悪役を演じて婚約破棄したのに、なぜか溺愛モードの王子がついてきた!

ちゃっぴー

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「いいこと、リナ。よくお聞きなさい」

王城の庭園。

優雅なティータイムの席で、私は目の前の妹に向かって、真剣な表情で語りかけた。

「はい、お姉様。お茶のおかわりはいかがですか?」

「ありがとう、いただくわ。……じゃなくて!」

私はティーカップを置き、テーブルをバンと叩いた。

「私たちは今、危機的状況にあるのよ!」

「そうですか? 美味しいケーキとお茶、そして目の前には愛しいお姉様。ここは天国ですが?」

リナは幸せそうにショートケーキを頬張っている。

王城に戻って数日。

私の心配をよそに、リナはすっかり元気を取り戻し、以前にも増して私のストーカー……もとい、世話焼きに磨きがかかっていた。

「あのね、世間では私が『聖女』で『次期王妃候補筆頭』みたいな扱いになってるけど、これは間違いなの!」

私は力説した。

「本来のシナリオでは、私が悪役として消え、あなたがキース様と結ばれて王妃になるはずだったのよ。この誤解を解かないと!」

「ふむふむ」

「だからリナ、あなたも協力して。もっとキース様にアピールして、既成事実を作るのよ!」

私はリナの手を握った。

「あなたならできるわ。その美貌と才覚で、キース様をメロメロにして、私から奪い取ってちょうだい!」

さあ、頷きなさい。

『分かりましたお姉様、私が王妃になります!』と。

しかし、リナはきょとんとした顔で首を傾げた。

「……何をおっしゃっているのですか、お姉様?」

「え?」

リナはフォークを置き、ナプキンで口元を拭うと、涼しい顔で言った。

「私、王妃になる気なんて、これっぽっちもありませんよ?」

時が止まった。

「……は?」

私は耳を疑った。

「え、だって、あなたは次期王妃候補として教育を受けて……」

「それは『候補』として名を連ねておけば、王城パスでお姉様に会いやすくなると思ったからです」

「不純!」

「それに、考えてもみてください」

リナが指折り数え始める。

「王妃になったら、公務で忙しくてお姉様と遊ぶ時間が減ります。外交だの視察だので、地方に飛ばされるかもしれません。そんなの耐えられません」

「そ、それはそうかもしれないけど……でも、キース様のことは?」

「殿下? ああ、あの腹黒王子のことですか?」

リナはまるで汚いものでも見るような目をした。

「顔はいいですが、性格が最悪です。あんなのと結婚したら、私の胃に穴が空きます。絶対に嫌です」

「嫌って……!」

全否定だ。

キース様、影で泣いていないだろうか。

「で、でも! あなたは優秀だし、国民からの人気もあるし……」

「人気ならお姉様の方が上ですよ、今の『シスコン聖女』ブームで」

「うぐっ」

「それに、私にはもっと壮大な『野望』があるのです」

リナが目を輝かせ、立ち上がった。

「野望?」

「はい。私は、お姉様がキース殿下と結婚し、王妃となるのを見届けるのです!」

「はあ!?」

「そして私は、王妃の妹、すなわち『公爵令嬢兼、王妃専属筆頭侍女兼、近衛騎士団名誉団長』として、お姉様のそばに一生張り付くのです!」

「肩書きが多すぎるし重い!」

リナは私の手を取り、うっとりと語り出した。

「想像してください、お姉様。王妃となったお姉様が、豪華なドレスを着て玉座に座る姿を。その横で、私が日傘を差し、お茶を出し、害虫(主に殿下以外の男)を魔法で駆除するのです。……ああ、なんて素晴らしい老後!」

「まだ老後の話じゃないわよ! それに、あなたが結婚しないでどうするの!」

「私はお姉様と結婚したいくらいですが、法律が許さないので独身を貫きます」

「やめて! アークライト家が断絶しちゃう!」

私は頭を抱えた。

まさか、最大の誤算が身内にあったとは。

リナが王妃の座を狙っていないどころか、私のストーカーとしてのキャリアアップしか考えていないなんて。

「だ、ダメよリナ。考え直しなさい。王妃になれば、国一番の権力が手に入るのよ? ドレスも宝石も思いのままよ?」

「お姉様が王妃になれば、そのおこぼれで十分です」

「欲がないようで強欲!」

そこへ。

「やあ、楽しそうだね」

植え込みの陰から、キース様が現れた。

「殿下! 聞いてください、リナが変なことを!」

私は助けを求めた。

「王妃になりたくないって言うんです! キース様のことも嫌だって!」

「ああ、知っているよ」

キース様はあっさりと答えた。

「え?」

「リナ嬢とは、その点ですでに協定を結んでいるからね」

「協定?」

キース様とリナが顔を見合わせ、ニヤリと笑った。

悪魔の同盟だ。

「リナ嬢は、『ミュールが王妃になるなら、全力でサポートする。その代わり、自分に王城での自由通行権と、ミュールへの接近許可を与えろ』と」

「ええ、そうです。殿下はそれを快諾してくれました。win-winの関係ですね」

「win-winじゃないわよ! 私だけloseしてるじゃない!」

私は叫んだ。

完全に外堀が埋められている。

「待って、二人とも。私の意思は? 私は悪役として、ひっそりと田舎で暮らしたいのよ!」

「無理だね」

キース様が即答する。

「国民が許さないし、何より僕が許さない」

「お姉様、諦めてください。逃げても無駄です。私の探索魔法(サーチ)は大陸全土をカバーしています」

「監視社会が怖い!」

私はガックリと項垂れた。

リナの告白によって、私の「妹を王妃にする計画」は完全に頓挫した。

梯子を外されたどころか、その梯子で殴られた気分だ。

「……分かったわ。もう王妃の話はいいわ」

私はふてくされて、ショートケーキをフォークで刺した。

「でも、結婚はしないからね! 私は独身貴族として、優雅に遊んで暮らすの!」

「おや、それは困ったな」

キース様が困ったふりをして、一枚の書類を取り出した。

「実は国王陛下が、今回の『聖女騒動』で大いに感動されてね。『こんな素晴らしい娘を逃す手はない。すぐに式の日取りを決めろ』と、勅命を出してしまったんだ」

「ちょ、陛下!?」

「拒否すると、アークライト家がお取り潰しになるかもしれないなぁ(嘘)」

「脅迫!」

「お姉様、大丈夫です。結婚式のドレスは私がデザインします! ウェディングケーキも私が焼きます!」

「リナ、あなた楽しんでるでしょ!」

「はい、最高です!」

逃げ場がない。

王城という巨大な鳥籠の中で、私は二人の猛獣(王子と妹)に囲まれている。

「……こうなったら」

私はケーキを一口で食べきり、決意の炎を目に宿した。

「逃げるわ」

「はい?」

「逃亡よ! 王城からの脱出! ほとぼりが冷めるまで、国外へ高飛びしてやるわ!」

私は立ち上がり、スカートを翻した。

「見てなさい! 私の『逃げ足』だけは、悪役令嬢として鍛え上げられているのよ!」

「お、ミュール? 本気かい?」

「お姉様、鬼ごっこですか? 望むところです!」

こうして、私の「第二次・国外逃亡計画」が、唐突に幕を開けることになった。
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