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しおりを挟むそんな伯父が、公爵家から帰って行くとトレイシーは疲れたと言うことなく、ミュリエルのところに来た。
「お姉様! 遊びましょう!」
ノックもなしにミュリエルが、家庭教師と勉強をしているところに突撃して来ることが、たまにあった。
そのたまになのが、途中で行かせまいとする者がいるからだった。今日は、それに失敗したようだと使用人と家庭教師は思っていたが、ミュリエルはそのことを知りもしなかった。
トレイシーにミュリエルの邪魔をさせまいとする者は、それなりに多くいた。公爵家では、トレイシーにも、伯父の方にもわざわざ味方する者はいなかった。どう見ても非常識なことを伯父はしているようにしか見えなかった。
「トレイシー」
何度、妹に言ってもノックもしないで、突撃してくることに何とも言えない顔をミュリエルはしていた。
それでも、トレイシーのことを嫌うことはなかった。
「トレイシー様、ミュリエル様は、これならマナーのお勉強がありますから」
「いつも勉強ばっかりじゃない。お姉様と遊びたい!」
でも、使用人は旦那様に叱られますからミュリエルを妹とあまりどころか。遊ばせまいとしていた。そこにいる家庭教師も、同じようにトレイシーを追い出すことに躊躇いはなかった。
「あなたも、遊び呆けてばかりいては学園に入った時に困りますよ。よければ、ご一緒に勉強しては?」
「っ、そんなの嫌よ!」
勉強なんてしたくないとばかりに出て行くトレイシーにミュリエルは小さくため息をついた。
何度言ってもノックもなしに現れる妹に困っていた。妹は姉に甘えているだけだとは思うが、公爵令嬢としてどうかと思うのか、トレイシーはその辺のことを考えていないようだ。わざとしているのも問題だが、直す気がないのは大問題だ。
「妹が申し訳ありません」
「ミュリエル様が、謝罪することはありませんよ」
「……」
そうは言われても、度を越し始めている。あまりにもしつこくなると見かねて、使用人の目を盗んでこっそりと妹に会っては、ミュリエルは一緒に遊ぶようにした。
もっとも、こっそりとバレていないと思っているのは、姉妹だけで把握されてないわけがないのだが、ミュリエルにとっては可愛い可愛い妹でしかない。母に言われた通りに守るべき存在が変わることはないが、時折物凄く困った存在になるのにミュリエルは困っていた。
それに公爵家の中が、伯父が来ている時に一際ぎくしゃくしているような気がしている気がミュリエルにも何となくわかっていたが、その理由がわからなかった。
そのうち、伯父も公爵家にやって来なくなったかというとそんなことはなかった。
伯父は、公爵家に来る口実を他に見つけたようだ。
「やぁ、ミュリエル」
「お従兄様!」
伯父は、息子を連れて来るようになったのだ。ミュリエルたちからすると彼の息子は、ミュリエルたちの従兄であり、パーシヴァル・ベルシックと言う名前の頼りになる人だ。そして、息子を交えてみんなで遊ぶのかと思いきや相変わらずトレイシーと伯父は遊んでばかりいた。
あぁ、やっぱりそうなるのかと思ってしまった。ミュリエルは見慣れた光景でしかなかったが、パーシヴァルは……。
「……父上は、いつもあぁなのか?」
「えぇ、私が勉強ばかりしているから、トレイシーの遊び相手になってくれています」
「遊び相手って……。あいつ、勉強しているのか?」
あいつとパーシヴァルは、トレイシーの名前を呼ばなかった。そこは公爵であるミュリエルたちの父と一緒だったが、ミュリエルは特に気にしてはいなかった。
トレイシーが、パーシヴァルにしつこくしすぎて大喧嘩した時から、犬猿の仲のようになっている。それにトレイシーも負けてはいない。嫌味で返すくらいだ。この2人は、それが普通となっていた。
従兄の言葉にミュリエルは思案した。そういえば、勉強しているところを見たことないと答えたら凄い顔をしていたが、それ以上、ミュリエルに何か言って来ることはなかった。
ミュリエルは気づいていなかったが、パーシヴァルが使用人を見て首を振って呆れ返っていたのを見てはいなかった。、
あちらの従妹が、何もせずにいたところで、本人がそうしているのだから、自己責任だと思うことにしたようだ。それにそれを容認しているのは自分の父だと何も考えてないはずがないと思って、深く考えることはしないようにした。
それこそ、伯父が自分の息子まで連れて来てトレイシーを構い倒すようになったのも、ミュリエルとパーシヴァルを遊ばせるためだろうとミュリエルは思っていた。
いや、もう、そう思うことにした。鈍いなんて言っていられない何かがある気がしているのに気づかないふりをし続けた。
でも、公爵家に入り浸り気味となった伯父を公爵が、用もないのに来るなと言われたことへの苦肉の策に息子を連れて来ていることをミュリエルは知りもしなかった。
「全くなにをやってるだか」
「お従兄様?」
「いや、何でもない。それで、ミュリエルは何をしたい?」
「え?」
「たまには遊ぼう」
「っ!?」
そう言われたミュリエルは嬉しそうにしたが、すぐにハッとした顔をして家庭教師を見た。折角のお誘いでも、ミュリエルに勉強を教えるために家庭教師が来ているのだ。
それに気づいたパーシヴァルは、にっこりと笑って家庭教師にこう言った。
「先生。天気も良いので、庭でお茶でもしながら、勉強してはいかがですか?」
「あら、素敵なお誘いですね。では、今日は庭の動植物について、お2人に調べてもらいましょうか」
「っ!?」
ただ遊ぶなんてしていたら、トレイシーが交じりたがるだろうと家庭教師はあえてそう言ったようだ。
「動植物」
「ミュリエルは、庭にいる動物を知っているか?」
「いいえ」
「今の時期なら、調べがいがあるぞ」
「そうなのですか? あ、なら、お部屋から紙とペンと図鑑を持って来ます!」
ミュリエルは、真剣に動植物を調べようとするのにパーシヴァルは建前なんだとは言わず、好きにさせていた。ミュリエルが、部屋に戻ってから家庭教師とパーシヴァルが何を話していたかも知らないまま、汚れてもいい格好をして準備万端で現れたミュリエルに益々笑顔となる2人がいた。
従兄の話を聞きながら、ミュリエルは庭を隅々まで観察して、メモを取り、図鑑を広げていた。それだけでもミュリエルは、実に楽しそうにしていた。
そんなことをしていても観察の授業と聞けば、トレイシーがそこに交じることはなかった。流石は、トレイシーのことをよくわかっている。
家庭教師は、素知らぬ顔をしてお茶を飲んでいた。ミュリエルが根を詰めて勉強しなくてはならないものはない。公爵が、ミュリエルとトレイシーをあまり接触させたくないから家庭教師に阻ませているようなものだった。
それをミュリエルは気づいていなかったが、従兄は何となく気づいていた
ミュリエルは、従兄や家庭教師の機転によって、そんな風に過ごせるようになった。
そんなことがあったのをパーシヴァルは、自分の母に伝えたようで、伯母も度が過ぎると公爵が夫である公爵の弟を怒っていたのを宥めるというか。やり過ごすのに息子を利用したことにイラッとしていたようだが、ミュリエルの息抜きになるのならとあまり強く怒れずにいた。それらのこともミュリエルはよく知らなかった。
伯父やトレイシーよりも、ミュリエルを気にかけてくれている人たちは多くいた。
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