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「殿下。発言には、注意した方がよろしいですよ」
「はぐらかすな!」
「……」
ヴィリディアンは、そんな風に怒鳴る人だとは思っていなかった。でも、苛立ちが募って余裕がなくなると周りが見えなくなるようだ。
それをどうしたものかとヴィリディアンが思っていると……。
「煩いな。何の騒ぎだ?」
「あ、兄上……?」
そこに王太子が、飄々と現れた。ヴィリディアンたちは、すかささずカーテシーをした。
「アビシェク。1人で、何を怒鳴っているんだ?」
「あ、兄上こそ、何をなさってるんですか?」
「何って、ここは学園ではないか。久々に授業に出ようかと思ったところだ。それにヴィリディアンに友達が増えたそうじゃないか。それが気になっていてな。紹介してくれるか?」
「はい」
だが、アビシェクは病気が思わしくないと医者が言っていたと言い、早く部屋に戻るように言ったのだ。
ここで、それを暴露するのかとヴィリディアンは思ったが、王太子は……。
「私の最後の願い……? お前にそんなこと言った記憶はないし、誰にもそんなことを言った記憶はないが? 誰が私の最後の願いを代弁しているんだ?」
「え? 代弁って、兄上が言ったのでは?」
「言っていないから、聞いている。それに私のことを誤解して伝えている者がいるようだ。どこの誰が、私の病状をそんな風に伝えているんだ?」
それにはアビシェクは、困惑した顔をせずにはっきりと答えていた。
「兄上の医者です」
「なら、調べさせたよう。軽々しく、王太子の病状を口外しているのなら、やめさせなくては。それとお前のことも国王に伝えることにする」
「は? 何で私が?」
「私が余命幾ばくかのようにしているからだ。そんなことをされていたとは知らなかった」
「っ、」
アビシェクは、王太子にそんなことを言われて、困ったようにヴィリディアンを見た。
「ヴィリディアン。ヴィリディアンは、私を味方してくれるよな?」
「味方? そんなものする気はありません」
「婚約者じゃないか!」
「解消しています。あてにしないでください」
「は? そんな必要はないのがわかったんだ。元に戻せばいい」
「戻す気は、私にはありません」
それでも、ヴィリディアンに縋ろうとしたが、王太子に怒られていなくなった。何とも情けないアビシェクの背中を見た。
王太子は、ヴィリディアンの方を見ていた。
「愚弟が、すまない」
「いえ」
それから、ヴィリディアンが王太子と婚約することはなかった。
あの一件から王太子がヴィリディアンを利用していたのに気づいてしまったからだ。
アビシェクは、あることないこと王太子のことで、デマを流していたとして、廃嫡となった。
王太子は病弱なところがあったが、すっかり治っているのを隠して、アビシェクに病弱が益々悪化したかのように医者に扮した者を利用して、弟がどう動くかを見ていた。
それにヴィリディアンまで利用していたのだ。それに気づいてしまったヴィリディアンは、何もかも嫌になって留学した。
王太子がすっかり元気になったとして婚約したのは、ヴィリディアンの友達の令嬢だった。
友達は、王太子が何をしたかを知らなかったが、ヴィリディアンはその話をすることはなかった。
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