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しおりを挟む「妹が、間違えてたから相手をしていたのよ」
「……」
学園では、アミーリアは自分がやらかしたことをオーガスタのせいにしようとして必死になっていたようだ。
姉の声が聞こえて来て、何を言っているんだとオーガスタは思わず、呆れた顔をすぐにしてしまった。
多分、顔は凄い顔をしていたはずだ。すぐにその顔も、上手く隠せたはずだ。……そう思いたい。プレストン侯爵令嬢として、まずい顔を晒せない。
どうやら婚約者ができたとアミーリアは周りに既に言って回っていたようだ。オーガスタは、婚約したと聞いても、そんなことをわざわざしなかった。というか、したくなかった。
あの調子で、姉とばかりいるようなのが、婚約者だと言いたくなかったのだ。そのため、オーガスタが婚約していることを殆ど知られていない。
それこそ、バージルの方もアミーリアが婚約者のようにしているから、よく知らない人たちはバージルがアミーリアの婚約者だと思っていたようだ。
そんなことをしておいて、誤魔化すのに妹を引き合いに出して、どうにかしようとしていたようだ。かなり無理があると思うが、アミーリアは頑張っていた。
いや、無理しかない。だって、子息の方も勘違いしているのだ。あの子息は、どちらの婚約者でもないのだ。そんなのが、入り浸っていたのをそんなことで誤魔化せるはずがない。
むしろ、言えば言うほど、墓穴を掘っていくだけだ。
「そうなの?」
アミーリアの話を聞いていた令嬢たちが、オーガスタを見た。通り過ぎてしまっていたら、話しかけられなかったのだろうが、オーガスタは立ち止まってしまったため、つかまってしまった。
姉は、妹に余計なこと言うなとばかりに睨んでいたが、そんなものオーガスタは怖くなかった。
「いいえ。姉さんが自分の婚約者だと思って一緒にいただけよ。私が挨拶すると子息の方がそそくさといなくなっていたから、会話なんて対してしたことなかったわ」
「っ、そんなことは」
オーガスタは、負けじとそう返した。オーガスタとて間違えていたとは言わなかった。
アミーリアは、ギャーギャーと騒いでいたが、周りの令嬢たちは……。
「でも、私たちも、あなたの口から婚約者ができたって聞いたのだけど?」
「っ、」
「そうよ。それを妹さんのせいにするのって、無理があると思うのだけど。婚約したのよね?」
「それは、その……」
何も言わずにいればよかったものをオーガスタのせいにしようとして、とんでもないことになっていた。
オーガスタは、そんな姉を助ける気にはならなかった。
そこに噂になっているバージルがやって来た。タイミングがいいのか、悪いのか。
オーガスタは、よく知らないがアミーリアがいるところによく現れてはまじっていたようだ。そんなことも、オーガスタは知らなかった。
「なんだ? 随分と楽しそうだな」
そんなことを言いながら、足を止めたバージルに令嬢たちは目配せしあった。その目には面白がっているのが、透けて見えた。
オーガスタたち姉妹は、そこに参加しなかった。特に姉の方は、身体を小さくさせていた。
そもそも、オーガスタはバージルを探していたのだ。それなのに姉は、バージルに確認を取る前に別のことに必死になりすぎていたようだ。
そこにアミーリアは今更ながら気づいたような顔をしていた。それにオーガスタは、ため息をつきたくなった。そこまでして、妹のせいにすることはないではないか。
何だったら、勘違いしている子息のせいにすればいいのに。
オーガスタは、内心でそんなことを思っていた。姉よりマシなのか。姉より酷いのかは別として。オーガスタは、この子息が好きになれないのだ。
「バージル様、いつもアミーリア様と楽しそうになさっておられましたよね?」
「ん? あぁ、そうだな。婚約者だからな」
「っ、」
バージルは、未だに婚約者だと思っているようだ。どうにも、オーガスタには彼が嘘をついて騙しているようには見えなかった。
騙すなら、姉妹くらいまでにとどめておくはずだ。学園で、そんなことを言えば面倒なことになるだけだ。
アミーリアが嘘つきだと言う前に素朴な疑問を投げかけた令嬢がいた。オーガスタではなかった。
「あの、それ、誰からお聞きになられたのですか?」
「ん? 両親だが?」
「「「「……」」」」
それを聞いて原因は、彼の両親かとそこにいる者たち全員がそう思ってしまった。
オーガスタたちですら、両親からそう聞いたのならばと思ってしまった。つい最近、オーガスタが父にしたつもりだと思われたのをアミーリアも聞いていたのも大きかった。
オーガスタとアミーリアは、目配せした。それは、久々にした気がする。でも、久々であろうともお互いが何を言いたいかはすぐにわかった。姉妹とは不思議なものだ。
彼は両親にそう言われたからこそ、こんなに堂々としていられるのだと思った。そうでなければ、狼狽えるはずだ。そこに嘘はない。そう思った。
「どうした?」
こんな時は、空気が読めるようだ。オーガスタは、この子息は空気が全く読めないと思っていたが、バージルでも気づくほどだったのだろう。
いや、彼の場合、オーガスタに対して邪魔ばかりする存在としか見ていなかっただけかも知れない。彼からすれば、婚約者といるのを邪魔ばかりする妹でしかないのだ。
そう考えるとオーガスタは、何とも言えない顔をしたくなったが、今はそんなことより探していた目的を果たさなければならない。
本当は、ひっそりと聞きたかったが仕方がない。ここでしなければ、永遠にできそうもない。どうせなら、姉だけでなく、この場の令嬢を巻き込んでしまうと思った。
「あの、私たちの両親は、私があなたのお兄様と婚約していると言っているのですが……」
「は? 何だ。それ、そっちの勘違いだろ」
「「……」」
オーガスタたち姉妹は、あまりにも堂々としているため、顔を思わず見合わせてしまった。
こんなに堂々としているのに間違えているなんてことがあるのだろうかと思い始めていた。流石に姉ですら、ここまでではなかった。
周りの令嬢たちも、そんな風に捉えたようだ。何やら、ひそひそと話している。それにオーガスタは気づいたが、それよりも別のことが気になった。
あの調子の父だ。間違えていそうなのは、父のような気がしたのだ。多分、それは姉も同じだったはずだ。
だが、父でも母が側にいた時にまで失敗をするだろうか? 母が聞いていたのにそんなことを言っていないなんて言えないのだ。そういう失敗をするとは姉妹揃って思えなかった。
だから、更には確認することにした。
「あの、ご両親から、私と婚約していると言われたのですか?」
「ん? プレストン侯爵家の次女と婚約させたと聞いたが? 何なんだ?」
「は?」
「あの、次女と言うのは、私の方なのですが……」
「ん? いや、だが、君の方が学年が上だろ?」
オーガスタは、次女と婚約したと言われたのに姉の方と一緒にいた理由が、学年が上だと知っていたからだったようだ。
アミーリアは、凄い顔をしている。オーガスタは説明するのが面倒になってしまった。今は、そんな話をわざわざしたくなかった。
ただ、目の前の子息が更に嫌いだと思っただけだった。
「オーガスタ様は、飛び級なさっておられますから」
「えぇ、お姉さんの方は、普通なだけですものね」
「っ、」
アミーリアは、普通なだけなのにこんなところで、先程以上の恥をかいた気分だったことだろう。
もっとも、オーガスタが飛び級しているのは、この学園では有名なことだ。それをこの子息は学年だけで、オーガスタのことをずっと姉だと思っていたようだ。
なんか、堂々として見えたのが、段々とボロが見え始めていた。そう、堂々としているだけで、中身は大したことない。
「は? なら、私の婚約者は、君だったのか?」
「その辺、ややこしいことになっているようなので、バージル様の方ももう一度確認してもらえませんか?」
「……そうだな。それにしても、妹より頭が悪いとは残念だな」
「っ、!?」
アミーリアは、バージルにそんなことを言われ、残念なものを見る目をされていた。
それを聞いて、他の令嬢たちは肩を震わせていた。あれは、笑っているのだろう。
オーガスタは笑う気分にならなかった。頭に血がのぼっている姉が暴れる前に回収して、家に帰ることにした。
他の令嬢たちが、おかしそうにしているのなんてオーガスタは耳にも目にも止まらなかった。
だって、姉はそんな令嬢たちより成績はいいのだ。飛び級までいかずとも、同年齢の令嬢たちよりも頭はいいのだ。
それを秀でた妹がいるから、その差ばかりを笑いものにしているが、実際はあなたたちは、そんな姉より更にずっと下だとオーガスタは時折、笑っているのを耳にして言ってやりたいことがよく合った。
この時は、他のことで手一杯だったから言わずに離れたが、笑っている令嬢たちが笑っていない令嬢たちに馬鹿にされていることを知らないだけだ。
それこそ、アミーリアを笑いものにできる成績でもないのに笑っていると白けた目を向けられているのだ。それに彼女たちが気づくことは、しばらくなさそうだ。
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