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第8話:夢の果て
Act-03 木曽軍無残
しおりを挟む木曽ヨシナカが、キョウトに帰還した。
だが、それは凱旋軍ではなく、フクハラでの平氏軍との戦闘に大敗した、見るも無残な敗軍であった。
強行軍の末、平氏の都落ちを捉えた、あの颯爽たる白の軍団――それが今やボロ布の様に、みすぼらしい姿になり果てている。
百機近かった機甲武者ガシアルGも半分以下の機体数になり、戦闘車両、歩兵の姿もまばらになっている――すべてフクハラの戦闘で戦死したのであった。
軍の中央にいる大将、木曽ヨシナカとその妻トモエの駆る新型機甲武者バキも、その腕に構えるランサーを引きずる様にして進んでいた。
なぜ、あれほどの威容を誇った木曽軍が、ここまでの姿に成り果てたのか――
ヨリトモ率いる源氏本軍が、首都キョウト南方、ヤマトの掃討戦を開始した数日後――皇帝ゴシラカワから、木曽ヨシナカに勅命が下った。
――西方フクハラに落ちた、朝敵平氏を急ぎ追討せよ、と。
それはキョウト守護――すなわち皇室の守護者に任じられた者として、当然の責務であった。
かつて平キヨモリは、ホウゲンの乱、ヘイジの乱という朝廷の内乱で、勝者側を完璧に守護した事により、国家権力の代行者としての地位を認められた。
いかに権力簒奪といえど、そこには『権利』に対する『義務』が存在していたのである。
それをヨシナカにも果たせと、ゴシラカワは命じたのだ。
だがヨシナカには問題があった――補給がままならなかったのである。
本拠地キソから――源ヨリトモを出し抜くために――常軌を逸する行軍速度でキョウト入りしたものの、キョウトの物資は平氏がすべて持ち去っていた。
その時点で木曽軍はもう限界であった。
兵員の食料、車両の燃料、そして兵器の弾薬。機甲武者も大地の霊脈が動力源とはいえ、それを科学力で駆動させているからには整備は必要になる。
なにより機甲武者を操るのは魔導武者であり――人は疲れれば休まなければならないし、腹が減れば力も発揮できない。
木曽軍はボロボロの状態で、その疲れを癒す術もなく、首都キョウト守護という『空の器』を与えられ――その代償の『義務』を果たさなければならなくなったのである。
道は二つあった。
一つはキョウト守護の任を辞退する事。それはすなわち、その後任となる源氏本軍――源ヨリトモの風下に立つという事を意味する。
だが、時節を待つというのであれば、それも悪い手ではなかった。キョウト一番乗りの威光は消えるものではないし、今後の政局次第では次のチャンスがこないとも限らないが――次のチャンスがくるという保証も、もちろんなかった。
だからヨシナカは二つ目に賭けた。
それは平氏の本拠地、西方フクハラに乾坤一擲の攻撃を仕掛け、朝敵討伐と物資略奪を一気に成し遂げる事であった。
手に入れた栄光を手放してなるものか――その一念でヨシナカは決断した。疲労困憊の木曽軍将兵も、皆ヨシナカに同意した。
ヨシナカのためなら――伊達男ながら、配下を家族の様に慈しんだヨシナカは、同時にすべての将兵に愛されていた。
だから、みんなで夢を見たのだ――平氏を打ち破り、キョウトに凱旋して、真の天下人となったヨシナカと木曽軍の姿を。
だが現実は残酷であった。ヨシナカは負けた。
空腹と疲労に歯を食いしばり、西に出陣した木曽軍を迎え撃った平氏の陣容は万全であった。
平氏の本拠地フクハラベースは、先代キヨモリが惑星ヒノモトの副都として建設した一大要塞であり、俗に城攻めには籠城軍の十倍の兵力が必要という要件を、木曽軍はまず満たしていなかった。
それに加えて、フクハラベースには平氏が西方の遺跡から発掘した新型機甲武者――ヒノモト初の水陸両用機『カイト』がロールアウトされており、それを駆るのは平氏最強の魔導武者、平トモモリの部隊であった。
トモモリにしてみれば、都落ちの背後を突かれ、屈辱的敗北を喫した相手が進攻してきたと聞き、その敵戦力を分析した上で、野戦で迎え撃つべく布陣した。
そして戦端が開かれ――木曽軍は東方の軍が得意とする機動戦で、平氏軍の前衛を突き崩すべく突撃した。
だが平地の多い東方と違い、西方は海から注ぎ込む幾重の大河による湿地帯で形成されており、それが木曽軍の機甲武者の足を鈍らせた。
対する平氏のガシアルHは、湿地用チューンが万全であり、木曽軍のガシアルGに対して好位置を取り続け、面白い様に二十ミリ機関砲を命中させ続けた。
全長八メートルの機甲武者が倒れる姿は、その大きさと比例して木曽軍の士気を大きく下げた。
次第に戦場は、源氏の白い機甲武者が地に転がり続け、平氏の赤い機甲武者が完全に主導権を握る展開となった。
機甲武者ばかりでなく、戦闘車両も整備不良の木曽軍は、歩兵を支援する事もままならず、ヨシナカの天下を夢見た兵たちが、一人また一人と倒れていった。
死しても、霊脈として大地に吸い込まれ、跡形もなく消えるヒノモトの人間は――屍が残らない分、戦場ではそれは悪夢を見る様であった。
その時、ヨシナカも悪夢を見ていた――なんとこの局面で、彼が頼みとしていた人馬型機甲武者、バキがオーバーフローを起こしたのである。
ヨリトモの腹心、大江ヒロモトが指摘していた――四本足の異形の形態に、その動力である霊脈を回し切るシステムが不完全であるという問題は、今ここで現実のものとなった。
ここまで無理に無理を重ねて、ヨシナカの魔導力を頼みに、回らないタイヤを引きずる様に戦場を駆けてきたバキ。
だがその霊力変換システムは、ヨシナカの強大な魔導力の要求と、その複雑な機体構造の解析に、ついにその演算能力の限界値を超え、機能を停止した。
「おい、どうした⁉︎ 動け、動け!」
味方が――いや家族といってもいい仲間たちが倒れていく中、ヨシナカはそれを救いにいけない現実に叫んだ。
Act-03 木曽軍無残 END
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