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ランツェの目的
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王城はすぐ外に集まった民衆の怒号と怒りで渦巻いていた。
いまにも門を突き破り、城の中に侵入しそうな勢いは誰も止められない。
「……すべて計画通りだな」
群衆の罵声に耳を傾けながら馬車の影に隠れていると、王が転がるように城の裏口から出てきた。
「まったく、めでたい連中だ。城が爆発するとも知らずに」
吐き捨てるように呟きながら馬車に乗り込んだ王が御者に怒鳴る。
「早く出せ! すぐに離れるぞ!」
その声は馬車の外にまで響いたが、御者が動く様子はない。
「おい、何をして……」
意識のない御者の体が倒れる。
「なっ!?」
王が絶句しているところにオレはバン! と馬車のドアが開け、無遠慮に踏み込んだ。
「逃げられると思ったか?」
ズガズガと馬車に乗り込んだオレに対して、王が馬車の隅に背中をつけて顔を青くする。
「ぶ、無礼者! 私を誰だと……」
「あぁ、よぉく知っている。おまえこそ、オレの顔を忘れたのか?」
最初は怪訝な顔で見ていた王が徐々に目を見開き、驚愕に震えながら声を出した。
「……まさか、おまえは兄の!?」
オレは父親似と言われて育った顔に初めて感謝しながら、無造作に伸びた黒髪をかきあげた。
「そうだ。先代の王を暗殺したという濡れ衣を着せられ、処刑された男の息子だ」
「う、嘘だ! あいつの血筋はすべて処刑したはず!」
その言葉にオレは堪えきれない怒りとともに足をあげた。
ドンッ!
「ヒッ!」
震えあがりながら体を小さくした王の顔面の隣にオレの足がある。
このまま王の顔を踏みつけても良かったが、それだと会話ができなくなる。
オレは馬車の壁をグリグリと踏みつけながら言った。
「処刑執行人に金を積んだんだよ。国が腐りきっていたおかげで生き延びられたとは皮肉もいいとこだが」
「な、なら、おまえにこの国をやる! 兄の息子であるおまえは正当な後継者だ!」
自分で処刑したくせに正当な後継者だの何を言っているのか。
王の言葉にオレは呆れて笑った。
「何を言っているんだ? オレはこの腐った国を終わらせに来たんだ」
「国を終わらせる? 何を言って……って、何をする!?」
オレは王の服を掴むと、馬車から引きずり下ろした。
そのままズリズリと引きずって歩くオレに王が声をあげる。
「な、何をする!? どこに連れていく気だ!?」
「どこでもいいだろ。それより重いな。手足を斬って軽くするか」
オレは腰から下げている剣に手を伸ばした。
すると、顔を青くしたまま王が素早く立ち上がり直立する。
「まっすぐ歩け」
「……くっ」
オレの命令に不服そうに王が足を動かす。
ついさっき出てきた裏口から城へ入り、オレの言う通りに城内を歩き続ける。
こうして辿り着いたのは謁見の間だった。
純白の壁に金銀の財宝や宝石などあらゆる贅沢の限り使って作られた部屋。
ここを訪れたすべての人がこの装飾に感嘆の声を漏らし、見惚れ、羨望の眼差しを向ける。
だが、今は不気味なほどの静寂に包まれていた。
王がカツンと足音をさせて踏み込んだ瞬間、縋るような声が響いた。
「あなた!」
「父上!」
「王!」
玉座の前で罪人のように座らされた人々。
全員が豪華な衣装を身につけ、一目で貴族ということが分かる。
「おまえたち!? 先に逃げたはずでは!?」
驚愕する声にオレは悠然と説明をした。
「おまえ一人では寂しいだろうから、他のヤツらも連れてきておいた。魔法で動けないようにしているから、逃げられないぞ」
そう言ったオレの視線の先には、王の妻から愛人、その子どもに賄賂でつながった貴族まで。
一族が勢ぞろいして、ピカピカに磨き上げられた床に膝をつけていた。
愛する者たちから縋るように見つめられ、王の顔がくしゃりと歪む。
それは今にも泣き出しそうな情けない表情で、とても民に見せることはできないだろう。いや、この顔で命乞いをすれば、少しは同情を得られるかもしれない。
(どちらにせよ、オレには関係ないことだが)
オレは呆然としたまま動かない王の背中を押した。
「歩け」
助けを求めるような視線を一身に浴びながら王が謁見の間の奥へと進む。
その先にあるのは、黄金で派手派手しく飾られた玉座。
その前にオレは王を立たせた。
「座れ」
オレの命令に王がダラダラと冷や汗をかいたまま棒立ちとなる。
座りそうにない王にオレは声をかけた。
「なぜ座らない? おまえの椅子だろう?」
王がゴクリと息をのみながらオレに視線を移す。
「お、王位はおまえに譲る。だから、おまえが座れ」
その発言にオレは苦笑した。
「さっきも言ったが、オレは国を終わらせに来たんだ。王位などいらない」
拒否するオレに王が引きつった笑みを浮かべて玉座を手で示した。
「だ、だか、一度ぐらい座ってみたら、どうだ? その、もしかしたら、気が変わるかもしれないぞ」
命乞いではなく必死に玉座を勧める。
その理由を悟ったオレはフッと口角をあげた。
「あぁ、玉座に座ると爆発するように魔法が仕掛けられているから、オレを座らせたいのか」
「な、何故それを!?」
「浅はかなおまえの策略など、すべて筒抜けだ」
そう言うとオレは王の肩を掴んだ。
「王ならば最期は玉座で迎えろ」
力づくで座らせようするオレに王が叫ぶ。
「や、やめろ! ほしいものはすべてやる! 国でも、金でも、何でも! だから、やめろ!」
その言葉に滑らかな金色の髪が浮かんだ。
何も映さなくなった翡翠の瞳。人形となった今ではどれだけ願っても、あの愛おしい声で名を呼ばれることはない。だが、それも自分で決めたこと。
オレはすべてを絶つように低い声で断言した。
「欲しいものはない」
そんなオレに王が吠えるように訴える。
「わ、私が玉座に座ったら、その瞬間に吹き飛ぶぞ! この城も、すべて吹き飛ぶんだぞ!」
その発言に玉座の前に座っている人々から悲鳴が漏れる。
だが、オレは当然のように補足した。
「あぁ。ついでだから、この城の周囲もすべて吹き飛ぶように魔法を強化しておいた」
それは城の前に集まった民衆も巻き込む威力。
「なっ!?」
オレは未練なく愉悦を含んだ声で言った。
「腐った国だ。綺麗サッパリなくなった方がいいだろ? 自分で座れないなら、オレが座らせてやろう」
面倒になったオレは王を担ぎ上げた。
「や、やめろ!」
王が全身で抵抗するが、それぐらいでバランスを崩すような鍛え方はしていない。
「王らしく座れ」
暴れる王を玉座に下ろそうとした瞬間――――――
いまにも門を突き破り、城の中に侵入しそうな勢いは誰も止められない。
「……すべて計画通りだな」
群衆の罵声に耳を傾けながら馬車の影に隠れていると、王が転がるように城の裏口から出てきた。
「まったく、めでたい連中だ。城が爆発するとも知らずに」
吐き捨てるように呟きながら馬車に乗り込んだ王が御者に怒鳴る。
「早く出せ! すぐに離れるぞ!」
その声は馬車の外にまで響いたが、御者が動く様子はない。
「おい、何をして……」
意識のない御者の体が倒れる。
「なっ!?」
王が絶句しているところにオレはバン! と馬車のドアが開け、無遠慮に踏み込んだ。
「逃げられると思ったか?」
ズガズガと馬車に乗り込んだオレに対して、王が馬車の隅に背中をつけて顔を青くする。
「ぶ、無礼者! 私を誰だと……」
「あぁ、よぉく知っている。おまえこそ、オレの顔を忘れたのか?」
最初は怪訝な顔で見ていた王が徐々に目を見開き、驚愕に震えながら声を出した。
「……まさか、おまえは兄の!?」
オレは父親似と言われて育った顔に初めて感謝しながら、無造作に伸びた黒髪をかきあげた。
「そうだ。先代の王を暗殺したという濡れ衣を着せられ、処刑された男の息子だ」
「う、嘘だ! あいつの血筋はすべて処刑したはず!」
その言葉にオレは堪えきれない怒りとともに足をあげた。
ドンッ!
「ヒッ!」
震えあがりながら体を小さくした王の顔面の隣にオレの足がある。
このまま王の顔を踏みつけても良かったが、それだと会話ができなくなる。
オレは馬車の壁をグリグリと踏みつけながら言った。
「処刑執行人に金を積んだんだよ。国が腐りきっていたおかげで生き延びられたとは皮肉もいいとこだが」
「な、なら、おまえにこの国をやる! 兄の息子であるおまえは正当な後継者だ!」
自分で処刑したくせに正当な後継者だの何を言っているのか。
王の言葉にオレは呆れて笑った。
「何を言っているんだ? オレはこの腐った国を終わらせに来たんだ」
「国を終わらせる? 何を言って……って、何をする!?」
オレは王の服を掴むと、馬車から引きずり下ろした。
そのままズリズリと引きずって歩くオレに王が声をあげる。
「な、何をする!? どこに連れていく気だ!?」
「どこでもいいだろ。それより重いな。手足を斬って軽くするか」
オレは腰から下げている剣に手を伸ばした。
すると、顔を青くしたまま王が素早く立ち上がり直立する。
「まっすぐ歩け」
「……くっ」
オレの命令に不服そうに王が足を動かす。
ついさっき出てきた裏口から城へ入り、オレの言う通りに城内を歩き続ける。
こうして辿り着いたのは謁見の間だった。
純白の壁に金銀の財宝や宝石などあらゆる贅沢の限り使って作られた部屋。
ここを訪れたすべての人がこの装飾に感嘆の声を漏らし、見惚れ、羨望の眼差しを向ける。
だが、今は不気味なほどの静寂に包まれていた。
王がカツンと足音をさせて踏み込んだ瞬間、縋るような声が響いた。
「あなた!」
「父上!」
「王!」
玉座の前で罪人のように座らされた人々。
全員が豪華な衣装を身につけ、一目で貴族ということが分かる。
「おまえたち!? 先に逃げたはずでは!?」
驚愕する声にオレは悠然と説明をした。
「おまえ一人では寂しいだろうから、他のヤツらも連れてきておいた。魔法で動けないようにしているから、逃げられないぞ」
そう言ったオレの視線の先には、王の妻から愛人、その子どもに賄賂でつながった貴族まで。
一族が勢ぞろいして、ピカピカに磨き上げられた床に膝をつけていた。
愛する者たちから縋るように見つめられ、王の顔がくしゃりと歪む。
それは今にも泣き出しそうな情けない表情で、とても民に見せることはできないだろう。いや、この顔で命乞いをすれば、少しは同情を得られるかもしれない。
(どちらにせよ、オレには関係ないことだが)
オレは呆然としたまま動かない王の背中を押した。
「歩け」
助けを求めるような視線を一身に浴びながら王が謁見の間の奥へと進む。
その先にあるのは、黄金で派手派手しく飾られた玉座。
その前にオレは王を立たせた。
「座れ」
オレの命令に王がダラダラと冷や汗をかいたまま棒立ちとなる。
座りそうにない王にオレは声をかけた。
「なぜ座らない? おまえの椅子だろう?」
王がゴクリと息をのみながらオレに視線を移す。
「お、王位はおまえに譲る。だから、おまえが座れ」
その発言にオレは苦笑した。
「さっきも言ったが、オレは国を終わらせに来たんだ。王位などいらない」
拒否するオレに王が引きつった笑みを浮かべて玉座を手で示した。
「だ、だか、一度ぐらい座ってみたら、どうだ? その、もしかしたら、気が変わるかもしれないぞ」
命乞いではなく必死に玉座を勧める。
その理由を悟ったオレはフッと口角をあげた。
「あぁ、玉座に座ると爆発するように魔法が仕掛けられているから、オレを座らせたいのか」
「な、何故それを!?」
「浅はかなおまえの策略など、すべて筒抜けだ」
そう言うとオレは王の肩を掴んだ。
「王ならば最期は玉座で迎えろ」
力づくで座らせようするオレに王が叫ぶ。
「や、やめろ! ほしいものはすべてやる! 国でも、金でも、何でも! だから、やめろ!」
その言葉に滑らかな金色の髪が浮かんだ。
何も映さなくなった翡翠の瞳。人形となった今ではどれだけ願っても、あの愛おしい声で名を呼ばれることはない。だが、それも自分で決めたこと。
オレはすべてを絶つように低い声で断言した。
「欲しいものはない」
そんなオレに王が吠えるように訴える。
「わ、私が玉座に座ったら、その瞬間に吹き飛ぶぞ! この城も、すべて吹き飛ぶんだぞ!」
その発言に玉座の前に座っている人々から悲鳴が漏れる。
だが、オレは当然のように補足した。
「あぁ。ついでだから、この城の周囲もすべて吹き飛ぶように魔法を強化しておいた」
それは城の前に集まった民衆も巻き込む威力。
「なっ!?」
オレは未練なく愉悦を含んだ声で言った。
「腐った国だ。綺麗サッパリなくなった方がいいだろ? 自分で座れないなら、オレが座らせてやろう」
面倒になったオレは王を担ぎ上げた。
「や、やめろ!」
王が全身で抵抗するが、それぐらいでバランスを崩すような鍛え方はしていない。
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