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しおりを挟むステファニアは、あれから母に王太子をどう誑かしたのかと言われた。
(誑かすって、何?)
誑かしたと思われていたのに最初、驚いてしまった。ステファニアだけではないはずだ。
そんなことを言う方が、どうかしている。しかも、さっきまで婚約したのを喜んでいたはずなのに。アンジェラでないというだけで、ガラッと変わる言葉と態度にわけがわからない。
だが、兄だけがそんなことできないだろうという顔をしていて、それに腹が立って、別の足を思いっきり踏んだ。ステファニアは悪くないはずだ。
(ムカつく)
ステファニアは、母に言いたいことを全部ぶちまけたくなるのをぐっと堪えた。兄に八つ当たりして、気持ちを鎮めるのに必死になっていた。
「誑かすも何も、今の王太子は可愛い令嬢は選ばないだろ」
そう言ったのは父だった。
それにみんな頷きそうになったが、1人わけがわからない顔をしていた。
「な、何でよ!?」
「お前、ずっと家に引きこもっていたから、知らないんだな。もっと外に出ろ。昔は違っただろ」
「そんなの関係ないでしょ!」
父は、昔は違っていたと言っていたが、ステファニアたちはこんな風になった母しか知らないため、それに物凄く驚いてしまった。
「可愛いだけの令嬢が、前王太子の婚約者になったせいで、王太子でいられなくなったんだ。同じような令嬢を選ぶわけがない」
「前の王太子??」
母は、この家からほとんど出ていないから本当に知らないのだろう。
そんな話をする者は誰もいない。食事の時に話題のことを和気藹々と話すこともない。母は、アンジェラと食事しても、他とは食事しないのだ。
1人で食べるのを当たり前のようにしていて、寂しくないのかと思ったが、母にとっての当たり前が、それだった。
まぁ、母が世間のことに疎いのは今のことに始まったことではない。
だが、学園で会ったことで、この国のほとんどが知っていることを知らず、古い情報しか知らないままの母に何とも言えない顔をした。
世間話に疎いステファニアですら知っている。
(あれは、酷かったわ。前王太子の側近たちまで誑し込んで、婚約破棄のラッシュになって、卒業式のはずなのに最低最悪な断罪になったのよね)
今の王太子となったのは、第2王子だ。しかも、第1王子と双子で見た目があまり似ていないのに第1王子の婚約者の令嬢は、よく間違えているのを見かけて、ステファニアは何かと助けた。
「クリストフォロ殿下」
そう、名前で呼ぶとようやく間違えていたと気づくような令嬢だった。
可愛いと言っているのはわずかだったが、彼女は自分ほど可愛い令嬢はいないと自負していた。そんなような令嬢だったから、わざわざ話しかけるなんてステファニアはしたことがなかった。
「なんだ。第2王子なら、そう言ってよ。こび売って損した」
「……」
そんなことを平然と言う令嬢だった。いや、ステファニアに言うのはいいが、クリストフォロにもしっかり聞かれていたのもお構いなしだった。
(あれは、酷かったわ。あんなのが可愛いなんて、侮辱もいいところだわ。本物の可愛さをしらなさすぎよね。私は、家に帰れば会えていたから知っていたけど)
まぁ、もう元令嬢になったが、多くの男性を誑かしたとして、勘当された。
(確か、男爵令嬢だったか。……そう、男爵令嬢なのに態度がやたらとデカかったのよね。元平民かと思っていたら、ずっと貴族だったと聞いて、それにびっくりしたけど)
親の連れ子で貴族になったと最初は思っていた。それは、ステファニアだけではなかったはずだ。
そんな彼女のやることなすことにドン引きしている者の方が多かったが、惚れた弱みとはあのことなのかと思うほど、それでも彼女がいいと今も元王太子や元側近たちは彼女のことを平民となっても追いかけ回しているとか。
見た目がいい人たちは、平民となっても気にすることはなかった。
(確かにあの方々は、可愛いものを追いかけていたっけ。見た目だけの可愛いさだったから、アンジェラには劣るけど。元婚約者の令嬢たちは、とんでもないのと婚約破棄になって、今はとっても幸せそうにしているのよね)
美人だったり、頭が良かったり、側近になるほどの子息の婚約者だったから、婚約が破棄となっても、すぐに新しい婚約者がみんなできていた。
以前より幸せそうにしているのを見て、周りは良かったと思っている。あんなのを追いかけ回す男性陣より、断然見る目がある。
そんなことを思っていたステファニアは、次の日から母に構われる立場に自分がなるとは思いもしなかった。
王太子と婚約する娘を構いたかったようだが、その理由は謎だった。
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