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しおりを挟むアンゼリカのことが呆気なく片付いたことで、余裕の生まれたシャーリーは、ダレイオスのことをあれやこれやと言われても、余裕で相手をしていられた。
するとジェレマイアが……。
「殿下が、普通に授業に出ているのは物凄く珍しいんだ」
「そうなんですか?」
「……」
「? 何か?」
じっとジェレマイアが、シャーリーを見つめてきて、シャーリーはその視線の意味がわからずに不思議そうにした。
「いや、何でもない」
「??」
ジェレマイアの留学が終わる頃に一足先に戻ることになった。王太子も連れて戻るはずが……。
「嫌だ」
「殿下」
「授業は、真面目に出ているだろ」
「そうですが」
「それに戻ったら、どうせ婚約しろとせっつかれるだけだ」
「……」
ジェレマイアは、それが一番嫌なんだなと思ってしまった。
「それに必要なことは、ここからでもしている。王太子としての務めは果たしている。父上が、許可した時期まではここにいる。父上が呼び戻すまでは、どこにも行かない。お前は、誰の側近だ?」
「殿下の側近です」
「なら、余計な声に耳を貸すな」
「はい」
そんなことをダレイオスは言った。それにジェレマイアは、そう答えるしかなかった。連れて戻るようにジェレマイアに急かしているのは王妃なのだ。
それすら把握している王太子に敵うわけがない。
「そんなことより、婚約者を連れて帰らないのか? 体調もだいぶいいのだろ?」
「暖かくなったら、来ることになっています」
「そうか。ロッドフォード公爵夫妻も楽しみだろうな」
そんな話をしていたことも、シャーリーたちは知ることもなく、ジェレマイアたちをオールポート侯爵家の面々とダレイオスが見送ることになった。
それを見て、ジェレマイアは……。
「……殿下。馴染み過ぎでは?」
「お前に言われたくない。さっさと帰れ」
それを見て、シャーリーとエイプリルは笑っていた。オールポート侯爵夫妻も、隣国の王太子のフレンドリーさに最初は戸惑っていたが、すっかり慣れていた。
「全く仕方がない方だ。エイプリル、殿下を頼む」
「ふふっ、それはシャーリーがしてくれます。私より、シャーリーと一緒の方が楽しそうですし」
「シャーリー嬢、殿下を……」
「お前は、私の保護者か。さっさと帰れ」
ダレイオスは、しっしっと犬を追い払うような仕草をした。ジェレマイアは、ため息まじりに馬車に乗り込んだ。
「はぁ、やっと行った」
そう言って伸びをしたのは、ダレイオスだった。やっと煩いのがいなくなったとばかりにしていた。
それを見てエイプリルはくすくすっと笑っていた。
シャーリーは、不思議な気分で見ていた。何とも言えない奇妙な感覚が、何を意味しているのかが、この時のシャーリーにはわからなかった。
でも、数日して、ダレイオスは顔色をなくした。
「殿下? どうされたんですか?」
「……った」
「え?」
聞き取れなくて、シャーリーは聞き返した。
「亡くなった」
「……」
たった、それだけの言葉だったが、シャーリーは誰のことなのかを聞かなくともわかってしまった。
「何があったのですか?」
「事故だ。事故にあったのを目撃して、助けようとして巻き込まれた」
「っ、」
「助けようとした子供は助かったそうだ。でも、その子供の両親は助からなかった」
それを聞いてシャーリーは姉が気がかりだった。すぐさま、シャーリーはオールポート侯爵家に戻ったが……。
「お姉様」
エイプリルは、知らせを聞いて静かに泣いていた。泣き喚くこともせず、手紙を抱きしめて大粒の涙を流していた。
姉の悲痛な涙にシャーリーは、エイプリルを抱きしめるしかできなかった。
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