53 / 97
第9話:修羅の道
Act-01 人身御供
しおりを挟む「これは……派手にやってくれたものだな」
木曽ヨシナカの御所襲撃から一夜明け、ヘイアン宮の皇帝御座所で、その被害報告を聞き終えた、女帝ゴシラカワが呆れた声を上げた。
「では、私はこれで――」
報告官が深々と頭を下げ、去るのを見計らって、
「御所の七割が破壊され、近衛兵もほとんどが討ち死に! 魔導結界の僧堂だけでなく、結界師もすべて失った……クソッ、ヨシナカめ!」
僧形の摂政シンゼイも、やるかたない怒りに地団駄を踏む。
「しかし、ウシワカがヨシナカを討ち取ってくれたのは、不幸中の幸いだったな」
ゴシラカワは、封印せし異形の母タマモによる神通力で、魔導結界を無効化された窮地を救ってくれた『実の娘』の来援に触れるが――そもそも源氏に好意を持っていないシンゼイは、
「源氏め、結局は同士討ちになったか」
と、ウシワカに感謝の言葉を述べるどころか、逆に彼女たち源氏が背負う宿業を、そしる言葉を吐き捨てた。
それにゴシラカワは、冷めた笑いを浮かべると、
「だが、その源氏に頼るしかないのだぞ、摂政殿」
と、もはや自立機能を失った、朝廷の現実をシンゼイに突きつけた。
そもそも武力を持たない朝廷は、機甲武者の発明以来、その軍事的運用に成功した平キヨモリ率いる『平氏』を後ろ盾に持ち、その軍事力を政治的に取り込む事で、惑星ヒノモトを統御してきた。
だがキヨモリ死後、その権能を失った後継者、平ムネモリは都を追われ、かわってキョウト入りした木曽ヨシナカも、追い詰められた末に逆徒と化し散った今――朝廷を守護できるのは『源氏』のヨリトモだけとなった。
「ヨリトモめ、まんまと漁夫の利を得たという事か……」
認めたくない現実にシンゼイは、ヨリトモの躍進をそう皮肉る事しかできなかったが――その時、不意に玉座のゴシラカワの体が、グラリと揺らいだ。
「――――?」
いつもなら、ここで返しの皮肉の一つも被せてくるはずの女帝が、何も言ってこないばかりか、苦しそうに顔を歪めている事にシンゼイは気付くと、
「どうした、トキワ⁉︎」
と、思わずゴシラカワを古き名で呼びながら、玉座に駆け寄った。
「大丈夫だ、シンゼイ……今のところはな」
明らかに激しい疲労を顔に浮かべながらも、意味深な物言いをするゴシラカワに、
「今のところ? どういう事だ?」
と、シンゼイは女帝を気遣いながらも、厳しい表情でそう問い質した。
それにゴシラカワは、
「なあシンゼイよ……タマモは――母上は復活してきている」
と、玉座の上の梁に埋め込まれた、狐の耳に九本の尾を携えた、裸形の怪物を目で指すと、
「フクハラの日食、ヘイアン宮の魔導結界の無効化……すべて私の封印の力が弱まったからだ……」
そこまで言って、苦しい息を吐きながら、少し間を置いた後、
「――私の体も、もう長くは保たんかもしれん」
と、衝撃の事実を、呆然とする摂政に向かって突然告白した。
「な、なぜだ⁉︎ ――まさかお前、タマモの封印に自分の命を使っていたのか⁉︎」
「フフッ、こんな化け物の封印が、タダな訳はあるまい」
シンゼイの言葉に、ゴシラカワは彼女の癖である、薄い笑いを漏らしてから、思わず本気で苦笑してしまった。
「お前は私を退位させて、アントクをこの役につければ、それで済むと思っていたのかもしれんが、この役はそれほど甘いものではないのだ」
もはや言葉を失ったシンゼイを見つめながら、ゴシラカワは構わず喋り続ける。
「たとえアントクがそれを受け入れても、この部屋から動けぬ人身御供の様な生活を、あの幼な子にさせるつもりか? ――こんなのは私一人でたくさんだ」
「…………」
「三種の神器を揃えねばならん――源平の和合を待ちたかったが、思いの外、時間は残されておらなんだ……この先は、多少手荒な方法で臨まねばならんぞ」
「……ど、どうすればよいのだ?」
うろたえながら、ようやく言葉を吐き出したシンゼイに、
「ヨリトモが到着次第、すぐに参内する様に伝えよ……そこですべてを話そう」
世上で『大天狗』と揶揄される女帝は――遠くを見つめ、そっと目を閉じると――その美しい顔に、いつもとは違う、優しい笑みを浮かべながらそう言った。
そのヨリトモは源氏全軍を率いて、南方ヤマトの国境を発ち、ヘイアン宮を目指していた。
御所を襲撃の上、皇帝ゴシラカワの動座、もしくは弑逆を狙ったヨシナカを防ぐために先行した部隊は、すでにヘイアン宮に先着している。
先程の御座所での会話通り、魔導結界はすでになく、近衛兵も木曽軍に虐殺された今、ヘイアン宮の防衛力はその先発隊のみであった。
それを率いる梶原カゲトキと合流して、木曽ヨシナカに代わり、正式にキョウト守護に――国家権力の代行者になるべく、ヨリトモはヘイアン宮に向かっているのであった。
東方の自治権を承認されたヨリトモにとって、次の課題は西方に退去した平氏の討伐――そのために、この移動中もヨシナカから譲り受けた戦闘データの解析を、腹心であり機甲武者開発の責任者でもある大江ヒロモトに急がせ、同乗する車中でその報告に耳を傾けていた。
「フクハラの湿地は、想像以上にやっかいの様です。ノーマルのガシアルでは、三十パーセント近く機動力がダウンします」
「ヨシナカのバキのデータから、換算した数値か?」
自身は魔導適性がないため、機甲武者を操れないヨリトモだったが、それでも彼女はその理論だけはしっかりと把握しており、今もヒロモトの言葉に、打てば響く様に応じていた。
「はい。手元のデータはヨシナカ殿のバキのものですが、バキの四本足と、ガシアルの二本足の機動数値変換で、おおよその予測がつきました」
ヒロモトもまた、その怜悧な頭脳で簡潔にヨリトモの問いに答える。
「ヨシナカが言った様に、湿地チューンが必要か……」
「はい。あのデータチップのおかげです。それに――」
そう言いながらヒロモトは、ギラリと眼鏡の奥の目を輝かせると、
「ヨシナカ殿のバキが回収できた事は、大きな収穫でした。見切り発車の機体でも、あれにはキソで独自開発されたブラックボックスが、多数入っているはずです。そのデータを解析すれば、我らの手でバキを完璧な機甲武者にする事ができます!」
と、技術開発に携わる人間として、そこまではよかったが、
「――本当にウシワカ殿のおかげです」
という一言に、無表情を貫くヨリトモの顔色が一瞬曇った。
Act-01 人身御供 END
NEXT Act-02 天下人
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる