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第一章 フォレスター編
ギルドの指名依頼(sideフェイ)
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それは唐突だった。
ギルマスからの呼び出しに行ってみれば、フォレスター家からの指名依頼だと言う。
「詳しくは邸に来てからだそうだが、もちろん断っても問題はない。が、出来れば話を聞いた上で受けてくれると助かる」
ギルマスのダルクが真面目な顔で言った。
「・・・内容によりますけど。領主様なら悪いことではないんでしょうけど」
「・・・まあ、お前が適任と判断された、と言うことだな。魔導師でランクA、ソロで自由がきく。魔法に関しては王宮魔導師に引けを取らない」
・・・なるほど。魔法を教えるとかかな?
そうすると、次期当主のご子息辺りか?
「分かりました。伺いましょう。いつですか?」
「ああ、3日後に、時間は午前中なら構わないそうだよ。よろしく頼む」
ギルマスの部屋を後にして、一旦、宿に戻る。
「初日は説明と顔合わせかな? 特に必要な物はないだろうし、大概は異空間収納バッグにあるしな」
そういえばクラビスがコッチに戻っていると聞いたが、見てないな。さっき聞けばよかった。おそらく領主邸にいるのだろう。
---クラビス。彼に初めて会ったのはまだギルドに登録する前。14才になる頃だった。
人好きしそうな、穏やかで優しそうな表情を浮かべていた。王子と言われても疑わないほどの容姿の整った子供だった。線も細かった。
魔術師かな、と。俺も細いし、仲間かなと勝手に思っていた。
魔術師は大抵細くて、力も弱い。
だからか、老若男女、皆、俺に『受け』を求める。中には『攻め』を求めるヤツもいたが、そもそもまだ未成年なのに、そういう目で見られ続けてうんざりしていた。
クラビスも俺みたいな思いをしていると。
ところが。
蓋を開けて見ると、彼は完全物理攻撃特化型で、魔法も使うが、大概は剣で斬り捨てていた。
そもそも剣で魔法を斬るって何?!
斬れるモンなのか?!
「斬れるんだからそういうモンだよ」
にっこり笑った顔に薄ら寒いモノを感じて、深く追及することを止めた俺はエライ。
(こいつ腹黒だ。笑顔でオブラートに包んでるけど絶対ヤバいヤツだ)
・・・俺の勘は当たった。
後で知ったが、クラビスはフォレスター家の分家で、第三子の従者兼護衛に選ばれていた。物心ついた頃から剣を握っていたそうだ。
しかし、今その末っ子は・・・。
フォレスター領の領民なら知らない人はいない。
生まれて間もなく、時空の歪みに巻き込まれて一瞬にして消えてしまったと。
お触れを出して国中探しているが、情報が全くないと。
「特例は認められない。上が決まりを破ることは出来ない。だから成人まで、ギルドに登録出来るまでに鍛えて鍛え抜くんだ。俺がアルカス様を絶対に見つけ出す」
そう言ったクラビスは笑顔を消して遙か彼方を見つめていた。
「そうして、絶対に嫁にするんだ」
・・・・・・
・・・そうか、お前の中では、アルカス様は『嫁』なんだな。フォレスター家の面々を見ても『嫁』にする方なんだ・・・。
ガンバレ。
俺も『嫁』をもらえるように鍛えよう。せめて襲ってくるヤツらをボコれるように。
そんな回想をした3日後の朝。
俺はフォレスター家で衝撃の事実を知った。
アルカス様が異世界から戻ってきて、魔法全般分からないから教えて欲しいと。
え、アルカス様ちっさ!
いやいや、異世界って何?! そんなところに行ってたの?! そりゃ見つからないって!
黙っていやがったなクラビスてめえ後で覚えてろ!
そしてクラビスの『嫁』発言に動揺して取り乱したのは仕方ないだろう!
有言実行か。男前だな!
まあ、幸せそうでよかった。あんなに必死に鍛えた甲斐があったってモンだ。
落ち着いたらそのうち、お披露目でもするんだろう。
それまでは俺も皆に内緒で、アルカス様を可愛がろう。それくらいいいよな?
「フェイ、悪いがアルカスはまだ魔力が馴染みきっていない。まだ頻繁に意識を失うように眠ってしまう。おそらく勉強中にも寝落ちる」
アルカス様がお手洗いに立ったのを見計らってクラビスが話し出した。
「異世界で育った影響か。・・・以前、魔力枯渇を続けていくと魔力の器が大きくなると話したな?」
「ああ」
「もちろん枯渇ギリギリで、誰かが付き添って危険がないようにやるんだが。実際、その異世界では魔力がないというんだから、赤子の時から強制的にソレをやったことになる訳で」
一旦言葉を切ると、深く息を吸い込んだ。
「アルカス様は、おそらく国1番の魔力保有者だ。王宮魔導師なんて目じゃない」
だから全然魔力が足りなくて、未だに倒れるんだ。
「魔力が満ち足りるのにどれくらいかかるか、想像がつかない。様子見だな」
「・・・そうか。コレばかりは仕方ないだろう。命に別状がないだけマシだ」
「俺も出来るだけ協力するぜ。何かあれば、いや、なくても相談に乗るから」
わざとおどけたように言えば、苦笑交じりで分かった、と言った。
ちょうどアルカス様が戻ってきて、見ればやや眠そうにしている。これは寝落ちる前触れだな。
魔力の流れを見れば、細くて途切れそうだ。体が馴染んでいなくて魔力がうまく循環出来てない。何とかしないと、器に溜まらない。
とりあえず、帰って策を練るとしよう。
「じゃあ、とりあえず明日から座学を交えて頑張ろうか」
そう言って領主邸を後にした。
来るときとは違って、足取りは軽かった。
ギルマスからの呼び出しに行ってみれば、フォレスター家からの指名依頼だと言う。
「詳しくは邸に来てからだそうだが、もちろん断っても問題はない。が、出来れば話を聞いた上で受けてくれると助かる」
ギルマスのダルクが真面目な顔で言った。
「・・・内容によりますけど。領主様なら悪いことではないんでしょうけど」
「・・・まあ、お前が適任と判断された、と言うことだな。魔導師でランクA、ソロで自由がきく。魔法に関しては王宮魔導師に引けを取らない」
・・・なるほど。魔法を教えるとかかな?
そうすると、次期当主のご子息辺りか?
「分かりました。伺いましょう。いつですか?」
「ああ、3日後に、時間は午前中なら構わないそうだよ。よろしく頼む」
ギルマスの部屋を後にして、一旦、宿に戻る。
「初日は説明と顔合わせかな? 特に必要な物はないだろうし、大概は異空間収納バッグにあるしな」
そういえばクラビスがコッチに戻っていると聞いたが、見てないな。さっき聞けばよかった。おそらく領主邸にいるのだろう。
---クラビス。彼に初めて会ったのはまだギルドに登録する前。14才になる頃だった。
人好きしそうな、穏やかで優しそうな表情を浮かべていた。王子と言われても疑わないほどの容姿の整った子供だった。線も細かった。
魔術師かな、と。俺も細いし、仲間かなと勝手に思っていた。
魔術師は大抵細くて、力も弱い。
だからか、老若男女、皆、俺に『受け』を求める。中には『攻め』を求めるヤツもいたが、そもそもまだ未成年なのに、そういう目で見られ続けてうんざりしていた。
クラビスも俺みたいな思いをしていると。
ところが。
蓋を開けて見ると、彼は完全物理攻撃特化型で、魔法も使うが、大概は剣で斬り捨てていた。
そもそも剣で魔法を斬るって何?!
斬れるモンなのか?!
「斬れるんだからそういうモンだよ」
にっこり笑った顔に薄ら寒いモノを感じて、深く追及することを止めた俺はエライ。
(こいつ腹黒だ。笑顔でオブラートに包んでるけど絶対ヤバいヤツだ)
・・・俺の勘は当たった。
後で知ったが、クラビスはフォレスター家の分家で、第三子の従者兼護衛に選ばれていた。物心ついた頃から剣を握っていたそうだ。
しかし、今その末っ子は・・・。
フォレスター領の領民なら知らない人はいない。
生まれて間もなく、時空の歪みに巻き込まれて一瞬にして消えてしまったと。
お触れを出して国中探しているが、情報が全くないと。
「特例は認められない。上が決まりを破ることは出来ない。だから成人まで、ギルドに登録出来るまでに鍛えて鍛え抜くんだ。俺がアルカス様を絶対に見つけ出す」
そう言ったクラビスは笑顔を消して遙か彼方を見つめていた。
「そうして、絶対に嫁にするんだ」
・・・・・・
・・・そうか、お前の中では、アルカス様は『嫁』なんだな。フォレスター家の面々を見ても『嫁』にする方なんだ・・・。
ガンバレ。
俺も『嫁』をもらえるように鍛えよう。せめて襲ってくるヤツらをボコれるように。
そんな回想をした3日後の朝。
俺はフォレスター家で衝撃の事実を知った。
アルカス様が異世界から戻ってきて、魔法全般分からないから教えて欲しいと。
え、アルカス様ちっさ!
いやいや、異世界って何?! そんなところに行ってたの?! そりゃ見つからないって!
黙っていやがったなクラビスてめえ後で覚えてろ!
そしてクラビスの『嫁』発言に動揺して取り乱したのは仕方ないだろう!
有言実行か。男前だな!
まあ、幸せそうでよかった。あんなに必死に鍛えた甲斐があったってモンだ。
落ち着いたらそのうち、お披露目でもするんだろう。
それまでは俺も皆に内緒で、アルカス様を可愛がろう。それくらいいいよな?
「フェイ、悪いがアルカスはまだ魔力が馴染みきっていない。まだ頻繁に意識を失うように眠ってしまう。おそらく勉強中にも寝落ちる」
アルカス様がお手洗いに立ったのを見計らってクラビスが話し出した。
「異世界で育った影響か。・・・以前、魔力枯渇を続けていくと魔力の器が大きくなると話したな?」
「ああ」
「もちろん枯渇ギリギリで、誰かが付き添って危険がないようにやるんだが。実際、その異世界では魔力がないというんだから、赤子の時から強制的にソレをやったことになる訳で」
一旦言葉を切ると、深く息を吸い込んだ。
「アルカス様は、おそらく国1番の魔力保有者だ。王宮魔導師なんて目じゃない」
だから全然魔力が足りなくて、未だに倒れるんだ。
「魔力が満ち足りるのにどれくらいかかるか、想像がつかない。様子見だな」
「・・・そうか。コレばかりは仕方ないだろう。命に別状がないだけマシだ」
「俺も出来るだけ協力するぜ。何かあれば、いや、なくても相談に乗るから」
わざとおどけたように言えば、苦笑交じりで分かった、と言った。
ちょうどアルカス様が戻ってきて、見ればやや眠そうにしている。これは寝落ちる前触れだな。
魔力の流れを見れば、細くて途切れそうだ。体が馴染んでいなくて魔力がうまく循環出来てない。何とかしないと、器に溜まらない。
とりあえず、帰って策を練るとしよう。
「じゃあ、とりあえず明日から座学を交えて頑張ろうか」
そう言って領主邸を後にした。
来るときとは違って、足取りは軽かった。
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