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しおりを挟む(ジェレマイア視点)
王太子を残して帰国するのに心配もあったが側近となって数年になる。
出会った時の王太子は、私でも理解できない専門書を読んでいた。年下の王太子が、それを理解しているとは思えなくて、側近の前で見栄を張っているのだと思っていた。
「殿下。また、読んでおられるのですか?」
「……お前も、読むか?」
「面白いんですか?」
それを聞いた時、王太子はようやく本から顔をあげた。
「お前も、内容くらい知っているだろ?」
「は? いえ、私は……」
「この国の歴史を知らないのか?」
「それは知っていますが……」
「それが、異国語で書かれているだけだ」
「……なぜ、異国語で書かれているのを読んでいるんですか?」
王太子は、こう言った。
「この世界で書かれたこの国のことを読んでいるとその国で、どう思われているかがよくわかるだろ」
そう言って本を読むために視線を戻した。私は、それに感激をした。でも、次の言葉で複雑な気分になった。
「それ以上に退屈なだけだ」
「……」
そう、出会った頃から王太子は頭が良すぎて、同年代の者どころか。教師たちも、王太子にたじたじになることがあるらしく、そこから彼とまともに話すまで、勉強をどれほど頑張ったかわからない。
そんな幼少期から見ていたが、あんな風に自由気ままに行動する王太子が、年相応に楽しそうにしているのを初めて見た。
それを見て、あんなことを言われたら、連れ帰れるはずがない。問題は自分1人で戻ったことを知った王妃と王太子を追いかけ回している令嬢たちだ。上手く立ち回らないと両親にも迷惑をかけそうだと思っていたところで、馬車が停まった。
「どうした?」
「事故のようです」
「事故?」
まだ休憩するのは先になるはずが停まったことに不思議に思って御者に聞けば事故と聞いて、馬車を降りた。
そこで、まだ事故にあった馬車に人が乗っているとわかって駆け寄らないなんてできなかった。
「ジェレマイア様!」
「怪我人を安全なところに誘導しろ!」
御者にそう言って、自力で動ける者に移動するように言った。
崖崩れが起こって、巻き込まれた馬車を見つけた。助けようとして、二次被害にあった面々も多くいた。
そこで、見たことや思ったことをエイプリルに話したかった。きっと驚くはずだ。今の自分が驚いているように。
「エイプリル」
彼女が両親と並ぶ姿を見たかった。私の話だけで、婚約を許してくれた両親だ。絶対にエイプリルと直に会えば、意気投合するはずだ。
彼女を守ると決めて誓っていたのにその自分が泣かせることになったことが苦しくて仕方がなかった。
「エイプリル」
ジェレマイア様。
そう呼ばれた気がした。幻聴だろうが、彼女の声が聞こえた気がして最後に愛しい人の笑顔を思い出して微笑む自分がいた。
御者は、必死になってジェレマイアを探した。一縷の望みにかけて、でも助けることはできなかった。
「ジェレマイア様」
だが、崖崩れに巻き込まれたジェレマイアは恐怖に顔を歪めることはしていなかった。安らかで薄汚れていたが微笑んでいて、眠っているようにしか見えなかった。
その腕に抱きしめられている小さな何かが動くまで、御者は公爵子息の死を嘆き悲しんでいた。
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