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しおりを挟む学園に通うようになっても、母は朝からアンジェラの髪型を自ら決めずにいられないようで、必ず仕上げとばかりにリボンをつけようとした。
髪型は、流行りのものではない。はっきりと言えばダサい。古臭いとすら言える。今は、こんな髪型も、ましてやリボンも付けることもしない。
それを母は知らないようだ。ずっと引きこもっているから、知らないのだろう。
学園に通うようになって、ダサいとわかったアンジェラはこの髪型をやめてほしいと内心で思うようになったが、何も言わずにいた。
「ふふっ、アンジェラはやっぱり可愛いわ」
「……」
アンジェラは、それに答えたことはない。母は、娘が何も答えないことに何の疑問も持っていない。
そもそも、アンジェラがどう思っているかなんて母には関係ない。答えたところで、覆されるのだ。母の中の答え以外は、許されない。
外を見るようになって、アンジェラはこの時間が苦痛となっていた。これまでと同じはずなのに。これまで、どう我慢していたのかが分からなくなり始めていた。
学園が始まっても朝のそれは、変わることはない。でも、これをやり過ごせばいいとばかりに好きにさせていた。
学園につく前にリボンは取る。本当は髪型も変えたいが、元に戻せないため、リボンだけを取ることにした。
「ふふっ、そろそろね」
「?」
その日、母がいつもと違うことを口にした。アンジェラは、何を言いたいのだろうと思ったが、聞くことはなかった。
でも、何か引っかかりを覚えたまま、馬車に乗った。
「アンジェラ? どうかした?」
「……いえ、母がいつもと違っていたので」
何やら物思いにふけっているのに気づいてステファニアが尋ねた。
「変なものでも食べたか?」
「お兄様。私を見ながら、そんなこと言わないで」
「いや、でも、お前、っ、」
「ん?」
兄の脇腹をステファニアは思いっきり抓った。余計なことしか言わない兄を黙らせるのに力加減などする気はなかった。
「お兄様……?」
「ほっといても大丈夫よ。それより、どう違っていたの?」
「そろそろって、言ったんです」
アンジェラの言葉にステファニアは眉を顰めた。母のそろそろなんて言うのは、どう考えても不穏だ。
何か始まりそうな言い方に怪訝な顔をせずにはいられなかった。
「お兄様。そろそろって、何か思いつきますか?」
「……」
「お兄様」
「いや、思いつかない」
ステファニアは、役に立たないなと言わんばかりの顔をしたが、アンジェラはそんな顔をしなかった。
でも、そろそろの意味が、婚約者に関連付けることになるとは思いもしなかった。
ノルベルトは、この日からステファニアの横に座るのを嫌がるようになった。余計なことを言っても抓られないと思って安心して、ステファニアにニタァ~と笑っていた。
「……」
それを見てステファニアは……。
(急所をわかってないわよね)
今度は弁慶の泣き所を蹴られることになり、痛いことに変わりなかった。
「お兄様?」
「ほっときなさいな」
ノルベルトは、余計なことをすると仕返しが半端ないとやっと学習したのは、この後くらいからだった。
そんな事があった後で、いつ振りになるかわからないが、サンマルティーニ伯爵である父が家にいた。その横に母もいた。
(2人が並んでいるの何年振りだろ)
アンジェラは、見慣れない男性がいて、ステファニアに誰かと聞いていたのをノルベルトや執事、メイドたちも聞こえていて、笑いそうになった。だが、ステファニアは笑うことができなかった。そんなことせずに父親だと答えた。
物凄く答えたくなかったが、父なのに変わりはない。物凄く嫌そうに言ったのに気づかれることはなかった。
(……アンジェラが覚えてないのも無理ないわよね。アンジェラが生まれてから、愛人のところに帰るようになってしまっているのだもの)
そう、アンジェラが生まれてから母が末っ子に構うようになり、ふてくされている父をステファニアは覚えていた。
子供たちより子供な父を凄い目で見たのを覚えている。自分の面倒を見てくれなくなったことで、愛人は逃すまいと父を構い倒すようになったようだ。
いずれ、自分がサンマルティーニ伯爵夫人になれると思っているのかも知れない。その愛人にステファニアは会ったことがある。
(街で、偶然を装って会いに来たのは、気持ち悪かったけど。あの一度っきりだったから、もう顔も覚えてないな)
兄に誰かと聞いて、父の愛人だと聞いたことがある。そう、ステファニアも兄に聞いたことがあった。その時の兄は、オブラートに包むなんてことをしなかった。
「……」
「ステファニア。私をそんな目で見るな。私は、あぁはならない」
「いえ、そっちの心配じゃなくて、妹に伝えるのに優しさが何もないのにマジかって思っただけです」
「巻き添えもいいところだな」
ステファニアの反応にノルベルトは正解は?と聞いてきたが、面倒くさくてスルーした。
まぁ、そんな昔のことはどうでもいい。今は、目の前のことだ。
若作りした格好をしている父の姿に目がいったが、ステファニアはそれもスルーした。なんか、明らかに地毛ではないのが頭に乗っているけど、それも見ないことにした。
無駄に両親が、にこにことしているのに嫌な予感しかしなかった。
そしたら、思いもしなかったことを言われた。
「婚約……?」
「そうだ。相手は、王太子だ」
「……」
婚約の話が来ていると父は伝えに来たようだ。ステファニアとアンジェラは、それに首を傾げたくなった。
母の反応から、アンジェラにきているのだろう。すっかり浮かれきっている。
父は、そんな妻に何も言わなかった。娘が王太子の婚約者になったのは、父も嬉しいから、何も言うことがないようだ。
(その知らせのためにここに来たのね)
「ステファニア。流石だな」
「へ?」
「は?」
父のその言葉に間抜けな声が出たのは、ステファニアだ。
不機嫌な声を発したのは、母だった。
アンジェラはホッとしていた。ノルベルトは嘘だろ!?と言う顔をしていたが慌てて、その顔を隠して妹を見た。
また、何かしらされたら困ると思ったようだが、そんな余裕はステファニアにはなかった。
「なんだ?」
「あなた、今、なんて?」
「? 流石だな」
「その前よ。何で、この子の名前を言うの?!」
この子。母に名前を呼ばれたことは、滅多にないが、この子とは他人行儀すぎる。
(娘にそれは、どうなのよ。まぁ、呼ばれたくないからいいけど)
だが、ステファニアという名前で呼んでほしいわけではない。ましてや、王太子との婚約うんねんは、自分ではないと思っていたから黙っていた。
「婚約の話が来ているのは、ステファニアだからに決まっているだろ」
「っ、そんなわけないわ! アンジェラに決まっているのに。あなた、聞き間違えたのよ」
「聞いたのではなくて書面で来てる」
母は、それをかっぱらうと手紙を読んだ。そして、あろうことか。その手紙を思いっきりビリビリに破いた。
「「「っ!?」」」
それを見ていた執事やメイドも、ぎょっとしていた。
「な、何をするんだ!?」
(いいぞ! もっとやれ!!)
内心で、ステファニアはそんな事を思っていたが、声には出さなかった。
「間違えているからよ。こんなに可愛いのに選ばれないわけがないわ。わざわざ可愛くない方をえらぶなんて、あり得ないわ!」
(その言い方はないでしょ)
ステファニアは、そんなことを思ったが、横で兄が笑っていたから足を思いっきり踏んでやった。
母の奇行が、そこから更に悪化していくとは思わなかった。
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