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【第五部 異世界転移奇譚 NAYUTA 2 - アトランダム -(RENJI 5)】もしもしっくすないんしてる途中で異世界転移しちゃったら。
第159話
しおりを挟む レンジの放った魔法剣はどちらも、ナユタの神器の自動防御システムである比良坂の鏡によって反射された。
レンジにはもう一度同じ魔法剣を放ち、相殺する他なかった。
相殺しなければ、自らが放った技により、消滅するか余剰次元に飛ばされる。
だが、それを行うにはあまりに時間が足りなさすぎた。
しかし、レンジはそれをやってのけた。
それだけでなく、ナユタを血の鎖がからめとっていた。
「助かったよ、ステラ。ありがとう。時を止めてくれて」
レンジの傍らにはステラがいた。
それだけではなく、リサも。
「リサもありがとう」
血の鎖は、リサの指先から放たれたものだった。
「レンジさん、リサさん、ステラさん、どうして……」
血の鎖は、ナユタがもがけばもがくほど、きつく締め上げられた。
「ナユタ、それ以上抵抗しないで。すぐにピノアのところに帰って。わたしたちを追いかけてこないで」
「どこへ行くつもりなんですか? ピノアちゃんも、サトシさんも、みんながあなたたちの無事を信じてる。帰りを待ってるんですよ」
神器の鎧は、神器の剣の刃をどこからでも出すことができた。
だからナユタはリサの血の鎖を簡単に断ち切った。
「ぼくといつかこうして剣を交えるときが来ると思っていたなら、どうしてちゃんと戦おうとしないんですか?」
卑怯だと思った。だからそう言った。
「ピノアの幸せのためだよ。君の存在を消そうが、余剰次元に送り込つけようが、ピノアなら君を見つけられる。君は不死身だ。だからまともにやりあうことは不毛だ」
「連れ戻します。たとえあなたたちが人や魔人でなくなってしまったとしても。あなたたちはピノアちゃんの家族だ」
喰人となった彼らがこの世界を去らなければいけないというのなら、ナユタやピノアもまた世界を去らなければいけないということだ。
ナユタは神人となり、ピノアは精霊人となってしまったのだから。
「ピノアちゃんの家族は、ぼくの家族だ」
レンジは呆れたようにも諦めたようにも見える表情で、リサとステラに下がるよう促すと、
「ピノアが来るまでだけだよ」
ふたふりの剣を構えた。
「君は死なないから全力でいかせてもらう」
「ぼくもあなたを殺すつもりでいきます」
そうしなければ勝てない相手だと思った。
レンジの剣の構え方は、右手のディカプリオ・ブレイドを下に、左手のダ・ヴィンチ・ソードを上にして交差させる中段十字のものだった。
その構えには見覚えがあった。
父タカミが作ったVRゲームに登場した最強の敵「Ihsotas」と同じ構えだった。
そのモーションキャプチャーをしたのは、レンジやリサの父のサトシだった。
サトシは、その際に宮本武蔵の二天一流を剣道で再現したという。
二天一流は、二刀を用いて戦う技術そのものを追求しているのではなく、片手で刀を扱う訓練のために二刀を用いる。
厳密に言えば、二刀で戦うための二刀流ではなく片手剣法を習い覚えるための二刀流だ。
武蔵は、物事に執着しこだわりを持つことを強く否定したという。
戦いにおいて一刀中段にこだわることは無意味な執着であり、二刀にのみ執着することもまた良くない。それが二天一流だ。
戦場においてはどのような状況でも戦えなければならない。もし二刀が使えるならその利を最大限に活かして二刀で戦い、仮に一刀しか使えなければその一刀で、小太刀しか使えなければ小太刀で、更に刀が使えなければ他の道具でというように、武士ならばその場その時の状況に応じて常に出来得る限りの働きができなければならない。
日頃の稽古では、腰にたばさむ大小二刀を両手に持ち、それらを自在に扱えるよう鍛錬することによって、あらゆる場面に対応できる剣の技術を習得するというのが二天一流が二刀を用いる真意だ。
父のゲームの「Ihsotas」が「Satoshi」を逆さ読みした名前だということは気づいていた。
大文字の「I(アイ)」なのか、小文字の「l(エル)」なのかがわからないフォントを使い、その名前は表現されていた。
どう発音するのかさえわからない敵の名は謎めいており、美しい外見や圧倒的なカリスマ性を持ち、敵でありながら人気のキャラクターだった。敵であるからこそかもしれない。
だが、それにはもうひとつ意味があったことにナユタは気づいた。
サトシは右利きだが、レンジは左利きなのだ。
サトシがモーションキャプチャーを務めた「Ihsotas」もまた左利きであり、父はゲームに使用する際にその動きを左右反転させていた。
「Ihsotas」は、レンジのことだったのだ。
レンジは、ふたふりの剣先でナユタを圧しつつ、機を見て左手のダ・ヴィンチ・ソードを上段に振りかぶった。
ナユタの身体は神器の鎧ごと真っ二つにされた。
レンジにはもう一度同じ魔法剣を放ち、相殺する他なかった。
相殺しなければ、自らが放った技により、消滅するか余剰次元に飛ばされる。
だが、それを行うにはあまりに時間が足りなさすぎた。
しかし、レンジはそれをやってのけた。
それだけでなく、ナユタを血の鎖がからめとっていた。
「助かったよ、ステラ。ありがとう。時を止めてくれて」
レンジの傍らにはステラがいた。
それだけではなく、リサも。
「リサもありがとう」
血の鎖は、リサの指先から放たれたものだった。
「レンジさん、リサさん、ステラさん、どうして……」
血の鎖は、ナユタがもがけばもがくほど、きつく締め上げられた。
「ナユタ、それ以上抵抗しないで。すぐにピノアのところに帰って。わたしたちを追いかけてこないで」
「どこへ行くつもりなんですか? ピノアちゃんも、サトシさんも、みんながあなたたちの無事を信じてる。帰りを待ってるんですよ」
神器の鎧は、神器の剣の刃をどこからでも出すことができた。
だからナユタはリサの血の鎖を簡単に断ち切った。
「ぼくといつかこうして剣を交えるときが来ると思っていたなら、どうしてちゃんと戦おうとしないんですか?」
卑怯だと思った。だからそう言った。
「ピノアの幸せのためだよ。君の存在を消そうが、余剰次元に送り込つけようが、ピノアなら君を見つけられる。君は不死身だ。だからまともにやりあうことは不毛だ」
「連れ戻します。たとえあなたたちが人や魔人でなくなってしまったとしても。あなたたちはピノアちゃんの家族だ」
喰人となった彼らがこの世界を去らなければいけないというのなら、ナユタやピノアもまた世界を去らなければいけないということだ。
ナユタは神人となり、ピノアは精霊人となってしまったのだから。
「ピノアちゃんの家族は、ぼくの家族だ」
レンジは呆れたようにも諦めたようにも見える表情で、リサとステラに下がるよう促すと、
「ピノアが来るまでだけだよ」
ふたふりの剣を構えた。
「君は死なないから全力でいかせてもらう」
「ぼくもあなたを殺すつもりでいきます」
そうしなければ勝てない相手だと思った。
レンジの剣の構え方は、右手のディカプリオ・ブレイドを下に、左手のダ・ヴィンチ・ソードを上にして交差させる中段十字のものだった。
その構えには見覚えがあった。
父タカミが作ったVRゲームに登場した最強の敵「Ihsotas」と同じ構えだった。
そのモーションキャプチャーをしたのは、レンジやリサの父のサトシだった。
サトシは、その際に宮本武蔵の二天一流を剣道で再現したという。
二天一流は、二刀を用いて戦う技術そのものを追求しているのではなく、片手で刀を扱う訓練のために二刀を用いる。
厳密に言えば、二刀で戦うための二刀流ではなく片手剣法を習い覚えるための二刀流だ。
武蔵は、物事に執着しこだわりを持つことを強く否定したという。
戦いにおいて一刀中段にこだわることは無意味な執着であり、二刀にのみ執着することもまた良くない。それが二天一流だ。
戦場においてはどのような状況でも戦えなければならない。もし二刀が使えるならその利を最大限に活かして二刀で戦い、仮に一刀しか使えなければその一刀で、小太刀しか使えなければ小太刀で、更に刀が使えなければ他の道具でというように、武士ならばその場その時の状況に応じて常に出来得る限りの働きができなければならない。
日頃の稽古では、腰にたばさむ大小二刀を両手に持ち、それらを自在に扱えるよう鍛錬することによって、あらゆる場面に対応できる剣の技術を習得するというのが二天一流が二刀を用いる真意だ。
父のゲームの「Ihsotas」が「Satoshi」を逆さ読みした名前だということは気づいていた。
大文字の「I(アイ)」なのか、小文字の「l(エル)」なのかがわからないフォントを使い、その名前は表現されていた。
どう発音するのかさえわからない敵の名は謎めいており、美しい外見や圧倒的なカリスマ性を持ち、敵でありながら人気のキャラクターだった。敵であるからこそかもしれない。
だが、それにはもうひとつ意味があったことにナユタは気づいた。
サトシは右利きだが、レンジは左利きなのだ。
サトシがモーションキャプチャーを務めた「Ihsotas」もまた左利きであり、父はゲームに使用する際にその動きを左右反転させていた。
「Ihsotas」は、レンジのことだったのだ。
レンジは、ふたふりの剣先でナユタを圧しつつ、機を見て左手のダ・ヴィンチ・ソードを上段に振りかぶった。
ナユタの身体は神器の鎧ごと真っ二つにされた。
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