を開いた。

『ねえ! キミ達みたいな毛むくじゃらの生き物っていっぱいいるの?』
『……いるけど……どうして?』
『ニンゲン以外の陸の生き物初めて見たから! ねえ、なんて言うの?』
 
 ペンギンは私達“犬”という種族を初めて見たらしく、小さな子供みたいな口調で無邪気に聞いてきた。

『……犬』
『イヌ?』
『私達は種族名が犬だけど、それぞれ個体に名前があるの』
『へー! じゃあアレは?』

 ペンギンが大福の方を見る。
 私は答えに迷ったけど、ペンギンの精神年齢を考えて素直に答える事した。

『私のパートナー』
『そんなに小さいのにパートナーがいるんだ!』
『……あなたも小さいでしょ』

 小さな子供を相手しているようでやりづらい。
 私は犬という種族の大半は人間の住処で一緒に住んでいる事を教えた。

『他にも陸の生き物ってたくさんいる?』
『そりゃいるわよ。あなた空飛ぶ鳥は見た事ないの?』
『ある! そっちにもいるんだ!』

 色々話していると、家主が飲み物を持って戻ってきた。
 ペンギンは人間達が話す様子を不思議そうに見ている。

『……仕事の話だからあなたには難しいかもね』
『シゴト? シゴトって何?』
『仕事っていうのは人間がご飯を食べるための手段のような物よ。働いて報酬を得るの』
『へー……』
『人間は人間のルールがあるから色々面倒よ』
『ふーん。イヌも面倒なルールがあるの?』
『人間よりはないわよ。陸では人間が一番面倒な生き物だから』

 私が話す度にペンギンはうんうんと律儀に相槌を打った。
 海で育っているからか、陸の知識があまりないようだ。

『そういうあなたはどうして此処にいるの?』
『んとね、ヒコーキに乗る方法を見つけるため!』
『ふーん』
『ねえヒコーキって何処にあるの?』
『そんなの空港にあるわよ』

 ペンギンは私の答えに目を輝かせると、独特な踊りを踊った。

……このペンギンはひとりで飛行機に乗る気なのだろうか。

『……言っておくけど、飛行機に乗れるのは基本人間だけよ』
『え!? どうして!?』
『人間がつくったもので人間にしか精密作業が出来ないからよ』
『ずるい……』
『一応動物も乗れるけど、基本貨物扱いだから席はないわよ』
『もっとずるい……』

 ペンギンは不満そうな顔をすると、何を思い立ったのか部屋から出ていった。
そして戻ってくるとペンギンは飛行機のおもちゃをテーブルに置いて、人間の子供のように遊び始めた。
 家主は勝手に部屋に入った事を怒っていたけど、ペンギンはお構いなしだ。
 家主は飛行機のおもちゃが自分の子供の時に貰った物だと話すと、何故かペンギンがまた部屋から出ていった。
 ペンギンを追いかけて家主も部屋を出ると、何か倒れるような音や上から落ちてくるような音が聞こえた。
少しするとペンギンがアルバムを頭に置いて戻ってきた。
 ペンギンはアルバムをテーブルに置くと、当たり前のようにページをめくって写真を見せた。
 写真には飛行機と子供が映っているらしい。
 家主は子供の頃から飛行機が好きみたいで、さっきのおもちゃも家主の物らしかった。
 家主はパイロットになりたかったけど、学校に通うお金が足りなくてなれなかったと寂しそうな顔をして話していた。
 人間の世界は複雑である。
 マリアさんやエッシが免許は取らないのかと聞いても、家主は気乗りしないみたいだった。
 ペンギンが激しく家主の足をつつくと、家主は悲鳴を上げた。
 大福にやりすぎと注意されると、これがやりすぎなら海では生きていけないとペンギンは言い返した。
 ペンギンの言っている事は正しいけど、人間は陸の生き物だ。
 私は家主に少しだけ同情した。
 シェルアさんは何かを悟ったのか、写真を指差してペンギンに飛行機に乗りたいと言っているのかと問いかけている。
 ペンギンはシェルアさんに期待の眼差しを向けると、何度も首を縦に振って肯定した。
 “天国に近い場所に行きたい”と言うペンギンの言葉に私は違和感を抱いたけど、誰かが空に天国があると言ったなら、ペンギンの発言もまだ納得がいった。
 シェルアさんは無邪気に、家主と一緒に飛行機に乗りたいのかペンギンに聞いている。
 ペンギンがYESを大きく唱えると、何故か大福まで便乗してYESを唱えた。

——今更飛行機に乗ってどうする気だ。

 私は呆れて大福から目を逸らした。
 家主はシェルアさんを笑っていたけど、ペンギンにじゃああの写真は何なんだとつつかれてまた悲鳴を上げていた。
 エッシがペンギンに今からでも遅くないと言っているのかと聞くと、ペンギンと大福はうんうんと頷く。
 家主は自分の歳を考えてくれと訴えていたけど、ペンギンの攻撃の餌食になっていた。
 シェルアさんが家主に依頼内容について確認していると、ペンギンが私の方を見てきたため、ペンギンの今後の話をしているのだと教えた。
 家主は今日ペンギンを引き取ってくれると思っていたみたいでガッカリしていたけど、ロジェさんは淡々と手続きの説明をしていた。
 ペンギンは魚をたくさん食べるらしい。
 マリアさんは魚を丸飲みするのは大人だけだと、不思議がっていた。
 私が見てもこのペンギンは子供くらい小さいし、言動が幼い。
 もしや私や大福と同じような存在かと思ったけど、あまりにも行動が突拍子のない子供のようだったからその説は自然と消えた。
 ロジェさんが家主に書類を渡すと、家主はまた自分にペンギンの面倒を見るのは無理だと訴えた。家主は犬しか面倒を見た事がないようだ。
 人間は色々制約があって大変そうである。
 ペンギンと大福は一緒に首を傾げて逆に煽っているように見えた。
 大福は移動して家主を慰めているみたいだったけど、ペンギンはマイペース全開でアルバムのページをめくっていた。
 注目されるとペンギンは少し俯いて落ち込んだ様子だった。
 大福が大丈夫か聞くと大丈夫と答えていたけど、私は少し心配になった。
 ペンギンはエッシとマリアさんの方に移動すると、こっちを見ないでと訴えた。
でも二人には上手く伝わらなかったようで、ペンギンは顔や頭を触られていた。
 私は二人がつつかれないかヒヤヒヤしたけど、撫で方が良かったらしく、ペンギンの顔が蕩《とろ》けていた。
 ペンギンはルイスさんと新人の所にも移動して、同じように訴えて撫でられていた。
 このペンギンも撫でられるのが好きなようだ。
 大福はペンギンが可愛がられてムッとしていたけど、ロジェさんが咳払いをすると元の表情に戻った。
 シェルアさんはいつものお人好しを発揮して、家主のお金を立て替えていた。
 挨拶を交わすと、マリアさんとエッシが私と大福に防寒装備を施した。
 ペンギンはどこで覚えたのか別れ際に翼を振っていた。

 外に出ると雪が降っていて、私は気分が降下した。
 マリアさんに抱き上げられると少し寒さがマシになったけど、走る大福を見ているとまた寒くなった。

 ロジェさんに名前を呼ばれて、私は地面に降りた。
 準備はいつでも出来ていると言うと、シェルアさんが御礼を言って、何故かブラッドが美味しい物をあげると言った。
 私は座標を合わせてゲートを開《ひら》くと、一番にゲートをくぐった。
 
 事務所に着くと新人が驚いていたようだったけど、私は構わずシェルアさんの所におやつを貰いにいった。
 今日は珍しくロジェさんもおやつをくれるみたいで、ロジェさんからはガムのおやつを貰った。
 横から大福がよだれを垂らして見つめてきたけど、無視して食べた。

 シェルアさんとロジェさんはパソコンでまた仕事を始めている。
 明日もまたあの家に行くようで、皆行きたいと話していた。
 特にマリアさんはペンギンが好きみたいで、一番主張していた。
 ルイスさんやエッシも手を挙げて立候補している。
 大福はペンギンの人気に少し嫉妬しているようだった。
 私は嫉妬しないから大福の気持ちがよくわからなかった。

 話し合いの末、明日は私とマリアさん、ルイスさん、エッシ、新人が行く事になった。
 また寒い所に行くと思うと憂鬱になったけど、次に暖かい場所に行くという約束をしたため、仕方なく了承した。



 翌日、早速朝から依頼主の家に向かった。
 大福は留守番を嫌がって最後まで行きたそうにしていたけど、はしゃぎすぎて風邪を引いたら困るとシェルアさんに同行を却下されていた。
 確かに昨日のはしゃぎっぷりを見ていたらシェルアさんが心配になるのもわかる気がした。
 放っておくと永遠に雪で遊んでそうだ。
 大福は残念そうな顔をして私達を引き止めようとしていたけど、ブラッドにおやつのジャーキーを見せられて陥落していた。

 移動ターミナルを利用して、依頼主の家に訪れると、あのペンギンは私達を出迎えて挨拶をした。
 マリアさんは当たり前のようにペンギンに挨拶をして家主の居場所を聞いている。
 ペンギンはマリアさんの手を引くと、ゆっくり歩き始めた。
亀の歩みとはいかないけど、マリアさんの体勢がなかなかきつそうではある。
 ペンギンは別の建物に私達を案内した。
 うるさい機械音の中心に依頼主がいて、名前を呼んでも依頼主は気付いていないみたいだった。
 マリアさんが依頼主の作業が終わるまで待てるかと聞いてきたため、私は頷いて返事をした。
 ルイスさんは寒いからと私を抱き上げると、ストーブの近くに連れていった。
 ペンギンも寒がりなのか、私の側に腰を下ろして温まっている。
 ペンギンは寒い所の生まれだから、温かい場所にいるのをエッシは不思議がっていた。
 ルイスさんは気にしていないみたいだったけど、マリアさんはペンギンが好きだから適温じゃないと死んじゃうかもと言っていた。
当のペンギンは慣れた様子で身体の向きを変えて全身を温めている。
 ルイスさんはペンギンを私達みたいな生き物なのかもと言っていたけど、マリアさんとエッシは微妙な反応をしていた。
でもルイスさんは昨日の私と同じ事を考えていたから親近感が湧いた。
 ルイスさんはペンギンを撫でると可能性の話だと軽く流した。

『ねえ、“カワイイ”って何?』

 何故か小声で聞いてきたペンギンに、私は眉根を寄せた。

『……褒め言葉。人間が私達に向ける愛情表現みたいなものよ』
『ふぅん』
『人間によっては好きだったり嫌いだったりするから、撫でるのも愛情表現なの』

 ペンギンは納得したようなそうでないような顔をした。
 新人が何故か私を撫でてきたから、何してんだと目で訴えると、新人はすぐに私に謝った。
 謝るならしなければいいのに不可解な人間である。
 私は鼻を鳴らすと、体勢を変えてまたストーブで温まった。
 少し時間が経つと、うるさい機械音がようやく止まって静かになった。

 依頼主は私達に気付くと驚いていたけど、マリアさんが書類を渡すと御礼を言っていた。
 声をかけてくれたら良かったのにと言う依頼主に、マリアさんは声をかけたけど待っていたと言って謝らせていた。
 エッシが珍しくフォローに回っている。
 依頼主は書類を読むと椅子から立ち上がって、棚から缶コーヒーを取り出すと、ルイスさん達に渡した。
そしてまた違う棚を漁ると、いい匂いのする紙袋をマリアさんに見せた。

『あ、あれボクが気になってた奴だ。美味しそうなの』
『……あれはペンギンには食べられない物だと思うわよ』
『え』
 
 ペンギンは自分が食べられない物だと知ると落ち込んでいた。
 依頼主の話によると以前犬を飼っていたけど、昨年亡くなってしまったらしく、未開封のおやつを貰ってほしいとの事だった。
 私はマリアさんの側に行くと、袋越しでも香ばしいその匂いを嗅いだ。
 依頼主がもう一匹の子にもよろしくと言うと、マリアさんは御礼を言って、私に良かったですねと言った。
 依頼主を観察ついでに手のひらの匂いを嗅いでみたけど、鉄と鋼が混じったような工場の匂いがした。
 いい匂いではないが、この依頼主は常識的な人間なのだろう。
 依頼主の手のひらに頭を擦り付けると驚いていたけど、撫でる手のひらは優しくて、慣れている人間の所作だった。

 私は依頼主の手が離れると、ストーブの所に戻った。
 ペンギンが目を伏せて落ち込んでいるように見えた。

『……あれは礼儀としてやっただけよ』
『レイギ?』
『ありがとうやごめんなさいを相手に伝えるの』
『ふぅん……そうなんだ』

 ペンギンは納得したように翼を叩いた。

『言いにくいんだけど、さっき家主があなたに他の住処に移ってほしいっていう話をしてたの』
『キミ達のとこは駄目なの?』
『多分定員オーバーね』

 少し寂しそうな顔をしてペンギンが俯く。
 私は今にも泣き出しそうなペンギンに妙な罪悪感を抱いた。

『そんな悲観しなくても……施設に行けば仲間もいるだろうし、衣食住の保障もされてるはずよ』
『でもボクひとりぼっちだったし……それにボク、ヒコーキに乗りたいんだ』

 ペンギンはそう言うと、今まで見てきたものを話した。
 同族が人間に捕まえられたり、殺されるのを見たりしたから施設には行きたくないらしい。
 大変だったのねと言うと、ペンギンは無言で頷いて羽を動かした。

『……ねえ、この場所にこだわる理由はあるの?』
『!』

 ペンギンはハッとなって走っていくと、一枚の大きい紙を持ってきた。
そしてペンギンは見てくれとばかりにアピールすると、何故か踊り始めた。
 エッシが手拍子をしたせいで、ペンギンが調子に乗って激しい踊りを披露したけど、家主に紙を取り上げられると撃沈していた。
 まるで第二の大福を見ているようだった。
 家主はペンギンのイタズラを咎めると、取り上げた紙について話した。
あの紙は飛行機の設計図らしく、マリアさんとエッシが資格を取ればいいのにと家主に勧めていた。
 ペンギンは家主の足を音を鳴らして叩いている。
 エッシとマリアさんはペンギンは家主と飛びたがっているのだと都合よく解釈すると、二人はペンギンと飛行機に乗るよう勧めた。
 家主の気持ちはともかく、想像上は楽しそうである。
 相槌を打つと味方じゃなかったのかと家主に言われたけど、敵味方は関係ないため無視した。
 ペンギンがキラキラと輝かせた目をこっちに向けてきて、私はそっと目を逸らした。
 ルイスさんだけは家主を庇っていたけど、新人に裏切りを受けていた。
 ペンギンは飛んでいる所が見たいなら任せろと胸を張っている。
 マリアさんとエッシにハイタッチをすると、新人の所にも行ってハイタッチをしていた。
尤もハイタッチなのはペンギンだけで、人間的にはロータッチだった。
 マリアさんはペンギンと家主が飛行機に乗れるように協力を仰ぐと、エッシとペンギンが手を挙げた。

 ルイスさんは新人を咎めて私を撫でると、マリアさんはどうする気だろうと独り言を口にした。  
 新人はどうにかしてペンギンとの同居に持っていくなんて言っていたけど、家主が嫌がっているからそれは無理だ。
 ルイスさんは私が思っていたのと同じ事を指摘すると、新人はそこをどうにかするとかなり曖昧な発言をした。
 ロジェさんがいたら絶対に反対されていると言うルイスさんに、私も同意する。
あの人は仕事は仕事で分けているから、それ以上の事はしないだろう。
 ルイスさんはマリアさんがペンギン好きだと初めて知ったらしい。
 元々動物好きだから私は驚きはしなかったけど、弟のルイスさんにとっては意外だったようだ。
 マリアさんの方を見ると、ペンギンと仲良さそうに手を繋いでいた。
 大福がいたら嫉妬しそうだと言う新人に、ルイスさんが同意する。
 私は否定も肯定も出来なくて、ルイスさんの手に大人しく撫でられた。

 しばらく待っていると、家主が立ち上がって書類をマリアさんに渡した。
 登録が終わる二週間が長いと嘆く家主に、ペンギンが胸を叩く。
 家主は自信満々なペンギンに引いていたけど、マリアさんに営業を持ちかけられるとあっさり頷いてペンギンの世話を依頼していた。
 マリアさんの目が純粋無垢の子供のように輝いている。
 それから二時間ほどペンギンの面倒を見る事になった。
 ペンギンは最初皆に追いかけられて怖がっていたけど、怪我しないか心配で追いかけているだけだと教えると目を丸くしていた。

 帰りに役所に寄って書類を提出すると、お昼の時間を過ぎていて、私達は近くのレストランに入った。
 寒いのに頑張ったから、ちょっといい物をマリアさんが頼んでくれた。
 事務所に戻ると、大福が自分も食べたかったと嘆いたけど、私は痩せたらいつでも食べれると言って取り合わなかった。だって太ったのは節制出来ない大福のせいである。
 マリアさんはシェルアさんとロジェさんに今日の事を報告して、ペンギンのお世話係に立候補していた。
 一日おきにあの家に行ってペンギンの世話をする事になったけど、場所が寒いから気は乗らなかった。



——一日目。

 今日は私はお休みである。
 家でのんびりして過ごすと、シェルアさん達が帰ってきた。
 大福はペンギンと鬼ごっこをして遊んだらしい。
あまりにも実力差がありすぎるのではと思ったけど、楽しそうならまあいいかと放っておいた。


——二日目。
 
 今日も大福がペンギンの所に行った。
 家に行ったらペンギンがコーヒーの粉を落としたようで、マリアさん達が掃除したそうだ。
 おっちょこちょいだよねと話す大福に、私はこの家に来た時大福がドッグフードの袋を破って床にばら撒いた事を思い出した。


——三日目。

 この日は私も大福も留守番だった。
 帰ってきたエッシにかまくらを作る事になったという話を聞いて、大福と一緒に首を傾げた。


——四日目。

 今日は大福はペンギンの所に行った。
 かまくらを作るのにブラッドが必要らしく、勤務の変更をお願いされてブラッドは最初文句を言っていたけど、シェルアさんから応援されると張り切っていた。
 わかりやすい人間である。
 大福は帰ってくるなりかまくらの説明をすると、完成が楽しみだと嬉しそうにしていた。


——五日目。

 私と大福はお休みだったため、家で寛いだり散歩したりと好きな事をして過ごした。


——六日目。

 今日は私もペンギンの所に出勤だった。
 ペンギンは今日も元気なようで、私達を走って迎えに来た。
 マリアさんとエッシはペンギンの写真を撮るのに夢中だった。

『ねえ、あのカシャカシャした板は何?』
『あれはスマホっていってカメラ機能がある機械。カメラは写真に現像して記録や思い出に残す物よ。あなたの持っていた飛行機のアルバムもそれと一緒』
『……?』
『……まあ、自分を映す海面みたいな物だと思えばいいんじゃない』

 ペンギンは興味深々でスマホのカメラに近付くと驚いていた。
 かまくらが出来ると私達は早速中へ入った。
 風が来ないのは快適だけど、寒いものは寒い。
 大福がペンギンに海の生活とこっちの生活はどうだと聞くと、ペンギンは今の方が楽しいと嬉しそうな顔をして答えた。
 そっちの生活はどうなのだと聞くペンギンに、大福はこっちも楽しいと無邪気に言う。

『僕達はね、XX区に住んでるんだ』
『XX区?』
『人間は陸に名前を付けてるの』
『そうなんだ~なんか不思議だね!』

 話をしていると、マリアさん達がこっちを見てまた写真を撮っていた。
 私は寒くてひと足先にかまくらを出たけど、待ってと言われたから仕方なくかまくらの中へと戻った。
 写真を撮ってもデータが消えてしまえば何も残らないのに、それでも人間は写真を撮りたがるから不思議だ。
 私は適当に付き合うと、ストーブがあるガレージに戻って冷えた身体を温めた。


——七日目。最終日。

 予定通りペンギンの保護申請と登録が済んで、シェルアさん達と一緒にペンギンを引き取りに行く事になった。
 あのペンギンが施設に行くのは少し心苦しかったけど、かと言ってこのペンギンを家で預かれるような権力は私にはない。
 マリアさん達はコアさんを説得出来なかったと落ち込んでいた。
 家主はいつもより嬉しそうな顔をして、シェルアさんと世間話をしている。
 シェルアさんが書類を渡すと、何故か家主が驚いていた。
 ペンギンは状況がわかっていないのか、シェルアさんのズボンの裾を引いて自分には何かないのかと訴える。
 家主はペンギンを見て笑うと、お前の分はないと言った後、免許を取ったら乗せてやるから我慢しろと言った。
 納得出来ないペンギンに家主は追い回されていたけど、私はそれよりも家主が言った言葉の方が気になった。
 マリアさんを筆頭に、エッシとルイスさんが口々にシェルアさんに問い詰める。
するとシェルアさんは昨日家主から心境の変化があって、ペンギンを預かると言われた事を話した。
 今日はペンギンを引き取るためではなく、ペンギンに関する資料一式を持ってきたらしい。
 開いた口が塞がらないとはこの事だった。
 マリアさん達は驚くとひとしきりシェルアさんに質問して、ペンギンの引き取りがなくなった事を喜んだ。

 ペンギンは戻ってくると、マリアさんとエッシさんの所に行って二人と踊った。
 独特な踊りを踊り切ると、今度は新人の所に行って踊りを誘う。
 新人は上手く踊れないかもと不安そうにしていたけど、エッシがくるくる回ったらと言うとその通りにした。
 ペンギンは満足げに拍手をすると、エッシも笑顔で拍手を新人に送った。
 ルイスさんは何故かシェルアさんの背後に移動していた。
マリアさんが踊ってあげればいいと言うと、自分のキャラじゃないからと断った。
どうやらルイスさんは踊りたくないらしい。
 見かねたシェルアさんが助け船を出すと、お土産につられてペンギンは激しく頷いた。
そして早くちょうだいとばかりにシェルアさんに突進していったけど、シェルアさんの手によって制止させられていた。
 ペンギンはどう考えても縮まない距離を走っている。

 シェルアさんは戻ってきた家主に声をかけると、マリアさんに家主の傷の手当てを頼んだ。
 家主は最初遠慮していたけど、マリアさんに押されると手当てを受けた。
 ペンギンがその様子を複雑そうに見ていると、シェルアさんは念を押すようにペンギンに注意をして、謝罪を促した。
 ペンギンは一瞬迷った様子を見せると、家主の所に走っていって謝った。
 家主はペンギンが人の言う事を聞いた事に驚くと、シェルアさんが預かった方がいいんじゃないかと元も子もない発言をした。
 ペンギンは自分を捨てようとする家主に怒って地団駄を踏んでいる。
 シェルアさんは私達がいるからと家主の提案を却下すると、息抜きがてらEMANONを利用してくださいとさりげなく営業をかけていた。
 ペンギンは謝った事を報告すると、シェルアさんにお土産を催促して手を引く。
 家主はご飯欲しさにペンギンに謝罪されたのかと言っていたけど、ペンギンは違うと否定した。
でも違う種族だから何も伝わっていなかった。
 ペンギンは嬉しそうにイカを食べている。
お裾分けで私と大福にくれたけど、お腹を壊す食べ物だから口にはしなかった。
 ペンギンは私達が食べないのを単なる好き嫌いだと思ったようで、今度はイカを渡してきた。
 大福が食べれないとやんわり言うと、こんなに美味しいのにと首を傾げる。
 動物は身体の構造が違う事を教えると、ペンギンは残念そうな顔をしながらもオキアミとイカを平らげた。
  
 身元確認書類にペンギンの名前を書くようシェルアさんが家主にお願いする。
 家主はペンギンじゃ駄目かとふざけた事を言っていたけど、シェルアさんに優しく咎められると、今更何だとペンギンに怒られていた。
 ペンギンは自分の名前が欲しいみたいで、皆に考えて貰うのを阻止している。
 正直何故この人間にペンギンが固執するのか私にはわからなかった。
 飛行機に乗りたいならもっと簡単な方法がありそうなのに、わざわざ人間のつくった飛行機に乗ろうとするなんて無邪気すぎる。
 家主は呑気に雄か雌かを気にすると、どっちでもいいかと考えを投げ出してペンギンを撫でた。
 笑顔のペンギンに騙されていないかと少し心配になったけど、ペンギンがいいならと余計な口を挟むのはやめた。

——後日、ペンギンの名前がランギになったと話を聞いた。

 ランギは女の子だったようで、私は最初飛びつこうとしていた大福を叱った。
 たまに行くランギのいる家は、寒いのが難点だけど海の話を聞ける憩いの場となった。

 


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