悪役令嬢の断罪――え、いま婚約破棄と?聞こえませんでしたわ!

ちゃっぴー

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「……報告します、アクア様。例の『パレス・プロジェクト』の全貌、掴みました」

事務所のドアを開け、息も絶え絶えに現れたのは、調査部門の筆頭となった男・元誘拐犯のボブ(仮名)だった。
彼はリルのスパルタ教育のおかげで、今や王宮のゴミ捨て場に潜入してもバレないほどの隠密スキルを身につけている。

「ご苦労様、ボブ。……それで? あの負債王子は、今度は何に血税を垂れ流しているのかしら?」

私は、特売の余り物で作った「冷え冷えハーブティー(コストゼロ)」を一口飲み、優雅に問いかけた。
ボブは震える手で、一枚の図面を取り出した。

「これです。……殿下は、王宮の裏庭を潰して『ジュリアス・愛のナルシス・ガーデン』なる巨大な庭園を建設しようとしています。しかも、その中心に建てるのは……純金製の『自分の全裸像』だそうです」

「……ぶっ!!」

私は飲んでいたティーを盛大に吹き出しそうになった。
隣で書類を整理していたリルが、即座に「お姉様の聖水が! 床が浄化されてしまいますわ!」と叫びながら雑巾を持って駆け寄ってくる。

「……ぜ、全裸像? それも純金で? 正気ですの? 公衆衛生的な意味でも、経済的な意味でも、もはやテロ行為ですわよ」

「さらに驚くべきは、その建設費の出所です。アクア様が以前指摘された『孤児院の屋根修繕予算』……あれがすべて、この彫像の台座部分の材料費に化けていました」

ボブの報告に、部屋の空気が一瞬で凍りついた。
壁際で剣を磨いていたゼノの動きが止まり、彼の周囲に本物の殺気が漂い始める。

「……あのアホ、ついに一線を越えやがったな。子供たちのための予算を、自分の裸像に変えるだと?」

ゼノの声は低く、怒りに震えていた。
だが、私は冷静に計算機を叩き始めた。

「……純金、十トン相当。現在の金相場から換算して、建設費および横領額は……。ふむ、これだけで王子を廃嫡、あるいは国外追放にするには十分な『負債』になりますわね」

「お姉様! 今すぐその全裸像を溶かして、金塊にしてしまいましょう! ついでに殿下も一緒に溶かせば、不純物が混ざって価値が下がるかしら?」

「リルさん、過激な発言は控えなさい。不純物を混ぜるのは投資効率が悪いですわ」

私は立ち上がり、棚から一冊の「特別徴収ファイル」を取り出した。
これは、いつか王室を法的に追い詰めるために用意していた、私の切り札の一つだ。

「ゼノ。あなたに頼みがありますわ」

「言われるまでもない。騎士団の権限で、あの庭園の建設現場を押さえればいいんだろ?」

「いいえ。それではただの公務執行ですわ。……あなたは『近衛騎士団長』としてではなく、『アクア・ラズライトの専属警護員』として、私と一緒に王宮へ乗り込んでくださる?」

私は不敵な笑みを浮かべた。
三白眼がいつも以上に鋭く、獲物を捕らえる蛇のような光を放つ。

「これは政治的な断罪ではありません。……不当に奪われた予算を、正当な権利者(孤児院の代理人である私)が『力ずくで回収する』という、ただの経済活動ですわ」

「……お前、本当に楽しそうだな。わかった、付き合ってやるよ。その代わり、後で美味い飯でも奢れよ?」

「もちろんですわ。……タイムセールで買った、半額の高級牛肉(の脂身)をふんだんに使った特製ディナーを用意しますわ」

「……お前の『美味い飯』が、いつも俺の胃袋を試してくるのはどうにかならないか?」

ゼノは苦笑しながらも、私の隣に立った。

「ボブ、他のメンバーを集めなさい。リルさんは、王宮の広報担当に『アクア様が王子の美しさを讃えるために参上する』というデマを流して。……相手を油断させて、最大のダメージを与える。これこそが、悪役令嬢の戦法ですわ!」

「はいっ、お姉様!!」

一時間後。
私たちは、王宮の裏庭――絶賛建設中の「ナルシス・ガーデン」に到着した。
そこには、巨大な布に覆われた「何か」と、悦に入った表情で指揮を執るジュリアス殿下の姿があった。

「フハハハ! これぞ、私の輝きを永遠に留めるための聖域! 完成すれば、民衆は私の裸体……あ、いや、私の高潔な精神を拝むことができるのだ!」

「ご機嫌よう、殿下。……相変わらず、脳内にバラの花が咲き乱れているようで何よりですわ」

私の声に、殿下がビクッと肩を揺らし、振り返った。

「あ、アクア!? な、なぜここに! もしや、私の全裸像のモデル志願か!? だが残念ながら、この彫像は私一人で完成されているのだ!」

「……誰がその、公害のような彫像のモデルになどなりますか。……本日は、殿下が『お借りになった』孤児院の予算、およびその利息……さらに、この悪趣味な工事によって損なわれた王宮の景観維持費の回収に参りました」

私は、懐から「強制執行令状(※父である公爵に無理やり判を押させたもの)」を突きつけた。

「殿下。今すぐその全裸像を換金するか、さもなくば、この工事現場の資材すべてを私が没収し、メルカリ……いえ、王都の競売所で売り払わせていただきますわ」

「な、なんだと!? これは私の芸術だぞ! 正義の王子の、愛の結晶だぞ!」

「いいえ、殿下。これはただの『差し押さえ物件』ですわ」

私は背後のゼノに目配せをした。
ゼノが剣の柄に手をかけると、現場の職人たちが悲鳴を上げて逃げ出した。

「さあ、殿下。……経済的破滅か、それとも、公爵令嬢による『物理的な断罪』か。……どちらを選びますの?」

太陽の光を浴びて、私の三白眼が黄金色に輝いた。
これこそが、私が待ち望んだ「最大利益」の瞬間。
王子の悲鳴が、王宮の空に空しく響き渡る。
……さて、この純金、一キロいくらで売れるかしらね?
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