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第7話
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翌日も、俺はパンの籠を抱えて貧民街へ向かった。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
「美味し~~~!」
子どもたちは、笑顔で受け取ってくれるようになっていた。
以前は警戒して距離を取っていた子も、今では当たり前のように話してくれる。
(……よし、悪くない)
ただ、視線の端に、いつもセイランの姿があった。少し離れた路地の陰から、こちらを静かに見ている。
しかし、あれほど険しかった空気はもう感じられない。まだ疑いは完全に消えていないのだろう。それでも見定めようとしてくれている。
そして、その日からセイランは、貧民街に毎日顔を出すようになった。
もともと、数日に1度のペースで顔を出していたはずだが、今は俺の様子を見るために来ているのだろう。
(……無理をさせてるな)
申し訳なさを覚えるが、今は自分の命を優先したいので許してほしい。
数日が過ぎる頃には――。
「ねえ、セイランさん。今日もあのお兄ちゃん来てるよ!」
「ほら、あそこでパン配ってる!」
「そうか……」
子どもたちに腕を引っ張られながら、セイランは小さく笑った。
その声は、最初に会ったときよりも、だいぶ柔らかかった。
警戒が完全に解けたわけではないだろうが、少なくとも敵意はもうなかった。
そして、七日目の午後。セイランは俺の隣で、子どもたちにパンを配っていた。
その日、貧民街にたどり着くと、孤児に囲まれたセイランの姿があった。いつもは俺が来ると、その場を離れ近くから様子を窺っていたが、今日は違っていた。
どこか落ち着かない様子でこちらを見るセイランに俺は近づく。
「何かありましたか?」
問いかけると、セイランは少し逡巡してから、まっすぐに顔を上げた。
「……もしよければ、今日、私も一緒に配らせてください」
思わず息を呑む。
(やっとここまで来た……)
胸の奥が熱くなる。嬉しさが込み上げて、返事が遅れた。
「ダメ、ですか……? そうですよね、あれだけ無礼な態度をとったんですし……」
そう言って、また離れようとする。
(だめだ、今は感動している場合じゃない)
「いえ、違います!」
慌てて手を伸ばし、彼の腕を掴んだ。
「一緒に配ってもらえるの嬉しいです。それに、誰が見てもあのときの俺は、疑わしかったですから気にしないでください」
言葉を選びながら微笑むと、セイランは目を瞬かせ、それからふっと息を吐いた。
「……そう言ってもらえると、助かります」
そうして俺たちは、子どもたちにパンを配り始めた。
「パンはたくさんあるから、急がず並んで~!」
「「は~~い」」
セイランの柔らかな声が響く。子どもたちは返事をしながら列を作り、ちょっとした祭りのような賑わいになっていた。
(……すごいな。やっぱり、子どもに慕われてる)
その横顔を眺めていると、彼はふとこちらに目を向けた。
「そういえば、あなたの名前を聞いてませんでした。私はセイランです。あなたは?」
「あぁ、俺は――」
(あー、名乗る名前考えてなかったな……)
と、考えた瞬間だった。
胸の奥が妙に重くて、熱い。
呼吸をするたび、体の内側が何かが軋むような違和感が広がっていく。
(……嫌な感じだ)
深呼吸をして、息を整えようとした瞬間。
「――っ、ぐ……!」
全身に激痛が駆け抜けた。
立っているのもやっとで、視界が滲んでいく。
心臓がひとつ鳴るたびに、全身を針で刺されるような痛みが走る。
魔素疼痛症の発作だ。
ここのところ毎日、痛み止めのスクロールを使っていたせいで、効き目が薄くなっていたのだろう。
子どもたちの笑い声が遠くで揺れる。
せっかく馴染めてきたのに、こんな姿を見せたくない。
(せめて人の少ないところにーー)
足を動かそうとするが、もう思うように力が入らない。
視界の端で、パンを受け取る子どもたちが嬉しそうに笑っているのが見えた。
(できれば、水を差したくないけど……)
息を吸うだけで、胸が焼けるように熱い。
鼓動が速くなり、耳鳴りがする。
「は、ぁ、はぁ……」
足元がぐらりと揺れ、ひざが崩れる。
地面に手をついて、やっとのことで身体を支える。
(もう、ダメかも……)
そのまま、手のひらからも力が抜けていく。
倒れた拍子に転がったパンが視線の先で見えた。
……ああ、もったいない。
世界の輪郭が、ゆっくりと溶けていく。
意識が途切れる瞬間、誰かがこちらを呼ぶ声が聞こえた気がした。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
「美味し~~~!」
子どもたちは、笑顔で受け取ってくれるようになっていた。
以前は警戒して距離を取っていた子も、今では当たり前のように話してくれる。
(……よし、悪くない)
ただ、視線の端に、いつもセイランの姿があった。少し離れた路地の陰から、こちらを静かに見ている。
しかし、あれほど険しかった空気はもう感じられない。まだ疑いは完全に消えていないのだろう。それでも見定めようとしてくれている。
そして、その日からセイランは、貧民街に毎日顔を出すようになった。
もともと、数日に1度のペースで顔を出していたはずだが、今は俺の様子を見るために来ているのだろう。
(……無理をさせてるな)
申し訳なさを覚えるが、今は自分の命を優先したいので許してほしい。
数日が過ぎる頃には――。
「ねえ、セイランさん。今日もあのお兄ちゃん来てるよ!」
「ほら、あそこでパン配ってる!」
「そうか……」
子どもたちに腕を引っ張られながら、セイランは小さく笑った。
その声は、最初に会ったときよりも、だいぶ柔らかかった。
警戒が完全に解けたわけではないだろうが、少なくとも敵意はもうなかった。
そして、七日目の午後。セイランは俺の隣で、子どもたちにパンを配っていた。
その日、貧民街にたどり着くと、孤児に囲まれたセイランの姿があった。いつもは俺が来ると、その場を離れ近くから様子を窺っていたが、今日は違っていた。
どこか落ち着かない様子でこちらを見るセイランに俺は近づく。
「何かありましたか?」
問いかけると、セイランは少し逡巡してから、まっすぐに顔を上げた。
「……もしよければ、今日、私も一緒に配らせてください」
思わず息を呑む。
(やっとここまで来た……)
胸の奥が熱くなる。嬉しさが込み上げて、返事が遅れた。
「ダメ、ですか……? そうですよね、あれだけ無礼な態度をとったんですし……」
そう言って、また離れようとする。
(だめだ、今は感動している場合じゃない)
「いえ、違います!」
慌てて手を伸ばし、彼の腕を掴んだ。
「一緒に配ってもらえるの嬉しいです。それに、誰が見てもあのときの俺は、疑わしかったですから気にしないでください」
言葉を選びながら微笑むと、セイランは目を瞬かせ、それからふっと息を吐いた。
「……そう言ってもらえると、助かります」
そうして俺たちは、子どもたちにパンを配り始めた。
「パンはたくさんあるから、急がず並んで~!」
「「は~~い」」
セイランの柔らかな声が響く。子どもたちは返事をしながら列を作り、ちょっとした祭りのような賑わいになっていた。
(……すごいな。やっぱり、子どもに慕われてる)
その横顔を眺めていると、彼はふとこちらに目を向けた。
「そういえば、あなたの名前を聞いてませんでした。私はセイランです。あなたは?」
「あぁ、俺は――」
(あー、名乗る名前考えてなかったな……)
と、考えた瞬間だった。
胸の奥が妙に重くて、熱い。
呼吸をするたび、体の内側が何かが軋むような違和感が広がっていく。
(……嫌な感じだ)
深呼吸をして、息を整えようとした瞬間。
「――っ、ぐ……!」
全身に激痛が駆け抜けた。
立っているのもやっとで、視界が滲んでいく。
心臓がひとつ鳴るたびに、全身を針で刺されるような痛みが走る。
魔素疼痛症の発作だ。
ここのところ毎日、痛み止めのスクロールを使っていたせいで、効き目が薄くなっていたのだろう。
子どもたちの笑い声が遠くで揺れる。
せっかく馴染めてきたのに、こんな姿を見せたくない。
(せめて人の少ないところにーー)
足を動かそうとするが、もう思うように力が入らない。
視界の端で、パンを受け取る子どもたちが嬉しそうに笑っているのが見えた。
(できれば、水を差したくないけど……)
息を吸うだけで、胸が焼けるように熱い。
鼓動が速くなり、耳鳴りがする。
「は、ぁ、はぁ……」
足元がぐらりと揺れ、ひざが崩れる。
地面に手をついて、やっとのことで身体を支える。
(もう、ダメかも……)
そのまま、手のひらからも力が抜けていく。
倒れた拍子に転がったパンが視線の先で見えた。
……ああ、もったいない。
世界の輪郭が、ゆっくりと溶けていく。
意識が途切れる瞬間、誰かがこちらを呼ぶ声が聞こえた気がした。
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