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爽やかな朝の光が差し込むダイニングルーム。
テーブルの上には、焼きたてのパン、ふわふわのオムレツ、そして芳醇な香りの紅茶が並んでいる。
本来なら、優雅な朝食の時間となるはずだった。
しかし。
「……あの、二人とも?」
私は、両隣から発せられる凄まじいプレッシャーに、フォークを持つ手を震わせていた。
私の右隣には、満面の笑みを浮かべた妹、リナ。
左隣には、これまた涼しげな微笑みをたたえた王太子、キース様。
私はその中間に挟まれている。
いわゆる、サンドイッチ状態だ。
「お姉様、あーんしてください。このオムレツ、絶品ですよ」
リナがフォークに切り分けたオムレツを差し出してくる。
「ありがとうリナ、でも自分で食べられるわ」
「ダメです。お姉様は昨日の『カビパン事件(未遂)』で弱っています。リハビリが必要です」
「リハビリの意味が違うと思うの」
「ミュール」
反対側から、キース様が低い声で呼ぶ。
「喉が渇いただろう? 僕がミルクティーを淹れてあげよう」
「あ、すみません殿下……」
「砂糖は3つ、ミルクは多め。かき混ぜるのは右回りに5回。……だろう?」
キース様が手際よく、私の好みの完璧な比率で紅茶を作る。
「素晴らしい……完璧ですわ」
「ふふん、当然だ。君の好みなら全て把握している」
キース様がドヤ顔でリナを見る。
バチバチバチッ!
視線が交錯する音が聞こえた気がした。
リナが眉をひそめる。
「ふん、小賢しいですね。私はお姉様が寝る時、枕の下に手を入れないと眠れないことまで知っていますよ」
「ほう? 僕は彼女が寝言で『肉……肉食べたい』と呟く頻度が、週に平均4回であることを知っているが?」
「負けません! お姉様の背中のホクロの位置だって!」
「昨夜確認済みだ」
「なっ……!?」
リナがガタッと音を立てて立ち上がった。
「き、貴様ー! お姉様の聖域(背中)を見たのですか! 不敬罪で死刑です!」
「落ち着きなさい、リナ嬢。ドレスのファスナーが引っかかったのを直しただけだよ(嘘ではない)」
「嘘だ! その目がやらしく笑っている!」
「二人とも、やめてー!」
私は頭を抱えた。
なぜ朝から私のプライベート情報の暴露合戦が行われているのか。
そして何より問題なのは、二人の仲の悪さだ。
これはいけない。
私の計画では、悪役である私が身を引くことで、リナとキース様が結ばれるはずなのだ。
それなのに、こんなに犬猿の仲では、恋が芽生えるどころか戦争が勃発してしまう。
(私がなんとかしなきゃ……! 二人の仲を取り持つのよ!)
私はフォークを置き、居住まいを正した。
まずは、お互いの良いところをアピールさせる作戦だ。
「ねえ、リナ。見てごらんなさい、キース様を。この完璧な紅茶の淹れ方! さすがは次期国王、気配りが素晴らしいと思わない?」
私はキース様を指し示した。
リナはフンと鼻を鳴らす。
「ただの給仕係としては優秀ですね。執事に転職されては?」
「辛辣!」
失敗だ。
ならば、逆だ。
「キース様! リナのこのオムレツの切り分け方! 一口サイズで食べやすくて、とっても優しいでしょう? こんな気立ての良い子はなかなかいませんわよ!」
キース様はニッコリと笑った。
「そうだね。幼児の世話をするベビーシッターに向いているんじゃないかな?」
「子供扱い!」
だめだ。
二人とも、相手を認める気がさらさらない。
どうすればいいのか。
私は悩み、そして一つの結論に達した。
『共通の敵を作れば、人は団結する』という、とある兵法書の教えだ。
つまり、私が「二人の共通の敵(悪役)」として振る舞えば、二人は協力して私に立ち向かうはず!
「ふ、ふふふ……!」
私は突然、悪役笑いを浮かべた。
「おだまりなさい、二人とも! 朝からキャンキャンと、うるさいわよ!」
私はテーブルをバンと叩いた。
「私はね、静かに食事がしたいの! あなたたちみたいな凡人とは違うのよ!」
どうだ。
これで「なんて嫌な女だ」と二人が顔を見合わせ、心が通じ合うはず……。
「……」
「……」
二人が黙り込んだ。
そして、同時にため息をついた。
「お姉様……無理して悪ぶらなくていいんですよ」
リナが憐れむような目で私を見る。
「昨日の夜、私が部屋に行った時、『明日の朝は三人で楽しくお話しできるかな……話題を考えておかなきゃ』ってメモ帳に書いてましたよね?」
「見たの!?」
「はい。そのメモ帳、あまりに可愛いので没収しました」
「返して!」
「ミュール」
キース様が私の手を取る。
「君が僕たちの仲を取り持とうとしてくれているのは分かるよ。その健気さ、実に愛おしい」
「へ?」
「でもね、心配はいらないよ。僕とリナ嬢は、ある一点においてのみ、強固な同盟関係にあるからね」
「同盟?」
キース様とリナが顔を見合わせる。
そして、ニヤリと笑った。
悪魔と小悪魔の共演だ。
「それは……『ミュール(お姉様)を世界一幸せにする』という目的のためです!」
二人の声がハモった。
「ええっ!?」
「そのためなら、一時休戦も辞さない。そうだね、リナ嬢?」
「ええ、不本意ですが。お姉様の笑顔が見られるなら、腹黒王子とも手を組みましょう」
リナが手を差し出す。
キース様がその手を握り返す。
ガッチリとした握手。
しかし、その握力は互いにギリギリと骨が軋むほど込められているように見える。
「……仲が良いのか悪いの、どっちなの?」
私は呆然と呟いた。
「仲良しですよ。ね?」
「ああ。親友になれそうだ(棒読み)」
二人は笑顔のまま、視線だけで火花を散らしている。
『お姉様は渡しませんよ』
『ミュールは僕のものだ』
そんなテレパシーが聞こえてきそうだ。
「とりあえず、ミュール。冷める前に食べようか」
キース様が私の口元にパンを差し出す。
「お姉様、こっちのフルーツも!」
リナが反対側からイチゴを差し出す。
「むぐっ……むぐぐ……」
私は両側から餌付けされ、リスのように頬を膨らませるしかなかった。
私の「二人の仲を取り持つ作戦」は、結果として「二人が結託して私を甘やかす」という最悪の(本人にとっては)方向に着地してしまったようだ。
「……おいひいです(美味しいです)」
「よかった。あ、口元についてるよ」
「私が拭きます!」
「僕が舐める!」
「変態王子!」
朝のダイニングに、賑やかな声が響き渡る。
窓の外では、小鳥たちが「人間って大変だね」とでも言うように首を傾げていた。
こうして、私の胃袋と精神が休まることのない一日が、また始まってしまったのである。
テーブルの上には、焼きたてのパン、ふわふわのオムレツ、そして芳醇な香りの紅茶が並んでいる。
本来なら、優雅な朝食の時間となるはずだった。
しかし。
「……あの、二人とも?」
私は、両隣から発せられる凄まじいプレッシャーに、フォークを持つ手を震わせていた。
私の右隣には、満面の笑みを浮かべた妹、リナ。
左隣には、これまた涼しげな微笑みをたたえた王太子、キース様。
私はその中間に挟まれている。
いわゆる、サンドイッチ状態だ。
「お姉様、あーんしてください。このオムレツ、絶品ですよ」
リナがフォークに切り分けたオムレツを差し出してくる。
「ありがとうリナ、でも自分で食べられるわ」
「ダメです。お姉様は昨日の『カビパン事件(未遂)』で弱っています。リハビリが必要です」
「リハビリの意味が違うと思うの」
「ミュール」
反対側から、キース様が低い声で呼ぶ。
「喉が渇いただろう? 僕がミルクティーを淹れてあげよう」
「あ、すみません殿下……」
「砂糖は3つ、ミルクは多め。かき混ぜるのは右回りに5回。……だろう?」
キース様が手際よく、私の好みの完璧な比率で紅茶を作る。
「素晴らしい……完璧ですわ」
「ふふん、当然だ。君の好みなら全て把握している」
キース様がドヤ顔でリナを見る。
バチバチバチッ!
視線が交錯する音が聞こえた気がした。
リナが眉をひそめる。
「ふん、小賢しいですね。私はお姉様が寝る時、枕の下に手を入れないと眠れないことまで知っていますよ」
「ほう? 僕は彼女が寝言で『肉……肉食べたい』と呟く頻度が、週に平均4回であることを知っているが?」
「負けません! お姉様の背中のホクロの位置だって!」
「昨夜確認済みだ」
「なっ……!?」
リナがガタッと音を立てて立ち上がった。
「き、貴様ー! お姉様の聖域(背中)を見たのですか! 不敬罪で死刑です!」
「落ち着きなさい、リナ嬢。ドレスのファスナーが引っかかったのを直しただけだよ(嘘ではない)」
「嘘だ! その目がやらしく笑っている!」
「二人とも、やめてー!」
私は頭を抱えた。
なぜ朝から私のプライベート情報の暴露合戦が行われているのか。
そして何より問題なのは、二人の仲の悪さだ。
これはいけない。
私の計画では、悪役である私が身を引くことで、リナとキース様が結ばれるはずなのだ。
それなのに、こんなに犬猿の仲では、恋が芽生えるどころか戦争が勃発してしまう。
(私がなんとかしなきゃ……! 二人の仲を取り持つのよ!)
私はフォークを置き、居住まいを正した。
まずは、お互いの良いところをアピールさせる作戦だ。
「ねえ、リナ。見てごらんなさい、キース様を。この完璧な紅茶の淹れ方! さすがは次期国王、気配りが素晴らしいと思わない?」
私はキース様を指し示した。
リナはフンと鼻を鳴らす。
「ただの給仕係としては優秀ですね。執事に転職されては?」
「辛辣!」
失敗だ。
ならば、逆だ。
「キース様! リナのこのオムレツの切り分け方! 一口サイズで食べやすくて、とっても優しいでしょう? こんな気立ての良い子はなかなかいませんわよ!」
キース様はニッコリと笑った。
「そうだね。幼児の世話をするベビーシッターに向いているんじゃないかな?」
「子供扱い!」
だめだ。
二人とも、相手を認める気がさらさらない。
どうすればいいのか。
私は悩み、そして一つの結論に達した。
『共通の敵を作れば、人は団結する』という、とある兵法書の教えだ。
つまり、私が「二人の共通の敵(悪役)」として振る舞えば、二人は協力して私に立ち向かうはず!
「ふ、ふふふ……!」
私は突然、悪役笑いを浮かべた。
「おだまりなさい、二人とも! 朝からキャンキャンと、うるさいわよ!」
私はテーブルをバンと叩いた。
「私はね、静かに食事がしたいの! あなたたちみたいな凡人とは違うのよ!」
どうだ。
これで「なんて嫌な女だ」と二人が顔を見合わせ、心が通じ合うはず……。
「……」
「……」
二人が黙り込んだ。
そして、同時にため息をついた。
「お姉様……無理して悪ぶらなくていいんですよ」
リナが憐れむような目で私を見る。
「昨日の夜、私が部屋に行った時、『明日の朝は三人で楽しくお話しできるかな……話題を考えておかなきゃ』ってメモ帳に書いてましたよね?」
「見たの!?」
「はい。そのメモ帳、あまりに可愛いので没収しました」
「返して!」
「ミュール」
キース様が私の手を取る。
「君が僕たちの仲を取り持とうとしてくれているのは分かるよ。その健気さ、実に愛おしい」
「へ?」
「でもね、心配はいらないよ。僕とリナ嬢は、ある一点においてのみ、強固な同盟関係にあるからね」
「同盟?」
キース様とリナが顔を見合わせる。
そして、ニヤリと笑った。
悪魔と小悪魔の共演だ。
「それは……『ミュール(お姉様)を世界一幸せにする』という目的のためです!」
二人の声がハモった。
「ええっ!?」
「そのためなら、一時休戦も辞さない。そうだね、リナ嬢?」
「ええ、不本意ですが。お姉様の笑顔が見られるなら、腹黒王子とも手を組みましょう」
リナが手を差し出す。
キース様がその手を握り返す。
ガッチリとした握手。
しかし、その握力は互いにギリギリと骨が軋むほど込められているように見える。
「……仲が良いのか悪いの、どっちなの?」
私は呆然と呟いた。
「仲良しですよ。ね?」
「ああ。親友になれそうだ(棒読み)」
二人は笑顔のまま、視線だけで火花を散らしている。
『お姉様は渡しませんよ』
『ミュールは僕のものだ』
そんなテレパシーが聞こえてきそうだ。
「とりあえず、ミュール。冷める前に食べようか」
キース様が私の口元にパンを差し出す。
「お姉様、こっちのフルーツも!」
リナが反対側からイチゴを差し出す。
「むぐっ……むぐぐ……」
私は両側から餌付けされ、リスのように頬を膨らませるしかなかった。
私の「二人の仲を取り持つ作戦」は、結果として「二人が結託して私を甘やかす」という最悪の(本人にとっては)方向に着地してしまったようだ。
「……おいひいです(美味しいです)」
「よかった。あ、口元についてるよ」
「私が拭きます!」
「僕が舐める!」
「変態王子!」
朝のダイニングに、賑やかな声が響き渡る。
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