20 / 34
【7】美女と野獣のバラぎょうざ
第20話 恋の予感はお花とともに
しおりを挟む
おとぎ町に来てから、あっという間に三ヶ月が過ぎた。最近ではどんどん暑い日が増えてきて、季節が夏へと向かっていることを、ましろはまぶしい日差しで感じていた。
そんなある日、ましろはクラスの女の子たちの恋バナを「ふむふむ」と聞いてた。
「となりのクラスの佐原君と結衣ちゃん、付き合ってるんだって~!」
「えぇっ! ウソ、いつの間に⁈」
「月曜日の放課後に、佐原君が告白したんだってさ!」
ましろは、よく知ってるなぁと感心しながらうなずいていた。
「付き合うって、どういうことするの?」
ましろがほんのちょっとの興味でたずねると、女の子たちは「ましろちゃんってば!」と顔を赤らめた。
「そりゃあ、二人で学校から帰ったり、お出かけしたり……」
「ご飯とかお菓子を作ってあげたり~」
「手をつないだり……、ほら、キスとか‼︎」
キス!
女の子たちの「キャ~!」という悲鳴の真ん中で、ましろも想像してドキドキしてしまった。
「ましろちゃん、私の『恋らびゅ』貸してあげるから、それで勉強しなよ!」
友達が言ったそれは、ましろもタイトルだけは知っていた大人気少女マンガ。『恋してらびゅーん!』だ。
「わっ、わたしにはまだ早いかな……」
「そんなことないっ! よーんーでっ!」
そして、戸惑うましろはグイグイせまられ、ついに『恋らびゅ』を貸してもらう約束をしたのだった。
でも、ちょっと苦手なんだよなぁ……。
ましろは以前、桃奈から「おじさんには彼女はいないのか」という話をされた時もそうだったのだが、実は恋愛の話が苦手だった。理由は、よく分からないからだ。
好きな人がたくさんいる友達もいるけれど、ましろは、まだ初恋だってしたことがない。
「恋か~」
口に出したからといって、すぐに恋が降ってくるわけがない。
とりあえず、『恋らびゅ』を読んでみよう。でも、恥ずかしいから、りんごおじさんにはナイショにしよ。
ましろは小学校の帰り道、おとぎ商店街の中をぶらぶらと歩きながら、《りんごの木》を目指して歩いていた。
今日は、アリス君の新作スイーツを試食させてもらうのだ。「すっげぇうまいから楽しみにしとけ!」と、目付きの悪い目を細くして笑っていたアリス君への期待は、学校にいる間もどんどんふくらんでいた。
どんなスイーツなのかな~? わくわくする!
「よっ! おつかれ!」
ましろが上機嫌でスキップをしていると、背中側からウワサのアリス君の声がした。そして、スーッと自転車で隣に並んで来る。
「アリス君! 商店街は、自転車に乗っちゃダメなんだよ!」
「へいへい」
ましろが注意すると、アリス君は渋々と自転車を降りた。自転車のカゴには高級な焼き菓子屋さんの紙袋が入っていて、つい注目してしまう。
「お菓子買ったの⁈」
「中身は、図書館の本だ。ましろ、相変わらず食い意地張ってんなぁ」
アリス君にクスクスと笑われ、ましろは恥ずかしくなってしまった。けれど、お菓子屋さんの紙袋を再利用するアリス君もアリス君だ。勘違いしたって仕方がないと思う。
「どんな本借りたの?」
「洋菓子のレシピ本だろ、フランス語の本だろ、あと栄養学と、花の辞典」
「お花?」
ましろが聞き返すと、アリス君は辞典の表紙を見せてくれた。とても分厚い辞典だ。
「白雪店長が、皿は花かごみたいなもんだ、って言ってたんだよ。ようは、季節の華やかさを意識するってことな」
「花かご……」
たしかに、りんごおじさんの料理は花のようかもしれない。色鮮やかな花、落ち着いたきれいな花、満開の花──。お皿の上は、いつも見ていて楽しくなる。
「花のモチーフのスイーツとか、食用花もあるだろ? その辺の参考にしようと思ってさ」
「今日の新作も?」
「新作は器が花柄で……」
アリス君の話の途中で、ましろは「あっ」と声をあげた。
「《花かご》さんだ!」
《りんごの木》の前に、たくさんの花を両手に抱えたお兄さんが立っていた。両手がふさがっているため、ドアを開けることができないようだ。
「やぁ! ましろちゃん、有栖川君! ちょっとドアを開けてくれるかい?」
***
おとぎ商店街には、お花屋さんが一軒ある。お店の名前は《花かご》。小さいながらも、種類は充実しているし、フラワーアレンジメントもしてくれる。
ご近所のファミリーレストラン《りんごの木》も、《花かご》の季節の花を定期的に届けてもらい、テーブルやレジのそばに飾っていた。
ましろは、《花かご》の花を毎回楽しみにしていて、花が届く月曜日の夕方が、いつも待ち遠しかった。
今日出会ったのは、《花かご》の長男である重野大地君で、ちょうど花を届けに来てくれたところだった。
「こんにちはー。お花のお届けに上がりました!」
お店のドアベルをカランカランと鳴らしながら、大地君はお店に入った。ましろとアリス君もそれに続く。
大地君は大柄で、柔らかい性格、そして柔らかそうなおなかをした27歳だ。
「うわぁ、今週もきれいなお花だね!」
「だろう? これは、サルビアの花なんだ。花言葉は、『家族愛』。いいだろう?」
大地君は、鮮やかな赤色の切り花を持っていた。とてもきれいでかわいらしい花だ。
「すてきですね。すぐに飾らせてもらいます」
りんごおじさんは、うれしそうに花を受け取り、奥に花びんを探しに行こうとした。けれど、それを大地君が引き止めた。
「まっ、待ってください。実は、相談があるんです!」
なんだろう? と、ましろとりんごおじさんは思わず顔を見合わせた。
そんなある日、ましろはクラスの女の子たちの恋バナを「ふむふむ」と聞いてた。
「となりのクラスの佐原君と結衣ちゃん、付き合ってるんだって~!」
「えぇっ! ウソ、いつの間に⁈」
「月曜日の放課後に、佐原君が告白したんだってさ!」
ましろは、よく知ってるなぁと感心しながらうなずいていた。
「付き合うって、どういうことするの?」
ましろがほんのちょっとの興味でたずねると、女の子たちは「ましろちゃんってば!」と顔を赤らめた。
「そりゃあ、二人で学校から帰ったり、お出かけしたり……」
「ご飯とかお菓子を作ってあげたり~」
「手をつないだり……、ほら、キスとか‼︎」
キス!
女の子たちの「キャ~!」という悲鳴の真ん中で、ましろも想像してドキドキしてしまった。
「ましろちゃん、私の『恋らびゅ』貸してあげるから、それで勉強しなよ!」
友達が言ったそれは、ましろもタイトルだけは知っていた大人気少女マンガ。『恋してらびゅーん!』だ。
「わっ、わたしにはまだ早いかな……」
「そんなことないっ! よーんーでっ!」
そして、戸惑うましろはグイグイせまられ、ついに『恋らびゅ』を貸してもらう約束をしたのだった。
でも、ちょっと苦手なんだよなぁ……。
ましろは以前、桃奈から「おじさんには彼女はいないのか」という話をされた時もそうだったのだが、実は恋愛の話が苦手だった。理由は、よく分からないからだ。
好きな人がたくさんいる友達もいるけれど、ましろは、まだ初恋だってしたことがない。
「恋か~」
口に出したからといって、すぐに恋が降ってくるわけがない。
とりあえず、『恋らびゅ』を読んでみよう。でも、恥ずかしいから、りんごおじさんにはナイショにしよ。
ましろは小学校の帰り道、おとぎ商店街の中をぶらぶらと歩きながら、《りんごの木》を目指して歩いていた。
今日は、アリス君の新作スイーツを試食させてもらうのだ。「すっげぇうまいから楽しみにしとけ!」と、目付きの悪い目を細くして笑っていたアリス君への期待は、学校にいる間もどんどんふくらんでいた。
どんなスイーツなのかな~? わくわくする!
「よっ! おつかれ!」
ましろが上機嫌でスキップをしていると、背中側からウワサのアリス君の声がした。そして、スーッと自転車で隣に並んで来る。
「アリス君! 商店街は、自転車に乗っちゃダメなんだよ!」
「へいへい」
ましろが注意すると、アリス君は渋々と自転車を降りた。自転車のカゴには高級な焼き菓子屋さんの紙袋が入っていて、つい注目してしまう。
「お菓子買ったの⁈」
「中身は、図書館の本だ。ましろ、相変わらず食い意地張ってんなぁ」
アリス君にクスクスと笑われ、ましろは恥ずかしくなってしまった。けれど、お菓子屋さんの紙袋を再利用するアリス君もアリス君だ。勘違いしたって仕方がないと思う。
「どんな本借りたの?」
「洋菓子のレシピ本だろ、フランス語の本だろ、あと栄養学と、花の辞典」
「お花?」
ましろが聞き返すと、アリス君は辞典の表紙を見せてくれた。とても分厚い辞典だ。
「白雪店長が、皿は花かごみたいなもんだ、って言ってたんだよ。ようは、季節の華やかさを意識するってことな」
「花かご……」
たしかに、りんごおじさんの料理は花のようかもしれない。色鮮やかな花、落ち着いたきれいな花、満開の花──。お皿の上は、いつも見ていて楽しくなる。
「花のモチーフのスイーツとか、食用花もあるだろ? その辺の参考にしようと思ってさ」
「今日の新作も?」
「新作は器が花柄で……」
アリス君の話の途中で、ましろは「あっ」と声をあげた。
「《花かご》さんだ!」
《りんごの木》の前に、たくさんの花を両手に抱えたお兄さんが立っていた。両手がふさがっているため、ドアを開けることができないようだ。
「やぁ! ましろちゃん、有栖川君! ちょっとドアを開けてくれるかい?」
***
おとぎ商店街には、お花屋さんが一軒ある。お店の名前は《花かご》。小さいながらも、種類は充実しているし、フラワーアレンジメントもしてくれる。
ご近所のファミリーレストラン《りんごの木》も、《花かご》の季節の花を定期的に届けてもらい、テーブルやレジのそばに飾っていた。
ましろは、《花かご》の花を毎回楽しみにしていて、花が届く月曜日の夕方が、いつも待ち遠しかった。
今日出会ったのは、《花かご》の長男である重野大地君で、ちょうど花を届けに来てくれたところだった。
「こんにちはー。お花のお届けに上がりました!」
お店のドアベルをカランカランと鳴らしながら、大地君はお店に入った。ましろとアリス君もそれに続く。
大地君は大柄で、柔らかい性格、そして柔らかそうなおなかをした27歳だ。
「うわぁ、今週もきれいなお花だね!」
「だろう? これは、サルビアの花なんだ。花言葉は、『家族愛』。いいだろう?」
大地君は、鮮やかな赤色の切り花を持っていた。とてもきれいでかわいらしい花だ。
「すてきですね。すぐに飾らせてもらいます」
りんごおじさんは、うれしそうに花を受け取り、奥に花びんを探しに行こうとした。けれど、それを大地君が引き止めた。
「まっ、待ってください。実は、相談があるんです!」
なんだろう? と、ましろとりんごおじさんは思わず顔を見合わせた。
0
あなたにおすすめの小説
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
転生妃は後宮学園でのんびりしたい~冷徹皇帝の胃袋掴んだら、なぜか溺愛ルート始まりました!?~
☆ほしい
児童書・童話
平凡な女子高生だった私・茉莉(まり)は、交通事故に遭い、目覚めると中華風異世界・彩雲国の後宮に住む“嫌われ者の妃”・麗霞(れいか)に転生していた!
麗霞は毒婦だと噂され、冷徹非情で有名な若き皇帝・暁からは見向きもされない最悪の状況。面倒な権力争いを避け、前世の知識を活かして、後宮の学園で美味しいお菓子でも作りのんびり過ごしたい…そう思っていたのに、気まぐれに献上した「プリン」が、甘いものに興味がないはずの皇帝の胃袋を掴んでしまった!
「…面白い。明日もこれを作れ」
それをきっかけに、なぜか暁がわからの好感度が急上昇! 嫉妬する他の妃たちからの嫌がらせも、持ち前の雑草魂と現代知識で次々解決! 平穏なスローライフを目指す、転生妃の爽快成り上がり後宮ファンタジー!
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる