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2章 出汁なしみそ汁 ~新ジャガと黒コショウソーセージ
⑮
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……アキは声を失った。
死を決意した人間を、自分以外に見たことがなかったから。
客観的に見てみると、こんなに信じ難くて絶望感があるとは……自分の時は到底想像もできなかっただろう。
「いいんだな?」
死神が起きたかのように、目を血走らせる。
ネトは倉持の前にあった何も入っていない汁椀をひょいと拾い上げて、二杯目を置いた。
「これを飲んでくれ」
「二杯目か? さっきちゃんと飲んだけど……」
「みそ汁の表面を、よく見るんだ」
アキの時にも見た、表面に映し出される不思議な映像。
倉持はその映像を見た瞬間に、カウンターに肘をついて髪をぐしゃぐしゃと掻きむしった。
涙が溢れて、目を真っ赤にさせている。
「……カオル」
「倉持さん、大丈夫ですか? 何が映ってるんですか?」
アキは心配な目を向けながら、離れた椅子に座っている倉持に声をかけた。
倉持は鼻水を啜りながら、声を震わせて話してくれる。
「カオルが一度作ってくれていた……みそ汁だ」
そう……。
ネトが倉持に出したみそ汁は、昔カオルが作ったみそ汁だったのだ。
カオルの死の衝撃から記憶からすっぽり抜けていた。
みそ汁に映る不思議な映像を見て、倉持は記憶を取り戻すことができた。
ネトは「ようやく気づいたかい」とニヒルに笑う。
「このみそ汁の記憶を思い出していたら、もしかしたら生きるという選択を取っていたかもな。なあ、倉持さん?」
ネトはちょっぴり残念そうだ。
自分に呆れているのか、それとも踏ん切りがついたのか、倉持は鼻で笑いながら「確かにな」と呟く。
そしてその後に「もう、カオルのもとに行くしか選択肢はないんだ」と続けて言った。
「それもそうだな。倉持さん、悔いはないんだな?」
「悔いは……ない。カオルがここに導いてくれたんだ。これが私の運命なんだよ」
「そうか。じゃあ、最後にそのみそ汁を飲んでくれ」
最後の晩餐……それは、新ジャガと黒コショウソーセージ入りのみそ汁。
倉持はネトとアキに「ありがとうな」と感謝した後に、「カオル、今行くよ」と言葉を残した。
ひと口啜って飲み込むと、眩い光が倉持の体全体を包み込み、店内中が真っ白になった。
やがて光が消えてなくなると、そこには倉持が持っていた汁椀だけが残っていた。
死を決意した人間を、自分以外に見たことがなかったから。
客観的に見てみると、こんなに信じ難くて絶望感があるとは……自分の時は到底想像もできなかっただろう。
「いいんだな?」
死神が起きたかのように、目を血走らせる。
ネトは倉持の前にあった何も入っていない汁椀をひょいと拾い上げて、二杯目を置いた。
「これを飲んでくれ」
「二杯目か? さっきちゃんと飲んだけど……」
「みそ汁の表面を、よく見るんだ」
アキの時にも見た、表面に映し出される不思議な映像。
倉持はその映像を見た瞬間に、カウンターに肘をついて髪をぐしゃぐしゃと掻きむしった。
涙が溢れて、目を真っ赤にさせている。
「……カオル」
「倉持さん、大丈夫ですか? 何が映ってるんですか?」
アキは心配な目を向けながら、離れた椅子に座っている倉持に声をかけた。
倉持は鼻水を啜りながら、声を震わせて話してくれる。
「カオルが一度作ってくれていた……みそ汁だ」
そう……。
ネトが倉持に出したみそ汁は、昔カオルが作ったみそ汁だったのだ。
カオルの死の衝撃から記憶からすっぽり抜けていた。
みそ汁に映る不思議な映像を見て、倉持は記憶を取り戻すことができた。
ネトは「ようやく気づいたかい」とニヒルに笑う。
「このみそ汁の記憶を思い出していたら、もしかしたら生きるという選択を取っていたかもな。なあ、倉持さん?」
ネトはちょっぴり残念そうだ。
自分に呆れているのか、それとも踏ん切りがついたのか、倉持は鼻で笑いながら「確かにな」と呟く。
そしてその後に「もう、カオルのもとに行くしか選択肢はないんだ」と続けて言った。
「それもそうだな。倉持さん、悔いはないんだな?」
「悔いは……ない。カオルがここに導いてくれたんだ。これが私の運命なんだよ」
「そうか。じゃあ、最後にそのみそ汁を飲んでくれ」
最後の晩餐……それは、新ジャガと黒コショウソーセージ入りのみそ汁。
倉持はネトとアキに「ありがとうな」と感謝した後に、「カオル、今行くよ」と言葉を残した。
ひと口啜って飲み込むと、眩い光が倉持の体全体を包み込み、店内中が真っ白になった。
やがて光が消えてなくなると、そこには倉持が持っていた汁椀だけが残っていた。
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