騎士の夫に隠し子がいたので離婚して全力で逃げ切ります〜今更執着されても強力な味方がいますので!〜

凛蓮月

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二章/新たな生活を始めます

31.更なる高みへ

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 ポチ様に励まされた翌日、私はミスティさんのノートを手に取り読み耽っていた。
 彼女は理論は立てたが実行はしていないようだ。
 全て自分で試作していかなければならないから大変だけど、最高の物を作ろう。
 冒険者たちに感想を聞くのもいいかもしれない。

 幸い材料は精霊たちのおかげで最上の物を使える。
 ポチ様の子分たちは機嫌がいいときは畑でよく踊ってくれる。採取したあとすぐに次の物が生えてくるから待遇の良さに驚いた。

 ミスティさんの蔵書はその他もとても興味深いものばかりだった。
 移動魔法や盾魔法、癒やしの魔法から……書き換え魔法などの禁術めいたものまで様々にあった。
 暇ができたら読んでみよう、とその日から私は気持ちを切り替えて特化型の回復薬作りに専念した。

 まずは攻撃力重視の物、素早さが上がる物から試してみた。
 すると魔法使いや回復師が手に取り買って行ってくれた。
 特に素早さ重視は魔法を使うときに素早くサポートできると評判だった。

 それから魔力が上がる物を作ると魔法使いだけでなく魔法剣士たちからも評判だった。
 徐々に体力が回復する効果もオマケに付けているから気兼ねなく戦えると太鼓判を貰った。
 魔力が回復する特化型は魔物使いたちに人気らしい。
 魔物を使役しているときは常に魔力を使うので、これを飲めば疲労感が少ないと有難がられた。

 ポチ様が精霊の踊り場を作ってくれたおかげでいずれも効果が高く、回復薬は飛ぶように売れてひと安心だ。
 ホッとしているとお腹の子もポコポコと動いて一緒に喜んでくれているようで嬉しくなる。
 だいぶ大きくなってきて歩くのも休み休みだけれど、家から街までの森の中をゆっくりと抜けて行くときに感じる木々の囁きは私の気持ちも穏やかにしてくれて、出産までが待ち遠しい。

 回復薬が売れだして、生活面での心配が減って先の憂いも解消されているけれど、未だにリオンからの慰謝料は支払われていない。
 シアラさんたちとの生活で入り用なのかもしれないけれど、誠意を見せてほしかった。
 養育費は子のことを言わないから請求しないつもりで、支払われた慰謝料は子の為に使う予定だった。
 私としては早く全てを終わらせたい。
 督促できるのか、今度アスティが来たときに聞いてみよう。

 慰謝料の件以外は順調で穏やかに過ぎていく中、いつものようにギルドに回復薬を卸していると視線を感じた。
 振り返っても誰も見ていない。
 前を向くとまた視線を感じる。
 そういうことが何日か続いたある日、私はある場所へと足を向けていた。

「ごめんください」

 営業中である看板を見て扉を開くと、中からは嗅ぎなれた薬品の材料の匂いがした。
 問い掛けに返事は無く、戸惑いながらも奥へ進んで行く。
 商品棚に置かれた薬瓶を手に取って見ると、私の物とは違うそれに興味を引かれた。
 色味、匂い、見た目もいいわけではないのにこの辺りの冒険者たちに重宝されているという。
 これを買って研究すれば更に良い回復薬が作れそうな気もするんだけど……

「何か用かい?」

 不意に話し掛けられてドキリとする。薬瓶を置いて声のした方を見ればすりこぎの手を止めた老婆がいた。

「あ……こちらの店主さんですか?」
「ああ。で、どんな薬をお求めだい?」

 見据えるような目線にたじろいで、けれど意を決して口を開いた。

「病気を治す薬を」

 店主の片眉がぴくりと上がる。
 この店の店主――デリラさんは主に病気に効く薬を扱っている。
 ミスティさんの蔵書にあったノートに、デリラさんのことも書いてあった。
 二人は親友でミスティさんは誰にも話せない話をデリラさんには打ち明けていたらしい。
 それはたぶんアスティに関わること。
 その他にもデリラさんの薬には興味があった。

「あんたは……見慣れない顔だね。だがどこかで見たことあるような……」

 近寄って訝しむような表情で見て来られ、思わず一歩引いてしまった。

「え、と、何ヶ月か前に引っ越して来まして、今はアスティの実家をお借りしています」
「アスティ……てことは、ミスティの、あの魔力吸い取り家に住んでる?」
「魔力吸い取り家……」

 デリラさんは目を丸くして輝かせていた。
 確かに便利な魔道具が多くて魔力はよく使うけど、欠乏症になるほどでもない。
 けれどへー、とかほー、とか感心したように頷いている。

「あの家は家が気に入らない奴が入るだけで魔力吸い取ってくんだよ。ミスティの悪戯心でね。
 何ともないなら気に入られてんだね」

 今度は私が目を丸くした。魔力を吸い取られている感覚なんて一度も無い。
 まさかそんな仕掛けがあるなんて、と困惑したと同時にアスティの言葉の意味を理解した。

「ふぅん。ベラたちに話は聞いていたけど、あんた、確かに面白い魔力持ってるね。
 回復薬作ってるんだろう?」
「はい」
「あんた、あたしの弟子にならないか?」

 デリラさんの提案は私にとって願ってもないことだった。
 いくつか購入して、研究できたら、とは思っていたけれど、弟子入りできるならありがたい。

「お誘いいただき光栄です。よろしくお願いします!」
「ああ。あたしはデリラ。見ての通り魔法薬を専門に取り扱ってる。特効は病気関連。まあ治せないモンもあるけどね」 

 差し出された手を握って笑顔を向ける。
 デリラさんと話していると、私の母とはライバルらしいことが判明した。と言っても面識は無く、勝手にライバル意識があるということらしい。
 それとは関係無く弟子として接してくれるそうで安心した。
 主に傷の治癒を担う私の回復薬、病気に効くデリラさんの魔法薬。
 併せれば万病に効くと言われる薬も作れるかもしれない。
 ミスティさんのノートにあった理論を見て、作ってみたいと思ったのだ。
 とはいえ材料は貴重なものばかりだし、冒険者たちにお願いして採取して来て貰わなければならないかもしれない。
 その為の資金も貯めなければならない。

 やることは沢山あるけれど、帰らない人を待つ生活よりもはるかに楽しいし有意義だ。
 ここに連れて来てもらって良かった、と改めて感じていたある日、アスティに誘われた。

「シーラさん、お話があります。
 俺とデートしに行きませんか?」

 笑みを浮かべた彼に、私は頷いて手を取った。
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