45 / 50
『隠された皇女』
21
しおりを挟む皇城の外からは、リーシーを呼ぶ声がし始めた。リーシーが、ここに来たとわかって集まってきたようだ。
中には、皇女様と呼ぶ声もし始めていた。
「私が、私たちが幸せになることを望んでくれる?」
「もちろんだ!」
ハオランの言葉に兄と父親が頷いた。そこにジュンユーもいた。
「当たり前だ。あなたは、もう1人の私の大事な妹皇女だ」
「「「「「「っ!?」」」」」」
皇太子の言葉にみんなが驚いた。
リーシーは、それにあまり興味ない顔をしていた。
「な、何を言うんだ!」
「皇太子殿下。それは、本当なのですか?」
「本当だ。調べた。ジンリー側妃が産んだ。同じ日に生まれた双子のような皇女だ。そして、我々が待ち望んだ皇女は、彼女だ」
それに息をのんだ。そこにジンリーが夫と共にやって来た。ジンリーを片腕に抱いて現れた姿は、凄い絵面だった。
何人かは、ジンリーが誰だかわかった。やはり、リーシーは似ていると思っただけはあると内心で思っていた。
ただ皇帝は、名前も、顔を見てもわからなかった。
リーシーは、母を見て義父を見て、微笑んでいた。
「皇太子のおっしゃる皇女のお1人に間違いありません。なれど、訂正をお願いいたします。どちらも、待ち望んだ皇女様にございます」
「……」
「少なくとも私は、どちらの皇女様の幸せを願っております。だからこそ、あなたを後宮から連れ出した。争わせまいとしたからです。どちらかが、滅ぼした者として、あの歴史の改ざんによって命を落とすことにならないようにしたかっただけです。ですが、そのせいで、後宮に残ることになった皇女様が、このようなことになったのは、私のせいです。申し訳ございません」
「俺も、妻と同じく、皇女殿下、お2人の幸せを望んでおります。妻を罰するなら、私にも罰を」
「……あなたたちを罰することなどできません。私を守るために隠した。それに嘘はない。2人のおかげで、私はとても幸せでした」
「っ、もったいなきお言葉」
2人は膝をついて最敬礼をした。
「あなたの思うままになさってください」
「……」
「それで、お2人が幸せになれるのなら、それが私の幸せです」
「同じく、あなた方の幸せを願います。どうか、なさりたいようになさってください」
ジンリーと夫は、そう言った。
「……それで、この国が滅んでも良いと?」
「この国をあなた方は守り続けて来られた。誤解されようとも、それをやめようとはなさらない。私は、それで生き延びたいとは思いません。何より、皇女様たちの重荷になるのなら、ここで死にます」
「っ、!」
「ジンリー」
「申し訳ございません。ですが、本心です」
ハオランやその兄、それに皇太子やジュンユー、そこにいる多くの者たちがリーシーとディェリンに向かって最敬礼をして、思う通りにしていいと口を揃えた。
悔しそうに立ち尽くしていたのは、皇帝と護衛長のもう1人の子息だけだった。そんな皇帝たちに目もくれず、リーシーは花影の側に近づいた。
「あなたは、彼女の幸せを望んでくれる?」
花影は、ディェリンを抱きしめながら頷いた。力が抜けきって顔色の悪いディェリンは、それでも花影の服を離すまいとしていた。
「私との約束を守ろうとして、この国を守るためにも自分のことを閉じ込めてしまった。代わり映えのしない世界で、生き続けることになっても、彼女の側にいてくれる?」
「彼女の側にいられるのなら、何でもします。どうか、彼女を助けてください。彼女は、ずっと認められようと頑張っておられました。誰よりも、みんなの期待に応えようとして、求められる皇女となろうとしていた。でも、本来の彼女は……」
そこまで言って花影は涙した。
「……ありがとう。あなただけよ。あなたへの想いに溢れている。ずっと側にいてほしいのにそれを断ち切ってまで、約束を守ろうとしてくれた。歴史から消された皇女となっても、この国を守ることをやめれば、私に負担がかかり過ぎてしまう。……あなただけ、ずっと幸せを願ってくれていた。心から礼を言います」
そう言ってリーシーは、花影に最敬礼をした。
「お母様、お義父様。今までありがとうございました。私も、彼女と同じものを選びます。ここまでして、守ろうとする国を滅ぼせない。それに彼女を見捨てられない。彼女の幸せを終わらせられない。……ごめんなさい。あなたたちに選ばれる者になれそうもない」
そう言ったリーシーは、最後にハオランとその兄を見て微笑んで目を閉じるとそのまま倒れた。
それは、すなわち自分の幸せよりも、ディェリンたちの幸せのためとこの国を守るために命を使うこと。リーシーが選んだ瞬間だった。
「「っ!?」」
ハオランとその兄は、すぐさま駆け寄ったが、リーシーの意識は既になかった。
その後ろで、ディェリンを抱えていた花影も倒れていた。
リーシーは、そのまま眠り続け、ディェリンと花影は眠るように息を引き取った。
こうして、ディェリンはお気に入りの花影と共に居続ける世界に囚われることになった。
それでも、ディェリンは、ずっとそこにいることを望むことはなかった。
それをしたら、リーシーの負担になることを知っていたからだ。だから、ずっと一緒にいることは望まなかった。
生まれ変わっても、お互いすれ違い続けて話すことも、現実世界ではできなかったが、何もかもを思い出した2人は束の間、はるか昔から変わることのない仲の良い姉妹のような関係を崩すことはなかった。
前世のディェリンも滅ぼしたくて、滅ぼそうとしたのではない。優しすぎてみんなの期待する皇女になろうとして、なれないことに失望されて悲しみのあまり暴走してしまい、守りの手がおろそかになってしまっただけなのだ。
それを前世のリーシーが、そんな彼女を救おうとして国をも救った姿を人々が誤解してしまっただけなのだ。
そもそも、ディェリンを1人で逝かせたくなかったのと彼女のせいで、国が滅んだと言われるのが嫌だったからにほかならない。
つまり、1人が犠牲になったのではない。2人が、犠牲になっているのだ。
それを最初から解釈違いで片方に思い入れのある者から見たせいで、歪んでしまったのは、2人の母親が物凄く仲が悪かったからだ。
歴史の登場人物の片方を消す、消さない以前の問題が、そこにあったことを誰も知らなかったのだ。
歴史を歪めて見ていたことと生まれ変わって、幸せになってほしいと言いながら、いざとなったらどうにかしてもらおうとしている面々が多かった。
そんな思惑に翻弄されることになった2人の皇女は、今回は片方が本当に想いを通わせる者と巡り会えたこともあり、それをリーシーがどうにかして叶えるためにその命を使うことにした。
でも、ディェリンたちにとっては幸せな終わりを迎えたことを知らない者が多いせいで、再び現実世界では後味の悪いものとなっていた。
30
あなたにおすすめの小説
破滅確定の悪役令嬢ですが、魅惑の女王になりました。
専業プウタ
恋愛
中学2年の時、告白をクラスで馬鹿にされたことにより不登校になった橘茉莉花。そんな彼女を両親が心配し、高校からは海外で寮暮らしをしていた。日本の大学に進学する為に帰国したが、通学途中にトラックに轢かれてしまう。目覚めるとスグラ王国のルシア・ミエーダ侯爵令嬢に憑依していた。茉莉花はここが乙女ゲーム『誘惑の悪女』の世界で、自分が攻略対象たちを惑わす悪女ルシアだと気が付く。引きこもり時代に茉莉花はゲームをやり込み、中でも堂々としていて男を惑わす程の色気を持つルシアに憧れていた。海外生活で精神は鍛えられたが、男性不信はなおらなかった。それでも、神様が自分を憧れの悪役令嬢にしてくれたことに感謝し、必死に任務を遂行しようとする。
置き去りにされた恋をもう一度
ともどーも
恋愛
「好きです。付き合ってください!」
大きな桜の木に花が咲き始めた頃、その木の下で、彼は真っ赤な顔をして告げてきた。
嬉しさに胸が熱くなり、なかなか返事ができなかった。その間、彼はまっすぐ緊張した面持ちで私を見ていた。そして、私が「はい」と答えると、お互い花が咲いたような笑顔で笑い合った。
中学校の卒業式の日だった……。
あ~……。くだらない。
脳味噌花畑の学生の恋愛ごっこだったわ。
全ての情熱を学生時代に置いてきた立花美咲(24)の前に、突然音信不通になった元カレ橘蓮(24)が現れた。
なぜ何も言わずに姿を消したのか。
蓮に起こったことを知り、美咲はあの頃に置き去りにした心を徐々に取り戻していく。
────────────────────
現時点でプロローグ+20話まで執筆ができていますが、まだ完結していません。
20話以降は不定期になると思います。
初の現代版の恋愛ストーリーなので、遅い執筆がさらに遅くなっていますが、必ず最後まで書き上げます!
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
【完結】触れた人の心の声が聞こえてしまう私は、王子様の恋人のフリをする事になったのですが甘々過ぎて困っています!
Rohdea
恋愛
──私は、何故か触れた人の心の声が聞こえる。
見た目だけは可愛い姉と比べられて来た伯爵家の次女、セシリナは、
幼い頃に自分が素手で触れた人の心の声が聞こえる事に気付く。
心の声を聞きたくなくて、常に手袋を装着し、最小限の人としか付き合ってこなかったセシリナは、
いつしか“薄気味悪い令嬢”と世間では呼ばれるようになっていた。
そんなある日、セシリナは渋々参加していたお茶会で、
この国の王子様……悪い噂が絶えない第二王子エリオスと偶然出会い、
つい彼の心の声を聞いてしまう。
偶然聞いてしまったエリオスの噂とは違う心の声に戸惑いつつも、
その場はどうにかやり過ごしたはずだったのに……
「うん。だからね、君に僕の恋人のフリをして欲しいんだよ」
なぜか後日、セシリナを訪ねて来たエリオスは、そんなとんでもないお願い事をして来た!
何やら色々と目的があるらしい王子様とそうして始まった仮の恋人関係だったけれど、
あれ? 何かがおかしい……
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~
吉武 止少
恋愛
ソフィアは小さい頃から孤独な生活を送ってきた。どれほど努力をしても妹ばかりが溺愛され、ないがしろにされる毎日。
ある日「修道院に入れ」と言われたソフィアはついに我慢の限界を迎え、実家を逃げ出す決意を固める。
幼い頃から精霊に愛されてきたソフィアは、祖母のような“精霊の御子”として監視下に置かれないよう身許を隠して王都へ向かう。
仕事を探す中で彼女が出会ったのは、卓越した剣技と鋭利な美貌によって『魔王』と恐れられる第二王子エルネストだった。
精霊に悪戯される体質のエルネストはそれが原因の不調に苦しんでいた。見かねたソフィアは自分がやったとバレないようこっそり精霊を追い払ってあげる。
ソフィアの正体に違和感を覚えたエルネストは監視の意味もかねて彼女に仕事を持ち掛ける。
侍女として雇われると思っていたのに、エルネストが意中の女性を射止めるための『練習相手』にされてしまう。
当て馬扱いかと思っていたが、恋人ごっこをしていくうちにお互いの距離がどんどん縮まっていってーー!?
本編は全42話。執筆を終えており、投稿予約も済ませています。完結保証。
+番外編があります。
11/17 HOTランキング女性向け第2位達成。
11/18~20 HOTランキング女性向け第1位達成。応援ありがとうございます。
出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~
白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。
父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。
財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。
それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。
「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」
覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!
【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする
冬馬亮
恋愛
出会いは、ブライトン公爵邸で行われたガーデンパーティ。それまで婚約者候補の顔合わせのパーティに、一度も顔を出さなかったエレアーナが出席したのが始まりで。
彼女のあまりの美しさに、王太子レオンハルトと宰相の一人息子ケインバッハが声をかけるも、恋愛に興味がないエレアーナの対応はとてもあっさりしていて。
優しくて清廉潔白でちょっと意地悪なところもあるレオンハルトと、真面目で正義感に溢れるロマンチストのケインバッハは、彼女の心を射止めるべく、正々堂々と頑張っていくのだが・・・。
王太子妃の座を狙う政敵が、エレアーナを狙って罠を仕掛ける。
忍びよる魔の手から、エレアーナを無事、守ることは出来るのか?
彼女の心を射止めるのは、レオンハルトか、それともケインバッハか?
お話は、のんびりゆったりペースで進みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる