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しおりを挟むどうやら、姉の勘違いに巻き込まれていたとわかったリュシエンヌ。それに彼女は、姉のことを怒っても、咎めることもしなかった。また、いつもの意地悪かと思うことすらなかった。周りのほとんどが、そう思っていても、リュシエンヌは違うことを思った。
(あぁ、どうしよう。私が、勘違いしたせいだわ)
リュシエンヌは、意地悪をされるつもりは欠片も持っていなかった。だから、そう思うことはこれまでもなかったし、今回もそう思うことはなかった。
それが、リュシエンヌの良いところであり、悪いところでもあった。だから、この姉がこのままなのに気づいてすらいなかった。
リュシエンヌは、泣き腫らした目でテオドールのプロポーズを少しの間、保留にしたいと言った。
「保留か?」
「えぇ」
それには誰もが驚いた。ただ1人ヴィクトワールだけが当たり前みたいな顔をしていたが、他はみんな驚いていた。
この雰囲気で保留を申し出るとは誰も思っていなかった。一番リュシエンヌのしたいことを汲んできたテオドールも、それに何とも言えない顔をして困惑していた。
「リュシエンヌ」
「ごめんなさい。お姉様が、悲しんでいる時にその指輪を受け取るのは……」
それを聞いて、ヴィクトワールはムッとした顔をした。リュシエンヌの言葉が終わる前にこんなことを言った。
「ちょっと、やめてよ。見え見えなことしないで」
それを聞いて、リュシエンヌはきょとんとして姉を見た。
「お姉様?」
「あなたって、いつも、そうよね。いい子ちゃんぶらないで。私が、こうなったのは、あなたのせいじゃない。それをわざわざそんな言い方することないでしょ」
「っ、」
リュシエンヌは、そんなことを言われるとは思っていなかったため、物凄く驚いた。
他も同じだ。よりにもよって、リュシエンヌのせいにするとは誰が思うか。
でも、リュシエンヌが驚いていたのは、そこではない。
(あれ? 潔さは?)
そう、姉が言っていたのを思い出して驚いていた。姉の言葉通りにして、うまくいったことなど、ただの一度もないが、どうにも潔さの欠片もない姿に目をパチクリさせた。
それに我慢ならなくなったのは、リシャールだ。コンスタンスも、腹ただしそうにしていたが、彼女よりリシャールの方が早かった。
きっとコンスタンスが言葉にしていたら、ヴィクトワールと大喧嘩を繰り広げただろう。
でも、そうはならなかった。相手が、リシャールだったからだ。
「いい加減にしろ! 君のそういうところが、嫌なんだ。何でもかんでも、妹のせいにして、今回の勘違いも君が引き金なのに謝罪すらしない」
「そんな、リュシエンヌが勘違いしただけです」
「君が、破棄されそうだと彼女に言ったからだろ」
リシャールの言葉にヴィクトワールはムッとしたまま、リュシエンヌを睨んだ。凄い顔で睨まれて、リュシエンヌは、しょぼくれた。この妹は、姉のせいだと思わないのだ。勘違いしたのも、自分だ。自分が、そうだと思ったからだと思っている。
そこで姉のせいで、こんな大事になったとか。散々な目にあったとは思わないのが、リュシエンヌだ。
それどころか。破棄となった姉を心配しているのも本心だが、それすら演技のように言うのだ。どこをどう見たら、演技に見えるというのか。
(どうしよう。物凄く怒っているわ。こんなことにならなければ破棄になるまで、まだ時間があったかも知れないのに)
そう、時間があったとしてもいずれなることだが、リュシエンヌはそこまで考えが届かなかった。
そこにコンスタンスが話しかけてきた。テオドールは、リュシエンヌがそうしたいのならと受け入れるかで葛藤していて、俯いたままになっている。
「リュシエンヌ。お姉さんのことは一旦、置いておいて。よく考えてみて。テオドール様の気持ちに答えるのに誰かの気持ちを汲む必要があるの?」
「……それは」
「ちゃんと向き合って答えなきゃ、テオドール様に物凄く失礼よ」
「……そう、ね」
コンスタンスの言葉こそ、姉がかけるべき言葉だった。
でも、ヴィクトワールは茶番のようにして見ていた。コンスタンスの言葉こそ、馬鹿馬鹿しくヴィクトワールには聞こえていた。
彼女にとって、リュシエンヌが幸せではない方が嬉しいのだ。そして、周りより自分が幸せなのを実感できれば、それでいい。そういう令嬢なのだ。
リシャールは、そんな令嬢とわかっていながら婚約した。凄い顔をしてリュシエンヌを見ているヴィクトワールより、リュシエンヌの方を気遣わそうに見ていた。もう泣いていないのにホッとしつつ、その泣き腫らした目を見るだけでも心が潰れそうになっていたが、みんなリュシエンヌたちのことを見ていて、そんなリシャールに気づく者はいなかった。
「……えっと、テオドール様、やっぱり、保留はやめます。ごめんなさい。私、こんなに色々してくれたのにあなたのことを蔑ろにしていました」
リュシエンヌは、浅はかだったとばかりにそう言った。
「いや、そんなことはないさ。君が優しいのはよく知っている」
跪いてリュシエンヌは、テオドールと目線を合わせた。リュシエンヌが跪くのにテオドールの方が慌てたが、リュシエンヌは服が汚れるのなんて、気にもしなかった。
「私の気持ちは、決まっているものだと思っていました。あなたが、幸せなら、どんなことも受け入れる。でも、婚約破棄されるのを受け入れる覚悟だけは、どうしても持てませんでした。私は、あなたの隣にずっといたい」
リュシエンヌにまっすぐに見つめられて、そう言われたテオドールは目を見開いて驚いた。
「リュシエンヌ」
「でも、今回みたいな勘違いを私はこれからもすると思います。それでも、私はあなたの側にいたい。あなたの隣を永遠に独り占めさせてください」
「もちろんだ!」
何やら、逆プロポーズのようになっていたが、色々あって2人を祝う雰囲気になっていた。歓声をあげて、おめでとう!と口々に言う中で2人が恥ずかしそうにしていて、やっと立ち上がった。
でも、それすらぶち壊したのは、ヴィクトワールだった。そうせざる終えないのが、彼女のようだ。とにかく、妹が自分より幸せなことを許せないのが、ヴィクトワールという令嬢だ。
リュシエンヌが、この世で一番不幸なことを喜ぶのは、ヴィクトワールだ。なぜなのかと問うたら、ヴィクトワールは妹だからと答えるだろうが、そう問うた者は今までいなかった。
そこまでして、ヴィクトワールはリュシエンヌが生まれてから妹の存在が嫌で仕方がなかった。全てから無条件に愛されることを約束されているような妹が、憎くてたまらなかった。
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