クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第15部

第七章 極光の意志②

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 愛する人の声援を背に。
 シェーラは、緊張した面持ちで操縦棍を握りしめていた。
 目の前には盾と長剣を構えた白い鎧機兵。
 ミランシャ=ハウルの機体だ。
 鋭い切っ先が、シェーラの愛機・《パルティーナ》に向けられている。
 まるで隙の無い構えだった。
 シェーラは、攻めあぐねていた。
 ――と、

『それじゃあ、始めましょうか。フォクスさん』

 ミランシャがそう告げた。
 途端、ミランシャの機体・《白牙》が間合いを詰めてきた。
 しかし、地を蹴るような加速ではない。
 音もなく。初動もなく。
 まるで滑るかのように間合いを詰めてきたのだ。
 気付いた時には、《白牙》は目の前にいた。

(――ッ!?)

 シェーラは目を剥いた。
 そんな動揺をしている隙に、《白牙》が斬撃を繰り出してくる!

『――クッ!』

 シェーラは、咄嗟に愛機に長尺刀を構えさせた。
 ――ギンッ!
 刃同士がぶつかり合い、火花が散った。
 どうにか初撃は凌いだが、《パルティーナ》は大きく後退した。
 そこに《白牙》はさらに追撃を加えてくる。
 流れるような所作で、次々と斬撃を繰り出してきた。

『――ッ!』

 シェーラは、表情を強張らせた。
 一撃一撃が、重く鋭い。
 後退しながら、斬撃を凌ぎ続けるが、それも限界だった。
 ――ギンッッ!
 《パルティーナ》の長尺刀が大きく弾かれた。

(ま、まずいッ!)

 それに連動して《パルティーナ》が仰け反った。
 長い髪を揺らして、シェーラは焦る。
 この隙に、《白牙》はすでに次の攻撃動作に移っている。

 ――次の攻撃は凌げない。
 そう悟ったシェーラは、咄嗟に闘技を使用した。

 愛機の両元に見えない橋をかける。
 その不可視のレールに片足を乗せて、《パルティーナ》は後方に滑った。
 ほとんど瞬間移動のような速度。斬撃は空を斬った。

 ――《黄道法》の構築系闘技・《天架》。
 不可視のレールを足元に敷いて、高速移動を可能にする闘技だ。

 シェーラが構築できるのは、わずか二セージルほど。それ以上は安定させられず消えてしまう。完全に習得したとは言えない闘技である。しかし、不完全でも咄嗟の回避には役に立つ技だった。ルカ戦において、素通りするように彼女の鉄球をかわすことが出来たのも、この闘技のおかげだった。今回も致命的な一撃を回避できた。

 ――しかし。

『へえ。やっぱり《天架》が使えるんだ』

 霞むような速度で必殺の斬撃を回避した《パルティーナ》を前にしても、ミランシャは全く動じない。それどころか、さらに一歩踏み込んで――。

『ルカちゃんの攻撃を避けたのもそれでしょう? 使えるのは大したものだけど……』

 そこでミランシャは、くすりと笑う。

『その闘技をアタシに使うのは悪手ね。見飽きているわ』

 ――ガンッ!
 後方に回避した《パルティーナ》を盾で殴打する。

「あうっ!」

 操縦席を揺らす強い衝撃に、シェーラは声を上げた。
 倒れることはなかったが、《パルティーナ》はさらに後方に押しやられた。
 そこへ、《白牙》の鋭い刺突が繰り出される!
 今度は流石に回避も出来ない。
 長剣の切っ先は肩当てを貫き、《パルティーナ》の肩に火花を散らせた。

『くうッ!』

 シェーラは、愛機を真っ直ぐ後ろに退避させた。
 切っ先が引き抜かれる。シェーラは貫かれた左肩の様子を確認した。
 《星系脈》では左肩が赤く染まっている。しかし、左手の指を動かして動作を確認したところ、まだ正常に動く。左腕は死んだ訳ではないようだ。
 シェーラは、愛機に長尺刀を構え直させた。
 対する《白牙》も、改めて盾と長剣を構えさせた。
 シェーラは、静かに喉を鳴らした。

(ここまで、実力差があるのでありますか)

 冷たい汗が止まらない。
 今のところ、致命的な損傷は受けていない。
 しかし、攻防自体は、明らかに一方的なものだった。
 なにせ、シェーラは、一度もまだ攻撃に移れていないのだ。
 しかも虎の子の闘技まで、あっさりと見抜かれている。

 力量差は、明確だった。
 その上、ミランシャ=ハウルは、すぐに再攻撃をしてこない。

 こちらの様子を窺っているのだ。
 格下相手でも油断しない。まさに強者の鑑だった。

(このままでは……)

 シェーラは《白牙》を睨みつけて、下唇を噛みしめた。
 このままでは、敗北は必至だった。
 力量は遥かに格上。機体性能にも差がある。
 だというのに、油断さえもしてくれない。
 シェーラに勝機などなかった。

 ――そう。このまま・・・・では。

(……………)

 シェーラは、視線を一瞬だけ下に落とした。
 操縦シートの前方。操縦棍の間辺り。そこにはレバーが設置されていた。
 昨晩、急遽増設されたレバーである。
 ゴドー叔父さまが、わざわざ用意してくれた切り札でもあった。
 流石にこれを見せられた時は、シェーラも青ざめたものだ。

『い、いいのでありますか? こんな高価な物を……』

 思わずそう尋ねるシェーラに、

『フハハ、気にするな。俺からの君とアランへの結婚祝いの品とでも思ってくれ』

 ゴドー叔父さまは豪快に笑って、そう言ってくれた。
 シェーラは、結婚式には、必ず叔父さまをご招待しようと心に決めたものだ。
 おかげで、極上の切り札を手にすることが出来た。
 これを使えば、ミランシャ=ハウル相手でも五分に持っていけるかもしれない。
 けれど、

(これを使うには、シェーラはまだまだ修行不足です。先生も仰っていました。これを使うには、あの『力』も併用しなければならないと……)

 シェーラが、師から伝授された切り札。
 この二つの切り札を併用すれば、恐らく勝機はある。
 しかし、師の切り札である、あれは――。

(あれは、長時間の使用は出来ないのであります。そもそも二つの切り札を使っても、長期戦になってしまえば、恐らく彼女には勝てません)

 シェーラは、緊張した面持ちで、白い鎧機兵を見据えた。
 それほどまでに、ミランシャ=ハウルは格が違う気がする。
 長期戦に持ち込むのは、切り札の制限時間を除いても悪手だった。
 となれば、

(勝機を見極めるのが、重要であります)

 シェーラは、レバーをもう一度だけ一瞥した後、操縦棍を握り直した。
 馬鹿正直に切り札を出しても意味はない。
 苦戦は必至。下手すれば瞬殺もあり得るこの状況で、勝機を見極める。
 それだけが、シェーラの活路であった。

(どれほど強くても、彼女も人間であります。とにかく、ねばり続ければ、きっと勝機は来るのであります!)

 シェーラは、息を大きく吐き出した。
 ――と、その時、

「シェーラ! 頑張れ!」

 観客席から、そんな声が聞こえてきた。
 シェーラはハッとして、思わず視線を観客席に向けた。

 遥か遠い観客席。
 けれど、シェーラはすぐに気付いた。
 そこに、彼女が愛する人がいることに。

 彼は立ち上がって、シェーラに声援を贈ってくれていた。

 トクン、と。
 鼓動が高鳴る。

(……アラン叔父さま)

 思わず、喜びで口元が綻んでくる。
 勇気が大きく高まるのを感じた。
 シェーラは改めて、敵機を見据えた。

 ――勝つ。何としてでも。

 シェーラは、想いを強くした。
 そして――。

『ここからが勝負であります!』

 シェーラは叫び、《パルティーナ》は地を蹴った。
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