【完結】暁の騎士と宵闇の賢者

エウラ

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3 魔力供給

※前半アルヴァ、後半セラータ視点です。




仮眠室とはいえ、そこは団長室だから天蓋がないだけで普通にしっかりしたマットレスを使ったベッドに、セラータを抱えたままそっと座る。

横抱きで自分の膝の上に乗せて、間近にあるセラータの頬を撫ぜる。

ひやりとした、あの時の討伐後のような体温に思わずビクッとする。

───そうだ、今のこれは単なる魔力供給。
いわば病人の治療行為だ。
淫らなことを考えている場合じゃない。一刻も早く魔力供給をして回復させねば、命が危うくなるのだ。

「・・・・・・出来れば、ちゃんと目覚めているときに、医療行為としてではなく、したい」

そのためにもまずはこの状態を回復せねば。

これは俺にとってはセカンドキスだが、セラータは前回も知らないのだからノーカンでいいだろう。

セラータの顎を軽くあげて口付ける。前回のように反応のない口腔内を優しく舌で撫でながら魔力供給をしていく。

セラータが無意識に俺の唾液を嚥下している。
やはり魔力枯渇気味で身体が自然と魔力を欲しているようだ。

───今まで誰とも交わらなかったセラータの無垢な身体・・・・・・。

これは医療行為、医療行為だと言い聞かせながらもムクムクともたげそうになる己のアソコを、アディス様の顔を思い浮かべて宥める。
・・・・・・うん、一発で大人しくなった。
さっきの脅しが効いているようだな。

そうしてどれくらい経ったのか、お互いの口吻のぴちゃぴちゃと水っぽい音だけが響く中、微かにセラータの喘ぎ声が漏れ出たのに気付く。

「・・・・・・んぅ・・・・・・」

意識が戻ってきたらしい。
残念だがここまでか・・・・・・。

俺は銀色に糸を引く唇を静かに離すと、セラータの唇を指の腹で拭い、それをペロリと舐め取る。

そのままジッと見つめていると、宵闇色の瞳がゆっくりと開いた。
数度瞬きをすると、意識がハッキリしたのかバチッと音がしそうな勢いで目をガン開きしてからぷるぷると震え出した。

「───な」
「・・・・・・な?」
「───なななんでこここんな、え? は?」
「・・・・・・落ち着け」
「おおお落ち着けるかバカ───!」

相手が混乱してると自分は逆に落ち着くってヤツは本当だな。
セラータは俺の膝の上でブランケットにミノムシのように包まれたまま大騒ぎしているが、いかんせん腕ごと包まれているので身動きが取れない。
本当にミノムシみたいで思わず笑ってしまった。

「ははっ、可愛いな」
「かっかっ可愛くない!」

久しぶりにセラータの顔を見て笑った。
ここ数年はあんな噂に惑わされて避けるように過ごしていたからな。

・・・・・・本当に俺はバカだった。少し考えればセラータはそんな男じゃないと分かるのに。

「・・・・・・すまなかった」

俺はセラータをぎゅっと抱きしめて謝った。
セラータはキョトンとしていて意味不明という顔だった。

「・・・・・・え? 何が?」
「その・・・・・・噂を鵜呑みにして、避けていたこと」

そう言ったら合点がいったらしく頷いた。

「・・・・・・あー、やっぱり? 哀しかったけど仕方ないよ。どっから出たのか、気付いたら酷い噂があっと言う間に広まってたもんな」
「本当にすまない」
「もういいよ。・・・・・・魔力供給してくれたの? ありがとう。助かった。だいぶ気分がいい」

そう言って頭を俺の首筋にぐりぐりと押し付けてくる。
セラータの昔からの癖だ。懐かない野良猫が甘えて頭を押し付ける感じ。

セラータがダスク公爵家に養子に引き取られたと聞き、我がドーン公爵家でもセラータの身辺を徹底的に調査した。

セラータという名はアディス様が養子にするときに新しくつけた名だそうだ。
何でもセラータ本人が元の名を名乗りたくないとアディス様に訴えたらしい。

正妻によって殺されかけたのに、母親である元子爵令嬢も父親である侯爵も捜索すらしていなかった。
そんな薄情な者達との繋がりを断ちたかったのだと、僅か4歳の幼子が決断したというのだから驚きだ。

そんな聡明なあの子が今後活躍して顔を知られた時、万が一『うちの子だ』と、かつて見捨てた大人達が名乗りをあげて下手に関われないように、徹底的にセラータの痕跡を潰した。

それはもう、ダスク家もドーン家も協力して念入りに徹底的に行った。
だからスラム街に捨て置かれた後の足取りは途絶え、死体も残らず消え失せたと思われるだろう。

髪の色が父親の橙色から藍色へと変化したこともあって、父親の髪色を目印に探すならまず見つからない。

ごく稀に強い精神的ストレスで髪色が変わることがあるという。
捨てられ、死の淵で絶望したセラータは髪色をその気持ちを表すように暗く染めてしまったのだ。

だが今はその宵闇色の髪は癒しの夜に向けての優しい色になっている。

俺の一番好きな色だ。

   ◇◆◇

いつの間にか、俺は眠っているうちにアルヴァから魔力供給を受けていたらしい。

もちろんそれはキスのみでの行為だったけど、粘膜摂取で体液ってことは、つまり、ディ、ディープキスってヤツだよな!?

俺は前世でもおそらくそういう経験がなくて、今世は言わずもがな。噂のせいでビッチみたいに思われてるけど初めてだからな!

でもその初めてがただの魔力供給のためっていう医療行為なわけで・・・・・・。

これはアレだ! 溺れたりして人工呼吸するのはノーカンみたいな!

うん、俺の精神衛生上、そう思わなきゃやってられない。

そうこうしているうちに仮眠室の扉が開いてアディスが足早に入ってきた。

「セラ! 目が覚めてよかった! だったがアルヴァを呼んだんだよ。駄目だよ、もう無理しないで。お願いだよ?」

不本意を強調してるアディスに苦笑する。

「あーうん。今回みたいなのはイレギュラーだと思うし、次からはもっと気を付ける」
「セラはもっと私達に甘えて頼っていいんだからね。一人で抱え込まないで」
「───うん」

甘えてって言っても、もう十分甘えてると思うけどなあ。一人でっていうのも・・・まあ前世の記憶があるから年相応には見えないのかも。

だいぶ心配をかけたようで申し訳ない。

それにしても、アディスがアルヴァを呼んでくれたんだ。ここ数年、疎遠になってたし噂のせいで絶対に応じないと思ってたのに。

たぶんアディスか補佐のカーティスさん辺りが噂を否定してくれたんだろう。避けられてたせいで俺は否定すらさせて貰えなかったからな。

結果的には仲直り出来たからいいんだけど。
だからって幼馴染みの関係が変わるわけじゃないと分かってる。

でもこういうときくらいはアルヴァにちょっと甘えても・・・いいよね。

アディスとそんなやり取りをしているうちにいつの間にかアルヴァはいなくなっていた。
カーティスさんによると、騎士団本部に戻ったらしい。
報告の途中で俺のために来て貰ったのだろう。悪いことしたな。

「でね、仕事終わらせたから一緒に帰ろう! それでさっき言ったように一緒にご飯食べてお酒飲んで、一緒に眠ろう」
「うん、嬉しい。いっぱい甘やかして?」
「うんうん。でねでね、セラは明日から一週間休暇にしたから、のんびり休んで。魔力回復させなきゃね」
「いいの? ありがとう。久しぶりにゆっくりと眠れる」

最近は週一の休みも取れないこともあったから嬉しい。

「そうと決まればさあ行こうすぐ行こうさっさと帰ろう!」
「はいはい、支度はお済みですからいつでもどうぞ。あ、師団長は明日も仕事ですからね」
「えー、ぶーぶー!」
「可愛いけど可愛くないですよ」
「あははっ」

アディスとカーティスさんのコントみたいなやり取りに思わず笑ってしまう。

ああ、本当に久しぶりのいい気分だ。


ダスク家に帰って来て、のんびりお風呂に浸かる。
思い出すのは久しぶりにまともに見たアルヴァの顔。

アルヴァは俺がアディスに連れられて公爵家にやって来た次の日に初めて会った。

最初、連れて来られたあとお風呂に入れられて、捨てられるときにナイフでざんばらに切られてボサボサだった髪を綺麗に整えられて。

その時初めて、髪色が変わってることに気付いた。
父親という貴族の髪色が橙色で、それで俺はちゃんとその血を引いているって認められたんだっけ。

でも今は藍色にところどころ夕焼け色のメッシュがある感じ。
髪って色が変わるんだって不思議に思ってたら、ロマンスグレーのオールバックの髪に優しそうな顔立ちのサイモンさんという執事長がちょっと哀しそうに教えてくれた。

『とてもショックなことがあると稀に変わるそうです。・・・・・・とてもお辛いことがあったのですね』

なるほど。確かに悪意に晒され死にかければ絶望的になって、そういうのも有り得るよな。だって俺、一応4歳の幼児だし。

攫われるまではそこそこ待遇もよくてマナーなんかもきちんと教わっていた。だからそのままいけばたぶん認知してお披露目されたと思う。
そりゃあ正妻からすれば下剋上も有り得るし、始末したくもなるよな。

でも俺が悪いわけじゃないじゃん。
そういうの、大人達で勝手にやってくれよ。

色々考えてたらいつの間にかまたぼろぼろ泣いちゃって。
子供だから気持ちとは裏腹に感情のセーブが難しくて。
いつ来たのか、またアディスに抱きしめられてて、ホッとして俺も縋り付いて気の済むまで泣いた。

『俺の名前、貴方が付けて下さい』

詳しい話を──と聞かれて、俺は自分の知り得る情報を事細かにアディスに話した。

母親のこと、父親のこと、正妻のこと。
自分のことも前世の記憶以外は話した。

その上で俺は言った。

『あんな家に二度と関わりたくないので、俺をこの世界から消して下さい。名前も変えて新しく生まれ変わりたいです』

そしてアディスに願った。

新しい名前が欲しいと。
俺が今ココで生きている証が欲しいと。

俺がアディスにした最初の我が儘だった。

アディスは驚き目を瞠ったけど、すぐに満面の笑みで頷いた。

『うん、分かった。じゃあ君は「セラータ」。宵闇のことをさす言葉だよ。綺麗な宵闇色の、私の息子』
『セラータ・・・・・・セラータ。俺は今からセラータで、アディス・・・父様の子?』
『───っそうだよ。大切な、私の子。我が家族』
『・・・・・・父様? 父様も何か辛いことがあったのですか?』

しゃがんで俺の肩に顔を埋めるアディスが震えていて、俺は思わず抱きしめながらアディスの頭を撫で撫でした。

『うん、うん、大丈夫。セラータがいるから。邸の皆もいるから、大丈夫』

そう泣き笑いの顔で言ったアディス。

そのあと早い段階で、アディスのご両親が流行病で亡くなり、嫡男のアディスが公爵家を継いだことを知った。

俺達は家族を失った者同士だったんだ。

あのあと、久しぶりのご飯でお腹の膨れた俺は、安全な寝床で夢も見ずにぐっすり眠った。

そして次の日、すっかり日が高くなったお昼前に目が覚めて、前世で慣れ親しんだ黒髪黒目のアルヴァと出会うのだった。

いつの間にかベッドに腰掛けてこちらを見つめていた男の子に、俺は固まった。

───誰? ここにいるってことはアディスの邸の誰か? でも勝手に寝室に入ったりは、普通しないよな?

ぐるぐると考えてたら、向こうから答えが返ってきた。

『俺は隣の領地のドーン公爵家の次男でアルヴァという。君はダスク公爵家の養子になったセラータ、であってるか?』
『うん、あ、はい。たぶん、養子になった、のかな?』
『ええ。昨日のうちにきちんと受理されましたから、セラータ様は我がダスク家の坊ちゃまでございます』

昨日そう言われたけど、さすがに手続きとか時間かかるよね?
そう思ってたら、昨日の執事長さんが来て教えてくれた。
早っ!

『それよりもアルヴァ様、先触れもなくいらっしゃったうえに勝手に坊ちゃまの寝室に入るなんて、いけませんねえ』
『・・・・・・あ、やっぱりマナー違反なんだ』
『当然でございます。さ、あとは私に任せてくださいませ』
『ひっ、すまん! あ、アディス様のところには・・・・・・止めてー!』

別の公爵家の子なのに首根っこを掴んでプランプランと持ち上げて部屋をあとにする執事長を呆然と眺めていたのだった。






※アルヴァとの出会いが続きます。



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