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42:同期の疑惑
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「これ、北村じゃないか?」
誰かが呟いた。
航平は画面を凝視する。
大仏の絵が書かれた特徴的なTシャツは、奈良出身の北村が好んでよく着ていたものだ。
そして女の方。
椅子に置かれたピンク色のバッグは、あの日、鎌倉で北村の彼女が持っていたものと酷似している。清楚な服装にバッグだけが華やかだったので、印象に残っていた。
間違いない。
同期の北村昌人3佐だ。
「本当だ、北村だ」
「え、誰」
「ほら、整備屋で、横須賀から艦船武器課に異動してきて、2年目の」
「ああ、あの真面目そうな。マジかよ」
ざわつく課内に、航平は声を荒げた。
「静かにしろよ! 聞こえないだろ」
「十波3佐、落ち着いてください」
苦言を呈する堀内に返す余裕もない。
スタジオの葉梨は、いっそ冷たいとも取れるほど淡々と写真の説明をしている。
「この冊子の右上、拡大すると「注意」という文字が読めます。有馬記者、この表示は何でしょうか」
「はい、防衛省では情報レベルを複数の段階に分けていて、上から、特定防衛秘密、特定秘密、秘密とあり、「注意」はその下のランクです」
「つまり、秘密情報ではない?」
「秘密情報ではありませんが、「注意」でも限られた関係者のみが閲覧できることとなっており、外部に漏れると国の安全を脅かす恐れがあります。また、この写真では「注意」のみが映っていますが、それ以上の情報を漏洩していた可能性は否定できません」
「中国側に、日本の安全を脅かす情報が渡っていたということですね」
「そのとおりです」
「有馬記者、ありがとうございました。後ほどもう一度中継を繋ぎますが、まずは今回の事件の経緯と人物相関図をフリップで確認していきます」
画面が切り替わり、イラストのフリップが全画面で表示される。
トップニュースの名に違わず相当の情報量だ。
葉梨はフリップを使いながら、事件の概要が掴めるように人物や事件のあらましを簡潔に説明したあと、ニュースを締めくくった。
「今回の事件については、既に自衛隊の司法警察官である警務隊が捜査に入っており、近日中にも検察庁に送致される模様です。それでは次のニュースです。化粧品業界最大手の星美堂は、フランスの化粧品メーカーの買収計画を明らかにしました…」
ニュースが終わり、堀内が音量をミュートにすると、課内はしんと静まり返った。
おそらく、どの課も同じような状況で、広報には問い合わせの電話が鳴り響いていることだろう。
航平は奥歯を嚙み締めた。心臓が激しく鳴っている。
北村が情報漏洩?
何かの間違いじゃないのか。
防大時代からクソがつくほど真面目で、整備屋一筋の男だ。
彼女が弁当を作ってくれたと、嬉しそうにはにかんでいた。
鎌倉で偶然会った時の、でれでれした顔を思い出す。その横に控えめに佇んでいた黒髪の女性。
バンコク出身だと言っていた。あの女の子が中国人スパイ?
ありえない。信じられない。納得できるわけがない。
震える手でスマホを取り、北村の番号を呼び出す。
通話ボタンをタップする寸前で、馬場防衛課長の怒号が響いた。
「全員注目!」
防衛課は庶務係以外の全員が幹部自衛官だ。
上官命令に、全員が起立し、背筋を伸ばして課長に向き直った。
「たった今、海上幕僚長名で幹部宛に一斉メールで指示があった。概要を読み上げる。マスコミが張ってるだろうが、コメントを求められても一切応じるな。家族・友人に対しても不用意な発言はしないこと。北村への連絡は禁止する。当然、本件に関するSNS発信も禁止だ。情報の管理には一層気を引き締め、各自通常通り職務を継続すること。以上だ」
航平は挙手をして発言した。
「課長。警務隊が既に捜査をしていたというのは、本当ですか」
「おまえには関係がないことだ」
「北村は同期です」
「だからなんだ。防大同期なんざ何百人もいるだろう」
押し黙る航平を顧みず、防衛課長は全員に向けて言った。
「総員、仕事に戻れ」
航平は着席して、デスクの上のスマホを見る。待ち受け画面には何の通知もない。
有馬の言葉を思い出す。
「それを見て、まだ僕と話してくれるなら、電話をくれないか」
夜が更け、朝を迎えても、電話をすることはできなかった。
誰かが呟いた。
航平は画面を凝視する。
大仏の絵が書かれた特徴的なTシャツは、奈良出身の北村が好んでよく着ていたものだ。
そして女の方。
椅子に置かれたピンク色のバッグは、あの日、鎌倉で北村の彼女が持っていたものと酷似している。清楚な服装にバッグだけが華やかだったので、印象に残っていた。
間違いない。
同期の北村昌人3佐だ。
「本当だ、北村だ」
「え、誰」
「ほら、整備屋で、横須賀から艦船武器課に異動してきて、2年目の」
「ああ、あの真面目そうな。マジかよ」
ざわつく課内に、航平は声を荒げた。
「静かにしろよ! 聞こえないだろ」
「十波3佐、落ち着いてください」
苦言を呈する堀内に返す余裕もない。
スタジオの葉梨は、いっそ冷たいとも取れるほど淡々と写真の説明をしている。
「この冊子の右上、拡大すると「注意」という文字が読めます。有馬記者、この表示は何でしょうか」
「はい、防衛省では情報レベルを複数の段階に分けていて、上から、特定防衛秘密、特定秘密、秘密とあり、「注意」はその下のランクです」
「つまり、秘密情報ではない?」
「秘密情報ではありませんが、「注意」でも限られた関係者のみが閲覧できることとなっており、外部に漏れると国の安全を脅かす恐れがあります。また、この写真では「注意」のみが映っていますが、それ以上の情報を漏洩していた可能性は否定できません」
「中国側に、日本の安全を脅かす情報が渡っていたということですね」
「そのとおりです」
「有馬記者、ありがとうございました。後ほどもう一度中継を繋ぎますが、まずは今回の事件の経緯と人物相関図をフリップで確認していきます」
画面が切り替わり、イラストのフリップが全画面で表示される。
トップニュースの名に違わず相当の情報量だ。
葉梨はフリップを使いながら、事件の概要が掴めるように人物や事件のあらましを簡潔に説明したあと、ニュースを締めくくった。
「今回の事件については、既に自衛隊の司法警察官である警務隊が捜査に入っており、近日中にも検察庁に送致される模様です。それでは次のニュースです。化粧品業界最大手の星美堂は、フランスの化粧品メーカーの買収計画を明らかにしました…」
ニュースが終わり、堀内が音量をミュートにすると、課内はしんと静まり返った。
おそらく、どの課も同じような状況で、広報には問い合わせの電話が鳴り響いていることだろう。
航平は奥歯を嚙み締めた。心臓が激しく鳴っている。
北村が情報漏洩?
何かの間違いじゃないのか。
防大時代からクソがつくほど真面目で、整備屋一筋の男だ。
彼女が弁当を作ってくれたと、嬉しそうにはにかんでいた。
鎌倉で偶然会った時の、でれでれした顔を思い出す。その横に控えめに佇んでいた黒髪の女性。
バンコク出身だと言っていた。あの女の子が中国人スパイ?
ありえない。信じられない。納得できるわけがない。
震える手でスマホを取り、北村の番号を呼び出す。
通話ボタンをタップする寸前で、馬場防衛課長の怒号が響いた。
「全員注目!」
防衛課は庶務係以外の全員が幹部自衛官だ。
上官命令に、全員が起立し、背筋を伸ばして課長に向き直った。
「たった今、海上幕僚長名で幹部宛に一斉メールで指示があった。概要を読み上げる。マスコミが張ってるだろうが、コメントを求められても一切応じるな。家族・友人に対しても不用意な発言はしないこと。北村への連絡は禁止する。当然、本件に関するSNS発信も禁止だ。情報の管理には一層気を引き締め、各自通常通り職務を継続すること。以上だ」
航平は挙手をして発言した。
「課長。警務隊が既に捜査をしていたというのは、本当ですか」
「おまえには関係がないことだ」
「北村は同期です」
「だからなんだ。防大同期なんざ何百人もいるだろう」
押し黙る航平を顧みず、防衛課長は全員に向けて言った。
「総員、仕事に戻れ」
航平は着席して、デスクの上のスマホを見る。待ち受け画面には何の通知もない。
有馬の言葉を思い出す。
「それを見て、まだ僕と話してくれるなら、電話をくれないか」
夜が更け、朝を迎えても、電話をすることはできなかった。
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