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「……で。結局、金貨百五十枚のうち、現ナマで用意できたのはこれっぽっちですの?」
私は、相談所の安デスクの上に並べられた、数枚の汚れた銀貨と銅貨を指先で弾いた。
目の前には、昨日の「誘拐犯」こと、三人の情けない男たちが正座して震えている。
リーダー格の男は、鼻をすすりながら床に額を擦り付けた。
「す、すみません……。俺たち、景気が悪くて廃業寸前の運送屋だったんです。魔導馬車の普及で仕事がなくなって、つい魔が差して……」
「言い訳は結構ですわ。私はあなたの身の上話に投資しているわけではありませんの。……リルさん、この男たちの『残存資産価値』を算定してくださる?」
「はい、お姉様! えーと、健康状態は良好。力仕事には耐えられそうです。ただ、脳みその稼働率が著しく低いのが欠点ですわね。市場価格で言えば、一山いくらのジャンク品といったところでしょうか!」
リルが手厳しい評価を下すと、男たちは「ひっ」と短い悲鳴を上げた。
彼らにとって、リルの罵倒はもはやトラウマの域に達しているらしい。
「……なぁ、アクア。こいつら、近衛騎士団に突き出せば、不法侵入と誘拐未遂で最低でも五年は塀の中だぞ」
壁際で腕を組んでいたゼノが、冷淡に告げた。
その言葉に、男たちの顔が土気色に変わる。
しかし、私はゆっくりと首を振った。
「いいえ、ゼノ。それは非効率的ですわ。税金で彼らを五年間も養うなんて、国家予算の無駄遣いです。……死蔵されている労働力は、有効活用してこそ利益を生むのですわ」
私は眼鏡をクイッと上げ、三人の男たちを見下ろした。
「あなたたち。監獄へ行くか、それとも私の下で『時給十円(端材付き)』で馬車馬のように働くか。……二択ですわ。どちらを選びますの?」
「は、働かせてください! 何でもします! あの不気味な女の罵倒に耐えるよりは、重労働の方がマシです!」
「失礼ね、不気味とは。……よし、契約成立ですわね。今日からあなたたちは、我が『悪役令嬢相談所』の調査・徴収部門……通称『アズライト・エージェンシー』の第一期生ですわ」
私はあらかじめ用意しておいた、文字がびっしりと詰まった契約書(※解約不可の特約付き)を彼らの前に差し出した。
「主な業務は、クライアントの浮気調査、不当な借金の取り立て、および特売品情報の収集です。……リルさん、彼らに制服を。一番安くて、それでいて威圧感のある『中古の黒いマント』を三着、卸値で買ってきてちょうだい」
「承知いたしました、お姉様! ついでに、彼らが逃げ出さないように『アクア様の似顔絵入り首輪』……いえ、バッジも発注しておきますわ!」
「それはコストの無駄だから、名札でいいわよ」
こうして、相談所に三人の屈強な(しかし精神的にボロボロな)調査員が加わった。
彼らは早速、リルのスパルタ指導の下で「効率的な尾行術」と「アクア様を称える時の正しい姿勢」を叩き込まれることになった。
「……アクア、お前なぁ。誘拐犯を更生させるのはいいが、雇い主が一番の悪党に見えるぞ」
ゼノが近寄ってきて、私の耳元で囁いた。
その距離が近く、私は思わず帳簿を抱きしめる。
「あら。私は彼らに『更生という名の利益』を与えているのですわ。それに、彼らを使えば、あのバカ王子の周辺調査も捗りますもの。……ゼノ、あなただって、騎士団の手を汚したくない裏仕事、あるでしょう?」
「……否定はしないが。お前、たまには自分の安全を第一に考えろ。こいつらが裏切ったらどうするんだ」
「その時は、ゼノ。……あなたが私の『保険』として、彼らを物理的に処理してくださるでしょう?」
私が上目遣いでじっと見つめると、ゼノは一瞬言葉に詰まり、視線を逸らした。
「……お前、そういうところだけはズルいよな。……ああ、わかったよ。お前の安全は、俺が責任を持って保証してやる」
ゼノの大きな手が、私の頭にポンと置かれた。
その瞬間、私の脳内の計算機がエラーを起こした。
時給換算不可。期待値無限大。
……この男の優しさは、いつも私の損得勘定を狂わせてくる。
「……あ、あの、ゼノ。髪が乱れますわ。……それに、その『保証』にかかる手数料、後で請求しないでくださいね」
「……お前なぁ。一生、俺に借金してろよ。利子は『お前の笑顔』でいいからな」
「…………。……そういう恥ずかしいセリフ、一回につき金貨五枚ですわ」
私は真っ赤になった顔を隠すように、新しい従業員たちの教育(という名の罵倒)に熱中するリルの方を向いた。
「お前ら! アクア様が特売の卵を買いに行かれる際は、露払いを完璧にこなしなさい! 一秒の遅れは一時間の減給ですわよ!」
「「「はい、姐さん!!!」」」
……なんだか、相談所がどんどん「カタギ」ではない方向へ進化している気がするけれど。
まぁ、固定資産(従業員)が増えたのだから、ヨシとしましょう。
私は高鳴る鼓動を「これは先行投資による興奮よ」と自分に言い聞かせ、次のターゲット――王子のポエムに隠された『王室予算の使途不明金』の調査指示を書き始めるのであった。
私は、相談所の安デスクの上に並べられた、数枚の汚れた銀貨と銅貨を指先で弾いた。
目の前には、昨日の「誘拐犯」こと、三人の情けない男たちが正座して震えている。
リーダー格の男は、鼻をすすりながら床に額を擦り付けた。
「す、すみません……。俺たち、景気が悪くて廃業寸前の運送屋だったんです。魔導馬車の普及で仕事がなくなって、つい魔が差して……」
「言い訳は結構ですわ。私はあなたの身の上話に投資しているわけではありませんの。……リルさん、この男たちの『残存資産価値』を算定してくださる?」
「はい、お姉様! えーと、健康状態は良好。力仕事には耐えられそうです。ただ、脳みその稼働率が著しく低いのが欠点ですわね。市場価格で言えば、一山いくらのジャンク品といったところでしょうか!」
リルが手厳しい評価を下すと、男たちは「ひっ」と短い悲鳴を上げた。
彼らにとって、リルの罵倒はもはやトラウマの域に達しているらしい。
「……なぁ、アクア。こいつら、近衛騎士団に突き出せば、不法侵入と誘拐未遂で最低でも五年は塀の中だぞ」
壁際で腕を組んでいたゼノが、冷淡に告げた。
その言葉に、男たちの顔が土気色に変わる。
しかし、私はゆっくりと首を振った。
「いいえ、ゼノ。それは非効率的ですわ。税金で彼らを五年間も養うなんて、国家予算の無駄遣いです。……死蔵されている労働力は、有効活用してこそ利益を生むのですわ」
私は眼鏡をクイッと上げ、三人の男たちを見下ろした。
「あなたたち。監獄へ行くか、それとも私の下で『時給十円(端材付き)』で馬車馬のように働くか。……二択ですわ。どちらを選びますの?」
「は、働かせてください! 何でもします! あの不気味な女の罵倒に耐えるよりは、重労働の方がマシです!」
「失礼ね、不気味とは。……よし、契約成立ですわね。今日からあなたたちは、我が『悪役令嬢相談所』の調査・徴収部門……通称『アズライト・エージェンシー』の第一期生ですわ」
私はあらかじめ用意しておいた、文字がびっしりと詰まった契約書(※解約不可の特約付き)を彼らの前に差し出した。
「主な業務は、クライアントの浮気調査、不当な借金の取り立て、および特売品情報の収集です。……リルさん、彼らに制服を。一番安くて、それでいて威圧感のある『中古の黒いマント』を三着、卸値で買ってきてちょうだい」
「承知いたしました、お姉様! ついでに、彼らが逃げ出さないように『アクア様の似顔絵入り首輪』……いえ、バッジも発注しておきますわ!」
「それはコストの無駄だから、名札でいいわよ」
こうして、相談所に三人の屈強な(しかし精神的にボロボロな)調査員が加わった。
彼らは早速、リルのスパルタ指導の下で「効率的な尾行術」と「アクア様を称える時の正しい姿勢」を叩き込まれることになった。
「……アクア、お前なぁ。誘拐犯を更生させるのはいいが、雇い主が一番の悪党に見えるぞ」
ゼノが近寄ってきて、私の耳元で囁いた。
その距離が近く、私は思わず帳簿を抱きしめる。
「あら。私は彼らに『更生という名の利益』を与えているのですわ。それに、彼らを使えば、あのバカ王子の周辺調査も捗りますもの。……ゼノ、あなただって、騎士団の手を汚したくない裏仕事、あるでしょう?」
「……否定はしないが。お前、たまには自分の安全を第一に考えろ。こいつらが裏切ったらどうするんだ」
「その時は、ゼノ。……あなたが私の『保険』として、彼らを物理的に処理してくださるでしょう?」
私が上目遣いでじっと見つめると、ゼノは一瞬言葉に詰まり、視線を逸らした。
「……お前、そういうところだけはズルいよな。……ああ、わかったよ。お前の安全は、俺が責任を持って保証してやる」
ゼノの大きな手が、私の頭にポンと置かれた。
その瞬間、私の脳内の計算機がエラーを起こした。
時給換算不可。期待値無限大。
……この男の優しさは、いつも私の損得勘定を狂わせてくる。
「……あ、あの、ゼノ。髪が乱れますわ。……それに、その『保証』にかかる手数料、後で請求しないでくださいね」
「……お前なぁ。一生、俺に借金してろよ。利子は『お前の笑顔』でいいからな」
「…………。……そういう恥ずかしいセリフ、一回につき金貨五枚ですわ」
私は真っ赤になった顔を隠すように、新しい従業員たちの教育(という名の罵倒)に熱中するリルの方を向いた。
「お前ら! アクア様が特売の卵を買いに行かれる際は、露払いを完璧にこなしなさい! 一秒の遅れは一時間の減給ですわよ!」
「「「はい、姐さん!!!」」」
……なんだか、相談所がどんどん「カタギ」ではない方向へ進化している気がするけれど。
まぁ、固定資産(従業員)が増えたのだから、ヨシとしましょう。
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