【コミカライズ企画進行中】ヒロインのシスコンお兄様は、悪役令嬢を溺愛してはいけません!

あきのみどり

文字の大きさ
170 / 194

169 叔母の人生の謳歌度

しおりを挟む


「ヘルムート様がご不在ですので」と、いいながらやってきたグステルは、テーブルに並べた皿を着席したヴィムのほうへ手で押して近づけると、開いたスペースにパンの皿。

「今回は代わりに、ヴィムさんにご参加いただきます。……ああ大丈夫ですよヴィムさん。ヘルムート様にはお手紙を用意しますからね、ヴィムさんはしっかり食べていてください」

 こじんまりした食堂のまるいテーブルには、ヴィムのために用意された食事がずらりと並べられている。
 出席者は三名。
 グステルと、その彼女にマフィンどころか、パンやスープ、肉料理や果物などまで配膳されて目を丸くしているヴィム。
 そして、イザベル嬢である。
 ちなみにグステルの兄フリードは、メントライン家に居座ったまま。妹を邸に乗り込むために、彼が『邸に数日滞在する』と表明したためだが……。
 兄の堪え性のなさからいって、きっとそのうち戻ってくるだろう、とグステルは睨んでいる。……おそらく、大いに叔母とエルシャを疲弊させてから。

 と、昼間の一件で、いつもより不機嫌なイザベルがヴィムを睨む。

「……何よ……こいつヘルムートの付き人でしょ? あんた、何やってんの? ……餌付け?」

 イザベルは、ヴィムとはシュロスメリッサ以来。
 しかも今は八つ当たりできる相手を欲しているとあって、その圧は強い。眼光鋭く言葉も刺々しい令嬢に、気の弱い青年がすっかり怯えている。

「ひ……ひぃ……」

 と、そんなヴィムの隣にやってきたグステルが、椅子を引きながらイザベルに平然と言った。

「イザベル様睨まないでください。もはやヴィムさんは私の子ど……いえ、弟も同然なんです。どうぞイザベル様もかわいがってください」
「はあぁぁ?」

 なんで私がという顔のイザベルに、しかしグステルは「はいはい」と、取り合わない。

「イザベル様、イライラは八つ当たり以外でも発散できますから。さ、イザベル様もヴィムさんにお菓子でも貢いでみてください。ヴィムさんは食べてる時もかわいいですから、すごく癒されますよ? ええと、それで……」

 グステルは、完璧に疑いの眼差しのイザベルに、「はい」と、ヴィムにやるための菓子の皿を渡してから。話を先に進めようとヴィムの隣に着席した。
 ここは一度状況を整理しておきたかった。ヘルムートの代理のヴィムはともかく、イラついたイザベルはあまりいい聞き手とはいえないが。

「街邸の叔母たちの状況は、おおむね想像していた通りでしたが、少々想定外の事実も発覚いたしました」

 グステルは当初、叔母を“説得”する材料の一つとして、すでに領地で捕えられたアルマンを使おうと考えていた。
 彼は叔母の情人。あのようなチンピラ上がりの男にそそのかされるということは、大勢の使用人らに囲まれて威張ってはいても、叔母はどこかで孤独を感じているのだろう。きっと、アルマンは交渉材料に使える。……と、思っていたが……。
 もちろん、その一手は今後もどこかしらで使うことにはなるだろう。
 しかし、その叔母の孤独は、今回思わぬ形でグステルを驚かせることとなり、アルマンの交渉材料としての効力をも疑ってかからねばならぬ事態となった。
 メントライン家の街邸を調べた彼女は気が付いた。これは、彼女にとってはちょっと、理解しがたい話なのだが……。

 叔母グリゼルダには、もう……別に、男がいる。

 ……そのことを思い出すと……グステルの目が、つい、虚無を見る。

(……、……、……叔母様の……人生の謳歌度が爆発している………………)

 叔母は、兄である公爵を陥れるほどに、アルマンにほれ込んでいたのではなかったのだろうか。それとも、遠距離恋愛になって寂しさに耐えられず、言い寄ってきた男になびいてしまったのか、はたまた叔母のほうから言い寄ったのか……。どちらにしても、グステルには理解のできない思考であった。
 グステルはげっそりした。

「こんな話……とても子供イザベルとヴィムには聞かせられない……」
「?」※ヴィム
「……なんなのあんた?」※イザベル
「ふふ……おほほ」

 不可解そうな顔をする二人に、グステルは若干疲れのにじむ笑いで誤魔化す。
 しかし呆れるというか、大人のただれを感じさせる話はまだあるのだ。
 叔母はその新しい男に、街邸の嫡男の部屋──つまり、あの気位がそそり立つ山のように高く、すぐに腕力に訴える兄フリードの私室を、よりにもよって、その男に与えていたようなのである。
 そのことに気が付いたときは、さすがのグステルもちょっとゾッとした。
 
「……やれやれ……まったく叔母様は……次から次に恐ろしいことをやってくださいますよ……」

 兄が長年勤め先の領地にいて、その部屋が長らく使われていなかったとはいえ。よりによって跡取りのための特別な部屋を情人に与えるとは開いた口が塞がらない所業。
 そりゃあ情人は喜んだだろう。次期公爵に与えられる特別な部屋は、とにかく贅を凝らしてあった。
 しかし、そんな勝手をされた兄はどう思うだろうか。
 今のところ、グステルはこの事実をフリードには伝えていない。が、もし彼がこのことを知れば、おそらく激怒ではすまぬ事態。
 グステルの脳裏には、怒りと剛腕に任せて邸を蹂躙し、叔母を締め上げる兄の姿がはっきりと思い浮かぶ。

 ……言えない。とても言えやしない。

 グステルは思わず心の中で、今日もきっとその部屋を使っているだろう兄に手をすり合わせる。

(……ごめん、お兄様……! お部屋はあとでフルリフォームしてもらうからね……!)

 ここは知らぬが仏というやつである。
 いくら兄がガサツでも、自分の部屋が、叔母たちの逢瀬に使われていたかもしれないなんてことを知れば……さすがに気分が悪すぎるだろう。

「ま、まあ、ともかく……今後は別方面へのアプローチを優先します」

 そうテーブルに着く二人に宣言すると、叔母のただれていそうな話を割愛された二人はとても怪訝そうだったが。叔母と新たな情人の件は、下手につついては危険。すでに相手の男もなんとなくわかっているが、ひとまずこの事実は、兄の部屋をきれいさっぱり変えてしまうまでは隠ぺいしようと、グステルは決意した。
 代わりに先行させたいのが、王太子とエルシャの離間。
 グステルの目的は、物語の軌道修正。
 グステルの名を使って行われている叔母たちの企みをつぶし、王太子とラーラの恋物語を元に戻すこと。
 思うに、と、グステル。

「殿下とエルシャさえ離してしまえば、あとはラーラ様がご自分で何とかしてくださると思うのですよ……」

 グステルは、良くも悪くもラーラのヒロイン力を信じている。
 本当は、ラーラの力があれば、物語は最終的には丸く収まるところに着地するとは、思っている。

「……ですが。そこは、我らメントライン家が巻き込まれぬ形にせねばなりません」

 もはや物語とは別物になった自分の家族たちを、グステルは、ラーラのヒロイン力から守らなくてはならなかった。
 そのためには、悪事を働いた叔母をも守らなくてはならないことは、正直かなりもやもやするが、これは致し方なかった。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~〈本編完結済〉

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。 本編完結済み。 続きのお話を、掲載中です。

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。

しぎ
恋愛
カーティア・メラーニはある日、自分が悪役令嬢であることに気づいた。 断罪イベントまではあと数ヶ月、ヒロインへのざまぁ返しを計画…せずに、カーティアは大好きな読書を楽しみながら、修道院のパンフレットを取り寄せるのだった。悪役令嬢としての日々をカーティアがのんびり過ごしていると、不仲だったはずの婚約者との距離がだんだんおかしくなってきて…。

婚約破棄された悪役令嬢は、親の再婚でできた竜人族の義理の兄にいつの間にか求婚されていたみたいです⁉

あきのみどり
恋愛
【竜人族溺愛系義兄×勇ましき病弱系三白眼令嬢】の、すれ違いドタバタラブコメ 『私たちはその女に騙された!』 ──そう主張する婚約者と親友に、学園の悪役令嬢にしたてあげられた男爵令嬢エミリア・レヴィンは、思い切り、やさぐれた。 人族なんて大嫌い、悪役令嬢? 上等だ! ──と、負けん気を発揮しているところに、大好きな父が再婚するとの報せ。 慌てて帰った領地で、エミリアは、ある竜人族の青年と出会い、不思議なウロコを贈られるが……。 後日再会するも、しかしエミリアは気がつかなかった。そのウロコをくれた彼と、父に紹介されたドラゴン顔の『義兄』が、同一人物であることに……。 父に憧れ奮闘する脳筋病弱お嬢様と、彼女に一目惚れし、うっかり求婚してしまった竜人族義兄の、苦悩と萌え多きラブコメです。 突っ込みどころ満載。コメディ要素強め。設定ゆるめ。基本的にまぬけで平和なお話です。 ※なろうさんにも投稿中 ※書き手の許可のない転載は固く禁止いたします。翻訳転載は翻訳後の表現に責任が持てないため許可しません。 気持ちよく作品を生み出せなくなります。ご理解ください。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

処理中です...