可愛い妹を母は溺愛して、私のことを嫌っていたはずなのに王太子と婚約が決まった途端、その溺愛が私に向くとは思いませんでした

珠宮さくら

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そんなこんなで、アンジェラとは夜になれば姉妹の時間を過ごせていた。

最初の頃は浮かれすぎて夜中まで起きてしまって、寝不足で目の下のクマが酷すぎて、母にバレるのではないかとヒヤヒヤ周りがしていたが、バレることはなかった。

母に着せ替え人形のように扱われて、何か言っても母の思惑と違うと訂正されるため、話さなくなっていたが、ステファニアには話をしてくれるようになった。

アンジェラの宝物は、ステファニアの部屋に置かれるようになった。アンジェラのところにあったら、母に捨てられるようだ。


(そんなことまでしていたの!?)


「お姉様のところに置いてもいい?」
「もちろんよ!」


アンジェラ専用の宝箱入れを速攻でプレゼントしたら、物凄く喜んでくれた。


(やっぱり、アンジェラは可愛いわ)


母が、あそこまでアンジェラに執着する理由はわからないが、可愛いのは確かだ。

何をしても、しなくても、アンジェラは可愛い。でも、だからといって、この家に閉じ込めたいとは思わない。


(どうして、外に連れ出すのも嫌がるんだか)


だから、ステファニアは街の話をよくした。買い物に出かけたこともないのだ。いくら可愛いからと言っても誘拐されることは……。


(誘拐されるかも)


「お姉様?」


街に行く時は誰かと一緒がいいと言うのをステファニアは忘れなかった。可愛いアンジェラを誘拐する輩がいそうだと思ってのことだ。

そんなことをしている間、母は変わることはなかった。

アンジェラが、ステファニアより一つ年下なこともあり、あっという間にアンジェラも学園に行くことになった。母は物凄く嫌そうな顔をしてステファニアとノルベルトとは別の馬車を用意しようとした。


(なんで、そこまでするのよ!?)


だが、それは兄が……。


「一緒の学園に行くのに別々で行くなんて、いらぬ憶測を生むだけでは? 変な評判が立ったら困るはずです」
「そうね。アンジェラの評判が下がるのは困るわ。仕方がないわ。アンジェラ、我慢してね?」
「……」


何をとは聞かずとも、母はステファニアを見ていた。

その目は、我慢する対象はステファニアだと言っていた。


(私と一緒にいるのをとことん嫌うのよね。……何で??)


確かに昔は、何を言われても妹と遊ぼうと躍起になっていた時はあった。……いや、成長しても、遊ぶことを目標にして、壁をぶち破ることに至ったが、姉妹で仲良くすることの何がいけないというのか。


(全くわからないわ。理解できることをしたことない人だけど。何でこんなことしているかが、そもそもわからないのよね)


それに比べて、学園に兄はともかく、ステファニアと行けることにアンジェラの目は輝いていた。


「……可愛いな」


ぽつりと呟く兄の声にステファニアは苦笑した。

兄は、父のこともあり、母の暴走をアンジェラが抑えていれば、それで良かった。妹には、ステファニアもいる。だから、ほとんど話したことのないアンジェラのことを他人のように一線ひいて見ていた。

そもそも、面倒ごとを自分からどうこうするのをしたくない人だ。それが、サンマルティーニ伯爵家の跡継ぎなのだ。そして、ステファニアたちの唯一の兄なのだ。


(無口でも、無愛想でも、妹たちのことを心から心配してくれる兄が良かったわ)


そんなことを思っていたが、未だに自覚の足りない兄をつっつくことにした。


「お兄様。アンジェラも、あなたの妹よ」
「……」
「私たち、家族でしょ?」
「……そうだな」


兄は、ステファニアの言葉にハッとした顔をした。末の妹は、母のもの。手出ししたら、面倒なことになると考えないようにしていた。これ以上の面倒は持ちたくなくて、見ぬふりをしていた。

それにステファニアはため息をつきたくなった。だが、それよりトドメを刺すことを言う人物が現れるとは、思いもしなかった。

長らく兄らしいことをしていなかったせいで、アンジェラは……。


「ノルベルト様」
「ん?」


そんな呼び方をしたアンジェラにノルベルトは驚いた。ステファニアも同じく驚いたが、すぐに聞いた。


「アンジェラ。どうして、そんな他人行儀なの?」
「え? 他人ですよね?」


アンジェラは、そんなことを言った。その目は、本当にそう思っている。


(うわっ、致命的ね)


ステファニアは、笑いそうになってしまった。


「っ!?」
「あー、アンジェラ。私たちのお兄様よ」
「え?」


アンジェラは驚いた顔をした。それも、物凄く。


(なんで、そんな顔をするの??)


「アンジェラ?」
「……お姉様のことしか、聞いたことなくて」
「あの人、お兄様のこと話したことないの?」


アンジェラは、こくりと頷いた。それにステファニアは、目をパチクリさせた。

そういえば、嫌悪されるのはステファニアばかりで、そこにノルベルトのことは出てきたことがなかった。母が名前を呼ぶのも見たことがない。

構われすぎるのと。嫌悪されるのと。全く無視される者。まるで、兄だけ母の中に存在していないかのようにしていた。

ステファニアが生まれる前までをステファニアは知らないが、ノルベルトはそれでトラウマを持っているようには見えない。


(そういえば、アンジェラとお兄様の話をしたことなかったかも)


ステファニアは、お喋りの話題に兄をいれたことがないのを思い出した。


「えっと、じゃあ、何で家にいると思っていたの?」
「おい、ステファニア」


これ以上は、耐えられないかのようにノルベルトは止めたが、気になってしまったステファニアは尋ねていた。


「お姉様の婚約者だと思ってました」
「「……」」


その答えにステファニアとノルベルトは、遠い目をした。


(うわぁ、よりにもよって、私の婚約者だと思ってたのか)


選ぶことができるなら、絶対に選ばない。そう言葉にすることはなかった。


「あの、ごめんなさい」


アンジェラは、ずっと勘違いしていたのをしょんぼりとして謝罪するのにノルベルトは慌てた。


(……そんな姿、初めて見るわ)


ステファニアがやることなすことに医者を呼ぼうとする兄とは全然違っていた。

それを見て、半眼になってもアンジェラが兄もいるとわかって嬉しそうにしているのを見て、ステファニアはホッとしてもいた。


(お兄様のこと、嫌いなのかと思っていたけど、違って良かったわ。いないものと思っていたなら、仕方がないわよね)


ステファニアは、そんなことを内心で思っていたが、言葉にすることはなかった。

それだけ、アンジェラのために何もしなさすぎたのだ。それにノルベルトが気づいているようには見えないが、説明する気はステファニアにはなかった。


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