完結·囚われた騎士隊長と訳あり部下の執愛と復讐の物語

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シルトという人物~隊長視点

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 美しい隊長は信じていた部下に汚され壊され、人形になった。
 毒で潰された目はもう何も映さない。
 だが、それでいい。
 あとは、国を壊すだけ。

(そんなことを考えているのだろうな、あの部下バカは)

 ふわふわと意識が浮上する中でそんなことを考えていると、大きな手で優しく頭を撫でられた。
 その気持ち良さに浸っていると、額に柔らかな温もりが触れる。

 触れてくる時はいつもそう。

 雑に扱っているようなことを口にするくせに、その手は大事なものを扱うように丁寧に触れる。その落差に何度絆されそうになったことか。

 目を閉じたまま己を律していると温もりが離れた。

「さあ、すべてを壊しにいこうか」

 不穏な声を残し、パタンとドアの閉まる音がする。
 足音が遠くなったところで私は瞼を開いた。

「……はぁ」

 ため息とともに上半身を起こす。
 全身が重く、特に腰が怠い。

「まったく、容赦なく抱きやがって」

 騎士隊にいた頃からずっと被っていた穏和で上品な仮面を剥がし、素で文句を呟く。

 あの品行方正な部下が自分の前ではただの男となり、ひらすら自分の体を貪り情欲に溺れる。
 その姿に心の奥底がかき乱され、己の欲情さえも刺激され、そのうち、悪くないようさえ思えてきてしまい……

「って、今は思い出している場合ではない」

 金髪をパタパタと横に振り、しっかりと目を開けて周囲を確認する。
 ランツェは私の目が毒で潰れ、無理やり部下に抱かれたことで精神が壊れたと思っているが。

「あんな毒薬程度で私の目が潰れるわけないだろ」

 そうぼやきながら立ち上がる。

「まあ、普通のヤツなら潰れていただろうが、国を守るために作られた私の体に毒など効かないからな」

 気怠い体に鞭を打ち、ペタペタを素足で室内を歩く。

「それにしても、油断していたとはいえ簡単に拘束されるとは、よほど体が弱っていたのか……そうだな。決して、あいつだったからではない」

 誰に言い訳するわけでもなく呟いた言葉は聞かれることなく消える。

 私は部屋の隅に置いてあったタオルを腰に巻き、天井近くにある横に細長い窓を見上げた。

「昨夜は満月だったようだな」

 ふと昨夜の会話を思い出す。
 会話といっても、一方的に部下あのバカが話していただけなのだが。

『月が綺麗ですね。あぁ、失礼。オレが目を潰したから見えませんね』

 ワザと煽るような笑みを付け、自分を恨めと言わんばかりの言葉。

「だからバカなんだ」

 誰もいない部屋にポツリと声が落ちる。

 王からの無理難題に近い命令は敵国に私の身を売るようなものだった。あのまま遂行していれば、私は確実に誰とも知らぬ者に嬲り犯され、殺されていた。

 まあ、そんなことをされるつもりもなかったし、指一本触れられるつもりもなかったのだが。

 しかし、あの部下バカはそんなことになるなら、自分が抱いた方がマシだと考えたのだろう。そして、そのまま私を表舞台から消すために。
 これも、不器用なあいつなりの愛情表現なのかもしれない。

「だが、自分を悪者にして私を守ろうとするなど百億年早い。少なくとも、壊れたフリをしている私を見破れないうちは、な」

 苛立ち混じりに呟いていると、窓がカチリと開き、外から布に包まれたモノが落ちて来た。

「計画通りだな。ありがとう」

 聞こえてはいないだろうが礼を言った私は布を広げて、中に入っていた服を着た。
 ずっと何も身につけていなかったため、久しぶりに袖を通すことに違和感を覚えるほど。

「……それも、これも、全部あいつのせいだ」

 そう呟きながらも、これから起きることを考えて口を閉じる。

 監禁は想定外だったが、今回のことで適度に休めたうえに、あの部下バカがかなり動いたおかげで国の膿のほとんどが表面に出てきた。

 国とは民であり、膿である王や貴族連中ではない。

「あとは、あの部下バカが守るべき国まで壊す前に膿を排除をしないとな」

 服のボタンを留めたところで、どこからか見ていたかのようにタイミング良くドアが開く。

「お迎えにあがりました」

 悠然と頭をさげる真新しい騎士服を着た青年。

「さて、最後の仕上げといこうか」

 私は濃密な月日を過ごした部屋を惜しむことなく後にした。

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