母と約束したことの意味を考えさせられる日が来ることも、妹に利用されて婚約者を奪われるほど嫌われていたことも、私はわかっていなかったようです

珠宮さくら

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妹は成長してみるとミュリエルと比べるとどこもかしこも似ていない女の子になっていた。そして、父にも似ていなかった。

そんなことを思ったのは、長く伏せっていた母が亡くなった後だった。まじまじとトレイシーを見ていたのは、ミュリエルではなかった。


「あの姉妹、並んでいると全然、似ていないわね」
「確かにそうね」


そこに来ていた者たちは、そんなことをヒソヒソと話していた。

母の葬儀で、ミュリエルは目が溶けるのではないかというほど泣いていた。でも、父は気丈にしていて、トレイシーは退屈そうにしていた。

父の代わりに嘆き悲しんでいたのは、父の弟。つまり、ミュリエルたちの伯父だった。あまりの悲しみっぷりにミュリエルの涙が引っ込むくらい凄かった。

そんな伯父こそ、珍しい髪の色をしていた。それをトレイシーも受け継いで持って生まれたのだと思っていた。


「2つも珍しい色合いを受け継ぐなんてね」
「公爵夫人は心残りだったでしょうね」
「1つでも厄介だとよく言われていたものね」


珍しい色合いを複数持つと幸せになるが、より難しくなる。

それを知っている年配の夫人たちは、そんなことをヒソヒソと話していたが、ミュリエルはそんなことを聞いてはいなかった。

伯父が、自分よりも物凄く悲しんでいるのに驚き
すぎていた。伯母や従兄も、ミュリエルの父である公爵も、凄い顔をして見ているのも何のそので、嘆き悲しんでいた。

実の子供たちをほっといて必死に泣きすがるまでしていた。それこそ、実の姉にならわからなくはないが、義姉にそんな風に泣きすがるなんて、異様でしかなかった。

ミュリエルは、本当に悲しんでいるんだと思っていたが、周りがそんな風に見ているだけではなかったことにも気づいていなかった。

そして、トレイシーが母親が亡くなったのにつまらなそうにして退屈そうにしているのも、異様でしかなかった。


「あの2人、変な目立ち方しているわね」
「でも、子供の方はまだ幼いからわからなくはないわ。長く床に伏していたようだし、使用人たちが面倒を見ていたから実感がわかないとしても、あの方はありえないわよね」


ミュリエルたちの伯父は、そんなことを言われていようとも気にせずにしていた。そんな弟に公爵は、何とも言えない顔をしていたが、それは無理ないと思われていて、その内心で腸を煮え繰り返していたなんて誰も気づいていなかった。







そんなことがあって、しばらく経ってミュリエルはトレイシーと伯父を見ていた。

ミュリエルは喪に服す格好をしていたが、伯父もトレイシーも、そんな服を着てはいなかった。

何なら、次の日からあれだけ泣きすがっていたのが嘘のようにいつものようにした伯父が公爵家に来るようになった。

その時も、普通の格好をしていたが、それを気にしていたわけではなかった。最初は、びっくりしたが、それを見て喪服なんておしゃれじゃないと着なくなったトレイシーには、良くない影響を与えていたが、それにミュリエルは怒ることはなかった。

トレイシーが楽しそうにしていて、ミュリエルに遊んでくれとせがんで来なくなっていたからだ。


「……」
「ミュリエル様、どうかなさいましたか?」
「何だか、親子みたいね」
「っ」


ミュリエルが、そう思う光景がそこにあった。

トレイシーは、目は母譲りだが、髪が伯父に似ていた。どちらも、この国では珍しい。

そんな珍しい色合いを持っているからこそ、親子のように見えてならなかった。

珍しい色合いを持った者同士が結婚することを好まないのは、親世代よりも前の祖父母世代がそうだったようだが、一気に珍しい色合いを持って生まれて来る率が減ったのもあり、複数の珍しい色合いを持って生まれた者が、どんな人生を歩んだかを見ていた者がいなくなったことで、ミュリエルたちの世代は、ジンクスと呼ばれているものを詳しく知る者が少なくなっていた。

それを知っていたら、祖父母世代が母と伯父を結婚させたくなかったから、別々の人と結婚させたとわかっていたが、それを知ることもなかった。

そもそも、トレイシーが生まれてから、父は忙しくしていて遊んでくれることはなくなっていた。幼い頃にミュリエルが父に遊んでもらっていたトレイシーを見て、ミュリエルは思い出していた。遠い昔のように思えてならなかった。

色々あったからなのか。父がいないのをいいことにこっそりと公爵家に来ては、トレイシーと遊んでいるのを見かけるようになった。仕事は大丈夫なのかとミュリエルが心配することはなかった。いい大人が仕事をサボって姪と遊ぶとは思っていなかった。

そんな風に伯父が来るようになったのは、母が亡くなってからが頻繁になった。その前にも来ていたが、それ以上に通い詰めているかのように公爵家にいるのをミュリエルは見るようになっていた。

まるで、この屋敷の主が伯父になったかのように好き勝手しているのもよく見るようになった。

そのせいで、トレイシーが真似をするようになっていた。すっかりわがままばかりを言うようになっていた。悪影響を与えているとミュリエルか伯父に言うことはしなかった。

そんなことを言うより、親子に見える光景をそのまま口にしただけなのだが、そんなことをミュリエルが言うと使用人の顔がこわばっていたことに気づいていなかった。

伯父が、トレイシーのことがお気に入りなのは、誰から見ても明らかだ。今更でしかないが、父の弟だから、そう言う家系なのだとミュリエルは勝手に思っていた。珍しい色合いを父の両親、つまり祖父母の家系のどちらかが持っているのだと、でも、、そうではないことを知りもしなかったから、どちらの家系を突き詰めても、父と同じ特殊なDNAを持った者はいなかったことを知りもしなかった。

父に似ているミュリエルとは、伯父はそもそも遊ぼうとしてはくれなかった。伯父は、昔から不仲だった父に似たミュリエルが可愛い姪っ子には見えなかったようだ。

だからといって、母を亡くしたのは、どちらも同じなのにトレイシーだけに気分転換をさせようと張り切ているように見える伯父も、義理の姉を亡くしたのに喪に服すのをやめて、トレイシーにも普段通りにさせているのを咎めないのも、どうかしていると周りの大人たちが思っていても、ミュリエルは特に気にしていなかった。

父は亡くなった母を思い出すのか。葬儀辺りから妹に当たりがきついところがあるようにミュリエルには見え始めていた。

久しぶりに母の葬儀で父もずっと一緒にいたが、その間、今見ている伯父とは真逆とまではいかないが、トレイシーのことを見ようとも、呼ぼうともしなかったのだ。

でも、それを気にかける余裕はミュリエルにはなかった。みんな余裕がないから、そうなっているように思えていたが、余裕がなくなるようなことがあったからこそだとは、思いもしなかった。

そのせいもあって、ほとんど会ったこともなく、話しかけてももらえず、名前も呼ばれたことがほとんどなかった妹は、父のそんな態度に腹を立てて伯父によく懐いたのは無理はないことだった。だが、そのことをミュリエルは全然知らなかった。

鈍いわけではないはずだが、ミュリエルが認めていないだけで鈍いのは間違いない。


「ミュリエル様、先生がお見えですよ。お部屋に参りましょう」
「……うん」


ミュリエルは公爵令嬢として相応しい者になるべく、いろんな先生がつけられていた。だから、物凄く忙しかった。

そのせいで、母が亡くなる少し前から、トレイシーがどう過ごしているのかをあまりよく知らなかった。日がな1日、一緒に遊び続けることなどしたことがなかった。

でも、トレイシーはミュリエルより2歳年下なだけなのに好き勝手なことばかりをしているようにしか見えなかった。それが、羨ましく見えていた頃もあった。

ミュリエルとて遊びたかったが、伯父はトレイシーばかりに構っていて、ミュリエルには目もくれない。お土産も、ミュリエルの分を持って来てくれたこともない。

明らかにミュリエルなど、あの伯父には写っていない。

父がトレイシーにしていることの逆をしているなんてミュリエルは思ってもいなかった。そんな意図があるなんてミュリエルは気づいていなかった。

使用人たちが、やたらと伯父たちから引き離そうとするのも、そんなことをあからさまにしているせいだともミュリエルは気づいていなかった。

やはり鈍いとしか言いようがない。


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