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軽い口調で言った男の行く手を塞ぐようにマクティーラが立つ。
「隣国の騎士が勝手に我が国に侵入するとは、宣戦布告とも受け取れる行為だな、ナハルニヴ」
そう話しながらマクティーラが腰から下げている剣へ手を伸ばす。
だが、ナハルニヴと呼ばれた男は動揺することなく軽く肩をすくめて両手をあげた。
「おい、おい。おれは休暇中で旅行をしていて、たまたま迷い込んだだけだ。戦う意思なんてないさ。その証拠に平服だし武器は一切持っていない。丸腰だ」
飄々とした軽い雰囲気。
目元を緩め、渋い顔を崩して人当たりの良い笑顔を浮かべている。そして、スラスラと話す口調は嘘のない言葉……のように聞こえる。
そう見える……けど、私の中で警鐘が鳴る。
(……知ってる。こういう人は息をするように真実の中に嘘を混ぜる。取り繕うために、もしくは自分の本心を知られないために……って、どうして私はそんなことを知っているの?)
イラールに抱えられたまま首を傾げる。
そんな私の視線の先では、マクティーラがピリッとした空気をまとったまま訊ねた。
「ならば、なぜ攻撃をしてきた?」
「それも言い方が悪いな。現在地を把握しようと魔法を使ったら失敗して暴発しただけだ」
「では、道を教えたらさっさと自分の国に戻るのか?」
その問いにナハルニヴが当然のように頷く。
「あぁ。俺だって休暇中に無用な争いはしたくないさ」
「そうか……」
マクティーラが警戒しながらも少しだけ空気が緩んだ。
――――――その瞬間。
ナハルニヴの手が素早く動く。
「土産はもらっていくがな」
「きゅっ!?」
(えっ!?)
ナハルニヴを中心に真っ白な煙が噴き出し、何も見えなくなった。
ガンッ!
何かがぶつかったような衝撃とともに私の体が少しだけ揺れる。
「ゲホッ! ゴホッ!? 無事か!?」
マクティーラの声がすぐ脇を通り抜けた。
いや、私が通り抜けたらしい。抱えられたまま移動していて白い煙を抜けようとしている。
「マクッ、赤ん坊、が……」
ここでイラールの切れ切れの声が響いた。
私を奪われた時に攻撃を受けたらしく、痛みを堪えるような呻き声に近い。
「きゅ、きゅきゅぅう!?」
(って、いうかなんなの!?)
私の声に素早く影が近づく。
「そこですね!」
フィアの声とともに白い煙の中から長い手が伸びて来た。
「おっと、そうはさせないぞ」
頭上からナハルニヴの声がすると同時にナイフの刃が手にむかって落ちる。
その光景に私は反射的に叫んでいた。
「きゅぁぁあ!」
(だめぇぇえ!)
目を閉じて思いっきり力を入れる。
カンッ!
高い音とともに私を抱いているナハルニヴのバランスが崩れた。
「おっと、周囲の空気を一瞬で凍らして弾いたか。さすが、愛おし子」
感心するような声とともにナハルニヴが煙の中へ姿を隠すように後ろへ飛ぶ。もちろん、私を抱えたまま。
「この! 待て!」
フィアの声が追いかけて来る。
「きゅ……んぐ」
(こっち……んぐ)
口をガサガサの手で塞がれて声を出せない。
「しばらく声を出さないようにな。おれ、気絶させるのは苦手で、うっかり殺すからさ。そんなので死ぬのは嫌だろ?」
あっけらかんと言っているが、後半の言葉にサーと血の気が引いた。
(これは、本当だ)
直感だけど、そう感じた。
命を奪うことに何のためらいもない。そこらへんの雑草を摘むのと同じ感覚で人の命を奪う。
そう考えた瞬間、私の中でふつふつと怒りがわきあがった。
(はぁ!? ふざけるな! こっちは人一人の命を救うのに、どれだけ神経と体力をすり減らしていると思っているのよ!? どれだけ考えて、どれだけ調べて、どれだけ手を尽くして……それでも救えずに、どれだけ悔しい思いを…………)
怒りの感情に呑まれながら、私は大きく息を吸って腹の底から力を入れた。
「きゅぁあああああああ!!!!!!!」
(わぁぁあああああああ!!!!!!!)
口を塞いだ手を超えて、白い煙の中に私の怒声が響き渡る。
「あー、黙ってろって言ったのに」
ナハルニヴの残念そうな声とともに私を抱いている腕に力が入る。
「ぷきゅ!」
(後悔はない!)
フンッと開き直る私。
(こんなヤツに好き勝手されるぐらいなら、一矢報いる方を選ぶ! たとえ死んでも……って、死? そういえば、私……)
ぼんやりと脳裏に人影が浮かぶ。
長い白髪で私に何かを説明していた。
思い出そうとしていると、フッと風が頬を撫でた。
「そこか」
マクティーラの不気味なほど冷えた声が迫る。
気が付いた時には剣先が頭上をかすめ、ナハルニヴの眼前にある前髪を斬り落としていた。
「やるねぇ。だが……」
声が切れると同時にナハルニヴの体がグラリと倒れるように動く。
ガンッ!
ナハルニヴの靴底が藍色の瞳に迫るが、それをマクティーラが剣で受け止めた。
「ほら、脇ががら空きだ」
ナハルニヴが私を抱えていない方の手を軽く動かす。
『火の精霊よ。喜びの輪舞曲と終焉の円舞曲を』
マクティーラを囲むように火柱があがる。
「クッ!」
すぐにマクティーラがさがるが、それを追いかけるようにナハルニヴが腰から数本のナイフを引き抜いて投げた。
カン、カン、カン!
剣ですべてのナイフを叩き落とす。
その隙にマクティーラの懐に飛び込んでいたナハルニヴがニヤリと口角をあげた。
「そんな上品な戦い方だと、おれは倒せないぞ」
再びナハルニヴの鋭い蹴りが飛ぶ。
「ガハッ!」
腹に直撃を受けた衝撃でマクティーラの体が吹き飛んだ。
カランと主を失った剣が地面に転がる。
「きゅぁきゅ!」
(マクティーラ!)
私の叫び声が虚しく響く。
ナハルニヴは落ちていたマクティーラの剣を拾い上げながら挑発するように言った。
「隣国の騎士が勝手に我が国に侵入するとは、宣戦布告とも受け取れる行為だな、ナハルニヴ」
そう話しながらマクティーラが腰から下げている剣へ手を伸ばす。
だが、ナハルニヴと呼ばれた男は動揺することなく軽く肩をすくめて両手をあげた。
「おい、おい。おれは休暇中で旅行をしていて、たまたま迷い込んだだけだ。戦う意思なんてないさ。その証拠に平服だし武器は一切持っていない。丸腰だ」
飄々とした軽い雰囲気。
目元を緩め、渋い顔を崩して人当たりの良い笑顔を浮かべている。そして、スラスラと話す口調は嘘のない言葉……のように聞こえる。
そう見える……けど、私の中で警鐘が鳴る。
(……知ってる。こういう人は息をするように真実の中に嘘を混ぜる。取り繕うために、もしくは自分の本心を知られないために……って、どうして私はそんなことを知っているの?)
イラールに抱えられたまま首を傾げる。
そんな私の視線の先では、マクティーラがピリッとした空気をまとったまま訊ねた。
「ならば、なぜ攻撃をしてきた?」
「それも言い方が悪いな。現在地を把握しようと魔法を使ったら失敗して暴発しただけだ」
「では、道を教えたらさっさと自分の国に戻るのか?」
その問いにナハルニヴが当然のように頷く。
「あぁ。俺だって休暇中に無用な争いはしたくないさ」
「そうか……」
マクティーラが警戒しながらも少しだけ空気が緩んだ。
――――――その瞬間。
ナハルニヴの手が素早く動く。
「土産はもらっていくがな」
「きゅっ!?」
(えっ!?)
ナハルニヴを中心に真っ白な煙が噴き出し、何も見えなくなった。
ガンッ!
何かがぶつかったような衝撃とともに私の体が少しだけ揺れる。
「ゲホッ! ゴホッ!? 無事か!?」
マクティーラの声がすぐ脇を通り抜けた。
いや、私が通り抜けたらしい。抱えられたまま移動していて白い煙を抜けようとしている。
「マクッ、赤ん坊、が……」
ここでイラールの切れ切れの声が響いた。
私を奪われた時に攻撃を受けたらしく、痛みを堪えるような呻き声に近い。
「きゅ、きゅきゅぅう!?」
(って、いうかなんなの!?)
私の声に素早く影が近づく。
「そこですね!」
フィアの声とともに白い煙の中から長い手が伸びて来た。
「おっと、そうはさせないぞ」
頭上からナハルニヴの声がすると同時にナイフの刃が手にむかって落ちる。
その光景に私は反射的に叫んでいた。
「きゅぁぁあ!」
(だめぇぇえ!)
目を閉じて思いっきり力を入れる。
カンッ!
高い音とともに私を抱いているナハルニヴのバランスが崩れた。
「おっと、周囲の空気を一瞬で凍らして弾いたか。さすが、愛おし子」
感心するような声とともにナハルニヴが煙の中へ姿を隠すように後ろへ飛ぶ。もちろん、私を抱えたまま。
「この! 待て!」
フィアの声が追いかけて来る。
「きゅ……んぐ」
(こっち……んぐ)
口をガサガサの手で塞がれて声を出せない。
「しばらく声を出さないようにな。おれ、気絶させるのは苦手で、うっかり殺すからさ。そんなので死ぬのは嫌だろ?」
あっけらかんと言っているが、後半の言葉にサーと血の気が引いた。
(これは、本当だ)
直感だけど、そう感じた。
命を奪うことに何のためらいもない。そこらへんの雑草を摘むのと同じ感覚で人の命を奪う。
そう考えた瞬間、私の中でふつふつと怒りがわきあがった。
(はぁ!? ふざけるな! こっちは人一人の命を救うのに、どれだけ神経と体力をすり減らしていると思っているのよ!? どれだけ考えて、どれだけ調べて、どれだけ手を尽くして……それでも救えずに、どれだけ悔しい思いを…………)
怒りの感情に呑まれながら、私は大きく息を吸って腹の底から力を入れた。
「きゅぁあああああああ!!!!!!!」
(わぁぁあああああああ!!!!!!!)
口を塞いだ手を超えて、白い煙の中に私の怒声が響き渡る。
「あー、黙ってろって言ったのに」
ナハルニヴの残念そうな声とともに私を抱いている腕に力が入る。
「ぷきゅ!」
(後悔はない!)
フンッと開き直る私。
(こんなヤツに好き勝手されるぐらいなら、一矢報いる方を選ぶ! たとえ死んでも……って、死? そういえば、私……)
ぼんやりと脳裏に人影が浮かぶ。
長い白髪で私に何かを説明していた。
思い出そうとしていると、フッと風が頬を撫でた。
「そこか」
マクティーラの不気味なほど冷えた声が迫る。
気が付いた時には剣先が頭上をかすめ、ナハルニヴの眼前にある前髪を斬り落としていた。
「やるねぇ。だが……」
声が切れると同時にナハルニヴの体がグラリと倒れるように動く。
ガンッ!
ナハルニヴの靴底が藍色の瞳に迫るが、それをマクティーラが剣で受け止めた。
「ほら、脇ががら空きだ」
ナハルニヴが私を抱えていない方の手を軽く動かす。
『火の精霊よ。喜びの輪舞曲と終焉の円舞曲を』
マクティーラを囲むように火柱があがる。
「クッ!」
すぐにマクティーラがさがるが、それを追いかけるようにナハルニヴが腰から数本のナイフを引き抜いて投げた。
カン、カン、カン!
剣ですべてのナイフを叩き落とす。
その隙にマクティーラの懐に飛び込んでいたナハルニヴがニヤリと口角をあげた。
「そんな上品な戦い方だと、おれは倒せないぞ」
再びナハルニヴの鋭い蹴りが飛ぶ。
「ガハッ!」
腹に直撃を受けた衝撃でマクティーラの体が吹き飛んだ。
カランと主を失った剣が地面に転がる。
「きゅぁきゅ!」
(マクティーラ!)
私の叫び声が虚しく響く。
ナハルニヴは落ちていたマクティーラの剣を拾い上げながら挑発するように言った。
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