【完結】暁の騎士と宵闇の賢者

エウラ

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2 魔導師団長アディスと副騎士団長アルヴァ

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「───・・・・・・眠ったか」
「はい。だいぶお疲れのようですね」
「おそらく魔力枯渇寸前まで行ったのだろう。そうなると身体に負担がかかって魔力回路も弱るから魔力回復に時間がかかる」
「休暇という名目で当分は静養させましょうか」
「頼む」

補佐官のカーティス・ラインが気遣わしげに、ソファに凭れて眠るセラータにブランケットをそっとかけている。
ラインは元々は副師団長だったが、本人のたっての希望でその席をセラータに譲り、私の補佐に就いてくれた優秀な魔導師だ。
見事な銀髪にアクアマリン色の瞳。優しげな顔立ちの耳の長いエルフだ。
二十代前半の容姿だが、彼は私よりも遥かに生きている、確か300はとうに越えて───。

「何かよからぬ事をお考えですか?」
「っいや。───ああ、もの凄く不本意だがドーン副騎士団長を呼んできてくれ。あちらさんも今頃は騎士団長に報告をしているだろう」
「・・・・・・畏まりました」

穏やかそうな言葉遣いだが鋭い声音でそう言われ、慌てて誤魔化すようにそう告げると、結構な間を空けて返事が返った。
いや、もともと頼むつもりだったんだよ。だからそんなジト目で見ないでくれるかな?

部屋を出て行くラインを見送ってから溜息を吐く。

───セラは、私がラインから好意を寄せられていることにはたぶん気付いていない。

以前『俺じゃなくて自分で子供を作ればいいでしょ』ってセラに言われたとき、ドキッとした。
あの時返した言葉は嘘ではない。

今の私には誰かを受け入れることは無理なんだよ。
まあ、魔力量のおかげで長生きできそうだから、気長にいくつもり。

私自身もラインから好意を寄せられていることに気付いているが、一貫して気付かない振りを通している。

その理由はいくつかあるが、今は構ってられないからな。
ラインは私の態度に些か疑問を感じてもツッコんでこないし無理に押しても来ない。
さすがは年の功かな。

この距離感を今はありがたく思う。

   ◇◆◇

宮廷魔導師団とは反対に位置する宮廷騎士団の団長室。

ここにはつい先ほど討伐任務を終えて報告に来たドーン・アルヴァ副団長がいた。

「・・・・・・なるほど。いや、先触れでドラゴンが出たとは聞いたが、今回はたまたまなのか、それとも異変があったのか・・・・・・」
「何か気になるところはなかったのですか?」

詳しい報告を聞いてソリューン・エリアス団長とパール・ディート団長補佐官が俺にそう聞いてきた。

エリアス団長は獅子の獣人で、豪奢な短い金髪に蜂蜜色のキリッとした瞳のガッシリした美丈夫で御年100歳とのこと。
ディート団長補佐官は狼の獣人で、肩に付くくらいの銀髪をハーフアップしていて、アイスブルーの切れ長の瞳の細マッチョだ。団長とは乳兄弟と聞いているから同い年なのだろう。

二人とも生まれたときからの付き合いだから阿吽の呼吸でお互い察せられるらしい。
というか、何時婚姻してもおかしくないともっぱらの噂だ。

「・・・・・・前回よりは瘴気が濃い気がしました。その理由までは分かりかねますが」

俺は少し考えてそう応える。

「浄化は・・・・・・ダスク副師団長がして下さったんですよね?」
「はい。ドラゴン討伐後にかなりの広範囲に、前回よりも強めに浄化魔法をかけていました。それで通常よりも瘴気が薄くなり、新たな魔物も発生しなかったので帰還いたしました」

予想外の大物にも冷静に対処していたが、思ったよりも魔力を消耗したのではないだろうか。
浄化魔法のあと、少し顔色が悪かったように見えた。
・・・・・・そのあと、自分の天幕に篭もってしまい、何人もの輩が出入りしていたようだったからたぶん魔力供給をしていたのだろう。

そう思うと、胸の奥がチクリと痛んだ。

『副師団長のセラータ様は凄くイイらしいぞ』
『聞いた聞いた。いいなあ、俺も一度でいいから味見したい』
『お前みたいな貧相で魔力が少ないヤツには高嶺の花だって』
『やっぱり? そうなると魔導師か騎士団の誰か?』
『いやいや、もしかしたら義理の父親のアディス様と───』
『うえっ!? あの同い年くらいの見た目の合法ショタ同士で!? でもアリかも!』
『なー!』

そんな下世話な会話がヒソヒソと聞こえてきて、俺は意識して聞かないようにしていた。

結局討伐後の後処理もあり、そこで一泊することが決まってそれを伝えに行くと、天幕の隅に毛布を被って横たわるセラータがいて。

・・・・・・顔色がまだ蒼白い。魔力が足りてないのか? あんなに大勢出入りしていたのに? そんなに消耗したのか?

───でもそれなら、俺でもいいよな?

俺は魔が差して、ひやりと冷たいセラータの唇に初めて自分の唇を合わせる。
意識がないのか、ピクリともしないセラータの唇をこじ開けて舌を差し込み、魔力供給をしながら口腔内を丁寧に弄った。

少ししてセラータの顔に少し赤みが差してお互いの呼吸が荒くなり、俺は名残惜しげに唇を離して濡れてぽてっとした唇をそっと指の腹で拭った。

───甘い。甘露のようだった。

そんなことを考えながらぼーっとしていたらセラータが目を覚まして。

『・・・・・・アルヴァ?』
『───っああ、後処理で今日はここに一泊することが決まって、それを伝えに来た。・・・・・・このまま休んでてくれていい。それじゃあ』
『───ぁ』

セラータが何かを言う前に事務的にソレだけ言うと俺はサッサと天幕をあとにした。
セラータが手を伸ばし戸惑っていたことには気付かずに。

切なそうに目を伏せるセラータには気付かなかった。

「───それでダスク副師団長の様子は?」
「やはり疲労の色が濃いようでして・・・・・・結界魔法も強めに張ったようですし、今日は早めに休むのでは───」
「失礼いたします。魔導師団長補佐官のカーティスです。ドーン副団長はおりますでしょうか」

ノックと共にそう声がかかり、俺はハッとした。
団長と団長補佐官も頷く。俺は軽く頷くと扉を開く。

そこにはカーティスがいた。

「如何いたしました、カーティス補佐官殿」
「ダスク師団長の命でドーン副団長をお呼びに参りました。用件がお済みでしたら一緒にきて頂きたいのですが」

そう言って団長達に視線を移すカーティス補佐官。
団長達は頷くと俺に言った。

「こちらは大丈夫だから行け。・・・・・・ダスク副師団長に何かあったのだろう?」
「・・・・・・疲労のためか、師団長室で休んでおられます。魔力枯渇寸前まで行ったようで、不本意ながらドーン副団長に魔力供給をして頂きたく」

それを聞いて俺達三人は顔色を悪くした。
そこまで酷いとは思わなかったのだ。
じゃあ帰ってくるまでの間、誰の魔力供給も受けずにがまんして平静を装っていただけだったのか?
そして続く言葉に唖然とした。

・・・・・・俺に魔力供給を頼むって?

「───え?」
「・・・・・・何か不都合が?」

俺の漏れた声に怪訝そうにそう問いかけるカーティス補佐官に焦ってついポロッと口をついた言葉。

「や、それならばダスク師団長がして差し上げればよろしいのでは?」
「───あの方達にそういった感情はございませんが? 例え血の繋がりはなくともただの父子の間柄ではなさいません。極限状態で生死を伴うようなことにでもならない限りは」

あからさまにムッとしてそう言うカーティス補佐の言葉に更に混乱する。
え? そういう関係じゃないのか?

「───何か誤解があるようですが。噂されているようなことは全くございません。ダスク副師団長は今まで誰ともそういったことはなさっておりません。魔力枯渇にならないほどの魔力量ですので。今回がです」

そうはっきりと言われて、俺は思わず喜色した。
アレは全て噂だったのだ。ニヤけそうになる顔を咄嗟に堪えて真顔になる。

「なのでとっとと来やがれ、むっつりスケベが。不本意だがセラータのために仕方なくだってことを忘れんな、クソガキ!」
「・・・・・・は? え?」

急にチンピラのように口悪くなったカーティス補佐官に腕を掴まれて、戸惑いながら引き摺られるように連れて行かれる俺を団長達が呆れたように見送っていたのだった。

「・・・・・・アレは全く。ずっと噂を鵜呑みにして誤解してたようだな」

エリアスが呆れたように溜息を吐いた。

「ダスク師団長の溺愛っぷりを見れば大事にされてるのが分かるだろうに。有象無象を彼に近づけさせないだろう。それにセラータ殿の気持ちも分かりやすいよな?」
「そもそもセラータ殿しか見ていないんじゃないのか? それでも気付かないって、アホだろ」

ディートもやれやれという顔だ。

「むっつり言われても仕方ないよな」
「初恋を拗らせたか。困ったもんだ」
「ところでダスク師団長はカーティス殿のを知っているのか? 知ってて側に置いてるのか? 確かに優秀だけど、もの凄い猫被ってるよな」
「さあ、俺には何とも・・・・・・。師団長は師団長で考えが読めない人だからな」

カーティスの素顔を知っている二人はケロッとして、乳兄弟らしく歯に衣着せぬ会話をしていたのだった。


そして引き摺られるようにやって来た魔導師団長の団長室。

「ただいま戻りました」
「ご苦労さん。じゃあ頼むよ、アルヴァ」

カーティス補佐官に続けてダスク師団長が書類を捌きながら、俺をチラッと見てそう言った。
名前を呼ぶということは師団長としてではなく、息子の幼馴染みとしての頼みだということ。

「奥の仮眠室を使って。いいか、くれぐれも襲うなよ。口吻のみの魔力供給だからな。それでもセラのファーストキスなんだからな! 意識のないセラに手を出したら一生涯排除してやる」
「───っはい」

殺気を感じる声でそう言われて若干震え上がる俺を見て一応安心したのか、目線で奥の扉を促された。

ソファで眠るセラータをブランケットごとそっと抱え上げる。
顔色が悪い。紙のように白くなって体温も低い。

「・・・・・・分かっているだろうが、目が覚めたら止めだ。いいな?」
「分かってます」
「今夜は私と一緒に寝るんだという可愛らしい我が儘を叶えて甘やかすんだから、ヘンなことするなよ」
「───っはい」

ナニソレ羨ましい!
俺が添い寝したい甘やかしたい!

しかしガッツリ牽制されて釘を刺された俺は反論できずに仮眠室に向かうのだった。

・・・・・・俺、討伐地でこっそり魔力供給の口吻しちゃったんだけど。
アレが本当のファーストキス・・・・・・。

アディス様に知られたら殺される。
絶対、セラータにも内緒で、墓場まで持っていく所存だ。







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