【完結】水と夢の中の太陽

エウラ

文字の大きさ
14 / 90
第一章 フォレスター編

還ってきた子(sideウィステリア)

しおりを挟む
今日、久方振りにフォレスター家に赴いた。
例の三男に一般常識を教えて欲しいと、イグニスに頼まれたのだ。

三男-アルカスが時空の歪みに呑まれて消えてから、はや19年。
20歳までに見つからねば諦めよう・・・そう決めていたという。そんな矢先、神の采配か、クラビスの元へ還ってきた。

あの者達の歓喜は如何ほどのものか。

よもや異世界へと渡っていたとは。よくぞ無事で、と言わざるを得ない。

「それにしても小さかったな」

思い出すのは、もっくもっくと口を動かして一生懸命食べる姿。
とてももうじき20歳を迎える姿ではない。明らかに成長が阻害されていた。

聞けば、その異世界は魔力がないと言う。代わりに天然の資源や、ソレを加工したモノを使うそうで。

想像もつかないが。

彼にとっては慣れた世界であっても、本来はこちらの人間。体は悲鳴をあげ続けたろう。

生きるためにも魔力は必要不可欠。
魔力欠乏に陥っただけで昏倒する。
生命維持の為の生存本能。

枯渇すると、今度は生命を削っていく。
対処しないと死に至る。

ソレを生まれて間もない赤子が、およそ20年毎日枯渇状態で生きていくには、死なない程度に身体の一部を少しずつでも生命エネルギーに変えるしかない。

その結果、生き延びはしたが小柄な体になった。

考えるだけでも末恐ろしい子だ。ソレを無意識下で行っていた訳だから。魔法を会得したらどうなるか、と。
楽しみ半分、怖さ半分。

そして今は、慢性的な魔力枯渇から魔力欠乏に移行しているが、どうやら循環がうまくいってないようだ。
体と魔力の器の統合がまだまだのようだ。ゆっくり経過を見るようだな。
本来は赤子のうちから少しずつ馴染んでいくものだしな。

先の魔法教師を任ぜられたフェイによると、膨大な魔力を持つだろうと。
ソレは私も感じた。
魔力欠乏から抜け出すにはまだほど遠いだろう。それにしても。

「孫がいたらあんな感じなのだろうな」

去り際に頭を撫でたら、爺様を見るような目でほわん、としていた。

エルフは元々子供が出来にくい。そもそも長命種は、伴侶が出来ないとそういった気にもなりにくい。エルフは特に。

まあ、番を得た竜人や獣人はその限りではないが。

それ故、子供が産まれると皆で見守り、育て、可愛がる。ここ暫く、エルフの子も産まれていない。久しく感じていなかった親愛をあの子に感じて。

「久方振りに気持ちが高揚しているようだ。悪くないな。この感情は」

まずは常識がどれ位違うのか擦り合わせていかないと。ああ。赤子に教えるように一からやらないといけないかな?

「ふふふ、明日が待ち遠しい何てね」

頭の中で必要な資料をピックアップしていく。
後はこちらでも魔力の循環を手助けしようか。フェイに確認しよう。





《先生、それで、どうでしたか? アルカスは》
夜になり、イグニスから伝達魔導具に通信が入った。

「いい子だね。そして色々と可愛らしい。小動物のようで」
もっくもっくと口を動かしている姿を思い出して笑ってしまった。

《本人は不本意らしく、そう言うと拗ねてしまうのですが》
イグニスは苦笑しているが。
「帰り際に頭を撫でたら喜んでいたよ。私を爺様のように見ていたが」
《え、それは、その》
申し訳なさそうにイグニスが頭を下げるが、いいのだ。
「何、こちらも孫をみるような気持ちだったから気にするな。何というか、無条件に可愛がりたくなるな」
《そうですね。今までの分、甘やかしてしまいたくなります。いけないとは思っているのですが・・・》

親心、だな。

「だが、思ったよりは甘えてこない。まあ、クラビスには別のようだが。・・・甘えられる環境ではなかったんだろうな」
《それを思うと、胸が痛みます》
「まあ、追々とな。とりあえず、体調を見ながら明日から勉強をしていこうか。・・・魔力の件はどこまで把握している?」

暫く沈黙した後、イグニスが話し始めた。

《異世界で生きていたのは奇跡と。魔力枯渇の影響で小柄らしいと。未だ欠乏状態で、休息の為に頻繁に倒れること・・・ですかね》
「うむ、概ねその通りだね。フェイも色々考えているようだから、また時間のあるときに情報を擦り合わせようか」

《こんな時、王都にいることが歯痒いですね。すぐに駆けつけられない。この間は王家に話を通しての緊急措置でしたので》

ああ。アルカスの帰宅に合わせて転移魔法陣を使ったって。

王家も、フォレスター家がずっとアルカスを探していたことを知っていたし、将軍職を蔑ろにしていたわけでもない。息子共々しっかり勤め上げている。
今は国の情勢は穏やかで魔物退治なども少ない。
一週間やそこら休暇を取っても問題なかった。

最も、半分くらいはアルカスが眠っていて交流が少なかったようだが。

「王家もアルカスに会いたいと言わなかったかい?」
《・・・王に言われました。が、慣れるまでは暫く遠慮させていただきますと》
「確かに、今の状況では無理だろうね。それこそ謁見中に倒れそうだ」
思わずクスリ、と笑ってしまった。
《笑い事ではございません》
「ごめん。まあ、あんまりしつこいようなら私が釘を刺そう。本当に当分無理だからね。可愛い『孫』の為に一肌脱ごう」

《・・・ありがとうございます》
幾分かホッとして、では、またと通信を切ったイグニスだったが。




「・・・爺様、か」
執務室で空気を読んで静かにしていたクレインとガラシアが、イグニスがしみじみと呟く言葉に噴き出した。

「あの方にはどうあっても似合わない言葉のはずなのに、何故かしっくりくるな」
「アルカスを孫扱い」
「そのアルカスがウィステリア様を爺様扱い」

目に浮かぶようだった。

その後の執務室は主(イグニス)が帰るまで、ほわんとした空気に包まれていたそうだ。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

生まれ変わったら知ってるモブだった

マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。 貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。 毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。 この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。 その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。 その瞬間に思い出したんだ。 僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。

タチですが異世界ではじめて奪われました

BL
「異世界ではじめて奪われました」の続編となります! 読まなくてもわかるようにはなっていますが気になった方は前作も読んで頂けると嬉しいです! 俺は桐生樹。21歳。平凡な大学3年生。 2年前に兄が死んでから少し荒れた生活を送っている。 丁度2年前の同じ場所で黙祷を捧げていたとき、俺の世界は一変した。 「異世界ではじめて奪われました」の主人公の弟が主役です! もちろんハルトのその後なんかも出てきます! ちょっと捻くれた性格の弟が溺愛される王道ストーリー。

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます

野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。 得た職は冒険者ギルドの職員だった。 金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。 マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。 夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。 以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

異世界で恋をしたのは不器用な騎士でした

たがわリウ
BL
年下騎士×賢者 異世界転移/両片想い 6年前に突然異世界にやってきたヒロナは、最初こそ戸惑ったものの、今では以前とは違う暮らしを楽しんでいた。 この世界を知るために旅をし様々な知識を蓄えた結果、ある国に賢者として仕えることに。 魔法の指導等で王子と関わるうちに、王子の警衛担当騎士、ルーフスにいつの間にか憧れを抱く。 ルーフスも不器用ながらもヒロナに同じような思いを向け、2人は少しずつ距離を縮めていく。 そんなある時、ヒロナが人攫いに巻き込まれてしまい――。

天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました

藤吉めぐみ
BL
12/23後日談追加しました。 ================= 高校の養護教諭の世凪は、放課後の見回り中にプールに落ちてしまう。カナヅチの世凪は、そのまま溺れたと思ったが、気づくと全く知らない場所にある小さな池に座り込んでいた。 ここがどこなのか、何がどうなったのか分からない世凪に、「かあさま」と呼んで近づく小さな男の子。彼の怪我の手当てをしたら、世凪は不審者として捕まってしまう。 そんな世凪を助けてくれたのは、「氷の王子」と呼ばれるこの国の第二王子アドウェル。 冷淡で表情も変わらない人だと周りに言われたが、世凪に対するアドウェルは、穏やかで優しくて、理想の王子様でドキドキしてしまう世凪。でも王子は世凪に母親を重ねているようで…… 優しい年下王子様×異世界転移してきた前向き養護教諭の互いを知って認めていくあたたかな恋の話です。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

処理中です...