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2章 出汁なしみそ汁 ~新ジャガと黒コショウソーセージ

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 言いかけて、倉持の涙腺が緩む。
 ネトが「でも、なんだ?」とちょっと冷たく聞いてあげると、倉持も「ごめん」と謝ってから答えた。

「カオルからメールが届いて、ものすごく嬉しかった。この店に来た流れとかは不思議と忘れているけど、あの時の感情は覚えている」
「メールが届いた時の喜びか?」
「そうだ。もしかしたらカオルは生きているのかもしれない……絶対そんなことはないんだけど、そう錯覚させてくれた」

 食事とお酒の後に、カオルを思い返す。
 この食堂のコンセプトそのままだなと、アキは思った。
 でも、それでこの後どうするか決めるのだ。ネトもそろそろだと思っている頃なのか、冷蔵庫から何やら食材を取り出した。

「みそ汁って、わざわざ出汁を取らなくても、美味しく作れるって知ってたか?」
「……みそ汁?」

 急にみそ汁の話? アキも倉持と同じように、話題が急に変わったことにハテナを浮かべた。
 鍋の中に水を入れ、火をかける。
 沸騰するまで、ネトは冷蔵庫から取り出した食材の下ごしらえを始めた。

「今日は新ジャガとソーセージを作っていく。ちょっと洋風なみそ汁だな」

 今までずっと話し続けていた倉持が、無言になってネトの手つきを見ていた。
 きっとその作業を見ながら、最愛の人を思い出しているに違いない。

「新ジャガは皮つきの輪切りに、あとはちょっとだけブロッコリーも入れよう。野菜はそんな感じだな」

 ブロッコリーは手早く小房に分け、一口大の大きさにしていく。新ジャガも薄化粧の美人さんのような透き通りを見せ、彩も美しくあった。

 鍋の中に新ジャガだけを入れ、中火にする。
 煮立ってから数分経ってから、次にブロッコリーを入れた。
 その間にソーセージを二、三等分の大きさになるよう斜めに切っていった。
 煮立ったところで灰汁を取り、その後弱火にしてじっくりと食材に熱を通していく。
 良きところでソーセージも投入した。

「ちょっと水っぽく感じたら、水を減らしていいんだ。味噌がより濃くなる」

 出汁なしだから、食材から出る旨味と水の分量で調整する。
 そうやって、味噌がよく浸透するような鍋の中にしないといけない。
 それを意識するだけで食材の味をより引き立て、出汁から始めたみそ汁とは絶妙に違った美味しさを感じることになる。

「よし、良い感じだな。あとは味噌を加えていきますか」
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