2 / 22
2
しおりを挟む妹は成長してみるとミュリエルと比べるとどこもかしこも似ていない女の子になっていた。そして、父にも似ていなかった。
そんなことを思ったのは、長く伏せっていた母が亡くなった後だった。まじまじとトレイシーを見ていたのは、ミュリエルではなかった。
「あの姉妹、並んでいると全然、似ていないわね」
「確かにそうね」
そこに来ていた者たちは、そんなことをヒソヒソと話していた。
母の葬儀で、ミュリエルは目が溶けるのではないかというほど泣いていた。でも、父は気丈にしていて、トレイシーは退屈そうにしていた。
父の代わりに嘆き悲しんでいたのは、父の弟。つまり、ミュリエルたちの伯父だった。あまりの悲しみっぷりにミュリエルの涙が引っ込むくらい凄かった。
そんな伯父こそ、珍しい髪の色をしていた。それをトレイシーも受け継いで持って生まれたのだと思っていた。
「2つも珍しい色合いを受け継ぐなんてね」
「公爵夫人は心残りだったでしょうね」
「1つでも厄介だとよく言われていたものね」
珍しい色合いを複数持つと幸せになるが、より難しくなる。
それを知っている年配の夫人たちは、そんなことをヒソヒソと話していたが、ミュリエルはそんなことを聞いてはいなかった。
伯父が、自分よりも物凄く悲しんでいるのに驚き
すぎていた。伯母や従兄も、ミュリエルの父である公爵も、凄い顔をして見ているのも何のそので、嘆き悲しんでいた。
実の子供たちをほっといて必死に泣きすがるまでしていた。それこそ、実の姉にならわからなくはないが、義姉にそんな風に泣きすがるなんて、異様でしかなかった。
ミュリエルは、本当に悲しんでいるんだと思っていたが、周りがそんな風に見ているだけではなかったことにも気づいていなかった。
そして、トレイシーが母親が亡くなったのにつまらなそうにして退屈そうにしているのも、異様でしかなかった。
「あの2人、変な目立ち方しているわね」
「でも、子供の方はまだ幼いからわからなくはないわ。長く床に伏していたようだし、使用人たちが面倒を見ていたから実感がわかないとしても、あの方はありえないわよね」
ミュリエルたちの伯父は、そんなことを言われていようとも気にせずにしていた。そんな弟に公爵は、何とも言えない顔をしていたが、それは無理ないと思われていて、その内心で腸を煮え繰り返していたなんて誰も気づいていなかった。
そんなことがあって、しばらく経ってミュリエルはトレイシーと伯父を見ていた。
ミュリエルは喪に服す格好をしていたが、伯父もトレイシーも、そんな服を着てはいなかった。
何なら、次の日からあれだけ泣きすがっていたのが嘘のようにいつものようにした伯父が公爵家に来るようになった。
その時も、普通の格好をしていたが、それを気にしていたわけではなかった。最初は、びっくりしたが、それを見て喪服なんておしゃれじゃないと着なくなったトレイシーには、良くない影響を与えていたが、それにミュリエルは怒ることはなかった。
トレイシーが楽しそうにしていて、ミュリエルに遊んでくれとせがんで来なくなっていたからだ。
「……」
「ミュリエル様、どうかなさいましたか?」
「何だか、親子みたいね」
「っ」
ミュリエルが、そう思う光景がそこにあった。
トレイシーは、目は母譲りだが、髪が伯父に似ていた。どちらも、この国では珍しい。
そんな珍しい色合いを持っているからこそ、親子のように見えてならなかった。
珍しい色合いを持った者同士が結婚することを好まないのは、親世代よりも前の祖父母世代がそうだったようだが、一気に珍しい色合いを持って生まれて来る率が減ったのもあり、複数の珍しい色合いを持って生まれた者が、どんな人生を歩んだかを見ていた者がいなくなったことで、ミュリエルたちの世代は、ジンクスと呼ばれているものを詳しく知る者が少なくなっていた。
それを知っていたら、祖父母世代が母と伯父を結婚させたくなかったから、別々の人と結婚させたとわかっていたが、それを知ることもなかった。
そもそも、トレイシーが生まれてから、父は忙しくしていて遊んでくれることはなくなっていた。幼い頃にミュリエルが父に遊んでもらっていたトレイシーを見て、ミュリエルは思い出していた。遠い昔のように思えてならなかった。
色々あったからなのか。父がいないのをいいことにこっそりと公爵家に来ては、トレイシーと遊んでいるのを見かけるようになった。仕事は大丈夫なのかとミュリエルが心配することはなかった。いい大人が仕事をサボって姪と遊ぶとは思っていなかった。
そんな風に伯父が来るようになったのは、母が亡くなってからが頻繁になった。その前にも来ていたが、それ以上に通い詰めているかのように公爵家にいるのをミュリエルは見るようになっていた。
まるで、この屋敷の主が伯父になったかのように好き勝手しているのもよく見るようになった。
そのせいで、トレイシーが真似をするようになっていた。すっかりわがままばかりを言うようになっていた。悪影響を与えているとミュリエルか伯父に言うことはしなかった。
そんなことを言うより、親子に見える光景をそのまま口にしただけなのだが、そんなことをミュリエルが言うと使用人の顔がこわばっていたことに気づいていなかった。
伯父が、トレイシーのことがお気に入りなのは、誰から見ても明らかだ。今更でしかないが、父の弟だから、そう言う家系なのだとミュリエルは勝手に思っていた。珍しい色合いを父の両親、つまり祖父母の家系のどちらかが持っているのだと、でも、、そうではないことを知りもしなかったから、どちらの家系を突き詰めても、父と同じ特殊なDNAを持った者はいなかったことを知りもしなかった。
父に似ているミュリエルとは、伯父はそもそも遊ぼうとしてはくれなかった。伯父は、昔から不仲だった父に似たミュリエルが可愛い姪っ子には見えなかったようだ。
だからといって、母を亡くしたのは、どちらも同じなのにトレイシーだけに気分転換をさせようと張り切ているように見える伯父も、義理の姉を亡くしたのに喪に服すのをやめて、トレイシーにも普段通りにさせているのを咎めないのも、どうかしていると周りの大人たちが思っていても、ミュリエルは特に気にしていなかった。
父は亡くなった母を思い出すのか。葬儀辺りから妹に当たりがきついところがあるようにミュリエルには見え始めていた。
久しぶりに母の葬儀で父もずっと一緒にいたが、その間、今見ている伯父とは真逆とまではいかないが、トレイシーのことを見ようとも、呼ぼうともしなかったのだ。
でも、それを気にかける余裕はミュリエルにはなかった。みんな余裕がないから、そうなっているように思えていたが、余裕がなくなるようなことがあったからこそだとは、思いもしなかった。
そのせいもあって、ほとんど会ったこともなく、話しかけてももらえず、名前も呼ばれたことがほとんどなかった妹は、父のそんな態度に腹を立てて伯父によく懐いたのは無理はないことだった。だが、そのことをミュリエルは全然知らなかった。
鈍いわけではないはずだが、ミュリエルが認めていないだけで鈍いのは間違いない。
「ミュリエル様、先生がお見えですよ。お部屋に参りましょう」
「……うん」
ミュリエルは公爵令嬢として相応しい者になるべく、いろんな先生がつけられていた。だから、物凄く忙しかった。
そのせいで、母が亡くなる少し前から、トレイシーがどう過ごしているのかをあまりよく知らなかった。日がな1日、一緒に遊び続けることなどしたことがなかった。
でも、トレイシーはミュリエルより2歳年下なだけなのに好き勝手なことばかりをしているようにしか見えなかった。それが、羨ましく見えていた頃もあった。
ミュリエルとて遊びたかったが、伯父はトレイシーばかりに構っていて、ミュリエルには目もくれない。お土産も、ミュリエルの分を持って来てくれたこともない。
明らかにミュリエルなど、あの伯父には写っていない。
父がトレイシーにしていることの逆をしているなんてミュリエルは思ってもいなかった。そんな意図があるなんてミュリエルは気づいていなかった。
使用人たちが、やたらと伯父たちから引き離そうとするのも、そんなことをあからさまにしているせいだともミュリエルは気づいていなかった。
やはり鈍いとしか言いようがない。
170
あなたにおすすめの小説
(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!
青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。
図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです?
全5話。ゆるふわ。
婚約破棄されたショックで前世の記憶を取り戻して料理人になったら、王太子殿下に溺愛されました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
シンクレア伯爵家の令嬢ナウシカは両親を失い、伯爵家の相続人となっていた。伯爵家は莫大な資産となる聖銀鉱山を所有していたが、それを狙ってグレイ男爵父娘が罠を仕掛けた。ナウシカの婚約者ソルトーン侯爵家令息エーミールを籠絡して婚約破棄させ、そのショックで死んだように見せかけて領地と鉱山を奪おうとしたのだ。死にかけたナウシカだが奇跡的に助かったうえに、転生前の記憶まで取り戻したのだった。
婚約解消の理由はあなた
彩柚月
恋愛
王女のレセプタントのオリヴィア。結婚の約束をしていた相手から解消の申し出を受けた理由は、王弟の息子に気に入られているから。
私の人生を壊したのはあなた。
許されると思わないでください。
全18話です。
最後まで書き終わって投稿予約済みです。
【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜
よどら文鳥
恋愛
伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。
二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。
だがある日。
王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。
ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。
レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。
ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。
もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。
そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。
だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。
それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……?
※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。
※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)
異母妹に婚約者の王太子を奪われ追放されました。国の守護龍がついて来てくれました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「モドイド公爵家令嬢シャロン、不敬罪に婚約を破棄し追放刑とする」王太子は冷酷非情に言い放った。モドイド公爵家長女のシャロンは、半妹ジェスナに陥れられた。いや、家族全員に裏切られた。シャロンは先妻ロージーの子供だったが、ロージーはモドイド公爵の愛人だったイザベルに毒殺されていた。本当ならシャロンも殺されている所だったが、王家を乗っ取る心算だったモドイド公爵の手駒、道具として生かされていた。王太子だった第一王子ウイケルの婚約者にジェスナが、第二王子のエドワドにはシャロンが婚約者に選ばれていた。ウイケル王太子が毒殺されなければ、モドイド公爵の思い通りになっていた。だがウイケル王太子が毒殺されてしまった。どうしても王妃に成りたかったジェスナは、身体を張ってエドワドを籠絡し、エドワドにシャロンとの婚約を破棄させ、自分を婚約者に選ばせた。
婚約者を友人に奪われて~婚約破棄後の公爵令嬢~
tartan321
恋愛
成績優秀な公爵令嬢ソフィアは、婚約相手である王子のカリエスの面倒を見ていた。
ある日、級友であるリリーがソフィアの元を訪れて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる