241 / 499
第8部
第六章 夜に迷う②
しおりを挟む
「あ、あの」
ルカはもじもじと話しかける。
「ま、また助けてくれて、ありがとうございます」
場所は変わって闘技場の外。
少し離れた馬車にある夜の公園内。街灯で照らされる長椅子の一つに、デュークの仮面をかぶったアッシュと、ルカは並んで座っていた。
「まったく」
アッシュは苦笑する。
彼の肩の上にはオルタナが止まっていた。
「なんでまた――しかも同じ奴らに絡まれてんだよ。お嬢ちゃんは」
「そ、それは……」
と、声をどもらせるルカ。
すると、アッシュはふっと目尻を下げて、
「まあ、これでも食べな。お嬢ちゃん。胃に何かを入れたら少しは落ち着くぞ」
そう言って、事前に露店で購入し、長椅子の横に置いておいた串焼き入りパックをルカに差し出した。ルカは困惑しつつも首を左右に振る。
「あ、お、お金、払います」
「はは。気にすんな。これぐらい奢るよ」
アッシュは口角を上げて言う。
「け、けど」と、なお戸惑うルカに、アッシュは「まあ、二人分はあるからな。手伝ってくれよ」と告げてパックの蓋を開けた。
よく焼けた肉の香ばしい匂いが周囲にたちこもる。
「ほらよ。お嬢ちゃん」
アッシュは串焼きの一本を少女の手に握らせた。
ルカは「あ、あの」とまだ少し困惑していたが、串そのものを渡されて返すのは失礼に当たる。そう思い、彼女は「ありがとうございます」と言って受け取った。
そしてルカは串焼きを剣のように掲げると、まじまじと見つめて……。
――ぱくっと。
小さな口を開いて肉にかぶりついた。が、
「……っ!?」
水色の瞳を大きく見開いた。
そしてハフハフと涙目になって肉から口を離した。
「おいおい、お嬢ちゃん」
その様子を横で見ていたアッシュが目を丸くする。
「焼いたばかりの串焼きにそんな勢いでかぶりついたら火傷するぞ」
言って、同時に購入していたボトルをルカに渡す。
ルカは慌てた手つきでボトルの蓋を開けて中の水を飲む。
そしてしばしごくごくと少女の喉が動き、
「あ、あんなに熱いと思わなかった、です」
未だ涙目のままのルカは、ようやくボトルから小さな唇を外した。
「ああ、もしかして串焼きは初めてだったのか?」
アッシュは少しバツの悪そうに笑った。
「そいつは悪いことをしたな。ほら。口の中を見せてみな」
言って、無造作にルカの頬へと片手を伸ばした。
「――――え」
そして青年の掌がルカの頬に触れる。
あまりにも自然すぎる接近にルカは一瞬唖然とする――が、アッシュの方は平然としたもので「ほら。お嬢ちゃん。あ~んってしてみな」と告げてくる。オルタナまで「……ウム! ルカ。ア~ン、ダ!」と翼を広げて叫んでいた。
「え、あ、あの」いきなり頬を抑えられたルカは耳まで赤くして恥ずかしがるが、このままだとアッシュが頬を離してくれそうもないので素直に口を開けた。
アッシュはまじまじとルカの咥内を見やり、
「ああ、左頬が少し火傷してんな。しばらく食う時は右で食べるといいぞ」
「あ、あの、仮面さん」
「ん? 何だ? お嬢ちゃん」
「や、火傷を見てくれてありがとう。けど、その、凄く手慣れている、感じです」
と、素直さゆえに正直に告げる。
頬に触れるまでの動作など、自然すぎて反応さえ出来なかった。『男は狼』という母の警告が脳裏によぎり、ルカは少しだけ警戒するように身体を強張らせた。
すると、アッシュは「ははっ」と軽く笑って手を離した。
「まあ、手慣れているって言えばそうなんだろうな。うちの子も昔はよく熱いモンを無造作に口の中に突っ込んで火傷してたからな」
と、昔を懐かしむように呟く。
「……え?」その台詞にルカは目を丸くした。
「か、仮面さん。子供がいるんですか?」
「ん? ああ、いるぞ。目に入れても痛くねえぐらい可愛い娘がな」
と、アッシュは胸まで張って堂々と告げてくる。
ルカは軽く目を瞠った。
流石にこの台詞は想定外だった。
しかし、よくよく考えれば、彼の年齢は仮面ではっきりと特定は出来ないが、恐らく二十代前半。子供や妻がいてもおかしくはない年齢だ。
その事実にルカの胸は何故かチクリと痛んだが、すぐに思い直す。
彼の年齢からして子供は、恐らく大きくて三、四歳ぐらいか。
きっと可愛い盛りに違いない。
女の子らしく可愛いもの好きであるルカの興味は彼の子供に移った。
「あ、あの、どんなお子さんなんですか? その子も仮面をかぶっているんですか?」
「いやいや、仮面はかぶってねえよ」
アッシュはポリポリと仮面をかき、
「まあ、普段は少しだけ無愛想な子だな」と前置きしてからふっと笑い、
「けど、最近は結構笑ってくれるようになったよ」
「へえ」ルカは楽しそうに聞く。
そして笑顔を見せて「歳は、いくつなんですか?」と尋ねる。と、
「おう。今年で十五歳だ」
「…………え?」
想像を遥かに超えるデッカイ娘が出てきた。と言うより、自分と同い年だった。
もしかして自分は根本的に勘違いしていたのだろうか。
ルカはおずおずと尋ねる。
「え、えっと仮面さんって、私より、もの凄く年上なんですか?」
「いや? 俺はまだ二十代前半だぞ?」
と、アッシュが告げる。ルカはますます困惑した。
それでは計算が全然合わない。
「え、けど、十五歳の娘って……あ」
そこでルカはある可能性に気付いた。
「もしかして奥さんの……」
結婚相手の連れ子なのだろうか。そう思ったルカだったが、
「はははっ、俺は別に結婚なんてしてねえよ。あの子は色々あって俺が引き取った子なんだよ。まあ、歳がそこそこ近いせいか、七年近くも一緒にいんのに俺のことを中々『お父さん』って呼んでくれねえんだよ」
と、アッシュは「やれやれ」と嘆息して答える。
「そ、そうなんですか」ルカは彼の台詞に――特に結婚していないという事実――に、何故か少し安堵しつつも口元を綻ばせた。
「け、けど、仮面さん。その子のこと、凄く、大切にしてるんですね」
台詞の端々から、そのルカとほぼ同い年の少女に対する愛情が窺い知れる。
ルカはオルタナを肩に乗せ、アッシュの顔を見つめた。
「まあな」するとアッシュは長椅子の背もたれに両腕をかけて空を見上げた。
「あの子は俺の生きがいだよ。いつの日になるか分かんねえけど、あの子の花嫁姿を見届けたい。それが今の俺の一番の望みだな」
と、その娘本人が聞けば、間違いなく不機嫌になる台詞を吐く。
しかし、青年の愛娘の心情など知らないルカはただ優しげに目を細めた。
「今度、その子に会わせてくれますか?」
そう尋ねるとアッシュはニカッと笑い、
「ああ、いいぜ」と答える。「うちの子と友達になってやってくれよ」
ルカは嬉しそうに微笑み、「はい」と返事を返した。
「あ、あの、またここで会えますか」
続けて気恥ずかしそうにそう尋ねるルカに、
「ああ、しばらくは仕事でこの時間帯に闘技場にいるからな」
と、アッシュは答える。
「この時間帯ならこの場所で会えると思うぞ」
「ホ、ホントですか!」
ルカはパアと表情を輝かせた。
「……ウム! ヨカッタナ! ルカ!」とオルタナも嬉しそうに叫ぶ。
「じゃあ、あ、明日もここでお話を聞かせてくれますか?」
と、少女はもじもじと指を動かして青年に問う。
アッシュはわずかに目を細めてから――。
「ああ、いいぜ。話ぐらい幾らでも付き合ってやるさ」
そう言って少女の頭をポンと叩いた。
続けて淡い栗色のさらりとした髪をくしゃくしゃと撫でる。
対し、ルカはもはや恥ずかしがることもなく、ただ瞳を細めていた。
しばしの間、少女は偶然にも再会できた青年の掌の温かさを確かめていた。
しかし、不意に今の時間帯を思い出すと、青年の顔を見据えて。
「あ、あの、そろそろ帰ります」と、名残惜しそうに告げる。
「あまり遅いとお母さんが心配するから」
「おう。そうだな」
アッシュはルカの頭から手を離した。
それから一瞬だけ公園の繁みの一角を一瞥し、
「……まあ、まず大丈夫だと思うが、気をつけて帰るんだぞ」
そして最後にもう一度だけルカの頭を撫でた。
ルカは「はい」と言って長椅子から立ち上がり、
「それじゃあ、また明日」
そう告げて小走りに走り去って行った。
アッシュは公園から去る少女の後ろ姿を見送りながら、公園の繁みに目をやり、指先をクイと動かした。すると、ごそごそと二人の女性が出てくる。立ち姿から相当鍛えていることが分かる女性達は、アッシュに一礼するとすぐにルカの後を追った。
それを見届けると、アッシュは黒い瞳を閉じた。
そしてしばし背もたれに両腕をかけたまま沈黙して――。
「……どうやら無事に追いついたか」
そう呟き、黒い瞳を開いた。
それから口元を皮肉気に歪めると、
「ったくよ。確かにあのお嬢ちゃんは良い子だけどよ」
アッシュは背もたれに深く寄りかかって嘆息した。
まったくもってこの状況は何なのだろうか。
どうして自分は仮面などかぶってまでこんな事をしているのか。
「まあ、あの子を守ること自体には何の異論もねえんだが……はあ」
アッシュは一際大きな溜息をついて、夜の空を見上げて呟く。
「一応俺はただの職人なんだぞ。ガハルドのおっさんも、あの爺さんもそうだが、どいつもこいつもなんで俺に面倒事ばかり持ってくんだよ」
静寂に包まれた公園の中。人の気配が完全になくなったその場所では当然ながら、彼の愚痴に同意する者もいなかった。
ルカはもじもじと話しかける。
「ま、また助けてくれて、ありがとうございます」
場所は変わって闘技場の外。
少し離れた馬車にある夜の公園内。街灯で照らされる長椅子の一つに、デュークの仮面をかぶったアッシュと、ルカは並んで座っていた。
「まったく」
アッシュは苦笑する。
彼の肩の上にはオルタナが止まっていた。
「なんでまた――しかも同じ奴らに絡まれてんだよ。お嬢ちゃんは」
「そ、それは……」
と、声をどもらせるルカ。
すると、アッシュはふっと目尻を下げて、
「まあ、これでも食べな。お嬢ちゃん。胃に何かを入れたら少しは落ち着くぞ」
そう言って、事前に露店で購入し、長椅子の横に置いておいた串焼き入りパックをルカに差し出した。ルカは困惑しつつも首を左右に振る。
「あ、お、お金、払います」
「はは。気にすんな。これぐらい奢るよ」
アッシュは口角を上げて言う。
「け、けど」と、なお戸惑うルカに、アッシュは「まあ、二人分はあるからな。手伝ってくれよ」と告げてパックの蓋を開けた。
よく焼けた肉の香ばしい匂いが周囲にたちこもる。
「ほらよ。お嬢ちゃん」
アッシュは串焼きの一本を少女の手に握らせた。
ルカは「あ、あの」とまだ少し困惑していたが、串そのものを渡されて返すのは失礼に当たる。そう思い、彼女は「ありがとうございます」と言って受け取った。
そしてルカは串焼きを剣のように掲げると、まじまじと見つめて……。
――ぱくっと。
小さな口を開いて肉にかぶりついた。が、
「……っ!?」
水色の瞳を大きく見開いた。
そしてハフハフと涙目になって肉から口を離した。
「おいおい、お嬢ちゃん」
その様子を横で見ていたアッシュが目を丸くする。
「焼いたばかりの串焼きにそんな勢いでかぶりついたら火傷するぞ」
言って、同時に購入していたボトルをルカに渡す。
ルカは慌てた手つきでボトルの蓋を開けて中の水を飲む。
そしてしばしごくごくと少女の喉が動き、
「あ、あんなに熱いと思わなかった、です」
未だ涙目のままのルカは、ようやくボトルから小さな唇を外した。
「ああ、もしかして串焼きは初めてだったのか?」
アッシュは少しバツの悪そうに笑った。
「そいつは悪いことをしたな。ほら。口の中を見せてみな」
言って、無造作にルカの頬へと片手を伸ばした。
「――――え」
そして青年の掌がルカの頬に触れる。
あまりにも自然すぎる接近にルカは一瞬唖然とする――が、アッシュの方は平然としたもので「ほら。お嬢ちゃん。あ~んってしてみな」と告げてくる。オルタナまで「……ウム! ルカ。ア~ン、ダ!」と翼を広げて叫んでいた。
「え、あ、あの」いきなり頬を抑えられたルカは耳まで赤くして恥ずかしがるが、このままだとアッシュが頬を離してくれそうもないので素直に口を開けた。
アッシュはまじまじとルカの咥内を見やり、
「ああ、左頬が少し火傷してんな。しばらく食う時は右で食べるといいぞ」
「あ、あの、仮面さん」
「ん? 何だ? お嬢ちゃん」
「や、火傷を見てくれてありがとう。けど、その、凄く手慣れている、感じです」
と、素直さゆえに正直に告げる。
頬に触れるまでの動作など、自然すぎて反応さえ出来なかった。『男は狼』という母の警告が脳裏によぎり、ルカは少しだけ警戒するように身体を強張らせた。
すると、アッシュは「ははっ」と軽く笑って手を離した。
「まあ、手慣れているって言えばそうなんだろうな。うちの子も昔はよく熱いモンを無造作に口の中に突っ込んで火傷してたからな」
と、昔を懐かしむように呟く。
「……え?」その台詞にルカは目を丸くした。
「か、仮面さん。子供がいるんですか?」
「ん? ああ、いるぞ。目に入れても痛くねえぐらい可愛い娘がな」
と、アッシュは胸まで張って堂々と告げてくる。
ルカは軽く目を瞠った。
流石にこの台詞は想定外だった。
しかし、よくよく考えれば、彼の年齢は仮面ではっきりと特定は出来ないが、恐らく二十代前半。子供や妻がいてもおかしくはない年齢だ。
その事実にルカの胸は何故かチクリと痛んだが、すぐに思い直す。
彼の年齢からして子供は、恐らく大きくて三、四歳ぐらいか。
きっと可愛い盛りに違いない。
女の子らしく可愛いもの好きであるルカの興味は彼の子供に移った。
「あ、あの、どんなお子さんなんですか? その子も仮面をかぶっているんですか?」
「いやいや、仮面はかぶってねえよ」
アッシュはポリポリと仮面をかき、
「まあ、普段は少しだけ無愛想な子だな」と前置きしてからふっと笑い、
「けど、最近は結構笑ってくれるようになったよ」
「へえ」ルカは楽しそうに聞く。
そして笑顔を見せて「歳は、いくつなんですか?」と尋ねる。と、
「おう。今年で十五歳だ」
「…………え?」
想像を遥かに超えるデッカイ娘が出てきた。と言うより、自分と同い年だった。
もしかして自分は根本的に勘違いしていたのだろうか。
ルカはおずおずと尋ねる。
「え、えっと仮面さんって、私より、もの凄く年上なんですか?」
「いや? 俺はまだ二十代前半だぞ?」
と、アッシュが告げる。ルカはますます困惑した。
それでは計算が全然合わない。
「え、けど、十五歳の娘って……あ」
そこでルカはある可能性に気付いた。
「もしかして奥さんの……」
結婚相手の連れ子なのだろうか。そう思ったルカだったが、
「はははっ、俺は別に結婚なんてしてねえよ。あの子は色々あって俺が引き取った子なんだよ。まあ、歳がそこそこ近いせいか、七年近くも一緒にいんのに俺のことを中々『お父さん』って呼んでくれねえんだよ」
と、アッシュは「やれやれ」と嘆息して答える。
「そ、そうなんですか」ルカは彼の台詞に――特に結婚していないという事実――に、何故か少し安堵しつつも口元を綻ばせた。
「け、けど、仮面さん。その子のこと、凄く、大切にしてるんですね」
台詞の端々から、そのルカとほぼ同い年の少女に対する愛情が窺い知れる。
ルカはオルタナを肩に乗せ、アッシュの顔を見つめた。
「まあな」するとアッシュは長椅子の背もたれに両腕をかけて空を見上げた。
「あの子は俺の生きがいだよ。いつの日になるか分かんねえけど、あの子の花嫁姿を見届けたい。それが今の俺の一番の望みだな」
と、その娘本人が聞けば、間違いなく不機嫌になる台詞を吐く。
しかし、青年の愛娘の心情など知らないルカはただ優しげに目を細めた。
「今度、その子に会わせてくれますか?」
そう尋ねるとアッシュはニカッと笑い、
「ああ、いいぜ」と答える。「うちの子と友達になってやってくれよ」
ルカは嬉しそうに微笑み、「はい」と返事を返した。
「あ、あの、またここで会えますか」
続けて気恥ずかしそうにそう尋ねるルカに、
「ああ、しばらくは仕事でこの時間帯に闘技場にいるからな」
と、アッシュは答える。
「この時間帯ならこの場所で会えると思うぞ」
「ホ、ホントですか!」
ルカはパアと表情を輝かせた。
「……ウム! ヨカッタナ! ルカ!」とオルタナも嬉しそうに叫ぶ。
「じゃあ、あ、明日もここでお話を聞かせてくれますか?」
と、少女はもじもじと指を動かして青年に問う。
アッシュはわずかに目を細めてから――。
「ああ、いいぜ。話ぐらい幾らでも付き合ってやるさ」
そう言って少女の頭をポンと叩いた。
続けて淡い栗色のさらりとした髪をくしゃくしゃと撫でる。
対し、ルカはもはや恥ずかしがることもなく、ただ瞳を細めていた。
しばしの間、少女は偶然にも再会できた青年の掌の温かさを確かめていた。
しかし、不意に今の時間帯を思い出すと、青年の顔を見据えて。
「あ、あの、そろそろ帰ります」と、名残惜しそうに告げる。
「あまり遅いとお母さんが心配するから」
「おう。そうだな」
アッシュはルカの頭から手を離した。
それから一瞬だけ公園の繁みの一角を一瞥し、
「……まあ、まず大丈夫だと思うが、気をつけて帰るんだぞ」
そして最後にもう一度だけルカの頭を撫でた。
ルカは「はい」と言って長椅子から立ち上がり、
「それじゃあ、また明日」
そう告げて小走りに走り去って行った。
アッシュは公園から去る少女の後ろ姿を見送りながら、公園の繁みに目をやり、指先をクイと動かした。すると、ごそごそと二人の女性が出てくる。立ち姿から相当鍛えていることが分かる女性達は、アッシュに一礼するとすぐにルカの後を追った。
それを見届けると、アッシュは黒い瞳を閉じた。
そしてしばし背もたれに両腕をかけたまま沈黙して――。
「……どうやら無事に追いついたか」
そう呟き、黒い瞳を開いた。
それから口元を皮肉気に歪めると、
「ったくよ。確かにあのお嬢ちゃんは良い子だけどよ」
アッシュは背もたれに深く寄りかかって嘆息した。
まったくもってこの状況は何なのだろうか。
どうして自分は仮面などかぶってまでこんな事をしているのか。
「まあ、あの子を守ること自体には何の異論もねえんだが……はあ」
アッシュは一際大きな溜息をついて、夜の空を見上げて呟く。
「一応俺はただの職人なんだぞ。ガハルドのおっさんも、あの爺さんもそうだが、どいつもこいつもなんで俺に面倒事ばかり持ってくんだよ」
静寂に包まれた公園の中。人の気配が完全になくなったその場所では当然ながら、彼の愚痴に同意する者もいなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる