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「殿下! これは由々しき事態です! 追放された罪人が王城を闊歩し、あまつさえわたくしを脅迫したのです!」
翌日。
王城の謁見の間には、張り詰めた空気が漂っていた。
玉座の代理として座るキース様の前で、ミラベル嬢が涙ながらに訴えている。
彼女は昨日の今日で、親戚の有力貴族たちを味方につけ、私を弾劾する場を設けたのだ。
周囲には、大臣や高位貴族たちがずらりと並び、ヒソヒソと噂話をしている。
「あれがアークライト家の悪役令嬢か……」
「なんとふてぶてしい。反省の色がないな」
私は部屋の中央で、手枷(ポーズ用)をつけられ、うなだれていた。
(終わった……)
今度こそ、北の果ての牢獄行きだ。
昨日、あんなに啖呵を切ったけれど、権力という壁は厚かった。
「静粛に」
キース様の声が響く。
彼は頬杖をつき、つまらなそうにミラベル嬢を見下ろしていた。
「ミラベル嬢。君の訴えは、『ミュールが不当に王都へ戻り、君とリナ嬢に害をなした』ということで間違いないか?」
「はい! その通りです! 彼女はリナ様の病室に押し入り、看病を装って暗殺しようとしていました!」
「嘘よ!」
私が叫ぶと、ミラベル嬢は勝ち誇ったように笑った。
「黙りなさい! 証拠はあるのよ! ……さあ、証人の皆さん、入ってらして!」
扉が開き、数人のメイドやお抱えの医師が入ってきた。
皆、ミラベル嬢に買収されているのか、怯えた様子で証言を始める。
「は、はい……ミュール様が、リナ様に無理やり謎の液体(スープ)を飲ませていました」
「『死ねばいいのに』と呟いているのを聞きました(空耳)」
でっち上げだ。
悔しさで唇を噛む。
「お聞きになりましたか、殿下! これが彼女の本性です! 即刻、処刑を! そしてこの国を憂うわたくしに、次期王妃としての正当な評価を!」
ミラベル嬢が高らかに宣言する。
貴族たちがざわめく。
「やはり、アークライト家の娘は危険だ」
「処罰すべきだ」
ああ、もうダメだ。
私は目を閉じた。
リナ、ごめんね。
お姉ちゃん、ここまでみたい……。
「……ふっ」
その時。
玉座から、小さな笑い声が聞こえた。
「あはははは! 傑作だね」
キース様が笑っている。
会場が静まり返る。
「殿下……?」
「いや、あまりにも茶番が過ぎるからさ。……そろそろ『真実』を話そうか」
キース様が指を鳴らした。
パチン。
その瞬間、謁見の間の巨大な魔導スクリーンが起動した。
「な、なんですの?」
「証拠映像だよ。……エヴァン、再生しろ」
「はっ」
エヴァン様が操作すると、スクリーンに映像が映し出された。
それは、昨日のリナの病室の様子だった。
『あーん。美味しいです、お姉様……』
『よしよし、いい子ねリナ。早く元気になってね』
『お姉様の手、気持ちいい……』
そこには、甲斐甲斐しくリナの世話をする私と、甘えん坊全開のリナの姿がバッチリ映っていた。
「なっ……!?」
ミラベル嬢が絶句する。
「こ、これは……?」
「見ての通りだ。これが『暗殺未遂』に見えるなら、君の目は節穴だね」
キース様が冷たく言い放つ。
「さらに、これを見たまえ」
映像が切り替わる。
今度は、私が夜な夜な別荘で、リナのために千羽鶴(回復祈願)を折っている姿や、リナの好物のレシピを必死に勉強している姿が流れる。
「や、やめてー! プライベート映像の流出はやめてー!」
私は悲鳴を上げた。
恥ずかしい!
私のシスコン行動が、大画面で全国公開処刑されている!
「なんて献身的なんだ……」
「妹を想う、慈愛に満ちた表情だ……」
貴族たちの空気が変わっていく。
「そ、そんなの捏造ですわ!」
ミラベル嬢が叫ぶ。
「だいたい、彼女は過去にも悪事を! ドレスを破いたり、お茶会を台無しにしたり!」
「それについても検証済みだ」
キース様が合図を送ると、侍女長が進み出て、一枚のドレスを広げた。
「こちらは、先日『破かれた』とされるリナ様のドレスです」
「見ろ」
キース様が指差す先には、裾の部分に可愛らしい小鳥の刺繍が施されていた。
「破れた部分を、ミュールが徹夜で刺繍して修復した跡だ。……プロの職人ですら『これは愛がないと縫えない』と絶賛していたよ」
「おおぉ……!」
会場から感嘆の声が上がる。
「さらに、マカロン。……あれは現在、王都のカフェで『甘じょっぱさが癖になる』と大ヒット中の『塩キャラメルマカロン』の原型だ」
「そ、そうだったのか……!」
「彼女は時代の先を行っていたのか!」
評価が爆上がりしていく。
やめて。
やめてちょうだい。
私の「悪役」としての評価が、音を立てて崩れ去っていく。
「つまり、ミュール・アークライトは悪女ではない」
キース様が立ち上がり、よく通る声で宣言した。
「彼女は、妹の才能を誰よりも愛し、妹が王妃になる障害とならぬよう、自ら汚名を被って身を引いた……稀代の『聖女』なのだ!」
「聖女!?」
「なんという自己犠牲の精神……!」
「素晴らしい姉妹愛だ!」
あちこちですすり泣く声が聞こえる。
感動の嵐が巻き起こっていた。
「ち、違います! 私は悪女なんです! 性格が悪いんです!」
私が必死に弁明するが、もはや誰も聞いていない。
「謙虚な方だ……」
「あんなに素晴らしい方が、なぜ今まで誤解されていたのか……」
「すべては、妹君のためだったのですね……!」
完全に「美談」として処理されている。
「そ、そんな……」
ミラベル嬢がへなへなと座り込む。
「では、わたくしの訴えは……」
「虚偽申告および、王族への侮辱罪だ」
キース様が見下ろす。
「ミラベル・バーミリオン。君には罰として……そうだな」
キース様はニヤリと笑った。
「アークライト家の別荘の庭で、一ヶ月間『ラディッシュの収穫』および『ミュールの武勇伝(シスコンエピソード)を聞く係』を命じる」
「えっ」
「リナ嬢が『お姉様の素晴らしさを語る相手が欲しい』と言っていたからね。ちょうどいい。君がその役目を引き受けたまえ」
「い、嫌ですわ! そんな拷問!」
「拒否権はない。連れて行け」
「いやぁぁぁぁッ! 泥仕事なんて無理ぃぃぃ!」
ミラベル嬢は衛兵たちに引きずられ、ドナドナされていった。
なんてコミカルな最期だろう。
謁見の間に静寂が戻る。
キース様が階段を降りてきて、私の前の手枷(ポーズ用)を外した。
「さて、ミュール」
「……殿下」
私はジト目で彼を見上げた。
「余計なことをしてくれましたね」
「おや、感謝してほしいな。これで君は無罪放免だ」
「無罪どころか『聖女』になってしまったじゃないですか! どうするんですか、これ!」
「いいじゃないか。国民も納得したようだし」
キース様が振り返ると、貴族たちが一斉に拍手を送ってきた。
「ミュール様、万歳!」
「麗しのシスコン令嬢、万歳!」
「リナ様との絆に乾杯!」
スタンディングオベーションだ。
私は顔を覆った。
「……もう、お嫁に行けない」
「安心しろ。僕がもらうから」
キース様が私の耳元で囁き、腰を引き寄せる。
「これで障害はなくなった。……さあ、王都へ戻っておいで、ミュール」
「え?」
「追放令は撤回だ。君は今日から、堂々と王城へ出入りできる」
「ほ、本当ですか!?」
それなら、毎日リナに会える。
私はパァアと顔を輝かせた。
「やった! ありがとうございます殿下! 大好きです!」
私は思わずキース様に抱きついた。
「おっと。……今の言葉、公衆の面前でのプロポーズと受け取っていいのかな?」
「違います! 勢いです!」
「照れなくていいよ。……国民の皆さん! 彼女が僕の求婚を受け入れてくれたぞー!」
「わあああああっ!!」
割れんばかりの歓声と口笛。
ファンファーレまで鳴り響く。
「ちょっと! 捏造しないでください!」
「既成事実は作ったもの勝ちだよ」
キース様は悪戯っぽく笑い、私を抱き上げた。
こうして。
私の「悪役令嬢としての断罪劇」は、まさかの「聖女認定&王太子との婚約発表(誤報含む)」という、斜め上の大団円を迎えてしまったのである。
(……計画と全然違うわ!)
私の心の叫びは、祝福の鐘の音にかき消されていった。
翌日。
王城の謁見の間には、張り詰めた空気が漂っていた。
玉座の代理として座るキース様の前で、ミラベル嬢が涙ながらに訴えている。
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「はい! その通りです! 彼女はリナ様の病室に押し入り、看病を装って暗殺しようとしていました!」
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「黙りなさい! 証拠はあるのよ! ……さあ、証人の皆さん、入ってらして!」
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「は、はい……ミュール様が、リナ様に無理やり謎の液体(スープ)を飲ませていました」
「『死ねばいいのに』と呟いているのを聞きました(空耳)」
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「お聞きになりましたか、殿下! これが彼女の本性です! 即刻、処刑を! そしてこの国を憂うわたくしに、次期王妃としての正当な評価を!」
ミラベル嬢が高らかに宣言する。
貴族たちがざわめく。
「やはり、アークライト家の娘は危険だ」
「処罰すべきだ」
ああ、もうダメだ。
私は目を閉じた。
リナ、ごめんね。
お姉ちゃん、ここまでみたい……。
「……ふっ」
その時。
玉座から、小さな笑い声が聞こえた。
「あはははは! 傑作だね」
キース様が笑っている。
会場が静まり返る。
「殿下……?」
「いや、あまりにも茶番が過ぎるからさ。……そろそろ『真実』を話そうか」
キース様が指を鳴らした。
パチン。
その瞬間、謁見の間の巨大な魔導スクリーンが起動した。
「な、なんですの?」
「証拠映像だよ。……エヴァン、再生しろ」
「はっ」
エヴァン様が操作すると、スクリーンに映像が映し出された。
それは、昨日のリナの病室の様子だった。
『あーん。美味しいです、お姉様……』
『よしよし、いい子ねリナ。早く元気になってね』
『お姉様の手、気持ちいい……』
そこには、甲斐甲斐しくリナの世話をする私と、甘えん坊全開のリナの姿がバッチリ映っていた。
「なっ……!?」
ミラベル嬢が絶句する。
「こ、これは……?」
「見ての通りだ。これが『暗殺未遂』に見えるなら、君の目は節穴だね」
キース様が冷たく言い放つ。
「さらに、これを見たまえ」
映像が切り替わる。
今度は、私が夜な夜な別荘で、リナのために千羽鶴(回復祈願)を折っている姿や、リナの好物のレシピを必死に勉強している姿が流れる。
「や、やめてー! プライベート映像の流出はやめてー!」
私は悲鳴を上げた。
恥ずかしい!
私のシスコン行動が、大画面で全国公開処刑されている!
「なんて献身的なんだ……」
「妹を想う、慈愛に満ちた表情だ……」
貴族たちの空気が変わっていく。
「そ、そんなの捏造ですわ!」
ミラベル嬢が叫ぶ。
「だいたい、彼女は過去にも悪事を! ドレスを破いたり、お茶会を台無しにしたり!」
「それについても検証済みだ」
キース様が合図を送ると、侍女長が進み出て、一枚のドレスを広げた。
「こちらは、先日『破かれた』とされるリナ様のドレスです」
「見ろ」
キース様が指差す先には、裾の部分に可愛らしい小鳥の刺繍が施されていた。
「破れた部分を、ミュールが徹夜で刺繍して修復した跡だ。……プロの職人ですら『これは愛がないと縫えない』と絶賛していたよ」
「おおぉ……!」
会場から感嘆の声が上がる。
「さらに、マカロン。……あれは現在、王都のカフェで『甘じょっぱさが癖になる』と大ヒット中の『塩キャラメルマカロン』の原型だ」
「そ、そうだったのか……!」
「彼女は時代の先を行っていたのか!」
評価が爆上がりしていく。
やめて。
やめてちょうだい。
私の「悪役」としての評価が、音を立てて崩れ去っていく。
「つまり、ミュール・アークライトは悪女ではない」
キース様が立ち上がり、よく通る声で宣言した。
「彼女は、妹の才能を誰よりも愛し、妹が王妃になる障害とならぬよう、自ら汚名を被って身を引いた……稀代の『聖女』なのだ!」
「聖女!?」
「なんという自己犠牲の精神……!」
「素晴らしい姉妹愛だ!」
あちこちですすり泣く声が聞こえる。
感動の嵐が巻き起こっていた。
「ち、違います! 私は悪女なんです! 性格が悪いんです!」
私が必死に弁明するが、もはや誰も聞いていない。
「謙虚な方だ……」
「あんなに素晴らしい方が、なぜ今まで誤解されていたのか……」
「すべては、妹君のためだったのですね……!」
完全に「美談」として処理されている。
「そ、そんな……」
ミラベル嬢がへなへなと座り込む。
「では、わたくしの訴えは……」
「虚偽申告および、王族への侮辱罪だ」
キース様が見下ろす。
「ミラベル・バーミリオン。君には罰として……そうだな」
キース様はニヤリと笑った。
「アークライト家の別荘の庭で、一ヶ月間『ラディッシュの収穫』および『ミュールの武勇伝(シスコンエピソード)を聞く係』を命じる」
「えっ」
「リナ嬢が『お姉様の素晴らしさを語る相手が欲しい』と言っていたからね。ちょうどいい。君がその役目を引き受けたまえ」
「い、嫌ですわ! そんな拷問!」
「拒否権はない。連れて行け」
「いやぁぁぁぁッ! 泥仕事なんて無理ぃぃぃ!」
ミラベル嬢は衛兵たちに引きずられ、ドナドナされていった。
なんてコミカルな最期だろう。
謁見の間に静寂が戻る。
キース様が階段を降りてきて、私の前の手枷(ポーズ用)を外した。
「さて、ミュール」
「……殿下」
私はジト目で彼を見上げた。
「余計なことをしてくれましたね」
「おや、感謝してほしいな。これで君は無罪放免だ」
「無罪どころか『聖女』になってしまったじゃないですか! どうするんですか、これ!」
「いいじゃないか。国民も納得したようだし」
キース様が振り返ると、貴族たちが一斉に拍手を送ってきた。
「ミュール様、万歳!」
「麗しのシスコン令嬢、万歳!」
「リナ様との絆に乾杯!」
スタンディングオベーションだ。
私は顔を覆った。
「……もう、お嫁に行けない」
「安心しろ。僕がもらうから」
キース様が私の耳元で囁き、腰を引き寄せる。
「これで障害はなくなった。……さあ、王都へ戻っておいで、ミュール」
「え?」
「追放令は撤回だ。君は今日から、堂々と王城へ出入りできる」
「ほ、本当ですか!?」
それなら、毎日リナに会える。
私はパァアと顔を輝かせた。
「やった! ありがとうございます殿下! 大好きです!」
私は思わずキース様に抱きついた。
「おっと。……今の言葉、公衆の面前でのプロポーズと受け取っていいのかな?」
「違います! 勢いです!」
「照れなくていいよ。……国民の皆さん! 彼女が僕の求婚を受け入れてくれたぞー!」
「わあああああっ!!」
割れんばかりの歓声と口笛。
ファンファーレまで鳴り響く。
「ちょっと! 捏造しないでください!」
「既成事実は作ったもの勝ちだよ」
キース様は悪戯っぽく笑い、私を抱き上げた。
こうして。
私の「悪役令嬢としての断罪劇」は、まさかの「聖女認定&王太子との婚約発表(誤報含む)」という、斜め上の大団円を迎えてしまったのである。
(……計画と全然違うわ!)
私の心の叫びは、祝福の鐘の音にかき消されていった。
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