親しい友達が、みんな幼なじみみたいな厄介さをしっかり持っていたようです。私の安らげる場所は、あの方の側しかなくなりました

珠宮さくら

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「え? 婚約解消ですか?」
「嫌なら断る」
「あの、どういうことですか?」


養父母は、何とも言えない顔をしてヴィリディアンに話してくれた。

それは、ヴィリディアンにはびっくりすることだった。何なら目の前の養父母も、驚いているようだ。無理もないが。

それは、突然のことだった。


「第2王子との婚約を解消して、王太子と婚約させたいと?」
「陛下と王妃が、お前が王太子のところに行くと元気になるのを耳になさったようだ」
「……」


それを聞いて、ヴィリディアンは今更な気がしてならなかったが、このタイミングでそんな話がなされるのにも引っ掛かりを覚えずにいられなかった。


「あの、アビシェク様は何と?」
「ヴィリディアンの好きにしていいとおっしゃっているそうだ」
「……」


好きも何も国王や王妃にそんな打診をされている婚約者に好きにしろとしか言わないのかとヴィリディアンは、それを聞いて一層無表情になってしまった。

ハーサン公爵に言いたくないだけだと思いたいが、どうだろうか。これまでのことを考えると本音なのは間違いないだろう。


「王太子は、ご存じなのですか?」
「いや、それは……」


そこに王太子の手紙が我が家に届いた。届いたというか。届けて来た人が、凄い大慌てで息も絶え絶えで驚いた。王太子に限界を超えて届けろと言われたようだ。それを忠実に守ったようだ。

だが、本当に限界を超えて来たようで、医者を呼ぶことになって快方することになったが、そこまでだったのだろう。

その中にはヴィリディアン宛てのものもあった。それは、アビシェクのように好きにしろではなかった。


「……」
「ヴィリディアン」
「はい」
「王太子は、いつも、こうなのか?」
「いつも、お会いする時は、お元気ですよ」


元気が有り余ってるように見える。病弱なのは本当だろうが、アビシェクが言っているような危機感はない。


「そうみたいね。あなたのことが、とても大事になさっているのだけはわかるわ」


養母は、アビシェクと違って、王太子の方がヴィリディアンのことを想ってくれているとまで言った。それは、ヴィリディアンもちょっと感じていた。想っている意味合いが微妙に違う気がするが。

それは、ヴィリディアンに感じているだけかも知れない。


「……アビシェク様と話してみます」


養父母は、頷いてくれた。

次の日。学園でアビシェクと話そうとしたのだが……。


「遠慮することないぞ」
「……遠慮ですか?」
「そうだ。私のことは、気にしなくていい。周りのことも、そうだ」
「……」


王太子と婚約する方がいいとアビシェクは言いたいようだ。

その上、病弱だから兄上の最後の願いくらい叶えてやりたいと言うのにヴィリディアンは眉を顰めずにはいられなかった。


「最後の願い?」
「そうだ。医者が、そんな話をしていた」
「……」


まただ。医者が言っていたと言うのだ。それにヴィリディアンは、アビシェクに冷めた目を向けていた。

国王も、王妃も、そこまでは言っていない。病弱だとしか聞いたことがない。

医者が言っていると話すのは、アビシェクだけなのだ。ヴィリディアンは、引っ掛かりを覚えていた。

その上、この王子は夢を叶えた後のヴィリディアンのことをまるで考えていない。そこに気づいて、話し合うだけ無駄だと思えたため、ヴィリディアンは婚約を解消することにした。

だが、ヴィリディアンはアビシェクと婚約解消しても、王太子と婚約することはしなかった。王太子も、それを望んでいなかったからだが、アビシェクはそれが気に入らなかったようだ。

しばらくして、彼はヴィリディアンのもとにやって来た。


「ヴィリディアン! どうして兄上と婚約しないんだ!!」
「……」


学園で、ヴィリディアンは怒鳴りつけられていた。それにまたかと思ってしまった。もう、怒鳴られることはないと思っていたが、そんなことはなかったようだ。

そもそも、アビシェクには王太子と婚約するとは一言もヴィリディアンは言っていないのだが、彼の中では決定事項だったようだ。


「兄上の最後の願いなんだぞ! どうして、聞いてやらないんだ!!」


大声で、とんでもないことを言うアビシェクにざわついたのは仕方がない。


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