17 / 23
モブ令嬢と夢と茶番
しおりを挟む
夢を見た。幼いころ、私とレイナが遊ぶ夢。レイナが死んでから、私は何度も、何度も何度も何度も、幼いころに戻りたいと、そう願っていた。この世界では、それが可能である。なぜなら、魔法があるから。時間魔法を使えば、昔にも未来にも行ける。それでも、私はそんなことしなかった。レイナが死んだことを知らされてからの初めての夜。私の夢に、今日と同じようにレイナが現れた。起きたことは仕方がない。時間は巻き戻さず、ヴィルの人生はヴィルの幸せのために使ってほしい、と。そう言われたのだ。
しょせんは私の夢。馬鹿馬鹿しいと思った。でも、その言葉はあまりにもレイナが言いそうな言葉で、私は、自身が勝手に見た夢にもかかわらず、夢でレイナが言った通り、時間を巻き戻すことはしなかった。
グルグルと夢について考えていると、不意に我に返り、ここはどこだろうと思考を移す。
私は、気を失った。一体どこで?自分の部屋ではない。確か、信頼している人の前で、涙を流しながら……
そこまで考えて、私は誰かのぬくもりが、自分に触れていることに気が付く。一体、このぬくもりは誰なのだろうか?
誰なのかはわからないのに、ずっとそばにいてほしい。このぬくもりが、何よりも愛おしいと、そう思っている自分に、私は驚きを隠せない。
微睡の中にいながら、私は誰に言うともなくつぶやく。
「私は……幸せになってもいいのかな……?」
(えぇ、勿論。むしろ、ヴィルには幸せになってほしい)
「もちろんだよ、ヴィル」
一つは、私の夢の中に出てきたレイナ。はて、では、もう一つの声は……
「おはよう、ヴィル」
「……」
私の顔を覗き込むのは、シュエル。そうだ、私は彼の前で気を失い、彼のぬくもりを愛おしいと、そう思ったのだ。そして、私の独り言に、返事をしてくれたのも、状況から察するに、彼であろう。
「まだ、眠いかい?」
「……ううん」
怖いぐらい穏やかなシュエルに、私は少し戸惑いながら、正直に答える。
「そうかい、それはよかった……たまには休憩も必要だよ?」
ここで、私の意識はようやく覚醒する。私は、こんなところでのんびりしている暇はない。なんとしてでも、一秒でも早く、ソフィアたちに復讐しなければならないのだ。
「……私には、休憩なんていらない」
シュエルには、自分のそばにいてほしいと言ったのに。私はシュエルを突き放す発言をしてしまう。彼は、私のことを思って言ってくれたのに。
やっぱり、私は自分自身が嫌いだ。気が強くて、傲慢なのに、すぐに気弱になって、誰かの助けがないと、生きていけない。私は、ソフィアなんかよりも最低な人間だ。
「ごめん、シュエル」
私はそうぽつりと謝り、人間界へと戻りたいと強く願い、人間界へと戻る。
今は、とにかく一人になりたかったのだ。
―――――
「テイラン先輩……?」
行く当てもなく、人気のないところをぶらぶらと歩いていると、聞き覚えのある声が、私を引き取める。
「ルナソル君……」
敵である彼を前にして、普段の私ならば真っ先に逃げたであろう。しかし、今はそんな余裕など、私にはなかった。
「どうしたんですか、テイラン先輩。……って、そういえば、先輩、テイラン家を追い出されたんでしたっけ?」
悪意なんて微塵も感じさせないテイランに、私はイラつきながら、本当のことなので何も返せずにいると……
「ルナソル君!!」
突然の大きな声に驚き、私が声のした方である背後を向くと、ソフィアがこちらへ、走りながら向かっているのが見えた。
「ソフィアさん!?」
ルナソルはそんなソフィアに、困惑半分、嬉しさ半分な声を上げる。
「――きゃっ!?」
だが、私とすれ違う瞬間、ソフィアは派手に転び、着ていた服が、地面の土で汚れてしまう。
「大丈夫ですか!?ソフィアさん!!」
そう言いながら、ルナソルはソフィアに駆け寄り、手を貸し、起き上がらせる。
「貴女ほどの人が、何もないところであんな風に転ぶだなんて……」
「違うの、ルナソル君。実は……信じられないことかもしれないけれど、私、ヴィル様にすれ違いざまに押されて、転んでしまったの……」
「なんですって!?」
また始まったよ、この茶番。
私は内心げんなりしながら、逃げたりしたら余計立場が危うくなると思い、このふざけた茶番に付き合うことにしたのだった。
しょせんは私の夢。馬鹿馬鹿しいと思った。でも、その言葉はあまりにもレイナが言いそうな言葉で、私は、自身が勝手に見た夢にもかかわらず、夢でレイナが言った通り、時間を巻き戻すことはしなかった。
グルグルと夢について考えていると、不意に我に返り、ここはどこだろうと思考を移す。
私は、気を失った。一体どこで?自分の部屋ではない。確か、信頼している人の前で、涙を流しながら……
そこまで考えて、私は誰かのぬくもりが、自分に触れていることに気が付く。一体、このぬくもりは誰なのだろうか?
誰なのかはわからないのに、ずっとそばにいてほしい。このぬくもりが、何よりも愛おしいと、そう思っている自分に、私は驚きを隠せない。
微睡の中にいながら、私は誰に言うともなくつぶやく。
「私は……幸せになってもいいのかな……?」
(えぇ、勿論。むしろ、ヴィルには幸せになってほしい)
「もちろんだよ、ヴィル」
一つは、私の夢の中に出てきたレイナ。はて、では、もう一つの声は……
「おはよう、ヴィル」
「……」
私の顔を覗き込むのは、シュエル。そうだ、私は彼の前で気を失い、彼のぬくもりを愛おしいと、そう思ったのだ。そして、私の独り言に、返事をしてくれたのも、状況から察するに、彼であろう。
「まだ、眠いかい?」
「……ううん」
怖いぐらい穏やかなシュエルに、私は少し戸惑いながら、正直に答える。
「そうかい、それはよかった……たまには休憩も必要だよ?」
ここで、私の意識はようやく覚醒する。私は、こんなところでのんびりしている暇はない。なんとしてでも、一秒でも早く、ソフィアたちに復讐しなければならないのだ。
「……私には、休憩なんていらない」
シュエルには、自分のそばにいてほしいと言ったのに。私はシュエルを突き放す発言をしてしまう。彼は、私のことを思って言ってくれたのに。
やっぱり、私は自分自身が嫌いだ。気が強くて、傲慢なのに、すぐに気弱になって、誰かの助けがないと、生きていけない。私は、ソフィアなんかよりも最低な人間だ。
「ごめん、シュエル」
私はそうぽつりと謝り、人間界へと戻りたいと強く願い、人間界へと戻る。
今は、とにかく一人になりたかったのだ。
―――――
「テイラン先輩……?」
行く当てもなく、人気のないところをぶらぶらと歩いていると、聞き覚えのある声が、私を引き取める。
「ルナソル君……」
敵である彼を前にして、普段の私ならば真っ先に逃げたであろう。しかし、今はそんな余裕など、私にはなかった。
「どうしたんですか、テイラン先輩。……って、そういえば、先輩、テイラン家を追い出されたんでしたっけ?」
悪意なんて微塵も感じさせないテイランに、私はイラつきながら、本当のことなので何も返せずにいると……
「ルナソル君!!」
突然の大きな声に驚き、私が声のした方である背後を向くと、ソフィアがこちらへ、走りながら向かっているのが見えた。
「ソフィアさん!?」
ルナソルはそんなソフィアに、困惑半分、嬉しさ半分な声を上げる。
「――きゃっ!?」
だが、私とすれ違う瞬間、ソフィアは派手に転び、着ていた服が、地面の土で汚れてしまう。
「大丈夫ですか!?ソフィアさん!!」
そう言いながら、ルナソルはソフィアに駆け寄り、手を貸し、起き上がらせる。
「貴女ほどの人が、何もないところであんな風に転ぶだなんて……」
「違うの、ルナソル君。実は……信じられないことかもしれないけれど、私、ヴィル様にすれ違いざまに押されて、転んでしまったの……」
「なんですって!?」
また始まったよ、この茶番。
私は内心げんなりしながら、逃げたりしたら余計立場が危うくなると思い、このふざけた茶番に付き合うことにしたのだった。
288
あなたにおすすめの小説
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
悪役令嬢に相応しいエンディング
無色
恋愛
月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。
ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。
さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。
ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。
だが彼らは愚かにも知らなかった。
ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。
そして、待ち受けるエンディングを。
地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
侯爵令嬢の置き土産
ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。
「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。
彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~
プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
【短編】お姉さまは愚弟を赦さない
宇水涼麻
恋愛
この国の第1王子であるザリアートが学園のダンスパーティーの席で、婚約者であるエレノアを声高に呼びつけた。
そして、テンプレのように婚約破棄を言い渡した。
すぐに了承し会場を出ようとするエレノアをザリアートが引き止める。
そこへ颯爽と3人の淑女が現れた。美しく気高く凛々しい彼女たちは何者なのか?
短編にしては長めになってしまいました。
西洋ヨーロッパ風学園ラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる