可愛い妹を母は溺愛して、私のことを嫌っていたはずなのに王太子と婚約が決まった途端、その溺愛が私に向くとは思いませんでした

珠宮さくら

文字の大きさ
3 / 10

しおりを挟む

学園に通うようになっても、母は朝からアンジェラの髪型を自ら決めずにいられないようで、必ず仕上げとばかりにリボンをつけようとした。

髪型は、流行りのものではない。はっきりと言えばダサい。古臭いとすら言える。今は、こんな髪型も、ましてやリボンも付けることもしない。

それを母は知らないようだ。ずっと引きこもっているから、知らないのだろう。

学園に通うようになって、ダサいとわかったアンジェラはこの髪型をやめてほしいと内心で思うようになったが、何も言わずにいた。


「ふふっ、アンジェラはやっぱり可愛いわ」
「……」


アンジェラは、それに答えたことはない。母は、娘が何も答えないことに何の疑問も持っていない。

そもそも、アンジェラがどう思っているかなんて母には関係ない。答えたところで、覆されるのだ。母の中の答え以外は、許されない。

外を見るようになって、アンジェラはこの時間が苦痛となっていた。これまでと同じはずなのに。これまで、どう我慢していたのかが分からなくなり始めていた。

学園が始まっても朝のそれは、変わることはない。でも、これをやり過ごせばいいとばかりに好きにさせていた。

学園につく前にリボンは取る。本当は髪型も変えたいが、元に戻せないため、リボンだけを取ることにした。


「ふふっ、そろそろね」
「?」


その日、母がいつもと違うことを口にした。アンジェラは、何を言いたいのだろうと思ったが、聞くことはなかった。

でも、何か引っかかりを覚えたまま、馬車に乗った。


「アンジェラ? どうかした?」
「……いえ、母がいつもと違っていたので」


何やら物思いにふけっているのに気づいてステファニアが尋ねた。


「変なものでも食べたか?」
「お兄様。私を見ながら、そんなこと言わないで」
「いや、でも、お前、っ、」
「ん?」


兄の脇腹をステファニアは思いっきり抓った。余計なことしか言わない兄を黙らせるのに力加減などする気はなかった。


「お兄様……?」
「ほっといても大丈夫よ。それより、どう違っていたの?」
「そろそろって、言ったんです」


アンジェラの言葉にステファニアは眉を顰めた。母のそろそろなんて言うのは、どう考えても不穏だ。

何か始まりそうな言い方に怪訝な顔をせずにはいられなかった。


「お兄様。そろそろって、何か思いつきますか?」
「……」
「お兄様」
「いや、思いつかない」


ステファニアは、役に立たないなと言わんばかりの顔をしたが、アンジェラはそんな顔をしなかった。

でも、そろそろの意味が、婚約者に関連付けることになるとは思いもしなかった。

ノルベルトは、この日からステファニアの横に座るのを嫌がるようになった。余計なことを言っても抓られないと思って安心して、ステファニアにニタァ~と笑っていた。


「……」


それを見てステファニアは……。


(急所をわかってないわよね)


今度は弁慶の泣き所を蹴られることになり、痛いことに変わりなかった。


「お兄様?」
「ほっときなさいな」


ノルベルトは、余計なことをすると仕返しが半端ないとやっと学習したのは、この後くらいからだった。

そんな事があった後で、いつ振りになるかわからないが、サンマルティーニ伯爵である父が家にいた。その横に母もいた。


(2人が並んでいるの何年振りだろ)


アンジェラは、見慣れない男性がいて、ステファニアに誰かと聞いていたのをノルベルトや執事、メイドたちも聞こえていて、笑いそうになった。だが、ステファニアは笑うことができなかった。そんなことせずに父親だと答えた。

物凄く答えたくなかったが、父なのに変わりはない。物凄く嫌そうに言ったのに気づかれることはなかった。


(……アンジェラが覚えてないのも無理ないわよね。アンジェラが生まれてから、愛人のところに帰るようになってしまっているのだもの)


そう、アンジェラが生まれてから母が末っ子に構うようになり、ふてくされている父をステファニアは覚えていた。

子供たちより子供な父を凄い目で見たのを覚えている。自分の面倒を見てくれなくなったことで、愛人は逃すまいと父を構い倒すようになったようだ。

いずれ、自分がサンマルティーニ伯爵夫人になれると思っているのかも知れない。その愛人にステファニアは会ったことがある。


(街で、偶然を装って会いに来たのは、気持ち悪かったけど。あの一度っきりだったから、もう顔も覚えてないな)


兄に誰かと聞いて、父の愛人だと聞いたことがある。そう、ステファニアも兄に聞いたことがあった。その時の兄は、オブラートに包むなんてことをしなかった。


「……」
「ステファニア。私をそんな目で見るな。私は、あぁはならない」
「いえ、そっちの心配じゃなくて、妹に伝えるのに優しさが何もないのにマジかって思っただけです」
「巻き添えもいいところだな」


ステファニアの反応にノルベルトは正解は?と聞いてきたが、面倒くさくてスルーした。

まぁ、そんな昔のことはどうでもいい。今は、目の前のことだ。

若作りした格好をしている父の姿に目がいったが、ステファニアはそれもスルーした。なんか、明らかに地毛ではないのが頭に乗っているけど、それも見ないことにした。

無駄に両親が、にこにことしているのに嫌な予感しかしなかった。

そしたら、思いもしなかったことを言われた。


「婚約……?」
「そうだ。相手は、王太子だ」
「……」


婚約の話が来ていると父は伝えに来たようだ。ステファニアとアンジェラは、それに首を傾げたくなった。

母の反応から、アンジェラにきているのだろう。すっかり浮かれきっている。

父は、そんな妻に何も言わなかった。娘が王太子の婚約者になったのは、父も嬉しいから、何も言うことがないようだ。


(その知らせのためにここに来たのね)


「ステファニア。流石だな」
「へ?」
「は?」


父のその言葉に間抜けな声が出たのは、ステファニアだ。

不機嫌な声を発したのは、母だった。

アンジェラはホッとしていた。ノルベルトは嘘だろ!?と言う顔をしていたが慌てて、その顔を隠して妹を見た。

また、何かしらされたら困ると思ったようだが、そんな余裕はステファニアにはなかった。


「なんだ?」
「あなた、今、なんて?」
「? 流石だな」
「その前よ。何で、この子の名前を言うの?!」


この子。母に名前を呼ばれたことは、滅多にないが、この子とは他人行儀すぎる。


(娘にそれは、どうなのよ。まぁ、呼ばれたくないからいいけど)


だが、ステファニアという名前で呼んでほしいわけではない。ましてや、王太子との婚約うんねんは、自分ではないと思っていたから黙っていた。


「婚約の話が来ているのは、ステファニアだからに決まっているだろ」
「っ、そんなわけないわ! アンジェラに決まっているのに。あなた、聞き間違えたのよ」
「聞いたのではなくて書面で来てる」


母は、それをかっぱらうと手紙を読んだ。そして、あろうことか。その手紙を思いっきりビリビリに破いた。


「「「っ!?」」」


それを見ていた執事やメイドも、ぎょっとしていた。


「な、何をするんだ!?」


(いいぞ! もっとやれ!!)


内心で、ステファニアはそんな事を思っていたが、声には出さなかった。


「間違えているからよ。こんなに可愛いのに選ばれないわけがないわ。わざわざ可愛くない方をえらぶなんて、あり得ないわ!」


(その言い方はないでしょ)


ステファニアは、そんなことを思ったが、横で兄が笑っていたから足を思いっきり踏んでやった。

母の奇行が、そこから更に悪化していくとは思わなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹ばかりを贔屓し溺愛する婚約者にウンザリなので、わたしも辺境の大公様と婚約しちゃいます

新世界のウサギさん
恋愛
わたし、リエナは今日婚約者であるローウェンとデートをする予定だった。 ところが、いつになっても彼が現れる気配は無く、待ちぼうけを喰らう羽目になる。 「私はレイナが好きなんだ!」 それなりの誠実さが売りだった彼は突如としてわたしを捨て、妹のレイナにぞっこんになっていく。 こうなったら仕方ないので、わたしも前から繋がりがあった大公様と付き合うことにします!

皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~

桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」 ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言? ◆本編◆ 婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。 物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。 そして攻略者達の後日談の三部作です。 ◆番外編◆ 番外編を随時更新しています。 全てタイトルの人物が主役となっています。 ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。 なろう様にも掲載中です。

婚約者を友人に奪われて~婚約破棄後の公爵令嬢~

tartan321
恋愛
成績優秀な公爵令嬢ソフィアは、婚約相手である王子のカリエスの面倒を見ていた。 ある日、級友であるリリーがソフィアの元を訪れて……。

母が病気で亡くなり父と継母と義姉に虐げられる。幼馴染の王子に溺愛され結婚相手に選ばれたら家族の態度が変わった。

佐藤 美奈
恋愛
最愛の母モニカかが病気で生涯を終える。娘の公爵令嬢アイシャは母との約束を守り、あたたかい思いやりの心を持つ子に育った。 そんな中、父ジェラールが再婚する。継母のバーバラは美しい顔をしていますが性格は悪く、娘のルージュも見た目は可愛いですが性格はひどいものでした。 バーバラと義姉は意地のわるそうな薄笑いを浮かべて、アイシャを虐げるようになる。肉親の父も助けてくれなくて実子のアイシャに冷たい視線を向け始める。 逆に継母の連れ子には甘い顔を見せて溺愛ぶりは常軌を逸していた。

妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます

tartan321
恋愛
最後の結末は?????? 本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。

お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!

奏音 美都
恋愛
 まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。 「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」  国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?  国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。 「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」  え……私、貴方の妹になるんですけど?  どこから突っ込んでいいのか分かんない。

【完結】大好きな彼が妹と結婚する……と思ったら?

江崎美彩
恋愛
誰にでも愛される可愛い妹としっかり者の姉である私。 大好きな従兄弟と人気のカフェに並んでいたら、いつも通り気ままに振る舞う妹の後ろ姿を見ながら彼が「結婚したいと思ってる」って呟いて…… さっくり読める短編です。 異世界もののつもりで書いてますが、あまり異世界感はありません。

(完結)妹の身代わりの私

青空一夏
恋愛
妹の身代わりで嫁いだ私の物語。 ゆるふわ設定のご都合主義。

処理中です...