Rasanz‼︎ーラザンツー

池代智美

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最下層系アイドル

最下層系アイドル1

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 今日の依頼は最下層で人気のアイドルの護衛である。
 一週間前に爆破予告があったらしく、EMANONに依頼がきたらしい。
 護衛は警察の仕事なのではと思ったけど、警察は警察で事件の方に駆り出されているからさける人員がないとの事だった。
 一応警備員は増やして持ち物チェックも厳しくしているそうで、入口の方で長蛇の列が出来ていた。
 
 ロジェさん、マリアさん、エッシさんは今日は休みである。
 大福とよもぎは人がごった返す屋内の場所だと潰される危険があるため、お留守番だ。
僕も留守番が良かった。
凡人の僕がいても何も出来る事はないし、逆に足を引っ張る不安しかない。

「私は舞台裏側だから、ルイス達は観客席側をよろしく。一応関係者席があるからそこで待機の形で頼む」
「これやる意味あるんすか? だいたい犯行予告する奴って家で引きこもってそうなイメージっすけど……」
「うーん……まあ、半分くらいは何もないとは思うけど依頼された以上は、な?」

 シェルアさんがそう言うと、ブラッドさんは仕方ないといった表情をした。

「人数足ります?」
「バイトの子が先に入ってるから大丈夫」
「毎回思うんですけど何処から雇ってきてるんですか?」
「大半はセシリオみたいな感じで非常勤だよ。本業があって副業をEMANON《うち》でやる感じ」
「へー」

 自分で聞いたのにルイスさんは興味なさげだ。
 ルイスさんは会場に入っていく人達を眺めながら、ファンであろう人が持つ黒いうちわを指差した。

「あれは表現としてセーフなんすか?」

 うちわには“こっち来んな”と綺麗な文字が並んでいた。
 隣の人のうちわには“病院行け”という文字が並んでいて、目を疑った。
語尾にハートや星が使われているけど、パワーワードには違いなかった。

「あれはそういう芸風らしい」
「芸風……? あの、俺達が護衛するのってアイドルですよね?」
「うん。最近若い子の流行りだって」
「サン知ってる?」
「いや、知らないです」
 
 ルイスさんに聞かれて僕は首を横に振った。
 ブラッドさんは欠伸をしている。

「ソイツが知る訳ねェだろ」
「じゃあブラッドさん知ってるんですか?」
「知る訳ねェだろ」
「一緒じゃないすか」

 ルイスさんは眉を顰めると、会場に向かう人達に視線を向けた。
 僕達の前を通った二人組は、鞄にキーホルダーをたくさん付けていた。
 
「そう言うお前は知ってんのかよ」
「知らないから聞いたんですよ」
「あっそ」

 ブラッドさんの冷たい返事を物ともせず、ルイスさんは次にシェルアさんに視線を移した。
 ブラッドさんは二度目の欠伸をしている。

「シェルアさんは?」
「歌は少し。結構面白いよ」
「……シェルアさん結構流行り物知ってますよね。ロジェさんは知らないのに」
「ロジェさんがアイドル知ってたらキメーだろ」
「それはそう」

 僕はアイドルを応援するロジェさんを想像してしまい、すぐに想像をかき消した。
 
「つーかお前変な想像させんじゃねーよ」
「勝手に想像したのはあんたでしょーが」
「はいはい二人とも、もうそろそろ会場の方行ってくれ。私もあとで行くから」
 
 ルイスさんとブラッドさんはシェルアさんに仲裁されると、微妙な顔をして口を閉ざした。
するとシェルアさんが思い出したように手荷物からうちわを取り出すと、僕達に渡した。
 うちわにはさっき見たのと“大概にしろ”というワードが並んでいる。
 僕達はうちわをそれぞれ受け取ると、正面口から会場に入った。

「アレ姐さん怒ってなかったか……?」
「いや、うちわで抗議とかそんな事あの人しないでしょ。なあサン?」
「えっ? ああ、はい、そうですね。シェルアさんなら普通に言うでしょうし」
「大概にしろって思われてたら死ねる」
「此処ではやめてくださいよ」


 死ぬと言ったブラッドさんに此処ではやめろと言えるルイスさんに少し驚いていると、前を歩いていた人達が立ち止まった。

「Aブロックってどっち……?」
「右って言ってなかった?」
「左ですよ」

 ルイスさんが指を差して言うと、女の人達は一瞬ぽかんと口を開けた後、パッと目を輝かせた。

「あっありがとうございます!」
「助かりました!」
「いえ」

 御礼を言う女の人達に、ルイスさんは短く返事をする。
 ブラッドさんはその様子を見て嫌そうな顔をすると、ルイスさんの肩に自分の肩をぶつけた。

「何だァ? いい子ぶりやがって」
「いった。やめてくださいよこんなとこで」
「モテてるからって調子乗んじゃねェぞ」
「いや、モテてないし調子にも乗ってません」

 ブラッドさんは納得出来ないといった表情でルイスさんを一瞥すると、小さく舌打ちをして先に行ってしまった。

「何だあの人……」
「さあ……?」
「沸点わかんねー」

 僕は返事に困って苦笑を浮かべた。
 女の人達がかっこいいと言っていたのはルイスさんの耳には届かなかったようだ。

「あ、あっちですよね席」
「ん? いや、もう一つ向こうだな」
「うわ、すみません」
「まあ同じような景色だから間違いもするだろ」

 話しながらもう一つ前の列に行くと、席はほぼほぼ埋まっていた。
 僕達の席は関係者席だけど、通路の向こうは普通の観客席みたいで、皆うちわやペンライトを持っている。

「おいこっちだこっち」
「あ、ブラッドさん」

 僕達が迷ったと思ったのか、ブラッドさんは僕達に手招きするとうちわを扇《あお》いだ。

「あっちー……何だこの熱気は」
「ライブだから皆テンション上がってるみたいですね。あ、あの人いっぱいキーホルダー付けてますよ」
「ホントだ」
「武装してんのか?」

 好き勝手言うブラッドさんに僕はちょっとハラハラしたけど、ルイスさんは気にならないようで、観客席の方を眺めた。

「男も結構いるんだな」
「そうみたいですね。あそこにいる人、特に楽しそう」
「男が男のアイドル見て楽しいか?」
「ブラッドさん、そういう事言うと今の時代すぐ炎上しますよ。多様性社会なんすから」
「世知辛ェ世の中~」

 ブラッドさんはうちわを扇ぎながら茶化すように言うと、ポケットからスマホを取り出して操作した。
 どうやらシェルアさんの連絡が入ってないか確認しているらしい。

「お前トイレは?」
「あ、最初に行ってきたから大丈夫です」
「ならいいや」
「あと十分で始まるみたいですよ」
「え。お前ライブ見る気なの?」

 ブラッドさんが呆気に取られた顔をする。
 ルイスさんはブラッドさんの反応に心底不思議そうな顔をした。

「そうですけど?」
「いやおま……仕事だろコレ」
「シェルアさんが待機だから見ててもいいって言ってたじゃないすか」
「バッカお前そりゃ姐さんだからだろ。普通仕事ならライブ見ねェで仕事に専念すんだよ。なあ?」

 ブラッドさんに同意を求められる。
でも僕は此処の“普通”がわからなかったため、首を傾げた。

「おい」
「すみません……でもあの、ちょっとならいいのかなって……」
「そういう油断が死に直結すんだよ」
「けどブラッドさん最初護衛なんか意味あんのかって言ってましたよね?」
「ソレはソレ、コレはコレだろ」
「めんどくさ」

 ルイスさんがボソッと呟いた一言にブラッドさんが反応して額に青筋が立った。
 此処で喧嘩は避けたい僕は、話題を変えようと辺りを見回した。

「あー僕、ライブ来たの初めてで! どんな感じなんでしょうね!」
「歌って踊るの見るだけだろ。そんな楽しいもんか?」
「あんたマジで一回黙れよ」

 小声でルイスさんが注意してもブラッドさんは全く悪びれない態度で笑うと、煽るようにうちわの先をルイスさんに向けた。
すると会場に流れていた音楽が止まって、注意事項のアナウンスが流れた。

 ライブ中の喧嘩は御法度であると言われると、二人は仕方なくステージの正面に向き直った。
 僕はホッとしてアナウンスと同じ言葉が映るステージのモニターを眺める。

「お前真ん中来いよ。そこじゃ見えねェだろ」
「え? あ、はい、ありがとうございます」

 ブラッドさんは僕を引っ張ると、ルイスさんを通路側にした。
 元いた場所でも見えない事はなかったけど、ブラッドさんなりに気を遣ってくれたのだろう。
 
「優しー」
「うるせェ」

 ルイスさんが茶化すと、ブラッドさんは嫌そうに顔を歪めてうちわの裏面“黙れ”を表にした。
 僕のうちわには“こっち見んな”と“さんざめけ”と書かれている。

「うちわって何書かれてます?」
「俺のは“あっち行け”と“転売ヤーでキャンプファイヤー”って書いてある」
「どうなってんだよグッズ作った奴……」
「ブラッドさんのは?」
「あァ? さっき見たろ?」

 ブラッドさんは面倒くさそうにしながらも、うちわを裏返して両面の文字を見せてくれた。
 ブラッドさんのうちわは“黙れ”と“大概にしろ”と書かれていた。
 全員バラバラでちょっと面白いと思った。
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