王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!

ちゃっぴー

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「……来たぞ。ククク、運命の時間がやってきた。見ろ、あのアストレア家の紋章が入った、傲慢なほど豪華な馬車を!」

王都外れの街道。
茂みに身を潜めたウィルフレッド王子は、興奮で鼻息を荒くしていた。
彼の隣には、昨日雇ったはずの男たちが、死んだ魚のような目で立っている。

「……なぁ、王子。本当にやるのか? あれ、どう見ても護衛の数が……」

「黙れ! 愛の力に数など関係ない! さあ、行くぞ! 私の合図で馬車を止めろ!」

王子がボロボロの剣を掲げて飛び出した。
「止まれぇ! ラーニャ、私が迎えに来たぞ!」

街道の真ん中で仁王立ちする王子。
すると、豪華な馬車は驚くほど素直に、キィィと音を立てて停車した。
御者台に座っていたのは、なぜか我が家の副団長ガウェイン。彼は無表情に王子を見下ろしている。

「……おや。道端に大型の不燃ゴミが落ちているようですが、ガウェイン様、どう思われます?」

馬車の窓が開き、そこから顔を出したのは、優雅にパイを頬張るメリルだった。

「ああ。不法投棄のようだな。速やかに回収し、しかるべき処置を施すべきだろう」

「な……ななな、何を言っている! ラーニャ! ラーニャ・フォン・アストレア、そこにいるのは分かっているんだ! 出てきて、私と一緒に愛の逃避行へ向かおうじゃないか!」

王子が馬車の扉に手をかけようとしたその時。
扉が内側から勢いよく開き、私――ラーニャは、扇子で口元を隠しながら優雅に降り立った。

「ごきげんよう、ウィルフレッドさん。……逃避行? あいにくですが、今日の私のスケジュールには『誘拐される』という項目はございませんわよ?」

「……え? い、誘拐? なぜそれを……。はっ! そうか、やはり君は私の心を読んで……!」

「いいえ。あなたが昨日、真珠のボタン三つで雇ったその方たちが、昨夜のうちに弊社へ情報提供(売却)に来られましたの」

私が横に視線を送ると、王子の背後にいた男たちが、気まずそうに目を逸らした。

「おい! 貴様ら、裏切ったのか!? 私の、唯一無二の真珠を……!」

「悪いな、王子。あんたのボタン一つより、公爵令嬢からの情報提供料と『アストレア・グループへの優先雇用権』の方が、はるかに魅力的だったんだ」

男たちは、あっさりと王子の背後から去り、ガウェインの隣に整列した。
もはや、誘拐犯は一人もいない。

「……そんな……。じゃあ、この計画は最初から……」

「ええ。丸出しですわ。……さて、せっかくですから、あなたの『誘拐計画』の採点を差し上げましょうか。メリル、リストを」

「はい、ボス! もぐもぐ……まず、待ち伏せ場所。ここ、公爵家の私有地です。不法侵入で加点一。次に、逃走経路。この先の橋、今朝、弊社が老朽化を理由に解体しました。行き止まりで加点二」

メリルが食べかけのパイを片手に、事務的に読み上げる。

「さらに! 誘拐後の隠れ家。あなたが指定したあのボロ小屋、実は昨日のうちに弊社が買い取り、現在は『アストレア家専用・肥料貯蔵庫』として運営しております。つまり、あなたはラーニャ様を牛糞(ぎゅうふん)の中に連れ込むつもりだったわけですわね。……センスのなさに、マイナス一億点です!」

「牛……肥料……!? 私の愛の巣が、牛の……うわああぁぁ!」

王子は、あまりのショックに頭を抱えてその場に蹲った。

「ウィルフレッドさん。……残念ですが、これが現実です。物語の中のあなたは素敵なヒーローかもしれませんが、現実のあなたは、情報の管理も、資金の運用も、地形の把握すらできない、ただの『自称・誘拐犯』に過ぎませんの」

私は、冷たく言い放つと、ガウェインに合図を送った。

「……さて。お喋りは終わりです。ガウェイン、この『迷子』を、本来行くべき場所へ送り届けて差し上げなさい」

「承知いたしました。……おい、王子。立ちなさい。あなたの『塔』での生活、実は我々がスポンサーになりましてね。……最高に『チクチクする藁』を特注で用意してありますよ」

「嫌だ! 嫌だああ! ラーニャ! せめて最後にもう一度だけ、僕を婚約者として見てくれぇぇ!」

ガウェインに引きずられていく王子の声が、街道に虚しく響く。

「……さて、メリル。ゴミ拾いも終わりましたし、視察を続けましょうか」

「了解です、ボス! あ、次の村の視察ルートに、美味しいお団子屋さんがありましたよ!」

私たちは、再び馬車に乗り込み、澄み渡る空の下を進み出した。
王子の最後の作戦は、文字通り「秒」で、そして最高の喜劇として幕を閉じたのであった。
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