【コミカライズ企画進行中】ヒロインのシスコンお兄様は、悪役令嬢を溺愛してはいけません!

あきのみどり

文字の大きさ
171 / 192

170 ラーラの変化

しおりを挟む

 
 その変化に、ヘルムートはとまどっていた。
 例の行方知れず騒動のあとから、ラーラの様子がどうにもおかしい。
 いや、別に挙動がおかしいのではない。
 無事戻ってきたことにほっとして様子を見に行けば、彼女は愛想よく兄を迎え、疲れたと甘えてくる姿は彼にとっては見慣れた光景だ。
 ……だが、屈託なく「心細いからそばにいて」と、口にするさまは、ここ最近の兄妹のわだかまりなど、まるでなかったかのよう。
 あれだけ拒絶を見せ、強固な岩のようだった妹の態度が一変。うそのように消えてしまったことに、ヘルムートは少々困惑した。
 もちろん、もとのように仲の良い兄妹に戻れたことは嬉しいが……この急な変化には、何か理由があるはずだった。
 その戸惑いを、ヘルムートは素直にラーラに訊ねてみた。
 と、ラーラは「わたしもすこし反省したのよ」と、微笑む。

「ごめんなさいお兄様、わたし、すこしヤキモチを焼いてしまったの。すねてお兄様に冷たい態度をとって、悪かったと思ってるわ。……許してくれる?」

 うわめづかいで見上げられたヘルムートは、安堵の息。
 当然、もちろんだと頷いた。

 ここ最近思いつめたような妹の姿ばかり見ていた彼にとっては、今回のラーラの失踪は衝撃であった。
 だが、こうして彼女が無事で、明るい顔で謝罪すら口にする様子を見て、彼はすっかりその言葉を信じた。
 妹は、今とてもつらい時期ではあるのだろうが、彼女なりに、それを乗り越える道をみつけたのかもしれない、と。
 ヘルムートは、寝間着姿で寝台に起き上っている妹の傍らに腰を下ろす。
 ゼルマによれば、ラーラは疲れ切って帰ってきたらしい。兄はふがいなさを感じながら彼女に謝罪。

「……私も気遣いが足りず悪かった。自分のことに夢中になりすぎて、お前に負担をかけてしまった……。だが、わたしがお前のことを案じているのは本当だ。今後は、行く先をかならず家の者に伝えなさい。ゼルマも置いていかず、もし家の者がついていくのがいやなら、わたしができうる限りつきそうようにするから……」

 ヘルムートがそういうと、ラーラは笑みを浮かべて首を振る。

「ありがとうお兄様。でも大丈夫。お兄様は……最近お忙しいみたいだし……私なら大丈夫よ」

 その言葉には、ヘルムートはため息をつく。
 こうもしおらしくされると、よけいに責任を感じた。

「お兄様ったら、そんな顔なさらないで!」と、苦笑しつつ。
 ラーラは、内心で、ひっそりとほくそ笑む。

(……大丈夫、お兄様のなかにはまだ私がちゃんといるわ……)

 ラーラは本能的に、兄のなかに、まだ“シスコンの芽”がきちんと残っていることを感じとった。
 これまでは、愛を失った悲しさにまかせて嘆き、兄にあたってばかりだった。
 だが、ここからは、それではいけない。
 もっと、賢く立ち回らなくては。
 これまでのように、気持ちを病んで喚き散らすだけでは、きっとその言葉には信憑性がない。
 だからこれからは、“明るく善良で兄想いのラーラ”に戻るのだ。
 兄を気遣い、一歩引いて見せて。
 そうしてこそ、兄は、自分の言葉を信じるようになるだろう。

(……それに……人の気持ちなんて、あんがいあっさり変わってしまうもの)

 ラーラは己を自虐的に笑った。
 あれだけ親しいと信じていた王太子が、ぱったり来なくなったのと同じ。
 そう、同じことがあのイザベル・アンドリッヒに起こっても、なんら不思議はない。
 そうなるように、ラーラがうまく誘導してやればいいだけ。

 兄が部屋をあとにした寝室で、ラーラはくったくなく微笑んだ。

「よかった……あの子がすごく嫌な子で!」

 あれなら破局への道筋は案外楽に見つかるだろう。
 そう確信したラーラは、久方ぶりに、とても晴れやかな気持ちで眠りについた。


しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?

水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。 私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。

悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!

夕香里
恋愛
王子に婚約破棄され牢屋行き。 挙句の果てには獄中死になることを思い出した悪役令嬢のアタナシアは、家族と王子のために自分の心に蓋をして身を引くことにした。 だが、アタナシアに甦った記憶と少しずつ違う部分が出始めて……? 酷い結末を迎えるくらいなら自分から身を引こうと決めたアタナシアと王子の話。 ※小説家になろうでも投稿しています

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?

神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。 (私って一体何なの) 朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。 そして―― 「ここにいたのか」 目の前には記憶より若い伴侶の姿。 (……もしかして巻き戻った?) 今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!! だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。 学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。 そして居るはずのない人物がもう一人。 ……帝国の第二王子殿下? 彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。 一体何が起こっているの!?

処理中です...