クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ

文字の大きさ
240 / 499
第8部

第六章 夜に迷う①

しおりを挟む
「……うわあ」


 時刻は夜。午後九時過ぎ。
 愛用のつなぎの上に、気休め程度ではあるが素性を隠すために白いフード付きコートを着たルカは、オルタナと共に闘技場に訪れていた。


「……ウム。スゴイナ」


 と、ルカの肩に止まるオルタナが呟いた。


「……う、ん。凄いね」


 ルカがコクコクと頷く。
 初めて訪れた夜の闘技場。それは想像以上に華やかなものだった。
 外装こそ昼間とは変わらないのだが、一番大きな相違点としては闘技場週辺に設置された巨大なスポットライト。それが煌々と闘技場を照らしている。ただそれだけで艶やかさが浮かび上がると表現すべきか、趣は随分と変わっていた。
 そして広場には昼間と変わらず露店が設置されており、意外にも子供が多い。
 どうやら夜のテーマパークとして親子連れが多いようだ。まあ、考えてみれば多くの大人達は、昼間は働いているものだ。きっと家族サービスを口実にストレス発散目的で訪れている者も少なからずいるのだろう。
 ガヤガヤと夜にも構わず周囲は賑やかだった。


(う、ん。これなら私が混じっても、大丈夫だよね)


 と、ルカは内心でホッとする。こんな時間に一人でいては、すぐに補導されるのではないかと密かに案じていたのだ。


「と、とにかく」


 これだけ人がいるのは僥倖だ。ルカは意を決する。


「ここに、仮面さんがいるといいんだけど……」


 そう呟きながら、人混みの隙を縫うように前に進む。彼女が闘技場に来た目的は、言うまでもなくあの青年を探すためだ。なにせ彼の手掛かりはここしかない。
 あの青年が有名選手ならば、夜の部にも出場している可能性は充分にある。
 運が良ければすぐに会えるかも知れないし、常連っぽい客や受付に聞けば、彼に関する情報が少しは手に入る可能性もあった。
 いずれにせよ、行ったこともない夜の酒場などで情報収集するよりも効率的だ。
 それに何よりここは昼間のように明るいし、子供もいてあまり怖くもない。


「う、うん。ここならきっと見つかるよね」


 言って、ルカはオルタナに目をやった。
 鋼の小鳥は「……ウム。キットミツカル! ガンバレ、ルカ」と励ます。
 ルカはグッと両の拳を胸元前で掲げて「う、ん。頑張るよ」と応えた。
 そしてルカ達は大きな門をくぐった。


「……あれ?」ルカは小首を傾げた。「なんで?」


 受付を行う大広場は、前回来た昼間の時よりもかなり人が少なかった。
 外の広場で露店を回る人間よりもかなり少ない。
 が、すぐに状況を理解した。
 耳を澄ますと闘技場の奥から歓声が聞こえてくる。どうやら丁度試合が始まる時間帯と重なったらしく、ほとんどの客は観客席の方に流れたようだ。
 しかし、これは好都合だ。今、受付嬢は手が空いて若干余裕があるように見える。あの青年のことを聞く絶好の機会だった。


「う、うん。よし」


 ルカは真直ぐ受付嬢の元へ向かったが、数セージル前でピタリと止まった。
 その顔は少し緊張している。
 初めての人間と話す時は、いつも少し緊張する癖がルカにはあった。
 そのため、直前で尻込みしてしまったのだ。
 が、普段なら些細な癖だが、この時ばかりはタイミングが悪かった。
 彼女のすぐ後ろに同じく受付に向かう人間がいたのだ。その上は雑談に夢中で直前までルカが止まっていることに気付いてなかった。


「っと、危ねえ!」「お、おい!」「あ、ヤベ」


 と、土壇場で三人は足を止める。


「いきなり止まってんじゃねえよ!」


 と、怒声が響いた。


「ひ、ひゥ!」


 ルカは突然の事に肩を震わせ、恐る恐る振り返った。
 そして大きく目を瞠った。


「え、さ、山賊さん……?」


 と、信じられないと言った表情で呟く。


「はあ? 山賊さんはねえだろ……って、おいおい」


 三人組の男達は揃って、ルカ同様に目を瞠った。
 そこにいたのは、意外にもルカの知り合いであった。
 手斧を腰に下げた三人組の男達であり、出会った時と変わらない上半身裸の典型的な山賊スタイル。かつてルカを陥れようとした人物達だった。


「お前、あの時のお嬢ちゃんか? へえ、まさかまた会うとはな」


 と、男の一人があごに手をやり、ルカをまじまじと見やる。
 残りの二人も少し驚きつつも、興味深そうな表情を浮かべていた。


「けどよォ、再会の仕方まで前回と同じとはな」


 そこでニヤリと笑い、


「ったく。全然反省してねえじゃねえか。やっぱちゃんと教育すべきだよなあ」


 言って、ルカのあごに手を伸ばそうとするリーダー格の男。
 一番ルカにご執心だった青年だ。ルカは言葉もなく全身を硬直させた。


「……ウヌ! ルカニフレルナ!」


 が、男の手はルカに触れる前に、オルタナの嘴につつかれて撃退された。
 男は「――チッ」と呟いて手を引っ込める。
 だが、一度はふいにしてしまった機会が、こうしてまた訪れたのだ。
 男に諦める気など毛頭なかった。
 少し赤くなった程度で傷もない自分の手を一瞬だけ見やると、ニヤリと笑い、「……いてて!」と、大げさに身を屈める。


「ひでえ! この鳥、何もしてねえのに、いきなり嘴で刺しやがった!」


 続けてそう叫びながら、ルカを睨みつけた。
 ルカは「え、え?」と動揺しつつも、「ご、ごめんなさい」と謝った。
 男は――いや、三人組は内心でほくそ笑む。
 どうやら今回も罪悪感につけ込む戦術は有効なようだ。


「あのな、そいつはお前のペットか何かなんだろ! どんな管理してんだよ!」


 と、手を抑える男の肩に手を当て、別の男が怒鳴る。
 彼の顔は友人を案じ、義憤に燃える……ように見えなくもなかった。


「おい、大丈夫か?」と、今度は三人目の男が屈み込む仲間に声をかける。

「……こいつはひでえな」


 そしてルカには見えないように仲間の手を隠し、独白を意識して呟く。


「血が止まんねえぞ。やべえかもしんねえ」


「え?」ルカは唖然とする。当のオルタナは「……ウム?」と彼女の肩の上で不思議そうに小首を傾げていた。
「そ、そんな」とルカは小さく息を呑んだ。まさか、オルタナの嘴がそこまで鋭いはずがないと思いつつも、青年の苦悶の表情を目の当たりにして硬直してしまう。


「ご、ごめんなさい」


 と、ルカは泣き出しそうな表情で頭を下げた。
 そんな少女に嗜虐心を刺激されるのを裏に隠しつつ――。


「ったく。謝罪は後でいいよ。それよりついてこい。医務室行くぞ」

「まずは傷の手当てが先だろ。くそが」


 言って、「ううゥ。いてえ……」とうずくまる青年を支えるように立ち上がる男。
 仲間に肩を貸すその男はルカを睨みつけて――。


「治療費ぐらいは払ってもらうからな。早く行く……」


 と、そこで男の言葉が止まった。
 いきなり目を見開くと、ただルカの背後を凝視していた。
 ルカがわずかに眉根を寄せ、奇妙な沈黙が一瞬だけ訪れる。
 が、すぐに――。


「は、はあっ!? また、あんたかよ!?」


 手を抑えていた三人組のリーダー格が愕然とした様子で叫んだ。


「な、なんで今回も!?」「くそ、もう少しだったのに……」


 続けて他の二人も驚愕と諦観の声を上げた。
 ルカは男達の突然の変化に目を丸くする。が、


「……いや、あのなお前ら」


 言って、その青年は背後からルカの両肩に両手を置いた。
 その声に、その手の温かさに、ルカの心音はトクンと高鳴った。


「何なんだよ今の小芝居は。マジで悪質だな」


 青年の声は少し怒気が宿っていた。


「これは流石に後で通報すっからな。それと一度振られた子を何度もナンパすんなよ。まったく。あの馬鹿じゃあるまいし」


 と、冷淡な声で言い放つ。
 ルカは思わず後ろに振りかえった。
 そして「あ」と呟く。


「か、仮面さん!」


 パアと水色の瞳を見開き、表情を輝かすルカに、


「いや、仮面さんって……ま、いっか」


 そう呟いて、男達に対する怒気から一転。
 どうしてか、今回もまたシルクハット付きの黒い鉄仮面をかぶったままの白いつなぎ姿の青年――アッシュ=クラインは、目を細めて笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...