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しおりを挟むそこにこんなことを言った子息が現れた。
「最悪だな」
ヴィクトワールの婚約者のリシャール・ルノレネイユだ。信じられない顔をして、リュシエンヌたちの側に歩いてきた。それを見てヴィクトワールは、ニッと笑った。強い味方が現れたと思ったようだ。
すかさず彼女は、得意げな顔をしてこんなことを言った。
「リシャール様。本当ですよね。あんなに人前で泣いて。恥ずかしいったらないわ」
「いや、私が言ってるのは、君のことだ」
それにヴィクトワールが驚いた顔をするのにリュシエンヌ以外が、ドン引きしたのは、すぐだった。リシャールが自分の味方だと思うことにもびっくりだし、その自信がどこから来るのかと思うが、彼女は婚約者が味方しないわけがないと本気で思っていた。
何なら、ここに来た時にリシャールの姿を確認していて、いざとなったら、味方してくれると思っていた。
本当は、婚約が破棄されるのは、リュシエンヌの方のはずが違う方に進んで茶番みたいになったのは気に入らないが、婚約者にそんなことを言われるなんて夢にも思っていなかった。
なにせ、リシャールはこの性格のヴィクトワールと婚約したのだ。誰もが、ヴィクトワールと婚約するのに信じられないかのようにされる中で、自分は見初められたと思っていた。
だから何をしても、大概のことは味方してくれると思っていたのにそうはならなかったのだ。
ヴィクトワールは、自分がしたことを棚に上げて、人前で大泣きしているのが恥ずかしいと言って、妹の側に駆け寄るでもなく、見苦しい者を見るかのようにしていた。
これがリュシエンヌの姉なのだ。いや、リュシエンヌのような令嬢の姉でなくとも、他のところでも、こんなのが身内だと思うとそちらの方が、かなり恥ずかしいようなのが、サヴィニー伯爵家の長女なのだ。
誰も婚約したがらないと思っていたのにリシャールが婚約して、令嬢たちは悪趣味だと色々言われていたが、それでも婚約破棄をしなかったのは、それでも好きなのだろうと思われていた。
でも、どうにも違うようで、見ている令嬢たちは首を傾げた。ヴィクトワールのような令嬢が好みなのかと思っていたが、違うようだ。何が起こっているのかと囁やきあっているのもいる。
だが、それにすら気づかず、リシャールの言ったことが、信じられずにいたのは、ヴィクトワールだ。
一方のリュシエンヌの方はというと泣きじゃくりっぷりに幼なじみのコンスタンスが、このままでは大変だとハンカチを濡らして目元にあてていた。せっかくのプロポーズなのに化粧が崩れて酷い顔にもなっている。
他の令嬢も気づいて、リュシエンヌを隠すように立ちはだかった。それは、周りを見るなと言う合図でもあった。
子息たちは、明々後日の方向を向き、令嬢たちは泣きすぎているリュシエンヌを気遣うように見た。
「あんなに泣いて、具合は大丈夫かしら」
「心配よね」
「お倒れにならないといいけれど」
そんな顔をテオドールに見せてはリュシエンヌが可哀想だと思ってもいた。テオドールは、それに気づいて、いち早く視線を違うところに向けていた。その間も、跪いたままだが文句の言葉も、不満な顔もせずにいた。
こんなに長引くとは思っていなかったが、有耶無耶に終わらせるわけにはいかない。テオドールも意地がある。
(ううっ、みんな、優しすぎるわ)
だが、そんな優しい幼なじみや婚約者の行動に益々泣いてしまって、コンスタンスはオロオロしてしまった。
泣き止ませようと必死なのに泣き続けられては困る。これでは、テオドールが跪いたままにもなってしまう。
「ちょっと、何で、そんなに泣くのよ」
「ぐすっ、だって、2人がいつも一緒にいたから」
それを聞いて、コンスタンスはハッとした顔をした。それは、テオドールもだった。
リュシエンヌが、そんなことを言うとは思っていなかった。咎めるようなことを言う令嬢ではない。
だが、それより先にコンスタンスは誤解を解くのに必死になった。
「いつもって、あれは、指輪のデザインをうちに頼んでくれたから、見てもらっていただけよ。うちに出入りする時間も、テオドール様にはなかったから。でも、あの指輪はテオドール様が決めたのよ。私は、流行りの話とか。そんなことしか話してないわ。流石に幼なじみでも、他の女が選んだのなんか、嫌だろうから。信じて、神に誓うわ」
「コンスタンス」
ぐすぐすっとしながらも、それを聞いて、唇をきゅっと結んだ。
「だから、泣かないで。私も、配慮が足りなかったわ」
「そんなことないわ。私、2人とも、好きだから幸せになって、ほしかったのに。潔よくなんて、できなくて」
「そんな、潔よさなんて覚悟しちゃ、駄目よ! そんな悲しい覚悟しないでいいのよ」
コンスタンスは、それを気にしていたのに気づかなかったことを後悔した。具合悪く見えたのも、それを思い悩んで言えなくて溜め込んでいたからだったようだ。
「コンスタンス、大好きよ」
「私もよ。あなたは、大事な幼なじみで、親友なんだから」
幼なじみ同士は、ついに2人とも泣き出した。ぎゅぅと抱きしめあう2人にテオドールも、うっかりもらい泣きしていた。周りも、泣いていた。
(やっぱり、私の親友は彼女しかいないわ。同じ気持ちだった。なのに疑うようなことをしてしまった。申し訳ないわ)
かたや幼なじみのプロポーズを成功させるためにこうなったのだ。
かたや姉の言葉にあれこれ悩んで、婚約者と幼なじみに幸せになってほしくてこうなったのだ。
こちらの勘違いは、それでお互いが謝り合い、感謝しあって、友情を再確認して前より仲良くなって終了した。
問題は、悪いとも思っていない方のことだ。
「ヴィクトワール、ずっと言おうと思っていた。もう、我慢の限界だ。君のような令嬢と婚約していたくない」
「っ、」
「そもそも、さっさと婚約破棄しなかったせいだ。テオドール、リュシエンヌ嬢、すまない」
「いえ」
「??」
リュシエンヌは、リシャールに名前を呼ばれて、きょとんとした。泣きじゃくって全く聞こえていなかった。ようやく、何が起こっているのかと思っていた。
「ま、待ってください! 何で、私が破棄されなければならないんですか?!」
「え?」
ヴィクトワールの言葉にリュシエンヌが、ようやく驚いた顔をした。泣き腫らした顔は痛々しいが、そんな姿になっても愛らしさが、彼女にはあった。
(え? 破棄って、言った??)
姉が破棄と言ったのにリュシエンヌは、目をパチクリさせた。泣きすぎて、目が痛くなっていたが、そんなことに構ってはいられなかった。
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