悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!

水都(みなと)

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第7話 偏見

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 使用人たちに眼鏡について聞くと、全員が驚く……というより、ドン引きしていた。

「リゼル様に眼鏡を掛けさせるおつもりですか?」

 屋敷に一番長く仕えてくれている執事がそう言った。どうやら「眼鏡」というものは存在しているらしい。
 
「ええ、あの子目が悪いみたいだから、それで勉強も進まないみたいなの。眼鏡があれば勉強もできるし、本も読めるようになるわ」
「いけません。眼鏡を掛けさせるなど」
「どうして?」
「お言葉ですが、眼鏡を掛けていては知恵遅れだと示しているようなものです。少なくとも、貴族がお使いになるものではございません」

 強い口調でそう言われ、呆然とした。周りの使用人たちも頷き合っているから、どうやらこの世界ではそういう認識らしい。

「眼鏡は視力が弱い人にとっての補助道具よ。悪いものではありません。見えないままでいさせる方がよくないわ」
「しかし、外聞というものがありますので……」
「リゼルは今困っているの。あのまま見えなくて勉強ができなければ、あの子はますます自分がバカだと思い込んでしまうわ。とにかく、眼鏡を作ってくれるお店を探します」

 これはまた足で調べるしかないのかと、私は思案して自室へ戻った。あの様子だと、眼鏡屋を探すことは難しそうだ。まず眼鏡を掛ける人が見当たらないのだから。

 と、部屋にメアリーがやって来た。

「奥様、明日サイラス様がご訪問されたいとのことです」
「サイラス様が……?」

 サイラス・フォン・マーウッド卿、夫の弟つまりリゼルの叔父だ。葬儀以来会っていないが、何の用だろうか。私やリゼルを案じて元気づけようと……なんてことではないとわかっている。

 サイラスは夫の前や外面は良かったが、私には「没落貴族の田舎娘がよく取り入ったな」と何度も嫌味を言われた。

 リゼルに対しても「残念なことに兄上にも亡き義姉にも似ていない。兄上ときたら、実子ができないからと端の下からでも拾ってきたのか」など言う始末だった。

 今だったらぶん殴っていたかもしれないが、当時の私は猫を被っていたし、リゼルに無関心だったので何もしなかった。最大の後悔だ。

 私の方が義姉であるから立場は上だが、サイラスの方が年上で生まれながらの貴族として私よりも人望は厚く人脈も広い。無下にしたら、それこそ何を言われるかわからない。

「わかりました。丁重にお迎えしてちょうだい」
「かしこまりました」

 一礼してから、メアリーはドアの前で遠慮がちに振り返った。おずおずと何かを言い淀んでいる。

「どうしたの?」
「あの……奥様、リゼル様に眼鏡を掛けさせるというのは本当でしょうか」
「ええ、そのつもりだけれど。もしかして、眼鏡を作ってくれる人を知っている?」

 メアリーはギョッとしたような顔をして、大きく首を振った。

「いいえ、存じません。……差し出がましいようですが、リゼル様に眼鏡を掛けさせるのは、あまりにも……お可哀想です」

 メアリーは唇を噛んで、声は震えていた。

「メアリー、眼鏡を掛けさせることは何も可哀想なことじゃないわ。あの子の目をよく見えるようにするためなのよ。視力が弱いことで、リゼルはとても困っているの」
「奥様……実は私も視力が悪いのです。あまりよく見えていません。奥様のお顔も、はっきりと見えているわけではありません」

 メアリーの告白に仰天した。彼女はしっかりと業務をこなし、まったくそんな素振りなどなかった。

「見えにくい分、両親からは厳しく躾けられました。けして見えないことがバレないよう、普通に振る舞えるように努力しました。眼鏡というものを知って、欲しいと思ったこともありましたが、そんなみっともない物は掛けるなときつく言われていました。貴族であるリゼル様が眼鏡を掛けたら、周りからなんと言われるか……リゼル様も努力されれば普通になれます。見えなくてもなんでもできるよう、私がお手伝いいたします」

 メアリーの懇願は善意100%だ。むしろ、眼鏡を掛けさせようとする毒親の私をどうにか止めようとしているように見える。
 本当にこんな認識なのか。この世界の眼鏡は……

 前世ではもはや当たり前の道具だった眼鏡。しかし、言い換えれば視力が悪いのも障害だ。それを眼鏡が普及したことでカバーされ、誰も視力が弱い程度で障害だとは言わない。だが、この世界では違う。

「ありがとう、メアリー。あなたがリゼルのことを思ってくれているのはわかったわ。でも、私はあの子のことを心から愛して考えているということだけは信じてちょうだい」
「……はい。差し出がましいことをして、申し訳ありませんでした」

 納得いっていないようだったが、メアリーは静かに出ていった。

 長年屋敷に努めている執事はともかく、まだ若いメアリーが主人である私に意見することはかなりの勇気が必要だっただろう。しかも、隠してきた視力の悪さをカミングアウトしてまで。

 そうまでしてリゼルのことを思ってくれた、それは本当に有り難い。
 
 しかし、この世界ではそれほど眼鏡に拒否感があるということが十分わかった。1人残された私は、眼鏡と明日のサイラスのことで頭を抱えるしかなかった。


 
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