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9 自覚(sideシュルツ)
しおりを挟む「───で? ずいぶんとお早いお戻りで」
夜遅く帝都の冒険者ギルドに戻ったシュルツは、ギルマスがいることを確認するとさっさと報告に向かった。
ギルドは通常、職員がシフトで仕事をしていて24時間開いている。
だがギルマスやサブギルマスは当然一人づつなので24時間働いているわけじゃ無い。
夜は普通に休みなんだが、おそらく今日は俺が来ることを予想していたんだろう。
「幸いな事に行って直ぐに接触出来たんですよ。はい、報告書」
そう言って作成しておいた報告書を渡す。
「どれどれ・・・・・・おお、やっぱりエルフか。ふうん、4年前から住んでるって?」
「ええ、見たところまだ子供でしたが、可愛らしくて穏やかな感じでしたよ」
「・・・子供って・・・エルフも竜人と同じで長命種だから見た目じゃわからんだろう? 歳は聞かなかったのか?」
報告書から顔をあげてギルマスが呆れるようにそう言ってきたが、そう言えば歳の話はしなかったな。
「・・・・・・ちょっと訳ありっぽかったので、深くは踏み込まなかったんですけど・・・」
「───まさか、奴隷狩りにあってたのか?」
ギルマスが顔色を変えて聞いてきた。
エルフの訳ありと聞くと真っ先に浮かぶのがそれだ。
「・・・分かりません。・・・が、精霊以外に拒絶反応を起こすと精霊達が言ってましたね。4年前の事を聞いたとき、本人が昏い瞳で言いたくないと口を閉ざしましたので、あるいは・・・」
「・・・・・・そうか。まあ、傷を抉りかねないことは黙っておくに限る。コッチは【管理者】として生活してもらえれば御の字だ」
暗にそれには触れるな、と言うギルマス。
俺だって好き好んでイヤな記憶を刺激したくは無いので頷いておく。
「じゃあこれで、私は帰ります」
「おう、ご苦労様・・・・・・と言いたいが、この報告書、公爵様に持っていってくれ。手間が省ける」
「───チッ、・・・持ってきゃ良いんでしょ?」
そもそも親父の依頼だから、俺から話せば良いんだが・・・二度手間!
「頼んだぜ。さて、俺もやっと帰れるー!」
やっぱり俺を待ってたな。
やれやれだぜ。
冒険者ギルドをあとにして、すでに10時を回っている夜遅くに我が家に向かった。
「お帰りなさいませ、坊ちゃま」
「坊ちゃまはよせと何時も言ってるだろう」
「ホホホ、まだまだ独り身のうちは坊ちゃまでございますよ」
「・・・・・・父上は?」
「執務室でお待ちでございますよ」
古くから仕えている執事長のスミスが揶揄うように言うのを聞き流して親父のことを聞くとそう返ってきた。
やっぱり待っていたのだろう。
帰ったその足で執務室に向かう。
「父上、シュルツです」
「入れ」
間髪入れずに返って来た応えにドアを開ける。
「遅くなりました。これが今回の依頼の内容です。じゃあこれで」
「───待て待て待て! 少しは話をしていけ!」
サッサと踵を返すと引き留められた。
「別に話す事は無いでしょう? それに書いてあるし。支度をして早く戻りたいんですよ」
イラッとしてそう言うとニヤリと笑われた。
・・・何だ?
「・・・・・・見つけたな?」
「・・・・・・何を・・・」
「ええ・・・無自覚かい?! 番いだよ、番い! おそらくだけど、【管理者】がお前の番いだろう?」
「───え?」
そう言われて、ハッとする。
そういえばやたらと会いたくなったし、どきどきした。
すでにあそこには帰るって無意識に思っていた。
───そうか。
あんなに目が離せなくて側にいたいと思ったのは、そういうことだったのか。
自覚した途端、カーッと顔が熱くなった。
目に映った父親が驚いた顔をしているのが見えた。
おそらく俺は今、真っ赤な顔で固まっているだろう。
「───ああもう、そんな顔されちゃ、もう何も言えないよ。サッサと荷物纏めて行っちゃいな。ああ、通信魔導具は持っていって。毎日と言いたい所だけどせめて数日に一度は連絡を入れなさいよ?」
「───っ、分かった。じゃあ・・・」
敬語どころじゃ無く、そう言ってシュルツは行儀悪くドアをバタンと閉めて出て行った。
「そっか。やっぱり予感は当たったか・・・・・・」
報告書を見るに、良い子っぽいから良かった。
いくら次男で冒険者なんて自由にさせているとはいえ、それでも王家の縁戚だ。
良識の無い者がシュルツの番いであったなら、その者を密かに殺してでも止めただろうが・・・。
番いは身分や育ち、種族が違えども我々竜人にとっては至宝。
全身全霊で愛し、番いの願いは何でも叶えようとしてしまう───良くも悪くも、一途なのだ。
故に悪い方に暴走してしまえば・・・・・・。
「影数人を交代で警護にあたらせねばな。いくら精霊の森が安全とはいえ【管理者】イツキ殿に何かあればシュルツは荒れるだろう。・・・後はイツキ殿の過去・・・奴隷狩りの被害者かもしれないんだよね?」
独り言のように呟いたそれに応える影が・・・。
『ギルマスとその可能性を話しておりました』
「・・・そっか。こちらで密かに動いておこう」
『御意』
何処にでも馬鹿はいるもんだからね。
そのせいでこの世界が危機に瀕しているというのに・・・。
目先の事しか見られない愚か者共め。
「森人が森と共生しているからこそ魔力が溢れ、我々も生活できているというのに・・・」
誰ともなしに呟いた声は、今度は誰も拾うことは無かった・・・。
「おや、坊ちゃま。こんな時間にお出かけですか?」
廊下で執事長のスミスにあった。
俺がせかせかとしているのを気に止めたのだろう。
「スミス。ああ、支度をして精霊の森に戻る」
シュルツがそう言っただけでピンときたらしい。
「・・・・・・ああ、なるほど。分かりました。お相手の方はどのような感じの?」
「えっ?! いや、ああ、うん・・・・・・薄金茶色の髪に柔らかい新緑色の瞳で、俺の胸くらいの高さの可愛らしい小柄な森人の少年だ」
今さら隠しても無駄なのでそう告げた。
「・・・・・・ほうほう、【管理者】殿ですな。・・・では厨房の方から甘味などを持ってこさせましょう。何、女性やお子様は大抵甘いものがお好きでしょうから、手土産にどうぞお持ち下さい」
「・・・そう言えばピチの実をシロップ漬けにしたものを茶請けに出されたな。確かに森では菓子類は手に入らないか」
焼き菓子を作るにしても材料は手に入らなそうだ。
「そうで御座いましょう? さあさあ、なれば手早く支度を整えませんと。あの森までは急いでも数時間かかりますでしょう」
「ああ、早く向かいたい」
「ほっほ、まさかこのような慶事に相まみえようとは、長生きはするものですな」
そう言って足早に厨房に向かうスミスは心なしかルンルンしている気がする。
───まあ良いか。
逸る心を宥めて、荷物を纏めるシュルツだった。
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