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しおりを挟む王太子は、父親が呼び戻すまでいると言っていたがダレイオスのことを聞いて、すぐさま戻った。
エイプリルのことを気にしていたし、シャーリーのことも気にしていたが、頼りにしていた側近が亡くなって呑気に留学してはいられなかったのだろう。
そもそも、ダレイオスの頭の良さなら留学して来る必要もないほどだったが、ジェレマイアとその婚約者を見たくて来ていたのだ。
エイプリルは泣き続けていたが、葬儀に参列するために隣国に向かった。エイプリルの両親やシャーリーももちろん、隣国の葬儀に参列した。
だが、両親は長居できずにすぐに帰り、シャーリーだけが姉の側にいた。その時にロッドフォード公爵家の面々に会うことになった。ジェレマイアの両親だ。
「あなたが、エイプリルちゃんね。息子に聞いていた通りだわ」
ロッドフォード公爵夫人はエイプリルを見て、隣に自分の息子が並ぶ姿を見れなくて残念だと言った。
ロッドフォード公爵も悲痛な顔をしていたが、妻と一緒にエイプリルが泣く姿にいたたまれない顔をしていた。
シャーリーは、そっと離れようとしていたが、その時に小さな影が動いた。
「おかあさん」
「え?」
その時だった。エイプリルに抱きついたのは、小さな子供だった。
シャーリーは、姉のことを母と間違えているのに驚いていた。
「こら、駄目よ。申し訳ありません」
「この子は?」
ロッドフォード公爵家のメイドが慌てて引き離そうとしたが、幼い子供はエイプリルにしがみついて離れようとしなかった。まるで、母をやっと見つけたとばかりに必死になっていた。
「ジェレマイアが助けた子供よ」
「おかあさん」
「……」
どうやら、エイプリルがこの子の母親に似ていたようだ。
ジェレマイアも、それに気づいて親子を助けようとして、子供だけしか助けられず、自分も助からなかったようだ。
「……この子の家族は?」
「両親は、あの事故で亡くなって、頼りにしていた身寄りが、昨年亡くなっていたのを知らずに引っ越して来ようとしていたようだ」
エイプリルは母親と間違えたまま、安心したように眠る幼子にいたたまれない気持ちになった。
シャーリーも、姉と眠っている間に離されたいとしている必死さを感じずにはいられなかった。
「あいつが命をかけて助けた子供だ。我が家の養子にしようと思っている」
「……」
母と似ているエイプリルを見て安心しきって眠る幼子に何かできることはないかと思案し始めた。
婚約者が亡くなったと聞いてから泣き続けていたエイプリルは、それから泣くことはなかった。
その子を養子にしたのは、エイプリルだった。その子の母親になると決めたのだ。
ロッドフォード公爵夫妻も、エイプリルの家族も一大決心をしたエイプリルを心配した。だが、子供がおかあさんだけど、おかあさんじゃないと理解していて、それでもエイプリルと一緒にいたいと言うのを見ていて、引き剥がすことなど誰もできなかった。
シャーリーもサポートすることにして、一緒に帰ることに反対するどころか。戻ってから両親を説得するのに味方する気でいた。
「また、あそびにきていい?」
「もちろんよ」
ロッドフォード公爵夫人は、孫のように可愛がっていた。どうやら、幼い頃のジェレマイアにも似ているようだ。
「本当に孫ができたみたいだわ」
「そうだな」
エイプリルと手を繋いで楽しげに歩く姿を見て微笑ましそうにしていた。
シャーリーも、姉が元気になった姿に笑顔になっていて、ロッドフォード公爵夫妻も笑顔で見送ってくれた。
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