歴史から消された皇女〜2人の皇女の願いが叶うまで終われない〜

珠宮さくら

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『隠された皇女』

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ハオランは、常連たちとも仲良くしていた。リーシーが、怪我を診てくれ、飯も美味いのと武官を目指しているのもあり、用心棒の真似事もし始めたことで、料理屋で睨まれることも減ったが、久々に睨まれて、何だと思って見れば、どっかの子息らしき若者がお付きの者といた。見かけない顔に怪訝な顔をした。

そんな雰囲気をぶち壊したのは、他の常連だった。


「こないだ、スリを捕まえたとか聞いたぜ。お手柄だったな」
「あぁ、たまたまだ」


リーシーは、それを聞いて、凄いですね!と目をキラキラさせて、ハオランを上目使いで見上げた。丁度、怪我の手当てをしているから、近いところで目が合い、ぷいっと横を向いたが、その耳は赤かった。


(スリって、現行犯じゃないとだめなのに捕まえられるなんて、流石だわ。私は、盗られそうになるとつい交わしちゃうけど。そういう隙もあったら、可愛げもあるのでしょうね)


ここで暮らしていれば、のほほんとしていられない。懐をかすめる者は、どうしたっている。

リーシーは、それを交わすようになり、スリから面白がられて絡まれたこともあったが、今はそんな連中とも仲良しだ。

彼らがカモにするのは、金持ちだ。金がそんなにない奴は狙わない。

なのにリーシーの財布を狙ったのは……。


「お近づきになりたくて、やるの?」
「……」
「もしかして、これ、落ちてましたよって言って、“ありがとうございます”って、笑ってもらうため?」
「……っかい」
「え?」
「今のもっかいやってくれ」
「……」


あの時ほど、思わず虫けらを見るような目をしたことはない。


(それにすら喜んでたけど、ちゃんとした仕事に付けばいいのに)


器用なことに中身をちょっとくすねて戻したりしている。だから、ハオランが捕まえたのは、変態ではない。

もはや、リーシーに変態と呼ばれても嬉しそうにしているせいで、名前を覚えてすらいない。

そんなことをあれこれ考えながらも、手当てはした。ハオランと間近で見ても何とも思わなかった。

リーシーは、そんなことを思っていたせいもある。もとより、間近で見つめ合っても、それだけだ。目が合ったから、何だというのか。初すぎる。


「よし、終わりました」
「いつも、すまん」
「いいんですよ」


にっこりとリーシーは微笑んだ。薬箱の中身をもとに戻した。

するとまたも常連が、ハオランに話しかけた。


「そういや、ここで無銭飲食してる奴がいるんですよ」
「は?」
「違いますよ。あの人は、出世払いです」


リーシーは、薬箱を持って戻ろうとした。ムッとした顔をして、そう言ったのはとても珍しいことだった。


「そんなこと言って、払う気なんかあるわけないよ」
「なら、私が騙されただけですら、働いて出します」
「そんなのあんまりだ」
「私は、信じてます。本人が払うと言っているんです。悪く言わないであげてください」
「「「「……」」」」


リーシーの言葉にみんなが黙った。いつもの雰囲気と違い、有無を言わせない雰囲気があった。


(私が、あの人と話したことを勝手に無理だなんて取られたくない。関係ないのに)


何なら気まずい雰囲気となったが……。


「リーシー。できたぞ」
「はーい」


料理ができたと声を掛ける店主の声にリーシーの張り詰めていた雰囲気が霧散した。


「びっくりした」
「怒らせちまったな」
「ジンリーさんとよく似てるぜ。女将さんも、怒ると笑顔で凄むんだよな」


ハオランは、あの雰囲気に飲まれた自分にびっくりした。虫も殺せないようでいて、この場を完全に支配した。


「お待たせしました」
「……なぁ」
「はい?」
「リーシーも、怒れるんだな」
「何ですか。人間ですから、喜怒哀楽くらいありますよ」


そう言いながら、へにゃっと笑った。あまりにも説得力のない顔をしていた。先ほどのが見間違いだった気すらしてきた。


「同じこと言うんですね」
「?」
「あなたのお兄様も、同じこと言ってましたよ」
「は?」


ハオランは、なぜそこで兄が出てくるのかと思って聞き返そうとしたところだった。


「リーシーねぇちゃん!」
「お帰り。お使い終わった?」
「うん!」
「ありがとう。持ってくるから、裏のいつものとこにいてね」
「ねぇちゃん、あの」
「多めに頼んどくからね。みんなで、裏にいてね」
「っ、ありがとう!」


リーシーは、浮浪児に弁当箱を回収させていた。届ける時は身なりのいい子を回収する時は、身なりまでは整えられない子供。

今日は、数人で回ったらしく、自分たちの身なりを気にして、店の迷惑にならないように遠慮して入るに入れない子供たちが、心配そうにしていたのをリーシーは、気づいていた。


(あの子は、同じ境遇の子を見つけるのが上手いのよね)


回収する時に駄賃をくれる者もいる。それは、届けた時にもくれたりするのは、リーシーが面倒を見ているのを知っているからだ。

金を渡すと親が巻き上げる。だから、食べ物を店の裏で座るところを作って食べさせていた。


「……また増えたな」
「ろくに飯食わせない親が、ここでただ飯食わせてもらえって言うらしいぜ」
「は?」
「でも、子供の方が立派で、働いた駄賃で食わせてもらってんだ」
「……」
「その分をリーシーちゃんが、仕立てもんの仕事してこの店に払ってんだよ」
「そんなの……」
「おかしいだろ!」


奥で、小腹が空いたと食べていた身なりからして、坊っちゃんが声を荒げて立ち上がった。


「だったら、あんたが代わりに払ってやりゃいい」
「リーシーちゃんが受け取るとは思えないがね」
「手を出したら、最後まで面倒みるもんだそうだよ。あたしらの金も受け取ってくれないんだ。まだ、ちゃんとしてないから。中途半端で始めた自分が悪いって言ってさ」
「……」


そんなところに料理を運び終えたリーシーが戻って来て首を傾げた。


「どうしたの?」
「何で、金をもらわないんだ!」
「? あ、お会計ですか?」
「違う!」
「??」
「若様、それではわからないかと」
「っ、」


感情的な言い方にリーシーは、きょとんとした。主語がなくて、支払いをするのにいなかったことに腹を立てているのかと思ったが違うらしい。


(まぁ、何の話をしていたかはわからなくないこど。聞こえてなかったんだもの。とぼけてもいいわよね)


「さっきの子供たちの分をお前だけで、どうにかするのは無理が出て来るだろ」


ハオランの声にリーシーは……。


「もしかして、お兄様と話しました?」


それを聞いて、ハオランは思いっきり眉を顰めた。


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