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「今日から私は、土に生きます!」
雲ひとつない晴天の下。
私は、別荘の広大な庭園の一角で、高らかに宣言した。
「……土に?」
木陰で優雅にアイスティーを飲んでいたキース様とリナが、同時に首を傾げる。
「ええ、そうです! 追放者たるもの、いつまでも王家の備蓄食料に頼っているわけにはいきません。自分の食べるものは自分で作る。これぞ『スローライフ』の基本です!」
私は、右手に握りしめたクワを空に突き上げた。
今日の私の格好は、昨日メイド長に頼んで作ってもらった「農民スタイル」だ。
頭には手ぬぐいを巻き、動きやすいもんぺ(に似た可愛らしいズボン)を履き、足元は長靴。
完璧だ。
どこからどう見ても、大地の恵みに感謝する村娘である。
「お姉様……その格好、最高に可愛いです! 『農村の奇跡』というタイトルで画集が出せます!」
リナが目を輝かせてスケッチブックを取り出す。
「そういうことじゃないのよ、リナ。これは遊びじゃないの。生きるか死ぬかのサバイバルなの」
「サバイバル? 夕食のメニューは『和牛のステーキ』だと聞いていますが?」
「それはそれ! これはこれ!」
私はリナのツッコミを華麗にスルーし、目の前の更地(元々は美しい芝生だった場所)を見据えた。
「さあ、耕すわよ! 目指せ、美味しいカブの収穫!」
「カブか……。地味だね」
キース様がパラソルを閉じて、こちらへ歩いてきた。
驚いたことに、彼もまた、いつものカチッとした王子の服ではなく、ラフなシャツにサスペンダーという格好をしている。
しかも、無駄に似合っている。
爽やかすぎる。
農作業をするのに、なぜファッション誌の表紙のようなオーラが出るのか。
「殿下? まさか手伝ってくださるのですか?」
「もちろん。君が『初めての共同作業がしたい』と言うなら、断る理由はない」
「言ってません! 『自給自足がしたい』と言ったんです!」
「同じことだよ。愛の種を撒き、二人の愛を育む……ロマンチックじゃないか」
キース様は私の手からクワを取り上げると、ニッコリと微笑んだ。
「使い方は分かるかい?」
「え、えっと……こうやって振り下ろすんですよね?」
「危ないな。腰が入っていないよ」
キース様が私の背後に回り込んだ。
そして、私の手を上から包み込むようにして、クワの柄を握った。
「えっ」
背中にキース様の胸板が密着する。
耳元にかかる吐息。
近い。
これ、またあのパターンだ。
「こうやって、腰を入れて……振り下ろすんだ」
「ひゃっ!?」
ザクッ!
二人羽織のような状態で、クワが土に食い込む。
「ほら、深く耕せただろう?」
「た、確かに耕せましたけど! これ、動きづらいです! ものすごく密着してます!」
「それが狙い……じゃなくて、安全指導だ」
「嘘つけ!」
「離れてください! この害虫王子!」
ドゴォォォン!!
突然、私たちの数メートル横で地面が爆発した。
「ひえっ!?」
土煙が晴れると、そこには杖を構えたリナが立っていた。
地面には、巨大なクレーターができている。
「あーらごめんなさい。虫がいたので、つい」
「どんな虫よ!? 地竜でもいたの!?」
「お姉様にくっつく、金髪碧眼の大きな害虫です」
リナがキース様を睨みつける。
「お姉様、そんなチマチマ耕す必要はありません。私の土魔法なら、一瞬で畑なんて作れます!」
「え?」
リナが杖を振るう。
「『アース・プラウ(大地の耕起)』!」
ズゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
地鳴りとともに、庭の土が波打つように盛り上がり、あっという間に綺麗な畝(うね)が出来上がった。
一瞬だ。
私が半日かけて耕そうとしていた面積が、わずか三秒で。
「……すごい」
私は呆然と呟いた。
「どうですかお姉様! これで種まきし放題ですよ!」
リナが得意げに胸を張る。
「ありがとうリナ……でもね、これじゃ『労働の汗』が流せないのよ……」
「汗なんて流さなくていいです! お姉様は涼しい顔で収穫だけしてください!」
「過保護!」
「さて、次は種まきだね」
キース様が、どこからともなく取り出した小袋を振る。
「ミュール、この種を撒こう」
「それは?」
「カブの種……と言いたいところだが、バラの種だ」
「なぜ!?」
「畑一面に真紅のバラを咲かせて、その中心で君に愛を囁くためだ」
「食べられません! 私は飢えをしのぎたいんです!」
「大丈夫、バラジャムにすれば食べられるよ」
「主食にはなりません!」
「じゃあ、私はこれですね」
リナが別の種を取り出した。
「魔界マンドラゴラの種です」
「もっとダメなやつ!!」
「引っこ抜く時に悲鳴を上げますが、滋養強壮にいいらしいですよ」
「近所迷惑だからやめて!」
もう、なんなのこの人たち。
普通に野菜を作らせてよ。
私は二人から距離を取り、自分で用意した「ラディッシュの種(初心者向け)」を蒔くことにした。
「いい? ここにお水をあげて、数週間待てば……」
「遅いな」
キース様が指を鳴らした。
パチン。
宮廷魔導師団謹製の「超・成長促進肥料(王家専用)」が、パラパラと撒かれる。
次の瞬間。
ボボボボボボボッ!!!
私の目の前で、ラディッシュが爆発的な速度で芽吹き、茎を伸ばし、葉を広げた。
「うわあああ!?」
成長は止まらない。
ラディッシュは私の背丈を超え、さらに巨大化していく。
「お、大きくなりすぎですわー!?」
「おっと、分量を間違えたかな。一滴で森ができるやつだった」
「そんな危険物を家庭菜園に使わないでください!」
目の前には、ジャックと豆の木もびっくりの、巨大ラディッシュの森が完成していた。
実の部分なんて、馬車くらいの大きさがある。
「……これ、どうやって食べるの?」
私が呆然と見上げると、リナが杖を構えた。
「任せてくださいお姉様。私が『解体』します」
「料理用語として『解体』って使う?」
「『ウィンド・スラッシュ(真空の刃)』!」
ズババババッ!
巨大ラディッシュが、リナの魔法で空中でスライスされ、綺麗な輪切りになって降り注ぐ。
ドスンドスンと落ちてくるラディッシュの雨。
「わあ、大収穫だね」
キース様が私を抱き寄せ、落下物から守りながら笑う。
「一ヶ月分のサラダには困らないな」
「そういう問題ではありません……!」
私は泥だらけ(主にキース様とリナの暴走の余波)になりながら、その場にへたり込んだ。
服も顔も泥んこ。
当初の予定していた「慎ましい自給自足」とは程遠い、「魔法と科学の力による大量破壊と創造」になってしまった。
「……もう嫌。おうち帰る」
「ここがおうち(別荘)だよ、ミュール」
「お風呂に入りましょうお姉様! 私が背中を流します!」
「僕が流す」
「貴様は沈んでいろ!」
泥だらけの私を挟んで、またしても始まる姉妹(+王子)喧嘩。
私は空を見上げた。
青い空に、巨大ラディッシュの葉が揺れている。
「……カブのスープ、飲みたかったな」
私の小さな願いは、今日も二人の愛と魔力によって、斜め上の方向へと吹き飛ばされたのだった。
(追記:この後、大量のラディッシュはスタッフ(使用人一同)が美味しくいただきました)
雲ひとつない晴天の下。
私は、別荘の広大な庭園の一角で、高らかに宣言した。
「……土に?」
木陰で優雅にアイスティーを飲んでいたキース様とリナが、同時に首を傾げる。
「ええ、そうです! 追放者たるもの、いつまでも王家の備蓄食料に頼っているわけにはいきません。自分の食べるものは自分で作る。これぞ『スローライフ』の基本です!」
私は、右手に握りしめたクワを空に突き上げた。
今日の私の格好は、昨日メイド長に頼んで作ってもらった「農民スタイル」だ。
頭には手ぬぐいを巻き、動きやすいもんぺ(に似た可愛らしいズボン)を履き、足元は長靴。
完璧だ。
どこからどう見ても、大地の恵みに感謝する村娘である。
「お姉様……その格好、最高に可愛いです! 『農村の奇跡』というタイトルで画集が出せます!」
リナが目を輝かせてスケッチブックを取り出す。
「そういうことじゃないのよ、リナ。これは遊びじゃないの。生きるか死ぬかのサバイバルなの」
「サバイバル? 夕食のメニューは『和牛のステーキ』だと聞いていますが?」
「それはそれ! これはこれ!」
私はリナのツッコミを華麗にスルーし、目の前の更地(元々は美しい芝生だった場所)を見据えた。
「さあ、耕すわよ! 目指せ、美味しいカブの収穫!」
「カブか……。地味だね」
キース様がパラソルを閉じて、こちらへ歩いてきた。
驚いたことに、彼もまた、いつものカチッとした王子の服ではなく、ラフなシャツにサスペンダーという格好をしている。
しかも、無駄に似合っている。
爽やかすぎる。
農作業をするのに、なぜファッション誌の表紙のようなオーラが出るのか。
「殿下? まさか手伝ってくださるのですか?」
「もちろん。君が『初めての共同作業がしたい』と言うなら、断る理由はない」
「言ってません! 『自給自足がしたい』と言ったんです!」
「同じことだよ。愛の種を撒き、二人の愛を育む……ロマンチックじゃないか」
キース様は私の手からクワを取り上げると、ニッコリと微笑んだ。
「使い方は分かるかい?」
「え、えっと……こうやって振り下ろすんですよね?」
「危ないな。腰が入っていないよ」
キース様が私の背後に回り込んだ。
そして、私の手を上から包み込むようにして、クワの柄を握った。
「えっ」
背中にキース様の胸板が密着する。
耳元にかかる吐息。
近い。
これ、またあのパターンだ。
「こうやって、腰を入れて……振り下ろすんだ」
「ひゃっ!?」
ザクッ!
二人羽織のような状態で、クワが土に食い込む。
「ほら、深く耕せただろう?」
「た、確かに耕せましたけど! これ、動きづらいです! ものすごく密着してます!」
「それが狙い……じゃなくて、安全指導だ」
「嘘つけ!」
「離れてください! この害虫王子!」
ドゴォォォン!!
突然、私たちの数メートル横で地面が爆発した。
「ひえっ!?」
土煙が晴れると、そこには杖を構えたリナが立っていた。
地面には、巨大なクレーターができている。
「あーらごめんなさい。虫がいたので、つい」
「どんな虫よ!? 地竜でもいたの!?」
「お姉様にくっつく、金髪碧眼の大きな害虫です」
リナがキース様を睨みつける。
「お姉様、そんなチマチマ耕す必要はありません。私の土魔法なら、一瞬で畑なんて作れます!」
「え?」
リナが杖を振るう。
「『アース・プラウ(大地の耕起)』!」
ズゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
地鳴りとともに、庭の土が波打つように盛り上がり、あっという間に綺麗な畝(うね)が出来上がった。
一瞬だ。
私が半日かけて耕そうとしていた面積が、わずか三秒で。
「……すごい」
私は呆然と呟いた。
「どうですかお姉様! これで種まきし放題ですよ!」
リナが得意げに胸を張る。
「ありがとうリナ……でもね、これじゃ『労働の汗』が流せないのよ……」
「汗なんて流さなくていいです! お姉様は涼しい顔で収穫だけしてください!」
「過保護!」
「さて、次は種まきだね」
キース様が、どこからともなく取り出した小袋を振る。
「ミュール、この種を撒こう」
「それは?」
「カブの種……と言いたいところだが、バラの種だ」
「なぜ!?」
「畑一面に真紅のバラを咲かせて、その中心で君に愛を囁くためだ」
「食べられません! 私は飢えをしのぎたいんです!」
「大丈夫、バラジャムにすれば食べられるよ」
「主食にはなりません!」
「じゃあ、私はこれですね」
リナが別の種を取り出した。
「魔界マンドラゴラの種です」
「もっとダメなやつ!!」
「引っこ抜く時に悲鳴を上げますが、滋養強壮にいいらしいですよ」
「近所迷惑だからやめて!」
もう、なんなのこの人たち。
普通に野菜を作らせてよ。
私は二人から距離を取り、自分で用意した「ラディッシュの種(初心者向け)」を蒔くことにした。
「いい? ここにお水をあげて、数週間待てば……」
「遅いな」
キース様が指を鳴らした。
パチン。
宮廷魔導師団謹製の「超・成長促進肥料(王家専用)」が、パラパラと撒かれる。
次の瞬間。
ボボボボボボボッ!!!
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「うわあああ!?」
成長は止まらない。
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「お、大きくなりすぎですわー!?」
「おっと、分量を間違えたかな。一滴で森ができるやつだった」
「そんな危険物を家庭菜園に使わないでください!」
目の前には、ジャックと豆の木もびっくりの、巨大ラディッシュの森が完成していた。
実の部分なんて、馬車くらいの大きさがある。
「……これ、どうやって食べるの?」
私が呆然と見上げると、リナが杖を構えた。
「任せてくださいお姉様。私が『解体』します」
「料理用語として『解体』って使う?」
「『ウィンド・スラッシュ(真空の刃)』!」
ズババババッ!
巨大ラディッシュが、リナの魔法で空中でスライスされ、綺麗な輪切りになって降り注ぐ。
ドスンドスンと落ちてくるラディッシュの雨。
「わあ、大収穫だね」
キース様が私を抱き寄せ、落下物から守りながら笑う。
「一ヶ月分のサラダには困らないな」
「そういう問題ではありません……!」
私は泥だらけ(主にキース様とリナの暴走の余波)になりながら、その場にへたり込んだ。
服も顔も泥んこ。
当初の予定していた「慎ましい自給自足」とは程遠い、「魔法と科学の力による大量破壊と創造」になってしまった。
「……もう嫌。おうち帰る」
「ここがおうち(別荘)だよ、ミュール」
「お風呂に入りましょうお姉様! 私が背中を流します!」
「僕が流す」
「貴様は沈んでいろ!」
泥だらけの私を挟んで、またしても始まる姉妹(+王子)喧嘩。
私は空を見上げた。
青い空に、巨大ラディッシュの葉が揺れている。
「……カブのスープ、飲みたかったな」
私の小さな願いは、今日も二人の愛と魔力によって、斜め上の方向へと吹き飛ばされたのだった。
(追記:この後、大量のラディッシュはスタッフ(使用人一同)が美味しくいただきました)
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