クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第15部

第七章 極光の意志①

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「……お見事であります」

 青門の選手控室。
 シェーラ=フォクスは、ポツリと呟いた。
 彼女の視線は、モニターに向けられていた。
 そこには、観客席に手を振るサーシャ=フラムの姿があった。
 シェーラにとっては、未来の義娘である。

(まさか、叔父さまのご息女が決勝の相手だなんて)

 正直、この展開は予想していなかった。
 優勝候補と言ってもよかった、あのレナ選手を降すとは……。

(流石は、叔父さまのご息女。不屈の闘志はそっくりであります)

 ともあれ、最後に立ちはだかるのは娘だということだ。
 運命とは、皮肉なものである。

(ですが、これは良い機会かもしれません)

 シェーラは、静かに目を閉じた。
 義娘に認められてこそ、真の義母と言えよう。
 ここで、未来の義娘の信頼と尊敬を得るのは良いことだった。
 だが、その前に――。

「……まずは、シェーラも彼女と同じ舞台に立たねば話になりません」

 未来の義娘は、見事に成し遂げた。
 ならば、義母が続かなくてどうするのか。
 シェーラは面持ちを改めた。
 すると、
 ――コンコンと、控室のドアがノックされた。

「失礼します。フォクス選手」

 おもむろに控室のドアが開いて、女性スタッフが入室してくる。

「そろそろ出場のお時間です」

「分かりました」

 シェーラは力強く頷いた。

「では、ご武運を」

 女性スタッフが、恭しく頭を下げてそう告げる。
 シェーラは再び頷くと、開かれたドアをくぐった。
 これから行うのは、準決勝・第二試合。
 そこに立ちはだかるのは、まごう事なき、最強の騎士だ。
 勝ち目はほとんどない。
 だが、それでも――。

(シェーラは負けられないのです)

 コツコツ、と入場門へと続く煉瓦造りの廊下を歩く。
 ロクに闘技も知らなかった自分を、ここまで鍛え上げてくれた師。
 昨夜、素晴らしい贈り物をしてくれたゴドー叔父さま。
 困難を成し遂げて、決勝で待つ未来の義娘。
 何よりも、愛するアラン叔父さまのため。
 負けることは、出来なかった。

「シェーラは、勝ちます」

 小さくそう呟き、シェーラは門をくぐるのだった。



(……シェーラ)

 その様子を、アラン=フラムは観客席から見つめていた。
 自席に着き、指を組んで愛弟子を見やる。
 青門の前に立つシェーラ。
 あまり表情を変えないため、周囲には不愛想だと思われがちの娘だが、緊張していることは、師であるアランにはよく分かった。

 ――準決勝・第一試合。
 アランの愛娘は、見事に勝利と掴み取った。

 それも、明らかな格上相手にだ。
 愛娘の奮闘に、アランは大いに喜んだものだった。
 しかし、その興奮から一転、次は愛弟子の試合である。
 しかも彼女の相手もまた格上だった。

 アランは、視線を赤門に向けた。
 門の前に立つのは、真紅の操手衣を着た赤い髪の女性。
 腰に片手を当てて、不敵な笑みを見せる美女である。

 ――ミランシャ=ハウル。
 騎士の大国、グレイシア皇国の上級騎士である女性だ。

 その実力は圧倒的だ。仮にアランが挑めば瞬殺されるかもしれない。
 そんな人物が、愛弟子の対戦相手なのである。

(……シェーラ)

 アランは再びシェーラを見やり、渋面を浮かべた。
 出来ることならば、勝って欲しい。
 愛娘と愛弟子が、決勝に臨む。
 実に喜ばしいことだ。
 だが、シェーラの苦戦は免れないだろう。
 そうなってくると、

(シェーラ、怪我だけはするなよ)

 祈るように思う。
 勝利よりも、どうしてもそれを先に祈ってしまう。

(無茶だけはするんじゃないぞ。お前の無事こそが一番大事なんだからな)

 心の中でそう思いつつ、アランは改めてシェーラに視線を向けた。
 シェーラは真剣な表情で、ミランシャを見据えていた。
 そんな彼女を、まじまじと見つめる。
 しかし、それにしても……。

(シェーラは本当に綺麗になったな)

 懐かしむように目を細める。
 幼い頃は、どちらかといえば痩せすぎな子だった。
 今でもスレンダーな娘ではあるが、年齢相応に成長したと思う。
 顔立ちは凄く綺麗になったし、何より、あの紫色の操手衣が際立たせる、腰つきや脚のラインは、とても女性らしくて艶めかしく――。

(……おいおい)

 おもむろに、アランは自分の額を手で打った。
 思わず、眉をしかめた。
 ――全く、何を考えているのやら。
 愛弟子を邪な目で見る自分に呆れ果ててしまう。
 しかし、こんなことは初めてだった。
 今まであの子をこんな目で見たことはないというのに。

(なんでまた急に?)

 疑問を抱く。シェーラを見ると、ついその美しさに目を奪われてしまう。
 もしや、これは、あの操手衣とやらの影響なのだろうか。
 正直に言って、あの服はアランの目から見てもエロすぎる。シェーラのみならず、愛娘まで身に着けている事実にも、ハラハラするぐらいである。
 いや、そう言えば、ゴドーが前日、選手の中で誰が好みかなど聞いていた。
 むしろ、そちらの方に影響されたのかも知れない。

「……あいつと悪ノリすると、どうも調子が狂うからな」

 小さく嘆息する。
 同時に深く反省もした。
 これから戦うシェーラに対して、あまりにも失礼な行為だった。

「ええい! しっかりしろ、俺」

 パンッと両手で頬を叩く。
 と、そうこうしている内に、シェーラたちは互いの愛機を召喚した。
 アランもよく知る《パルティーナ》と、白い騎士型の鎧機兵だ。
 二人と二機を紹介する司会者の口上が響く。
 会場が「「「おおおおおおおおおおおおおおおッ!」」」と沸いた。
 アランも、真剣な顔で舞台を見据えた。
 シェーラの《パルティーナ》が、長尺刀を身構えた。
 対する白い鎧機兵も、盾と長剣を構える。
 一触即発。
 二機は、静かに対峙していた。

「――シェーラ!」

 アランは、立ち上がった。
 そして両手を口元に当てて、大声で叫んだ。

「頑張れ! 頑張るんだ、シェーラ!」
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